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小さな秘密基地の中に、カードを切る小気味良い音が響く。
まだ小さな手でありながら、ギーマのトランプを扱う手つきは既に洗練されており、流れるような手さばきにフランは思わず見惚れてしまった。
「……はい、きみの負けだ」
「ああっ、また負けちゃった……!」
テーブル代わりに置かれた木箱の上で、フランはがっくりと肩を落とした。
ババ抜きから始まり、ポーカーや簡単なゲームをいくつか教えてもらったが、フランは全戦全敗だった。
「きみは本当に、配られたカードがそのまま顔に出るね。良いカードを引けばパッと目が輝くし、悪いカードを引けばわかりやすく視線が泳ぐ。……わたしと勝負をするには、少し素直すぎるかな」
「うぅ……未来のギーマさんにも、いつも同じことを言われます……」
しょんぼりとするフランを見て、ギーマはふふっ、と声を上げて笑った。
それは、大人びて斜に構えた彼が初めて見せた、年相応の無邪気な笑顔だった。その屈託のない笑顔に、フランの胸がきゅんと温かくなる。
(よかった。あんな風に笑えるんだね、ギーマさん)
屋敷の大人たちが彼を利用しようと蠢くような、息の詰まる環境。そこで彼がどんな思いで日々を過ごしているのか、フランには想像することしかできない。けれど、今この小さな隠し部屋でフランと向かい合う彼は、肩の力が抜け、心底リラックスしているように見えた。
「ねえ、フラン」
カードをまとめながら、ギーマがふと空色の瞳を上げて問いかけてきた。
「未来のわたしは……どんな大人になっているんだい? きみは、わたしのどこを好きになったの?」
真っ直ぐな問いかけに、フランは少しだけ頬を赤らめながらも、真剣に答えた。
「未来のギーマさんは、イッシュ地方の四天王の一人として、すごく強くて、かっこいいポケモン勝負をする人になっています。……勝負師として自分の信念を曲げなくて、時には少し意地悪だけど……でも、本当はすごく優しくて、あたしのことを大切にしてくれる、大好きな人です」
フランが愛おしそうに紡ぐ言葉の端々から、嘘偽りのない純粋な愛情が溢れ出していた。
それを聞いていたギーマは、手の中のカードをじっと見つめ、静かに息を吐いた。
「……そうか」
屋敷の大人たちは皆、彼を見る時、その後ろにある「家柄」や「財産」しか見ていない。彼自身に向けられる言葉には、必ず見返りを求める打算の毒が混じっていた。
誰のことも信じられない。誰も自分の本当の姿など見てはいない。そう思って、この秘密基地に一人で身を潜める日々だった。
だが、未来からやってきたというこの女性は違う。
彼女の瞳に映っているのは、他の誰でもない『ギーマ』という一人の人間だけだ。彼女から向けられる温かな感情には、裏も表も、何の打算もない。ただ純粋に、自分のことが大好きなのだと、全身で伝えてくれている。
(……なんて、心地いいんだろう)
フランと過ごす時間は、彼にとって初めて触れる安らぎだった。
彼女の笑顔を見ていると、屋敷の冷たい空気も、大人たちの汚い欲望も、すべて忘れることができた。胸の奥に冷たく澱んでいたものが、少しずつ溶けていくような感覚。
同時に、小さな彼の心の中に、ある暗い感情が芽生え始めていた。
(このまま、未来になんて帰さなければいい)
ギーマは、ランタンの光に照らされるフランの横顔を、静かに、けれどひどく熱を帯びた瞳で見つめた。
この秘密基地に彼女を隠し、誰の目にも触れさせず、ずっと二人きりで過ごせたら。そうすれば、彼女は一生、自分にだけその裏表のない笑顔と愛情を注いでくれる。
「……きみみたいな人が未来で待っているなら、大人になるのも悪くないな」
ぽつりとこぼした言葉は、本心だった。
けれど、それを待つまでの途方もない時間を思うと、無性に彼女を今すぐ自分のものとして縛り付けたくなってしまう。
