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「ギ、ギーマ……さん……?」
ぽつりと漏れたフランの声に、小さなギーマは小首を傾げた。
まだあどけなさが残る輪郭をしているが、その空色の瞳に宿る知性と、相手の裏の裏まで見透かそうとするような鋭い観察眼は、フランがよく知る『四天王のギーマ』そのものだった。
「……変な人だ。厳重なセキュリティを潜り抜けてこの屋敷に忍び込んだ凄腕の侵入者かと思えば、そんな風にわかりやすく狼狽えて。……それに、わたしのことを『さん』付けで呼ぶ人間なんて、この屋敷にはいない」
ギーマはランタンの光を頼りに、フランの頭の先からつま先までをじっと見定めた。
この屋敷にいる大人たちは皆、彼を「坊ちゃま」と呼びながらも、その腹の底では没落しつつある名家の資産や権力をどうやって利用しようかと、どす黒い欲望を渦巻かせている。小さな彼は、そんな大人たちの嘘や建前を毎日嫌というほど見せつけられ、誰が本当のことを言っているのかを見抜く術を、幼くして身につけざるを得なかったのだ。
だが、目の前にいる女性からは、そんな打算や悪意が微塵も感じられなかった。
それどころか、自分を見つめるその瞳には、隠しきれないほどの純粋な好意と親愛、そして驚きがダダ漏れになっている。
(……この人、びっくりするくらい裏表がない。本当に、ただ迷い込んだだけなんだ)
本来なら、屋敷の警備の者に突き出さなければならない相手だ。しかし、ギーマはそうする気になれなかった。彼女の不器用でわたわたとした態度は、常に気を張っていなければならない彼にとって、ひどく新鮮で、毒の気配が全くしない心地よいものだったからだ。
「あ、あのっ! あたし、怪しい者じゃなくて……! 森でセレビィっていうポケモンと目が合ったら、急に光に包まれて、気づいたらここに……っ!」
「……セレビィ。時を渡る力を持つという、幻のポケモンか」
「は、はい……っ」
必死に身振り手振りで説明するフランを、ギーマは「ふうん」と興味深そうに見つめる。
そして、ふと彼の視線が、フランの胸元で止まった。
「……きみ、そのペンダント」
「えっ?」
ギーマの小さな手が伸びてきて、フランの胸元に提げられていたコインのペンダントをそっと持ち上げる。
それは、未来の――大人のギーマが、『お守り代わりだ。わたしのものだという印でもあるからね』と言って、フランにプレゼントしてくれた特別なコインだった。
「これ……うちの家の家紋が入った、特注のコインだ。今はまだ、当主である父上しか持っていないはずのものなのに……」
ギーマはコインとフランの顔を交互に見比べ、そして、ふっと大人びた、けれどどこか悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「なるほど。時渡りのポケモンの力で、未来からやってきたというわけか。……しかも、未来のわたしがわざわざ家紋入りのコインを預けるくらいだ」
ギーマはコインをそっとフランの胸元に戻すと、一歩距離を詰めて、フランを見上げた。
「きみは、未来のわたしのお姫様……という解釈で合っているかな?」
「ひゃっ!?」
図星を突かれ、フランの顔は一瞬にして沸騰したように真っ赤に染まった。
まだ十歳にも満たない小さな子どもだというのに、その思考の回転の速さと、相手をからかって楽しむような意地悪な態度は、大人の彼と全く同じだった。
「あ、あわわ、その、えっと……っ!」
「ふふ、図星か。きみは本当にわかりやすいね。……嘘を吐こうとすると、すぐに視線が泳ぐ」
くすくすと笑う小さな彼を見て、フランの心臓は別の意味で激しく高鳴っていた。
大人の彼のような圧倒的な色気やプレッシャーはないけれど、子ども特有の無邪気さと、大人びた聡明さが入り混じったこの姿は、とんでもなく可愛らしくて、愛おしい。
「警備の大人たちが諦めるまで、まだ時間がかかりそうだ。……退屈していたところだし、未来から来たお姫様の話を、もっと聞かせてもらうとしようか」
ギーマは小さな秘密基地の奥から、使い込まれたトランプの箱を取り出してきた。
屋敷の大人たちの欲望から逃れるための、薄暗くて小さな隠し部屋。しかし今、この場所には、嘘も打算もない、フランという温かな存在だけがいた。
