行きつく先はみな同じ
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不安は大火となって俺たちを襲った。
誰も起きていない、寝静まった夜、長州の軍勢は家々に火をつけた。熱さと焦げ臭さに目が覚めた住民は家族を急いで起こして家の外へでる。――その住民を長州の兵が銃弾で命を絶つ。実に単純で残酷な戦術だ。混乱しているときに親しい者を失えば、脳が混乱に混乱を極め行動が止まるか遅くなる。そこを突いてまた命が絶たれる。
お父様とお母様は俺と千鶴をを逃がすために囮になってくれたおかげで、家の裏から出ることができた。俺は大通連を、千鶴は小通連を抱えて燃えさかる里を走る。視界に逃げ惑う里の者たちが視界に入る。助けたいと思っているが、今は自分のことで精いっぱいで助けることはできない。こときれた骸のそばを走り去るたびに無力さを痛感させられて、悔しくて下唇をかみしめる。
無事に里を抜けられることができたが、油断はできない。背後から兵が迫ってきている。
「あっ」後ろから驚いた声が聞こえて、千鶴とつないでいた手が離れる。振り向くと千鶴が転げ落ちてしまっていた。そばに行こうとしたところ、追手が迫ってきている。
『くそっ』
悪態をついて、千鶴の逃げる後姿をみて下山して合流することにした俺は、なるべく千鶴が落ちたところから近い獣道を選んで道を下る。兵との距離を確認する為に振り向くと、暗闇の中で輝く松明がいい目印になってくれているので兵たちがだいたいどこにいるのかが分かった。兵との距離は近く、三メートルほどしか離れていない。森に逃げられてことで大丈夫だろうと高をくくっていたいたのが悪いのだろう。このままでは捕まってしまう。
(そろそろ全力をだしたほうがよさそうだ)
前に出した足に力を込めた瞬間、横からすごい速さで捕まえられた。俺を捕まえた人物は速度を緩めずそのままあの場から走り去る。その速さはとても凄まじく、肩に担がれている俺に風圧や走っているときの上下運動が腹にめり込んで息がしづらい。
『このっ、放せよ!俺は千鶴とのところに行かなきゃいけないんだよ』
バタバタと暴れてみても、相手が放す気配はない。原作では薫は土佐の南雲家に連れていかれた筈、となると今俺を抱えている相手は南雲の鬼。暴れるのを止めて、身をまかせる。
(千鶴は鋼道と原作通り出会えただろうか)
自分という転生者 によって原作が変えられていないことを、月に願った。
* * * * *
「んしょ、よっこいしょ」
小さな体をめいっぱいつかって井戸から水をくみ上げる。井戸からくみ上げた水を足元に置いていた二つのうちの一つの桶に入れて、もう一つの桶を水で満たすためにまた井戸に釣瓶つるべを落として水くみ上げる。
――あの日から一月が経った。あの夜俺を連れ去ったのは予想通り南雲家の者で、南雲の長の妻は俺が男だと知ると俺を連れてきた者を叱りつけ、南雲邸横にある離れに俺を投げ入れ「あんたにはこれからうんと、働いてもらうからねっ!」ぴしゃり戸を閉めながらそう言い放った。戸の外からは「何故女鬼じゃないの!」、女の苛立たし気な声が聞こえてきていた。以上が一か月前のことだ。
「大丈夫かい?明君」
そういって心配そうに顔をしかめて声をかけてきたのは南雲の長・南雲喜一郎だ。南雲家には子供がいないらしい。そのせいか喜一郎さんは俺を本当の子供のように可愛がってくれるし、里のみんなは俺のことを憐れんでよくお菓子をくれたりするので、これと言って辛いことはない。
『大丈夫だよ、心配しないで』
「・・・実は、家内は昔君のお父さんのことを好いていてね、何度も恋文を送っていたりしたんだけど、君のお父さんとお母さんが一緒になって、南雲ここにきたんだ。明君はお母さんにとても良く似ているから、あの頃のことを思い出して、君に意地悪をしているのだろうね。明君お願いだ、彼女を嫌わないでやってくれないかな」
『・・・・・・いくら似てるからって、意地悪されてるのはいやだけど。喜一郎さんの頼みだも』
嫌わないよ。そういうと、喜一郎さんは笑って「ありがとう」と言った。
「あんた!なにしてんだい!」遠くから自信を呼ぶ声が聞こえ喜一郎さんは俺に
「大変だけど、頑張ってね」
声が聞こえた方へと走っていった。
『じゃ、頑張りましょうかねえ』
桶二つをしっかり持って、俺は水を極力こぼさぬよう気を付けながら歩き出した。
(しかし、母と婆が三角関係だったとは)
若干驚きつつも少し納得した。望んでいた女鬼でなかったうえに、嫌いな母の子であると同時にかつて好いていた相手の子。嫌いたい気持ちと可愛がりたい気持ちが反発しあって、俺に意地悪をしているのか。原作の南雲薫はとてもひどい扱いを受けていたが、俺は働かされてはいるもののご飯や着るものをきちんと与えられているし暴力を加えられたことはない。これは俺というイレギュラーによって原作と変わってしまったのだろうと考えている。これはこれで俺はありがたく思っている。本来の原作通りであれば俺は耐えられる気がしないからだ。
