没ネタ
平常心はどこへやら(g-m夢)
2026/07/05 02:35※夢主の名前は「フラン」表記
※付き合う前のお話として書いた小ネタ
その日、フランは決意した。必ずや、かの憧れのあくタイプ四天王・ギーマを前にしても平常心を保てるスタッフになるのだと。
リーグスタッフ用の控室で、フランは自身の掌を握り締めて決意した。
ギーマに話しかけられる度に、心臓が水を求めるコイキングの様にとびはねる。
名前を呼ばれる度に、きまって返事が裏返る。
目が合うだけで、頭の中に用意していた言葉は全部どこかへ吹き飛んでいく。
これではいけない。
自分はイッシュリーグのスタッフなのだ。
いくら昔から憧れている四天王で、見るたびに美しくてカッコよくて、声が甘く低くて、微笑み方が妖艶で心臓に悪くて、名前を呼ばれるだけで胸がいっぱいになる相手だとしても。
仕事中は、平常心で対応しなければならない。大人として、社会人としてしっかりせねばならぬのだ。
「大丈夫。あたしは大丈夫。ギーマさんも同じリーグで働く方。普通に、丁寧に、落ち着いて……」
フランは深呼吸する。そしていつも通り自分の持ち場である受付へと向かう。今日は大丈夫。昨日の夜、鏡の前で散々シミュレーションを繰り返してきたのだから。
『おはようございます、ギーマさん』
『こちらの資料ですね、承りました』
『本日もよろしくお願いいたします』
完璧なはずだった。少なくとも、鏡の前では。
「フラン」
「ひゃいっ!」
背後から名前を呼ばれた瞬間、フランの平常心は一瞬で消えた。
振り返ると、そこにはギーマがいた。
青みがかった黒髪。美しい空色の瞳。いつもの優雅な立ち姿。そして、薄い唇は美しい微笑みが象られている。
「おはよう」
「あ、お、おはようございましゅ!」
見事に噛んだ。あれだけ動揺しないと決意したのにも関わらず、初手で噛んでしまった自分にフランは内心で崩れ落ちた。
ギーマの瞳が、三日月のように楽しげに細まる。
「ふふ。なかなかに愛らしい挨拶だね」
「わ、忘れてくださいぃ……っ!」
フランは両手で顔を覆いたくなるのを必死に堪えた。
駄目だ。ここで顔を隠したら、さらに挙動不審になる。
自分はリーグスタッフ。目の前にいるのは憧れの四天王で、人生の推しで、見るだけで心臓が跳ね上がる美しい男性ではあるが、仕事中である。平常心を保てる、大人の女性として進化するのだと決意したばかりではないか。そう自分に言い聞かせる。
「えっと、本日はどのようなご用件でしょうか、ギーマさん」
気を取り直して、心臓をなんとか落ち着かせながら、澱みなくスタッフとしての仮面を被る。今のは自然に言えたのではないか?と、フランは内心で小さく拳を握る。
するとギーマは、手にしていた数枚の書類を差し出した。
「この資料をリーグ運営部まで届けてもらえるかな」
「はい、承りました」
完璧だ。声も裏返らなかったし、手も震えていない。憧れのギーマを前にしても、挙動不審にならずスタッフとしての対応ができただろう。
フランは慎重に資料を受け取る。
その時、ギーマの指先がほんの少しだけフランの指に触れた。
「……っ!」
フランの平常心は、ギーマの指先にほんの少し触れただけで、脆い砂の城のように呆気なく崩れ去っていった。顔に熱が一気に集まり、野生のオクタンのように真っ赤に染まる。
「フラン?」
「ひゃい!」
本日二度目の「ひゃい」だった。
フランはもう、自分におうふくビンタを食らわせたくなった。何が大人の社会人としてしっかりせねば、だ。昨日のシミュレーションが何一つとして生かせていないではないか。
ギーマは口元に手を添え、笑いを堪えるようにしている。
「すまない。指が触れたね」
