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ホウエンのカイナシティから遠く離れたイッシュ地方、ライモンシティに引っ越してきて、かれこれ一ヶ月が経過していた。
煌びやかなネオンと歓声が渦巻くこの街に慣れず、一人取り残されたように暗い影を落としている少女がいた。
「……もう、いやだ」
フランは、自分の足元にじゃれつくポチエナを抱き上げ、縋るように強く抱きしめた。
このライモンシティに引っ越してきたのは、他ならぬ父親の仕事の都合によるものであった。親しかった友人達と、もう気軽に会うことが叶わない……海を越えた遠い地方への引っ越し。ただでさえ慣れない環境で、仲のいい友達も周りにいないというのに。両親は仕事が忙しく、朝早くに出て夜遅くに帰ってくる日々だし、肝心の頼りになる筈の兄はイッシュ地方に引っ越して早々、「世界中の人と友達になるためにトレーナーとして旅に出る!」と書き置きを残して、相棒のオオスバメと共に飛び立ってしまった。
フランは留守番を言い渡され、子ども一人が過ごすには広すぎる家にいつも一人取り残されていた。
テレビの音も、時計の針の音も、全部が少女の寂しさを助長する。
(パパもママもおにいも、あたしのことなんてどうだっていいんだ!)
ぷつん、と心の中で何かが切れる音がした。
フランは貯めていた少ないお小遣いを小さな財布にねじ込み、相棒のポチエナを連れて玄関から飛び出した。
「行こう、エナ。……あたしたちでホウエンに帰ろう」
相棒のポチエナ――エナは、不安そうに「わふぅ」と鳴いたが、主人の悲壮な決意を感じ取ったのか、そのあとをついてきた。
まず目指すは4番道路。ここを抜ければ、きっとホウエンに続く道があるはずだ。
そんな考えなしの無謀な子どもの理屈で、フランは荒野へと足を踏み入れた。
けれど、イッシュの自然は甘くなかった。
4番道路名物の砂嵐が、容赦なくフランの小さな体に打ち付ける。
「う、うう……っ! 痛い、目が……開けられない……!」
砂が肌を打ち、視界が茶色く染まる。風に煽られ、何度も転びそうになる。
それでも家に帰りたくなくて、意地になって歩き続けたが、ついに足がもつれてその場に蹲ってしまった。
「……帰りたいよう……ホウエンに、かえりたいだけなのにぃ……!」
「くぅん……」
恐怖と後悔で涙が溢れる。エナが心配そうに頬を舐めてくれるが、どうしようもなかった。
その時だった。
「こんなところで蹲っていたら危ないぜ、お嬢さん」
風の音に混じって、涼やかな声が降ってきた。
顔を上げると、砂除けの布を目深に被った少年が立っていた。年齢は、兄と同じくらいなのだろうか。その割には落ち着いていて、どこか大人びた雰囲気を纏っている。
「立てるかい? この風だ、飛ばされてしまうよ」
少年はフランに手を差し出す。その手は白くて、とても綺麗だった。
「あ……ありがと……」
フランがおずおずとその手を掴むと、少年は意外なほど力強くフランを引き上げた。そのまま彼は何も言わず、風を遮るようにフランの前に立ち、ライモンシティの方角へと歩き出した。
ゲートをくぐり、街の喧騒が戻ってくると、張り詰めていた糸が切れたようにフランは泣きじゃくり始めた。
「うっ、うわあぁぁん……っ! ……あ、あたしっ、家出してきたのっ……! パパもママもおにいも、いっつもあたしのこと放っておいてどこかに行っちゃうの……! あたしが寂しくたって、みんなどうでもいいんだッ……わーん!」
突然泣き出したフランに、少年は困ったように眉を下げながらも、彼女の背中を優しく擦ってくれた。
「ホウエン地方に戻りたい……みんなに、友だちに会いたいよぉ……イッシュになんて、来たくなかった……っ」
