ギーマ夢主の名前変換
ギーマ(BW)×固定夢主💮
🪙夢主の名前
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恋人になれば、そのうち慣れる。そう考えていた少し前の自分に、フランは言いたかった。そんなわけがないと。
「フラン。少し、こちらを向いて」
「はい?」
ソファの隣から呼ばれ、素直に顔を上げたのがいけなかった。頬に指が添えられる。前髪をそっと払われる。何だろうと思う間もなく、額に柔らかなものが触れた。
「……っ!?」
「ありがとう。いい香りだね」
ギーマは何事もなかったかのように微笑んで、テーブルのカップへ手を伸ばした。
フランは今しがた口づけられた額を押さえる。紅茶を淹れた。ただそれだけである。お礼にキスをされるところまで含まれるとは聞いていない。
「ぎ、ギーマさん……っ」
「うん?」
「い、今……」
「嫌だったかな」
「嫌じゃないですけど!」
そこだけは即答すると、空色の瞳が楽しそうに細くなった。
しまった。この返事まで含めて、きっと予想されていた。
仕事を終え、寮の自室で恋人と過ごす、穏やかな夜。本来なら、そうなるはずだった。
実際には、ギーマが部屋へ来てからまだ十五分も経っていないのに、フランの心臓は既に大忙しである。
玄関で出迎えれば「会いたかったよ」と腰を引き寄せられた。上着を預かれば、頬にキスをされた。ようやくお茶の支度を終えて隣へ座れば、今度は額である。
以前なら、指が触れただけで一日中大事件だった。
今ではその大事件が、休憩も挟まず次々に起こる。恋人になるとは、こういうことなのか。好きな人と両想いになれるのは、この上なく幸せだ。幸せなのだが。
(心臓が、いくつあっても足りない……!)
紅茶をひと口飲んだギーマが、カップを置いてこちらを見る。
「きみは飲まないのかい」
「の、飲みます。ちょっと、落ち着いてから……」
「そうか。では、その間に」
膝の上で握っていた右手を、すくい上げられた。長い指が、指の間へゆっくり入り込む。
「……っ、落ち着けないです!」
「おや。手を繋いだだけだぜ」
「その『だけ』で、あたしは大変なんです……!」
ギーマは低く笑った。その声にまで胸が跳ねて、フランはもう、どこを見ればいいのか分からなくなる。
目の前には大好きな顔。横を向けば、触れ合っている肩。俯けば、恋人繋ぎの手。逃げ道がない。
「……ギーマさんばっかり、ずるい……」
ぽつりと零した言葉に、彼が首を傾げた。
「何が?」
「いつも、あたしだけドキドキして……ギーマさんは、平気そうで」
途端に、繋いだ手にほんの少し力がこもった。けれど顔を上げた時には、いつもの優雅な微笑みがそこにあった。
「……そう見えるかい」
「見えます……」
だって、こんなにも落ち着いた声で話す。触れる手にも、見つめる眼差しにも、少しの迷いもない。自分だけがいつもあたふたしているのが、何だか悔しかった。
***
平気そう。なるほど、それなら取り繕えてはいるらしい。
ギーマは、繋いだ指先へ視線を落とした。彼女の方からも、控えめに握り返されている。先ほどは慌てていたくせに、こちらの力を少し緩めると、離されると思ったのか、きゅ、と指が曲がった。その小さな動きだけで、胸の奥がどうしようもなく甘く疼く。
そもそも、玄関の時点でいけなかったのだ。扉を開けたフランは、まだ仕事の疲れが少し残る顔をしていた。それが彼を見た途端、ぱっと明るくなった。
わざわざ会いに来てくれたのが嬉しいのだと、言われなくても分かる顔だった。
あんな顔で迎えられて、抱き寄せずにいられるものか。