「だ、大丈夫です! 指くらい! 指くらい普通に触れます! 人間なので!」
「人間なので」
「ああああ!違います!今のは忘れてくださいぃ……!」
「今日は忘れてほしいことが多いね」
「増やしているのはギーマさんですぅうう……!」
つい口から出てしまった。
言ってから、フランは慌ててばっと口を押さえる。
ギーマは少しだけ目を瞬かせた後、ひどく楽しそうに笑った。
「わたしのせいかい」
「……少しだけ」
「少し?」
「かなり……」
「ふふ、素直でいいね」
その言い方がまた優しくて、甘くて、微笑みには余裕があって。まさしく「こうかはばつぐんだ!」だった。
フランは危うく資料を抱えたまましゃがみ込みそうになった。
駄目だ。耐えろ。平常心。まだ取り返せる。そう自分に言い聞かせる。
「で、では、こちらの資料を運営部までお届けしてきます」
「ああ。頼んだよ、フラン」
「っ……!」
にこっと微笑まれて、また名前を呼ばれる。
それだけで、フランの心臓はメロメロを食らったように高鳴っていく。けれど、ここで崩れてはいけない。
フランは背筋を伸ばし、できるだけ落ち着いた声を出そうとした。
「はい。お任せください、ギーマさん」
痛いほど高鳴っている心臓を抑えながら、フランは資料を腕に抱え、受付を出ようとする。
しかし、緊張で足元への注意がおろそかになっていた。
床に置いてあった小さな台車の車輪に、つま先が引っかかる。
「きゃっ?!」
いけない、転んでしまう。そう思った瞬間、腕をぐん、と引かれた。ふわりと身体が支えられる。
気づいた時には、ギーマの手がフランの肩を支えていた。
「危ないよ」
耳元で声がした。
低くて、落ち着いていて、心配の色が滲んでいる声。
フランは完全にかなしばりにあったように、体を硬直させていた。
「大丈夫かい」
「あ、あ、あ……」
「フラン?」
「だ、大丈夫です……!」
全然大丈夫ではなかった。ギーマが近い。近すぎる。あとなんか香水の良い香りがする。肩にはギーマの手があって、さっき指先が触れてしまった時よりも、ずっとしっかり触れられている。
フランは顔から火が出そうだった。ギーマは彼女の様子を見て、そっと手を離す。
「怪我はないようだね」
「はい……すみません……」
「謝ることではない。だが、歩く時は前を見た方がいい」
「はい……」
「それとも」
ギーマは少し身を屈めて、くすりと微笑みながら尋ねてくる。
「わたしの方を見ていたから、足元がおろそかになってしまったのかな」
「……っ!」
完全に図星だった。フランは資料を抱きしめたまま、真っ赤な顔で俯く。
「そ、それは……ち、ちが……」
「おや、本当に?」
「違……わないです……」
消え入りそうな声で白状すると、ギーマは低く笑った。
「きみのその反応はとても愛らしいが、わたしの方を見すぎて、今のように怪我をしそうになってしまったらと思うと心配だね」
「す、すみません……っ!ご迷惑をお掛けしないよう、一刻も早く慣れます!」
「では、慣れるために、今後はもう少し頻繁に声をかけることにしよう」
「えっ?」
フランは顔を上げた。
「声を、かける……?」
「ああ。慣れるには実践が大事だろう」
「そ、それは……!」
心臓に悪すぎる。そんなの、毎日がひんし状態になるに決まっている。けれど、ギーマと話す機会が増える。それは、正直に言うと嬉しい。
嬉しいが、まったく耐えられる気がしない。フランの中で、理性と感情が激しく衝突した。
「ご迷惑では……」
「迷惑だったら、最初から提案していない」
「でも、あたし、また変な返事をするかもしれません……」
「楽しみにしているよ」
「楽しみにしないでくださいぃ……!」
ギーマはやはり楽しそうで、フランは頭を抱えるしかない。