めそめそとフランは堰を切ったように泣きながら、大粒の涙と共に自分のありのままの気持ちを吐露する。
「……そうか。それは、つらかったね」
少年は、フランの素直な気持ちを否定しなかった。「我慢するんだ」とも「親を困らせてはいけない」とも言わなかった。
ただ静かに、フランの悲しみを肯定した。
「でも、せっかくイッシュに引っ越してきたんだ。おれ……わたしとしては、きみにこのイッシュ地方を好きになってもらいたいな」
少年は布を少しずらし、綺麗な空色の瞳でフランを見つめた。ちらりと見えたその瞳がとても綺麗で、フランは一瞬息を呑んだ。
「突然で申し訳ないが、エスコートさせてもらっても構わないかな? 涙で顔がぐしゃぐしゃのままでは、せっかくの可愛らしい顔が台無しだ」
「え……?」
「さあ、行こう。涙を乾かすには、風に当たるのが一番さ」
そう言うと、少年はフランの手を優しく引いた。
それは、「ライモンシティ巡り」という名の、フランにとって人生で初めてのデートの始まりだった。
少年はどうやら、とてもお金持ちらしい。
通りすがりの屋台でフランがじっと見つめていた色とりどりのマカロンを、「全部ひとつずつ」と言って買ってくれたり、遊園地のフリーパスを躊躇なく渡してくれたりした。
「ま、まって!あたし、お金ちょっとしか持ってない……」
「わたしからデートに誘ったんだ。レディに払わせるわけがないだろう? ……ここはわたしに任せて。きみは今日一日をめいっぱい楽しんでくれればいい」
少年はフランが財布を出すことを許さなかった。そしてその言葉通りに、まるでおとぎ話に出てくる王子様を思わせるほどのスマートさでフランをエスコートした。観覧車から見えるライモンシティの景色を見つめながら街の見所を紹介してくれたり、ミュージカルホールの華やかなショーを見るために特別な席を用意して一緒に鑑賞したり、甘いチョコレートの香りが漂うカフェまで連れて行って、フランが好きなエネココアまでごちそうしてくれた。
数時間前まで泣いていたのが嘘のように、フランの心はすっかりときめきで満たされていた。
「わあぁっ! こんなにたのしいの、ひさしぶり! ね、エナ!」
「わふっ!」
先ほど買ってもらったマカロンを頬張りながら満面の笑みを浮かべているフランを見て、少年はふっと口元を緩めた。
「……わたしも、久しぶりに心から楽しめてるぜ」
「お兄さんも?」
「ああ。……ここには、堅苦しいテーブルマナーも、探り合いの会話もないからね」
少年はベンチに腰を下ろし、遠くの観覧車を見上げた。その横顔は、どこか寂しげで、大人びて見えた。
「わたしもね、実は全てが嫌になってここまで逃げてきたんだ。……まあ、すぐに戻らなければいけないんだけどね」
「……お兄さんも、家出してきたの?」
フランが小首を傾げると、少年は苦笑交じりに肩を竦めた。
「……そうだな。わたしらしくもないが、少し疲れてしまってね。チョロネコと一緒に、たまには何もかも忘れて気晴らしをしようと外に出たんだ」
少年の視線は、この煌びやかな街の光よりも、もっと遠く、暗い何かを見ているようだった。まだ幼いフランは、少年になんと声を掛ければいいのか分からず、口をもごもごとさせるしかない。フランが反応に困っていることを察したのか、少年は安心させるように、柔らかく微笑む。
「そうしたら、こんなに素敵なお姫様と出会えたんだ。わたしはツイているね」
「お、おひめさま?!」
突然の言葉に、フランは顔を真っ赤にして両手で頬を押さえた。
「……ふふ、きみは本当にころころと表情が変わって面白いね。素直だからからかい甲斐があるよ」
「か、からかわないでよう……はずかしい……」
「お姫様のように愛らしいと思ってるのは本当だよ」
少年は悪戯っぽく笑うと、立ち上がって手を差し出した。
「……さあ、そろそろ魔法が解ける時間みたいだね」