頬に口づければ、耳まで赤くなる。それでも腕の中から離れる時には、名残惜しそうに袖を掴む。
お茶を淹れながら、ときどきこちらを振り返っては、目が合うだけで嬉しそうに笑う。
落ち着いていられる理由が、一つもない。額への口づけだって、始めは前髪を整えるだけのつもりだった。
しかし頬へ触れた途端、彼女がほっとしたように目元を緩めたので、つい。そのあとカップへ手を伸ばしたのは、もう一度触れたくなるのを堪えるためでもあった。
それを、平気そうだと言う。まったく、困った恋人である。
「……ギーマさん?」
少し黙っていたせいか、フランが心配そうに覗き込んでくる。
「何でもないよ」
空いている手で、彼女の髪を耳にかけた。フランの肩が小さく跳ねる。そして、また頬が赤くなっていく。
それが面白くて、可愛くて、つい、指先で耳の下を軽く撫でた。
「ひゃ……っ」
彼女は身を縮め、けれど繋いだ手は離さなかった。むしろ、頼るようにこちらの手を握る。
……ああ。それは、いけない。
ギーマはゆっくり指を引いた。これ以上からかえば、最後に困るのは自分だ。
そう分かっているのに、今の顔をもう一度見たいと思ってしまう。
「……きみは、本当に」
「な、何ですか……?」
「可愛いね」
言うつもりだった言葉を選ぶより先に、いちばん単純な本音が出た。
***
可愛いね。そんなもの、今さら言わないでほしい。
嘘だ。言ってほしい。できれば何度でも。ただし、心臓が静かになってから。
フランは俯きながら、繋いでいない方の手で胸元を押さえた。
「……あたしも、もう少し普通にできたらいいんですけど」
「普通?」
「くっついてても、落ち着いてお話したり……キスされても、いちいち変な声を出さなかったり……」
言葉にすると、ますます情けなくなった。もう恋人なのに。
お互いに好きだと、ちゃんと確かめ合ったのに。未だに触れられるたび、こんなにも取り乱してしまう。
「ギーマさん、疲れませんか。あたし、すぐ大騒ぎするから……」
笑われるだろうかと思った。けれど彼は、すぐには笑わなかった。繋いだ手の甲を、親指でゆっくり撫でられる。
「疲れないよ。ただ、もっと触れたくなるね」
「……え?」
「きみは驚いたあと、必ず嬉しそうに笑ってくれるだろう」
フランは目を瞬いた。そんな顔をしていただろうか。
真っ赤になって、あたふたしている自覚しかなかった。
「あの顔を見たくて、つい欲張ってしまう。きみが可愛いのが悪い、と言ったら怒るかな」
「お、怒りませんけど……っ、それは、責任転嫁です……」
「ふふ。手厳しいね」
笑いながら、彼は繋いだ手を持ち上げた。指の付け根に、そっと唇が触れる。
「ほらぁ……!」
フランは抗議した。したのだが、手に残った温もりが嬉しくて、どうしても口元が緩んでしまう。
それを見たギーマの笑みが、ふと深くなった。
「……そういう顔だよ」
指摘されて、フランはとうとう空いている手で顔を隠した。
駄目だ。何もかも見抜かれている。好きも、嬉しいも、もっと一緒にいたいも。
自分ばかり。こんなにも簡単に。
「……ギーマさんは」
「うん」
「あたしに触られても、ドキドキしたりしなさそう……」
顔を隠したまま、思わずそう零すと、少しだけ間があった。
「試してみるかい」
甘い声だった。きっと、自分にはできないと思っている。
そう考えたら、ほんの少しだけ勇気が出た。
フランは顔から手を下ろした。ギーマはこちらを見ている。
いつもなら、それだけで俯いてしまうけれど。
「……少し、かがんでください」
彼の眉が、わずかに上がった。それでも望みどおり、顔を近づけてくれる。
フランは、その頬に唇を寄せた。ほんの一瞬。