この人はずるい。意地悪なのに優しい。飴と鞭を見事に使い分けてくる、あくタイプ使いとしてふさわしいカリスマだと思う。
フランは静かに敗北を悟る。今日も駄目だった。
昨日の夜のシミュレーションは何だったのか。
鏡の前の自分は、あんなに落ち着いていたのに。本物のギーマを前にすると、平常心など羽の生えたコアルヒーのように飛んでいってしまう。
「あたし、もっとがんばります……いつか、ギーマさんの前でもちゃんと落ち着いてお話できるように」
「では、わたしもきみの可愛らしい特訓に協力しよう」
「協力?」
「ああ」
ギーマは優雅に微笑む。
「まずは毎朝、きみに声をかけるところから」
「毎朝?!」
「昼にも一度」
「昼にも?!」
「もちろん。退勤前にも、調子を確認しに行こう」
「退勤前にも?!」
それはもはや特訓ではなく、毎日ギーマに会う予定表である。
フランは、嬉しさと恐ろしさで頭を抱えた。
「あ、あの……ギーマさん」
「うん?」
「それ、あたしの平常心を鍛えるどころか、毎日こうかばつぐんを受け続けるだけでは……」
「そうかな。続ければ耐性がつくかもしれないぜ」
「つ、つかなかったら?」
「その時は、さらに回数を増やそう」
「それはとどめですぅうう……!」
フランが涙目で訴えると、ギーマは愉快そうに目を細めた。
「では、今日のところは一回目ということで」
「一回目……」
「明日の朝も、また来るよ。フラン」
最後にもう一度、甘く名前を呼ばれた瞬間。フランは完全にひんしになった。
「……はい……」
やっとのことで返事をしたフランは、資料を抱えてふらふらと運営部へ向かう。
その背中を見送りながら、ギーマは小さく笑った。
「やれやれ。慣れられてしまうのは、少し惜しいね」
翌朝、受付に立つフランの前に、当然のようにギーマが現れた。
「おはよう、フラン」
「ひゃいっ!」
そうして始まった、特訓初日。
結果は、開始三秒で敗北だった。
※付き合う前のお話として書いた小ネタ
その日、フランは決意した。必ずや、かの憧れのあくタイプ四天王・ギーマを前にしても平常心を保てるスタッフになるのだと。
リーグスタッフ用の控室で、フランは自身の掌を握り締めて決意した。
ギーマに話しかけられる度に、心臓が水を求めるコイキングの様にとびはねる。
名前を呼ばれる度に、きまって返事が裏返る。
目が合うだけで、頭の中に用意していた言葉は全部どこかへ吹き飛んでいく。
これではいけない。
自分はイッシュリーグのスタッフなのだ。
いくら昔から憧れている四天王で、見るたびに美しくてカッコよくて、声が甘く低くて、微笑み方が妖艶で心臓に悪くて、名前を呼ばれるだけで胸がいっぱいになる相手だとしても。
仕事中は、平常心で対応しなければならない。大人として、社会人としてしっかりせねばならぬのだ。
「大丈夫。あたしは大丈夫。ギーマさんも同じリーグで働く方。普通に、丁寧に、落ち着いて……」
フランは深呼吸する。そしていつも通り自分の持ち場である受付へと向かう。今日は大丈夫。昨日の夜、鏡の前で散々シミュレーションを繰り返してきたのだから。
『おはようございます、ギーマさん』
『こちらの資料ですね、承りました』
『本日もよろしくお願いいたします』
完璧なはずだった。少なくとも、鏡の前では。
「フラン」
「ひゃいっ!」
背後から名前を呼ばれた瞬間、フランの平常心は一瞬で消えた。
振り返ると、そこにはギーマがいた。
青みがかった黒髪。美しい空色の瞳。いつもの優雅な立ち姿。そして、薄い唇は美しい微笑みが象られている。
「おはよう」
「あ、お、おはようございましゅ!」
見事に噛んだ。あれだけ動揺しないと決意したのにも関わらず、初手で噛んでしまった自分にフランは内心で崩れ落ちた。
