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幸村 精市
何かあった?
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同じ学年で、同じ部活の幸村くん。私はマネージャーをしている。
昼休みが終わったあと、次の時間が始まる頃に幸村くんからLINEがきた。 -
水無月 紗南
えっ?
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幸村 精市
ひどい顔してる
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さっき廊下ですれ違ったときのことかな。
とあることで、私は珍しく落ち込んでいた。 -
水無月 紗南
そんなことないよ!ひどいな〜幸村くんは 笑
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幸村 精市
誤魔化さなくていいよ
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幸村 精市
無理に笑う君をみてると、こっちがつらくなる
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水無月 紗南
ごめん、
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水無月 紗南
でもほんとに、大丈夫!元気!
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幸村 精市
頑固だなあ、君も。
真田みたいだ -
水無月 紗南
えー、真田くん程じゃないよ 笑
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幸村 精市
まあ、話したくないなら無理には聞かないけど
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幸村 精市
あんまりひどい顔してたから、気になって
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私のことをそんなに気にかけてくれたことが、嬉しい。誰にも、なにも言われなかったのに。自分でも、顔に出さないようにしてたのに。さっき幸村くんとすれ違ったのも、一瞬だったのに。
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幸村 精市
今日は部活、行くのかい?
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確か今日は、自主練メインだったはず。マネージャーは行かなくても良い日だが、いつもは行っている。
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水無月 紗南
うん、行くつもりだよ
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幸村 精市
その状態で行くのかい?
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水無月 紗南
だから、大丈夫だってー笑
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幸村 精市
はぁ…わかったよ。じゃあ、また放課後に
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なんとか幸村くんの心配は解けたみたいだ。と、思っていた。
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放課後
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幸村 精市
今から屋上に来れる?
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水無月 紗南
え?どうしたの?
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水無月 紗南
部活は?
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幸村 精市
いいから、来なよ
待ってる -
急にどうしたんだろう。というか、部活は?とりあえず、私は屋上に向かった。
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屋上
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屋上のドアを開けると、花壇に咲く花々に囲まれた幸村くんの姿があった。
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「幸村くん…?」
「綺麗だろ?」
花に目を向けたまま話す幸村くん。
「部活は?行かなくていいの?」
「こんなに綺麗なのに、実は病気になってしまったらしいんだ。ほら、根元の方、枯れてきてる」
私の問いに返答せず、そう答える。ええと…
「つまり、花が病気になってしまったから、部活は休むっていうこと?」
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「うん、そうだよ。俺が見てやらないと、誰も気づかないかもしれないんだ。…誰かさんと一緒でね」
つまり、私が元気がなかったから部活を休んだと言っているのか。何という素敵な暗喩なんだ。
やっとこちらに目を向け、幸村くんと目が合う。
「あ、ちゃんと部には顔を出してきたよ。だから全く問題はない」
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手に持っていたジョウロを置き、ベンチに座る幸村くん。
「隣、どうぞ」
促され、隣に腰掛ける。
「キミは、強がりだよね」
「そうかな」
笑ってごまかす。
屋上から見える景色はなんだか新鮮で、部活に励む生徒の声が遠くに聞こえる。
ふと、幸村くんの顔を見る。
いつ見ても、綺麗な顔立ちだなぁ。そんな風に見惚れていると、 -
「そんなに見つめられても、君になにがあったかまでは、まだ今の俺にはわからないな」
ふふっと笑いながら幸村くんが言う。
(もっとそばにいれたら、わかるようになると思うんだけど)
「ん?なんか言った?」
いつもよりトーンの低い声で、聞き取れなかった。
「なんでもないよ、ただのひとり言。」
幸村くんは、グラウンドの方を見つめる。
「俺だけには、話してほしい。」
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そして、私が落ち込んでいる経緯を全て話した。
今期に入ってから何人かの男子に告白され、全て断ったこと。そのことで、複数人の女子に陰口を言われていること。
「まだ、陰で言われるだけなら、仕方ないかなって思ってたんだけど…。なんだか、変な噂まで流され始めちゃって…。全く身に覚えがないのに、複数の男と関係持ってるとか。そんなことできるわけないのに」
笑って、泣きそうになるのを我慢する -
幸村くんは静かに、何も言わず聴いてくれた。
「そんなこと言われちゃ、本当にまともな恋愛できないって。悲しいなあー」
ははっと、笑い飛ばす。ほんとは、心はズタズタなんだけど。
「ごめんね、もっと早く気づかなくて。」
予想外の言葉に、驚く。
「君は、好きな人いるの?」
不意に、幸村くんはそんな質問を投げかけてきた。
「えっ?えーっと…」
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返答に困る。目の前にいるなんて、いくらなんでも言えない。
「いや、やっぱりなんでもない。」
答える前に、幸村くんに遮られる。
(聞くのが怖いなんて、情けないな、俺)
「君は、大丈夫だよ。」
「え…?」
「今は、まだ辛いけど、きっと大丈夫になるから。というか、大丈夫にするから。」
私には、その言葉の意味がわからなかった。でも、なんだか救われた気がした。 -
その日の夜
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水無月 紗南
今日はありがとう。気分が軽くなったよ
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水無月 紗南
家まで送ってくれたのも、ありがとう
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幸村 精市
少しは元気出たみたいで、良かった
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幸村 精市
君は、花は好き?