夕暮れ時のライモンシティ。
少年は迷うことなく、フランを自宅の近くまで送り届けた。
「あたしの家の近くだ!どうしてわかったの?」
「観覧車でこの街を一望してる時に、きみはあからさまにあの家に視線が釘付けになっていたからね。多分この辺りなのかな?と目星を付けていたんだ」
当たっていたようで何よりだよ、と少年は笑う。フランの視線の動かし方を見て、家がどこにあるのか早々に察していたらしいことに、フランはこの少年が只者ではないことをひしひしと感じていた。
家の前には、人だかりができていた。
真っ青な顔をした両親と、旅に出ていたはずの兄が、血相を変えて走り回っている。
「フラン!!」
「フラン、どこだーッ!!」
自分の事を探している家族の姿を見た瞬間、フランの足がすくんだ。怒られる、と思ったからだ。
けれど、少年はフランの背中にそっと手を添えた。
「大丈夫。きみの家族は、きみのことをとても大切に思っているよ」
「……ほんとう?」
「ああ。部外者のわたしが見ていても、それが伝わってくるんだから、間違いないぜ」
少年の言葉には、不思議な説得力があった。嘘や誤魔化しのない、真実を見抜く人の言葉。
「……きみはもっと、自分の気持ちを臆せず家族に伝えて、甘えたっていいんだ。言葉にしなければ、伝わらないこともあるからね」
とん、と背中を押される。
その力強さに勇気をもらい、フランは家族の元へと駆け出した。
「パパ! ママ! おにいちゃん!」
「フラン!!」
両親が泣きながらフランを抱きしめる。兄も、「ごめん、俺が悪かった!」と頭を撫でてくる。
その温かさに包まれながら、フランは振り返った。
街の曲がり角へと、少年が静かに立ち去ろうとしていた。
「あ、あの! まって!」
フランは家族の腕をすり抜け、少年の元へ走った。
そして、その美しく白い手をぎゅっと両手で握りしめた。
「お兄さんのお陰で……あたし、この街のこと好きになったよ!」
少年の瞳が、驚きで見開かれる。
「……今日一日、たくさん遊んでくれてありがとう! ……お兄さんに、たくさん幸せなことがありますように!」
まっすぐな瞳。汚れのない、純粋な感謝と祈り。
フランは満面の笑みを浮かべて言った。
「また会えたらお礼させてね! ……ばいばい、素敵なお忍び王子さま!」
少年は呆気にとられたように瞬きをした後、耐えきれないといった様子で「ふっ」と吹き出した。
「……こんなおれのことを、王子様と呼ぶとはね。ふふ……」
彼は目元の布を深く被り直し、優しく、けれどどこか名残惜しそうにフランの手を離した。
「いいかい。次会う時までに……もっと素敵なレディになっていることだ。期待しているよ」
少年はひらひらと手を振り、夕闇の中に消えていった。
煌びやかなネオンと歓声が渦巻くこの街に慣れず、一人取り残されたように暗い影を落としている少女がいた。
「……もう、いやだ」
フランは、自分の足元にじゃれつくポチエナを抱き上げ、縋るように強く抱きしめた。
このライモンシティに引っ越してきたのは、他ならぬ父親の仕事の都合によるものであった。親しかった友人達と、もう気軽に会うことが叶わない……海を越えた遠い地方への引っ越し。ただでさえ慣れない環境で、仲のいい友達も周りにいないというのに。両親は仕事が忙しく、朝早くに出て夜遅くに帰ってくる日々だし、肝心の頼りになる筈の兄はイッシュ地方に引っ越して早々、「世界中の人と友達になるためにトレーナーとして旅に出る!」と書き置きを残して、相棒のオオスバメと共に飛び立ってしまった。
フランは留守番を言い渡され、子ども一人が過ごすには広すぎる家にいつも一人取り残されていた。
テレビの音も、時計の針の音も、全部が少女の寂しさを助長する。
(パパもママもおにいも、あたしのことなんてどうだっていいんだ!)