ギーマの瞳が、三日月のように楽しげに細まる。
「ふふ。なかなかに愛らしい挨拶だね」
「わ、忘れてくださいぃ……っ!」
フランは両手で顔を覆いたくなるのを必死に堪えた。
駄目だ。ここで顔を隠したら、さらに挙動不審になる。
自分はリーグスタッフ。目の前にいるのは憧れの四天王で、人生の推しで、見るだけで心臓が跳ね上がる美しい男性ではあるが、仕事中である。平常心を保てる、大人の女性として進化するのだと決意したばかりではないか。そう自分に言い聞かせる。
「えっと、本日はどのようなご用件でしょうか、ギーマさん」
気を取り直して、心臓をなんとか落ち着かせながら、澱みなくスタッフとしての仮面を被る。今のは自然に言えたのではないか?と、フランは内心で小さく拳を握る。
するとギーマは、手にしていた数枚の書類を差し出した。
「この資料をリーグ運営部まで届けてもらえるかな」
「はい、承りました」
完璧だ。声も裏返らなかったし、手も震えていない。憧れのギーマを前にしても、挙動不審にならずスタッフとしての対応ができただろう。
フランは慎重に資料を受け取る。
その時、ギーマの指先がほんの少しだけフランの指に触れた。
「……っ!」
フランの平常心は、ギーマの指先にほんの少し触れただけで、脆い砂の城のように呆気なく崩れ去っていった。顔に熱が一気に集まり、野生のオクタンのように真っ赤に染まる。
「フラン?」
「ひゃい!」
本日二度目の「ひゃい」だった。
フランはもう、自分におうふくビンタを食らわせたくなった。何が大人の社会人としてしっかりせねば、だ。昨日のシミュレーションが何一つとして生かせていないではないか。
ギーマは口元に手を添え、笑いを堪えるようにしている。
「すまない。指が触れたね」
「だ、大丈夫です! 指くらい! 指くらい普通に触れます! 人間なので!」
「人間なので」
「ああああ!違います!今のは忘れてくださいぃ……!」
「今日は忘れてほしいことが多いね」
「増やしているのはギーマさんですぅうう……!」
つい口から出てしまった。
言ってから、フランは慌ててばっと口を押さえる。
ギーマは少しだけ目を瞬かせた後、ひどく楽しそうに笑った。
「わたしのせいかい」
「……少しだけ」
「少し?」
「かなり……」
「ふふ、素直でいいね」
その言い方がまた優しくて、甘くて、微笑みには余裕があって。まさしく「こうかはばつぐんだ!」だった。
フランは危うく資料を抱えたまましゃがみ込みそうになった。
駄目だ。耐えろ。平常心。まだ取り返せる。そう自分に言い聞かせる。
「で、では、こちらの資料を運営部までお届けしてきます」
「ああ。頼んだよ、フラン」
「っ……!」
にこっと微笑まれて、また名前を呼ばれる。
それだけで、フランの心臓はメロメロを食らったように高鳴っていく。けれど、ここで崩れてはいけない。
フランは背筋を伸ばし、できるだけ落ち着いた声を出そうとした。
「はい。お任せください、ギーマさん」
痛いほど高鳴っている心臓を抑えながら、フランは資料を腕に抱え、受付を出ようとする。
しかし、緊張で足元への注意がおろそかになっていた。
床に置いてあった小さな台車の車輪に、つま先が引っかかる。
「きゃっ?!」
いけない、転んでしまう。そう思った瞬間、腕をぐん、と引かれた。ふわりと身体が支えられる。
気づいた時には、ギーマの手がフランの肩を支えていた。
「危ないよ」
耳元で声がした。
低くて、落ち着いていて、心配の色が滲んでいる声。
フランは完全にかなしばりにあったように、体を硬直させていた。
「大丈夫かい」
「あ、あ、あ……」
「フラン?」
「だ、大丈夫です……!」