ぽつりと漏れたフランの声に、小さなギーマは小首を傾げた。
まだあどけなさが残る輪郭をしているが、その空色の瞳に宿る知性と、相手の裏の裏まで見透かそうとするような鋭い観察眼は、フランがよく知る『四天王のギーマ』そのものだった。
「……変な人だ。厳重なセキュリティを潜り抜けてこの屋敷に忍び込んだ凄腕の侵入者かと思えば、そんな風にわかりやすく狼狽えて。……それに、わたしのことを『さん』付けで呼ぶ人間なんて、この屋敷にはいない」
ギーマはランタンの光を頼りに、フランの頭の先からつま先までをじっと見定めた。
この屋敷にいる大人たちは皆、彼を「坊ちゃま」と呼びながらも、その腹の底では没落しつつある名家の資産や権力をどうやって利用しようかと、どす黒い欲望を渦巻かせている。小さな彼は、そんな大人たちの嘘や建前を毎日嫌というほど見せつけられ、誰が本当のことを言っているのかを見抜く術を、幼くして身につけざるを得なかったのだ。
だが、目の前にいる女性からは、そんな打算や悪意が微塵も感じられなかった。
それどころか、自分を見つめるその瞳には、隠しきれないほどの純粋な好意と親愛、そして驚きがダダ漏れになっている。
(……この人、びっくりするくらい裏表がない。本当に、ただ迷い込んだだけなんだ)
本来なら、屋敷の警備の者に突き出さなければならない相手だ。しかし、ギーマはそうする気になれなかった。彼女の不器用でわたわたとした態度は、常に気を張っていなければならない彼にとって、ひどく新鮮で、毒の気配が全くしない心地よいものだったからだ。
「あ、あのっ! あたし、怪しい者じゃなくて……! 森でセレビィっていうポケモンと目が合ったら、急に光に包まれて、気づいたらここに……っ!」
「……セレビィ。時を渡る力を持つという、幻のポケモンか」
「は、はい……っ」
必死に身振り手振りで説明するフランを、ギーマは「ふうん」と興味深そうに見つめる。
そして、ふと彼の視線が、フランの胸元で止まった。
「……きみ、そのペンダント」
「えっ?」
ギーマの小さな手が伸びてきて、フランの胸元に提げられていたコインのペンダントをそっと持ち上げる。
それは、未来の――大人のギーマが、『お守り代わりだ。わたしのものだという印でもあるからね』と言って、フランにプレゼントしてくれた特別なコインだった。
「これ……うちの家の家紋が入った、特注のコインだ。今はまだ、当主である父上しか持っていないはずのものなのに……」
ギーマはコインとフランの顔を交互に見比べ、そして、ふっと大人びた、けれどどこか悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「なるほど。時渡りのポケモンの力で、未来からやってきたというわけか。……しかも、未来のわたしがわざわざ家紋入りのコインを預けるくらいだ」
ギーマはコインをそっとフランの胸元に戻すと、一歩距離を詰めて、フランを見上げた。
「きみは、未来のわたしのお姫様……という解釈で合っているかな?」
「ひゃっ!?」
図星を突かれ、フランの顔は一瞬にして沸騰したように真っ赤に染まった。
まだ十歳にも満たない小さな子どもだというのに、その思考の回転の速さと、相手をからかって楽しむような意地悪な態度は、大人の彼と全く同じだった。
「あ、あわわ、その、えっと……っ!」
「ふふ、図星か。きみは本当にわかりやすいね。……嘘を吐こうとすると、すぐに視線が泳ぐ」
くすくすと笑う小さな彼を見て、フランの心臓は別の意味で激しく高鳴っていた。
大人の彼のような圧倒的な色気やプレッシャーはないけれど、子ども特有の無邪気さと、大人びた聡明さが入り混じったこの姿は、とんでもなく可愛らしくて、愛おしい。
「警備の大人たちが諦めるまで、まだ時間がかかりそうだ。……退屈していたところだし、未来から来たお姫様の話を、もっと聞かせてもらうとしようか」
ギーマは小さな秘密基地の奥から、使い込まれたトランプの箱を取り出してきた。
屋敷の大人たちの欲望から逃れるための、薄暗くて小さな隠し部屋。しかし今、この場所には、嘘も打算もない、フランという温かな存在だけがいた。