触れたか触れないかというくらいの、ぎこちないキス。
それだけで自分の顔まで熱くなったが、逃げる前に、もう一つだけ伝えたかった。
「……あたしだって、触りたいんです」
握っていた彼の手を、両手で包み直す。
「恥ずかしいですけど。ギーマさんのこと、大好きだから……」
***
返事が出なかった。ギーマは、自分を見上げるフランの瞳を見つめていた。
こちらを驚かせようとしていたはずなのに、肝心の本人が、今にも泣きそうなほど赤くなっている。それでも逃げずに、好きだと言う。
分かっている。彼女が自分を好いていることなど、とっくに知っている。
それなのに、何度聞いても慣れない。彼女が勇気を出して差し出すたび、初めて受け取った時のように胸を掴まれる。
肩を抱くくらいで収めるつもりだった手が、途中で止まった。今抱き寄せたら、しばらく離したくなくなる。
「……ギーマさん?」
フランが不安そうに呼んだ。まずい。黙りすぎた。
「あの、今の……変でしたか」
「いいや」
少し引きかけた彼女の手を、握り直す。
「嬉しすぎて、少し困っている」
フランが、ぽかんとした。その顔まで可愛いのだから、どうしようもない。
「……ほんとうに?」
「こんな時まで、疑うのかい」
「だ、だって……お顔が、いつもと同じで……」
ギーマは短く息を吐いて笑った。なるほど。それほど上手く隠せていたのなら、一度くらい明かしてもいいだろう。
彼女の手を取って、自分の胸元へ導く。服越しに掌を添えさせると、フランはきょとんとしたまま、しばらく動かなかった。
やがて、その目がゆっくりと丸くなる。
「……速い」
「誰のせいだと思う?」
掌の下で、鼓動が打っている。いつもの落ち着いた声には、まるで似合わない速さで。
「あたし……ですか」
「ほかに心当たりはないね」
フランは彼の胸元と顔を、何度も見比べた。
「ずっと……?」
「きみが玄関を開けてくれた時から、何度も」
「そんな、あたし、何も……」
「会えて嬉しいという顔をしてくれただろう。それで充分だよ」
たった、それだけで。あのギーマが。
フランは胸元に置いた手を動かせなくなった。自分だけだと思っていた。触れたくて、近くにいたくて、少し笑いかけてもらえただけで嬉しくてたまらなくなるのは。
彼も同じなのだと知った途端、胸の奥がきゅうっと甘くなった。
「……あたしだけじゃ、なかったんですね」
そう言って笑うと、ギーマが一瞬、目を伏せた。今なら分かる。何でもないように見えたその間に、彼もまた、気持ちを持て余している。
「……だから、そういう顔をされると困るんだ」
いつもより少し低い声と一緒に、背中へ腕が回った。ゆっくり引き寄せられ、頬が彼の胸に触れる。
「しばらく、こうしていてくれないか」
フランは小さく頷いて、彼の背中へ両腕を回した。すぐそばで聞こえる鼓動が、ほんの少し速くなる。
それが嬉しくて、つい、ぎゅっと抱きついた。
「……フラン」
「はい」
「落ち着くまで待ってもらうつもりだったんだがね」
「あっ……す、すみません……!」
慌てて腕を緩めようとすると、背中の手が引き留めた。
「離れてほしいとは、言っていないよ」
フランは彼の胸に顔を埋めた。やっぱりずるい。
自分だってドキドキしているくせに、こういうことは言えてしまうのだ。
「……ギーマさん」
「うん?」
「今度は唇に……キスしてもいいですか」
返事は、すぐには返ってこなかった。代わりに、抱きしめる腕が少しだけ強くなる。
見上げたフランは、そこで初めて、彼の耳がわずかに赤いことに気づいた。
「……ひとつ、訂正しよう」
ギーマは困ったように微笑んだ。