全然大丈夫ではなかった。ギーマが近い。近すぎる。あとなんか香水の良い香りがする。肩にはギーマの手があって、さっき指先が触れてしまった時よりも、ずっとしっかり触れられている。
フランは顔から火が出そうだった。ギーマは彼女の様子を見て、そっと手を離す。
「怪我はないようだね」
「はい……すみません……」
「謝ることではない。だが、歩く時は前を見た方がいい」
「はい……」
「それとも」
ギーマは少し身を屈めて、くすりと微笑みながら尋ねてくる。
「わたしの方を見ていたから、足元がおろそかになってしまったのかな」
「……っ!」
完全に図星だった。フランは資料を抱きしめたまま、真っ赤な顔で俯く。
「そ、それは……ち、ちが……」
「おや、本当に?」
「違……わないです……」
消え入りそうな声で白状すると、ギーマは低く笑った。
「きみのその反応はとても愛らしいが、わたしの方を見すぎて、今のように怪我をしそうになってしまったらと思うと心配だね」
「す、すみません……っ!ご迷惑をお掛けしないよう、一刻も早く慣れます!」
「では、慣れるために、今後はもう少し頻繁に声をかけることにしよう」
「えっ?」
フランは顔を上げた。
「声を、かける……?」
「ああ。慣れるには実践が大事だろう」
「そ、それは……!」
心臓に悪すぎる。そんなの、毎日がひんし状態になるに決まっている。けれど、ギーマと話す機会が増える。それは、正直に言うと嬉しい。
嬉しいが、まったく耐えられる気がしない。フランの中で、理性と感情が激しく衝突した。
「ご迷惑では……」
「迷惑だったら、最初から提案していない」
「でも、あたし、また変な返事をするかもしれません……」
「楽しみにしているよ」
「楽しみにしないでくださいぃ……!」
ギーマはやはり楽しそうで、フランは頭を抱えるしかない。
この人はずるい。意地悪なのに優しい。飴と鞭を見事に使い分けてくる、あくタイプ使いとしてふさわしいカリスマだと思う。
フランは静かに敗北を悟る。今日も駄目だった。
昨日の夜のシミュレーションは何だったのか。
鏡の前の自分は、あんなに落ち着いていたのに。本物のギーマを前にすると、平常心など羽の生えたコアルヒーのように飛んでいってしまう。
「あたし、もっとがんばります……いつか、ギーマさんの前でもちゃんと落ち着いてお話できるように」
「では、わたしもきみの可愛らしい特訓に協力しよう」
「協力?」
「ああ」
ギーマは優雅に微笑む。
「まずは毎朝、きみに声をかけるところから」
「毎朝?!」
「昼にも一度」
「昼にも?!」
「もちろん。退勤前にも、調子を確認しに行こう」
「退勤前にも?!」
それはもはや特訓ではなく、毎日ギーマに会う予定表である。
フランは、嬉しさと恐ろしさで頭を抱えた。
「あ、あの……ギーマさん」
「うん?」
「それ、あたしの平常心を鍛えるどころか、毎日こうかばつぐんを受け続けるだけでは……」
「そうかな。続ければ耐性がつくかもしれないぜ」
「つ、つかなかったら?」
「その時は、さらに回数を増やそう」
「それはとどめですぅうう……!」
フランが涙目で訴えると、ギーマは愉快そうに目を細めた。
「では、今日のところは一回目ということで」
「一回目……」
「明日の朝も、また来るよ。フラン」
最後にもう一度、甘く名前を呼ばれた瞬間。フランは完全にひんしになった。
「……はい……」
やっとのことで返事をしたフランは、資料を抱えてふらふらと運営部へ向かう。
その背中を見送りながら、ギーマは小さく笑った。
「やれやれ。慣れられてしまうのは、少し惜しいね」
翌朝、受付に立つフランの前に、当然のようにギーマが現れた。
「おはよう、フラン」
「ひゃいっ!」
そうして始まった、特訓初日。
結果は、開始三秒で敗北だった。