あくタイプ使いとしての素質、そして「勝負師」としての強い独占欲の片鱗が、すでに彼の中で静かに目を覚まし始めていた。
まだ小さな手でありながら、ギーマのトランプを扱う手つきは既に洗練されており、流れるような手さばきにフランは思わず見惚れてしまった。
「……はい、きみの負けだ」
「ああっ、また負けちゃった……!」
テーブル代わりに置かれた木箱の上で、フランはがっくりと肩を落とした。
ババ抜きから始まり、ポーカーや簡単なゲームをいくつか教えてもらったが、フランは全戦全敗だった。
「きみは本当に、配られたカードがそのまま顔に出るね。良いカードを引けばパッと目が輝くし、悪いカードを引けばわかりやすく視線が泳ぐ。……わたしと勝負をするには、少し素直すぎるかな」
「うぅ……未来のギーマさんにも、いつも同じことを言われます……」
しょんぼりとするフランを見て、ギーマはふふっ、と声を上げて笑った。
それは、大人びて斜に構えた彼が初めて見せた、年相応の無邪気な笑顔だった。その屈託のない笑顔に、フランの胸がきゅんと温かくなる。
(よかった。あんな風に笑えるんだね、ギーマさん)
屋敷の大人たちが彼を利用しようと蠢くような、息の詰まる環境。そこで彼がどんな思いで日々を過ごしているのか、フランには想像することしかできない。けれど、今この小さな隠し部屋でフランと向かい合う彼は、肩の力が抜け、心底リラックスしているように見えた。
「ねえ、フラン」
カードをまとめながら、ギーマがふと空色の瞳を上げて問いかけてきた。
「未来のわたしは……どんな大人になっているんだい? きみは、わたしのどこを好きになったの?」
真っ直ぐな問いかけに、フランは少しだけ頬を赤らめながらも、真剣に答えた。
「未来のギーマさんは、イッシュ地方の四天王の一人として、すごく強くて、かっこいいポケモン勝負をする人になっています。……勝負師として自分の信念を曲げなくて、時には少し意地悪だけど……でも、本当はすごく優しくて、あたしのことを大切にしてくれる、大好きな人です」
フランが愛おしそうに紡ぐ言葉の端々から、嘘偽りのない純粋な愛情が溢れ出していた。
それを聞いていたギーマは、手の中のカードをじっと見つめ、静かに息を吐いた。
「……そうか」
屋敷の大人たちは皆、彼を見る時、その後ろにある「家柄」や「財産」しか見ていない。彼自身に向けられる言葉には、必ず見返りを求める打算の毒が混じっていた。
誰のことも信じられない。誰も自分の本当の姿など見てはいない。そう思って、この秘密基地に一人で身を潜める日々だった。
だが、未来からやってきたというこの女性は違う。
彼女の瞳に映っているのは、他の誰でもない『ギーマ』という一人の人間だけだ。彼女から向けられる温かな感情には、裏も表も、何の打算もない。ただ純粋に、自分のことが大好きなのだと、全身で伝えてくれている。
(……なんて、心地いいんだろう)
フランと過ごす時間は、彼にとって初めて触れる安らぎだった。
彼女の笑顔を見ていると、屋敷の冷たい空気も、大人たちの汚い欲望も、すべて忘れることができた。胸の奥に冷たく澱んでいたものが、少しずつ溶けていくような感覚。
同時に、小さな彼の心の中に、ある暗い感情が芽生え始めていた。
(このまま、未来になんて帰さなければいい)
ギーマは、ランタンの光に照らされるフランの横顔を、静かに、けれどひどく熱を帯びた瞳で見つめた。
この秘密基地に彼女を隠し、誰の目にも触れさせず、ずっと二人きりで過ごせたら。そうすれば、彼女は一生、自分にだけその裏表のない笑顔と愛情を注いでくれる。
「……きみみたいな人が未来で待っているなら、大人になるのも悪くないな」
ぽつりとこぼした言葉は、本心だった。
けれど、それを待つまでの途方もない時間を思うと、無性に彼女を今すぐ自分のものとして縛り付けたくなってしまう。
あくタイプ使いとしての素質、そして「勝負師」としての強い独占欲の片鱗が、すでに彼の中で静かに目を覚まし始めていた。