ぷつん、と心の中で何かが切れる音がした。
フランは貯めていた少ないお小遣いを小さな財布にねじ込み、相棒のポチエナを連れて玄関から飛び出した。
「行こう、エナ。……あたしたちでホウエンに帰ろう」
相棒のポチエナ――エナは、不安そうに「わふぅ」と鳴いたが、主人の悲壮な決意を感じ取ったのか、そのあとをついてきた。
まず目指すは4番道路。ここを抜ければ、きっとホウエンに続く道があるはずだ。
そんな考えなしの無謀な子どもの理屈で、フランは荒野へと足を踏み入れた。
けれど、イッシュの自然は甘くなかった。
4番道路名物の砂嵐が、容赦なくフランの小さな体に打ち付ける。
「う、うう……っ! 痛い、目が……開けられない……!」
砂が肌を打ち、視界が茶色く染まる。風に煽られ、何度も転びそうになる。
それでも家に帰りたくなくて、意地になって歩き続けたが、ついに足がもつれてその場に蹲ってしまった。
「……帰りたいよう……ホウエンに、かえりたいだけなのにぃ……!」
「くぅん……」
恐怖と後悔で涙が溢れる。エナが心配そうに頬を舐めてくれるが、どうしようもなかった。
その時だった。
「こんなところで蹲っていたら危ないぜ、お嬢さん」
風の音に混じって、涼やかな声が降ってきた。
顔を上げると、砂除けの布を目深に被った少年が立っていた。年齢は、兄と同じくらいなのだろうか。その割には落ち着いていて、どこか大人びた雰囲気を纏っている。
「立てるかい? この風だ、飛ばされてしまうよ」
少年はフランに手を差し出す。その手は白くて、とても綺麗だった。
「あ……ありがと……」
フランがおずおずとその手を掴むと、少年は意外なほど力強くフランを引き上げた。そのまま彼は何も言わず、風を遮るようにフランの前に立ち、ライモンシティの方角へと歩き出した。
ゲートをくぐり、街の喧騒が戻ってくると、張り詰めていた糸が切れたようにフランは泣きじゃくり始めた。
「うっ、うわあぁぁん……っ! ……あ、あたしっ、家出してきたのっ……! パパもママもおにいも、いっつもあたしのこと放っておいてどこかに行っちゃうの……! あたしが寂しくたって、みんなどうでもいいんだッ……わーん!」
突然泣き出したフランに、少年は困ったように眉を下げながらも、彼女の背中を優しく擦ってくれた。
「ホウエン地方に戻りたい……みんなに、友だちに会いたいよぉ……イッシュになんて、来たくなかった……っ」
めそめそとフランは堰を切ったように泣きながら、大粒の涙と共に自分のありのままの気持ちを吐露する。
「……そうか。それは、つらかったね」
少年は、フランの素直な気持ちを否定しなかった。「我慢するんだ」とも「親を困らせてはいけない」とも言わなかった。
ただ静かに、フランの悲しみを肯定した。
「でも、せっかくイッシュに引っ越してきたんだ。おれ……わたしとしては、きみにこのイッシュ地方を好きになってもらいたいな」
少年は布を少しずらし、綺麗な空色の瞳でフランを見つめた。ちらりと見えたその瞳がとても綺麗で、フランは一瞬息を呑んだ。
「突然で申し訳ないが、エスコートさせてもらっても構わないかな? 涙で顔がぐしゃぐしゃのままでは、せっかくの可愛らしい顔が台無しだ」
「え……?」
「さあ、行こう。涙を乾かすには、風に当たるのが一番さ」
そう言うと、少年はフランの手を優しく引いた。
それは、「ライモンシティ巡り」という名の、フランにとって人生で初めてのデートの始まりだった。
少年はどうやら、とてもお金持ちらしい。
通りすがりの屋台でフランがじっと見つめていた色とりどりのマカロンを、「全部ひとつずつ」と言って買ってくれたり、遊園地のフリーパスを躊躇なく渡してくれたりした。
「ま、まって!あたし、お金ちょっとしか持ってない……」
「わたしからデートに誘ったんだ。レディに払わせるわけがないだろう? ……ここはわたしに任せて。きみは今日一日をめいっぱい楽しんでくれればいい」
少年はフランが財布を出すことを許さなかった。そしてその言葉通りに、まるでおとぎ話に出てくる王子様を思わせるほどのスマートさでフランをエスコートした。観覧車から見えるライモンシティの景色を見つめながら街の見所を紹介してくれたり、ミュージカルホールの華やかなショーを見るために特別な席を用意して一緒に鑑賞したり、甘いチョコレートの香りが漂うカフェまで連れて行って、フランが好きなエネココアまでごちそうしてくれた。
数時間前まで泣いていたのが嘘のように、フランの心はすっかりときめきで満たされていた。
「わあぁっ! こんなにたのしいの、ひさしぶり! ね、エナ!」