「きみは、充分わたしを振り回しているよ」
その声があまりに甘くて、フランはまた真っ赤になる。
けれど今度は俯かずに。大好きな恋人に、そっと唇を寄せた。
「フラン。少し、こちらを向いて」
「はい?」
ソファの隣から呼ばれ、素直に顔を上げたのがいけなかった。頬に指が添えられる。前髪をそっと払われる。何だろうと思う間もなく、額に柔らかなものが触れた。
「……っ!?」
「ありがとう。いい香りだね」
ギーマは何事もなかったかのように微笑んで、テーブルのカップへ手を伸ばした。
フランは今しがた口づけられた額を押さえる。紅茶を淹れた。ただそれだけである。お礼にキスをされるところまで含まれるとは聞いていない。
「ぎ、ギーマさん……っ」
「うん?」
「い、今……」
「嫌だったかな」
「嫌じゃないですけど!」
そこだけは即答すると、空色の瞳が楽しそうに細くなった。
しまった。この返事まで含めて、きっと予想されていた。
仕事を終え、寮の自室で恋人と過ごす、穏やかな夜。本来なら、そうなるはずだった。
実際には、ギーマが部屋へ来てからまだ十五分も経っていないのに、フランの心臓は既に大忙しである。
玄関で出迎えれば「会いたかったよ」と腰を引き寄せられた。上着を預かれば、頬にキスをされた。ようやくお茶の支度を終えて隣へ座れば、今度は額である。
以前なら、指が触れただけで一日中大事件だった。
今ではその大事件が、休憩も挟まず次々に起こる。恋人になるとは、こういうことなのか。好きな人と両想いになれるのは、この上なく幸せだ。幸せなのだが。
(心臓が、いくつあっても足りない……!)
紅茶をひと口飲んだギーマが、カップを置いてこちらを見る。
「きみは飲まないのかい」
「の、飲みます。ちょっと、落ち着いてから……」
「そうか。では、その間に」
膝の上で握っていた右手を、すくい上げられた。長い指が、指の間へゆっくり入り込む。
「……っ、落ち着けないです!」
「おや。手を繋いだだけだぜ」
「その『だけ』で、あたしは大変なんです……!」
ギーマは低く笑った。その声にまで胸が跳ねて、フランはもう、どこを見ればいいのか分からなくなる。
目の前には大好きな顔。横を向けば、触れ合っている肩。俯けば、恋人繋ぎの手。逃げ道がない。
「……ギーマさんばっかり、ずるい……」
ぽつりと零した言葉に、彼が首を傾げた。
「何が?」
「いつも、あたしだけドキドキして……ギーマさんは、平気そうで」
途端に、繋いだ手にほんの少し力がこもった。けれど顔を上げた時には、いつもの優雅な微笑みがそこにあった。
「……そう見えるかい」
「見えます……」
だって、こんなにも落ち着いた声で話す。触れる手にも、見つめる眼差しにも、少しの迷いもない。自分だけがいつもあたふたしているのが、何だか悔しかった。
***
平気そう。なるほど、それなら取り繕えてはいるらしい。
ギーマは、繋いだ指先へ視線を落とした。彼女の方からも、控えめに握り返されている。先ほどは慌てていたくせに、こちらの力を少し緩めると、離されると思ったのか、きゅ、と指が曲がった。その小さな動きだけで、胸の奥がどうしようもなく甘く疼く。
そもそも、玄関の時点でいけなかったのだ。扉を開けたフランは、まだ仕事の疲れが少し残る顔をしていた。それが彼を見た途端、ぱっと明るくなった。
わざわざ会いに来てくれたのが嬉しいのだと、言われなくても分かる顔だった。
あんな顔で迎えられて、抱き寄せずにいられるものか。
頬に口づければ、耳まで赤くなる。それでも腕の中から離れる時には、名残惜しそうに袖を掴む。
お茶を淹れながら、ときどきこちらを振り返っては、目が合うだけで嬉しそうに笑う。