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水無月 紗南
うん、好きだよ?
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幸村 精市
昼休み、よく屋上にいるから、よかったら来て。もうすぐダリアの花が咲くんだ
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幸村くんからお誘いなんて、嬉しい。でも、私が元気がないから、気にかけてくれてるだけなんだろうな。
部活ではすごく厳しいけど、マネージャーの私にはすごく気を使ってくれるし。 -
水無月 紗南
そうなんだ!見に行くね
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そして、お昼休みに部活のミーティングがない時などは、よく屋上に行くようになった。
幸村くんとの2人きりの時間。幸せなひととき。悩んでることも、綺麗な花たちと幸村くんがいれば、全て忘れられる。ちょっと大げさかもしれないけど、そのくらい心地よい時間なんだ。 -
そして、以前よりも幸村くんのことをわかるようになった。困っているのは、さらに好きになってしまうこと。
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部活でも、幸村くんとよく話すようになった。自惚れかもしれないけど、部活での幸村くんは、以前よりもよく笑うようになった、気がする。
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ある日の部活中
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「おい、水無月。すまんが、応急手当道具を持って来てくれんか」
少し遠くのコートにいた真田くんに呼ばれ、慌てて救急箱をもって向かった。
「少し足を痛めてしまってな…大したことはないのだが」
真田くんに寄り添い、患部を診る。
とりあえずスプレーかな。
処置をするために、どこかに座らせないと。
真田くんの体を支え、端のベンチまで移動させようとする。
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「お、おい。重いだろう、自分で歩けるぞ。」
そう言う真田くんを無視して、なんとかベンチへ座らせた。
幸村くんが見ているとも知らずに…
手当をしながら、真田くんと話す。
「ここだけの話…最近、幸村の機嫌が良いようだが…何かあったのだろうか?」
「えっ、そ、そうなんだ。なんでだろうね。」
急に幸村くんの話題を出され、少し驚く。顔、赤くなってるかも。
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「は、はい!手当完了!今日はあんまり動かない方がいいよ」
「ああ、ありがとう」
その時、遠くから幸村くんの声が聞こえた。
「おい、真田、ちょっと。」
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真田くんが戻って来た頃には、もう部活の時間は終了間近だった。何を話していたのかな。
少し気になりながらも、その日は何事もなく帰宅した。 -
次の日の朝
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幸村 精市
今日の放課後、屋上に来てくれない?
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水無月 紗南
うん、わかった!