「わふっ!」
先ほど買ってもらったマカロンを頬張りながら満面の笑みを浮かべているフランを見て、少年はふっと口元を緩めた。
「……わたしも、久しぶりに心から楽しめてるぜ」
「お兄さんも?」
「ああ。……ここには、堅苦しいテーブルマナーも、探り合いの会話もないからね」
少年はベンチに腰を下ろし、遠くの観覧車を見上げた。その横顔は、どこか寂しげで、大人びて見えた。
「わたしもね、実は全てが嫌になってここまで逃げてきたんだ。……まあ、すぐに戻らなければいけないんだけどね」
「……お兄さんも、家出してきたの?」
フランが小首を傾げると、少年は苦笑交じりに肩を竦めた。
「……そうだな。わたしらしくもないが、少し疲れてしまってね。チョロネコと一緒に、たまには何もかも忘れて気晴らしをしようと外に出たんだ」
少年の視線は、この煌びやかな街の光よりも、もっと遠く、暗い何かを見ているようだった。まだ幼いフランは、少年になんと声を掛ければいいのか分からず、口をもごもごとさせるしかない。フランが反応に困っていることを察したのか、少年は安心させるように、柔らかく微笑む。
「そうしたら、こんなに素敵なお姫様と出会えたんだ。わたしはツイているね」
「お、おひめさま?!」
突然の言葉に、フランは顔を真っ赤にして両手で頬を押さえた。
「……ふふ、きみは本当にころころと表情が変わって面白いね。素直だからからかい甲斐があるよ」
「か、からかわないでよう……はずかしい……」
「お姫様のように愛らしいと思ってるのは本当だよ」
少年は悪戯っぽく笑うと、立ち上がって手を差し出した。
「……さあ、そろそろ魔法が解ける時間みたいだね」
夕暮れ時のライモンシティ。
少年は迷うことなく、フランを自宅の近くまで送り届けた。
「あたしの家の近くだ!どうしてわかったの?」
「観覧車でこの街を一望してる時に、きみはあからさまにあの家に視線が釘付けになっていたからね。多分この辺りなのかな?と目星を付けていたんだ」
当たっていたようで何よりだよ、と少年は笑う。フランの視線の動かし方を見て、家がどこにあるのか早々に察していたらしいことに、フランはこの少年が只者ではないことをひしひしと感じていた。
家の前には、人だかりができていた。
真っ青な顔をした両親と、旅に出ていたはずの兄が、血相を変えて走り回っている。
「フラン!!」
「フラン、どこだーッ!!」
自分の事を探している家族の姿を見た瞬間、フランの足がすくんだ。怒られる、と思ったからだ。
けれど、少年はフランの背中にそっと手を添えた。
「大丈夫。きみの家族は、きみのことをとても大切に思っているよ」
「……ほんとう?」
「ああ。部外者のわたしが見ていても、それが伝わってくるんだから、間違いないぜ」
少年の言葉には、不思議な説得力があった。嘘や誤魔化しのない、真実を見抜く人の言葉。
「……きみはもっと、自分の気持ちを臆せず家族に伝えて、甘えたっていいんだ。言葉にしなければ、伝わらないこともあるからね」
とん、と背中を押される。
その力強さに勇気をもらい、フランは家族の元へと駆け出した。
「パパ! ママ! おにいちゃん!」
「フラン!!」
両親が泣きながらフランを抱きしめる。兄も、「ごめん、俺が悪かった!」と頭を撫でてくる。
その温かさに包まれながら、フランは振り返った。
街の曲がり角へと、少年が静かに立ち去ろうとしていた。
「あ、あの! まって!」
フランは家族の腕をすり抜け、少年の元へ走った。
そして、その美しく白い手をぎゅっと両手で握りしめた。
「お兄さんのお陰で……あたし、この街のこと好きになったよ!」
少年の瞳が、驚きで見開かれる。
「……今日一日、たくさん遊んでくれてありがとう! ……お兄さんに、たくさん幸せなことがありますように!」
まっすぐな瞳。汚れのない、純粋な感謝と祈り。
フランは満面の笑みを浮かべて言った。
「また会えたらお礼させてね! ……ばいばい、素敵なお忍び王子さま!」
少年は呆気にとられたように瞬きをした後、耐えきれないといった様子で「ふっ」と吹き出した。
「……こんなおれのことを、王子様と呼ぶとはね。ふふ……」
彼は目元の布を深く被り直し、優しく、けれどどこか名残惜しそうにフランの手を離した。
「いいかい。次会う時までに……もっと素敵なレディになっていることだ。期待しているよ」
少年はひらひらと手を振り、夕闇の中に消えていった。
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