落ち着いていられる理由が、一つもない。額への口づけだって、始めは前髪を整えるだけのつもりだった。
しかし頬へ触れた途端、彼女がほっとしたように目元を緩めたので、つい。そのあとカップへ手を伸ばしたのは、もう一度触れたくなるのを堪えるためでもあった。
それを、平気そうだと言う。まったく、困った恋人である。
「……ギーマさん?」
少し黙っていたせいか、フランが心配そうに覗き込んでくる。
「何でもないよ」
空いている手で、彼女の髪を耳にかけた。フランの肩が小さく跳ねる。そして、また頬が赤くなっていく。
それが面白くて、可愛くて、つい、指先で耳の下を軽く撫でた。
「ひゃ……っ」
彼女は身を縮め、けれど繋いだ手は離さなかった。むしろ、頼るようにこちらの手を握る。
……ああ。それは、いけない。
ギーマはゆっくり指を引いた。これ以上からかえば、最後に困るのは自分だ。
そう分かっているのに、今の顔をもう一度見たいと思ってしまう。
「……きみは、本当に」
「な、何ですか……?」
「可愛いね」
言うつもりだった言葉を選ぶより先に、いちばん単純な本音が出た。
***
可愛いね。そんなもの、今さら言わないでほしい。
嘘だ。言ってほしい。できれば何度でも。ただし、心臓が静かになってから。
フランは俯きながら、繋いでいない方の手で胸元を押さえた。
「……あたしも、もう少し普通にできたらいいんですけど」
「普通?」
「くっついてても、落ち着いてお話したり……キスされても、いちいち変な声を出さなかったり……」
言葉にすると、ますます情けなくなった。もう恋人なのに。
お互いに好きだと、ちゃんと確かめ合ったのに。未だに触れられるたび、こんなにも取り乱してしまう。
「ギーマさん、疲れませんか。あたし、すぐ大騒ぎするから……」
笑われるだろうかと思った。けれど彼は、すぐには笑わなかった。繋いだ手の甲を、親指でゆっくり撫でられる。
「疲れないよ。ただ、もっと触れたくなるね」
「……え?」
「きみは驚いたあと、必ず嬉しそうに笑ってくれるだろう」
フランは目を瞬いた。そんな顔をしていただろうか。
真っ赤になって、あたふたしている自覚しかなかった。
「あの顔を見たくて、つい欲張ってしまう。きみが可愛いのが悪い、と言ったら怒るかな」
「お、怒りませんけど……っ、それは、責任転嫁です……」
「ふふ。手厳しいね」
笑いながら、彼は繋いだ手を持ち上げた。指の付け根に、そっと唇が触れる。
「ほらぁ……!」
フランは抗議した。したのだが、手に残った温もりが嬉しくて、どうしても口元が緩んでしまう。
それを見たギーマの笑みが、ふと深くなった。
「……そういう顔だよ」
指摘されて、フランはとうとう空いている手で顔を隠した。
駄目だ。何もかも見抜かれている。好きも、嬉しいも、もっと一緒にいたいも。
自分ばかり。こんなにも簡単に。
「……ギーマさんは」
「うん」
「あたしに触られても、ドキドキしたりしなさそう……」
顔を隠したまま、思わずそう零すと、少しだけ間があった。
「試してみるかい」
甘い声だった。きっと、自分にはできないと思っている。
そう考えたら、ほんの少しだけ勇気が出た。
フランは顔から手を下ろした。ギーマはこちらを見ている。
いつもなら、それだけで俯いてしまうけれど。
「……少し、かがんでください」
彼の眉が、わずかに上がった。それでも望みどおり、顔を近づけてくれる。
フランは、その頬に唇を寄せた。ほんの一瞬。
触れたか触れないかというくらいの、ぎこちないキス。
それだけで自分の顔まで熱くなったが、逃げる前に、もう一つだけ伝えたかった。