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今日はたしか、お昼にミーティングがあって、放課後の部活はない。突然の誘いに、起きたばかりの私は一瞬で目が覚めた。今日はちょっと、おしゃれしていこう。
サイドの髪を編み込み、いつもと違う髪型。
ちょっと気合い入れすぎたかな。でも、幸村くんと過ごすんだから、これくらいしないと。 -
昼休み、ミーティング
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「あれ、水無月、いつもと違う髪型じゃん。」
丸井くんが気づいてくれた。
「水無月、最近一段と可愛くなったのう。なんじゃ〜、恋でもしとるんか」
仁王くんが私の髪を触って、からかってくる。
「そ、そんなことないよ〜!からかわないでー」
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「仁王くん、紗南さんを困らせてはいけませんよ。」
「そういえば、なんで柳生は水無月のこと名前呼びなんだ?」
丸井くんが不思議そうに聞いてくる。
そのとき、
「おい、ミーティング始めるよ。」
幸村くんの冷たい声が響く。なんだかいつもと雰囲気がちがう…? -
放課後
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帰る用意をして、屋上に向かう。ドアを開ける前、手鏡でおかしいところがないか確認する。よし、完璧!気合い十分でドアを開けた。
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しかし、そこには幸村くんはいなかった。まだ来てないのかな。
あ、あの花、この間まで咲いてなかったのに咲いてる。
そう思って花壇の近くに歩み寄る。
「綺麗だな…」
思わず笑みがこぼれてしまう。これは幸村くんと植えた花だ。
「咲いたね、綺麗でしょ。」
あれっ?幸村くんいたんだ。そう思うと同時に振り返ろうとしたが、その前になんと、後ろから抱きしめられてしまった。 -
えっ、うそ。今、幸村くんに抱きしめられてる?なんで、え?何が起こってるの。
「え、ちょ、幸村くん?」
驚きのあまり、言葉が出てこない。
背中に触れる胸板。細そうに見えて、意外にガッチリしている身体を感じ、ドキドキする。
「水無月さん、俺、すっごく妬いちゃった」
「え…?」
火照った私の体を冷ますように、屋上に心地よい風が吹く。
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「意外と鈍感なんだよね、水無月さん。ちゃんと言わないと、伝わらないか」
さっきから幸村くんの言ってることがわからない。この状況も、全く飲み込めてないのだけど。
後ろから抱きしめたまま、幸村くんは私の肩に顎を乗せる。
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「俺、水無月さんのことが好きだよ。ずっと、誰よりも君のこと大事に思ってた。ゆっくり、俺のことを知ってもらって、好きになってもらおうと思ってた。でも、もう限界。」
耳元で幸村くんの甘い声が響く。右耳が、すごく熱い。
幸村くんが、私のことを…。なんだか夢を見ているようで、何も考えられなくなる。 -
「昨日の部活でも、今日のミーティングでも、すごく嫉妬しちゃった。昨日なんか、真田に申し訳ないことをした。」
お茶目な感じで言ってるけど、少し黒い幸村くんが垣間見える。真田くん、なんかごめん…。でも、すごく嬉しい。幸村くんが、嫉妬するなんて。
「ちゃんと目を見て言わなきゃね」
抱きしめる腕が解かれ、手を掴まれ、幸村くんのほうに振り向かされる。
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「俺と付き合ってください。」
真っ直ぐに私を見つめる目。
もう、緊張と嬉しさで、心臓が止まりそう。
「私も、幸村くんが好き。ずっと前から、最近よく話すようになる前から、好き」
すると、幸村くんは驚いたような表情をして
「ほんとに…?てっきり、お昼に来るようになってから、俺のこと見てくれるようになったのかと…。俺の思い違いだったか」 -
「君が落ち込んでるとき、話聞いてる感じでは好きな人は居なさそうだったから、時間をかけようと思ってたんだけど…。でも、待ちきれなかった」
ふふっと笑う幸村くん。
「でも、もうこれで安心だ。部員も牽制できるし、君が悩んでたことも、もう心配ない。」
両手を繋ぎ、向かい合う。すごく、幸せ。
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「俺のこと、下の名前で呼んでほしい。あと、俺も下の名前で呼ぶ。」
うん、と頷く。
今喋ったら、こらえてる嬉し涙が出てしまいそうだ。
「かわいい。紗南、キス…していい?」
そう聞いてくるところが、幸村くんらしい。私の頬に手が当てられ、愛おしそうに見つめられる。
「うん…」
精一杯声を絞り出して、そう答える。
その瞬間腰を引き寄せられ、優しいキスが降ってくる -
長いキスのあと、おでこをコツンとくっつける。
こんなにも、近い。
「恥ずかしい…」
「紗南、かわいい。この髪型も、俺のためにしてくれたんだろ?」
意地悪そうに言う。すべてを見透かされてる気がして、ドキドキする。 -
「名前、呼んで」
「精市…」
「うん、よくできました」
再び長いキスが降ってきて、もう、何も考えられなくされてしまう。
「もう、俺だけのものだよ」
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次の日の部活
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「紗南は俺のものだから、いいね?」
精市の黒い微笑みに、部員たちが固まる。
刺激的な日々が幕を開けた。 -
おわり
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あとがき
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読んでくださりありがとうございます。
幸村くんの黒い感じが出てればと思います()
幸村くんの儚げな感じに、すごく惹かれます。
学プリで名前呼びにこだわってた(?)印象があるので、ちょっとその要素を入れてみました。学プリとか懐かしい。自分で言っといてなんだけど。笑
幸村くんの新曲、ハッピーサマーバレンタイン、素敵でしたね!大好き、のところで無事死亡しました。
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このストーリーの続編(えっちなやつ)を書きたいと思ってます。いつになるかはわかりませんがそちらは普通の小説のほうで。
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