「……あたしだって、触りたいんです」
握っていた彼の手を、両手で包み直す。
「恥ずかしいですけど。ギーマさんのこと、大好きだから……」
***
返事が出なかった。ギーマは、自分を見上げるフランの瞳を見つめていた。
こちらを驚かせようとしていたはずなのに、肝心の本人が、今にも泣きそうなほど赤くなっている。それでも逃げずに、好きだと言う。
分かっている。彼女が自分を好いていることなど、とっくに知っている。
それなのに、何度聞いても慣れない。彼女が勇気を出して差し出すたび、初めて受け取った時のように胸を掴まれる。
肩を抱くくらいで収めるつもりだった手が、途中で止まった。今抱き寄せたら、しばらく離したくなくなる。
「……ギーマさん?」
フランが不安そうに呼んだ。まずい。黙りすぎた。
「あの、今の……変でしたか」
「いいや」
少し引きかけた彼女の手を、握り直す。
「嬉しすぎて、少し困っている」
フランが、ぽかんとした。その顔まで可愛いのだから、どうしようもない。
「……ほんとうに?」
「こんな時まで、疑うのかい」
「だ、だって……お顔が、いつもと同じで……」
ギーマは短く息を吐いて笑った。なるほど。それほど上手く隠せていたのなら、一度くらい明かしてもいいだろう。
彼女の手を取って、自分の胸元へ導く。服越しに掌を添えさせると、フランはきょとんとしたまま、しばらく動かなかった。
やがて、その目がゆっくりと丸くなる。
「……速い」
「誰のせいだと思う?」
掌の下で、鼓動が打っている。いつもの落ち着いた声には、まるで似合わない速さで。
「あたし……ですか」
「ほかに心当たりはないね」
フランは彼の胸元と顔を、何度も見比べた。
「ずっと……?」
「きみが玄関を開けてくれた時から、何度も」
「そんな、あたし、何も……」
「会えて嬉しいという顔をしてくれただろう。それで充分だよ」
たった、それだけで。あのギーマが。
フランは胸元に置いた手を動かせなくなった。自分だけだと思っていた。触れたくて、近くにいたくて、少し笑いかけてもらえただけで嬉しくてたまらなくなるのは。
彼も同じなのだと知った途端、胸の奥がきゅうっと甘くなった。
「……あたしだけじゃ、なかったんですね」
そう言って笑うと、ギーマが一瞬、目を伏せた。今なら分かる。何でもないように見えたその間に、彼もまた、気持ちを持て余している。
「……だから、そういう顔をされると困るんだ」
いつもより少し低い声と一緒に、背中へ腕が回った。ゆっくり引き寄せられ、頬が彼の胸に触れる。
「しばらく、こうしていてくれないか」
フランは小さく頷いて、彼の背中へ両腕を回した。すぐそばで聞こえる鼓動が、ほんの少し速くなる。
それが嬉しくて、つい、ぎゅっと抱きついた。
「……フラン」
「はい」
「落ち着くまで待ってもらうつもりだったんだがね」
「あっ……す、すみません……!」
慌てて腕を緩めようとすると、背中の手が引き留めた。
「離れてほしいとは、言っていないよ」
フランは彼の胸に顔を埋めた。やっぱりずるい。
自分だってドキドキしているくせに、こういうことは言えてしまうのだ。
「……ギーマさん」
「うん?」
「今度は唇に……キスしてもいいですか」
返事は、すぐには返ってこなかった。代わりに、抱きしめる腕が少しだけ強くなる。
見上げたフランは、そこで初めて、彼の耳がわずかに赤いことに気づいた。
「……ひとつ、訂正しよう」
ギーマは困ったように微笑んだ。
「きみは、充分わたしを振り回しているよ」
その声があまりに甘くて、フランはまた真っ赤になる。
けれど今度は俯かずに。大好きな恋人に、そっと唇を寄せた。