(・・・千鶴にあいたいな)
里内を走りまわっている子らをみながら、ぽっかり空いた心にふたをして、本日の仕事を終わらせるために歩みを速めた。
誰も起きていない、寝静まった夜、長州の軍勢は家々に火をつけた。熱さと焦げ臭さに目が覚めた住民は家族を急いで起こして家の外へでる。――その住民を長州の兵が銃弾で命を絶つ。実に単純で残酷な戦術だ。混乱しているときに親しい者を失えば、脳が混乱に混乱を極め行動が止まるか遅くなる。そこを突いてまた命が絶たれる。
お父様とお母様は俺と千鶴をを逃がすために囮になってくれたおかげで、家の裏から出ることができた。俺は大通連を、千鶴は小通連を抱えて燃えさかる里を走る。視界に逃げ惑う里の者たちが視界に入る。助けたいと思っているが、今は自分のことで精いっぱいで助けることはできない。こときれた骸のそばを走り去るたびに無力さを痛感させられて、悔しくて下唇をかみしめる。
無事に里を抜けられることができたが、油断はできない。背後から兵が迫ってきている。
「あっ」後ろから驚いた声が聞こえて、千鶴とつないでいた手が離れる。振り向くと千鶴が転げ落ちてしまっていた。そばに行こうとしたところ、追手が迫ってきている。
『くそっ』
悪態をついて、千鶴の逃げる後姿をみて下山して合流することにした俺は、なるべく千鶴が落ちたところから近い獣道を選んで道を下る。兵との距離を確認する為に振り向くと、暗闇の中で輝く松明がいい目印になってくれているので兵たちがだいたいどこにいるのかが分かった。兵との距離は近く、三メートルほどしか離れていない。森に逃げられてことで大丈夫だろうと高をくくっていたいたのが悪いのだろう。このままでは捕まってしまう。
(そろそろ全力をだしたほうがよさそうだ)
前に出した足に力を込めた瞬間、横からすごい速さで捕まえられた。俺を捕まえた人物は速度を緩めずそのままあの場から走り去る。その速さはとても凄まじく、肩に担がれている俺に風圧や走っているときの上下運動が腹にめり込んで息がしづらい。
『このっ、放せよ!俺は千鶴とのところに行かなきゃいけないんだよ』
バタバタと暴れてみても、相手が放す気配はない。原作では薫は土佐の南雲家に連れていかれた筈、となると今俺を抱えている相手は南雲の鬼。暴れるのを止めて、身をまかせる。
(千鶴は鋼道と原作通り出会えただろうか)
自分という
* * * * *
「んしょ、よっこいしょ」
小さな体をめいっぱいつかって井戸から水をくみ上げる。井戸からくみ上げた水を足元に置いていた二つのうちの一つの桶に入れて、もう一つの桶を水で満たすためにまた井戸に釣瓶つるべを落として水くみ上げる。
――あの日から一月が経った。あの夜俺を連れ去ったのは予想通り南雲家の者で、南雲の長の妻は俺が男だと知ると俺を連れてきた者を叱りつけ、南雲邸横にある離れに俺を投げ入れ「あんたにはこれからうんと、働いてもらうからねっ!」ぴしゃり戸を閉めながらそう言い放った。戸の外からは「何故女鬼じゃないの!」、女の苛立たし気な声が聞こえてきていた。以上が一か月前のことだ。
「大丈夫かい?明君」
そういって心配そうに顔をしかめて声をかけてきたのは南雲の長・南雲喜一郎だ。南雲家には子供がいないらしい。そのせいか喜一郎さんは俺を本当の子供のように可愛がってくれるし、里のみんなは俺のことを憐れんでよくお菓子をくれたりするので、これと言って辛いことはない。
『大丈夫だよ、心配しないで』
「・・・実は、家内は昔君のお父さんのことを好いていてね、何度も恋文を送っていたりしたんだけど、君のお父さんとお母さんが一緒になって、南雲ここにきたんだ。明君はお母さんにとても良く似ているから、あの頃のことを思い出して、君に意地悪をしているのだろうね。明君お願いだ、彼女を嫌わないでやってくれないかな」
『・・・・・・いくら似てるからって、意地悪されてるのはいやだけど。喜一郎さんの頼みだも』
嫌わないよ。そういうと、喜一郎さんは笑って「ありがとう」と言った。
「あんた!なにしてんだい!」遠くから自信を呼ぶ声が聞こえ喜一郎さんは俺に
「大変だけど、頑張ってね」
声が聞こえた方へと走っていった。
『じゃ、頑張りましょうかねえ』
桶二つをしっかり持って、俺は水を極力こぼさぬよう気を付けながら歩き出した。
(しかし、母と婆が三角関係だったとは)
若干驚きつつも少し納得した。望んでいた女鬼でなかったうえに、嫌いな母の子であると同時にかつて好いていた相手の子。嫌いたい気持ちと可愛がりたい気持ちが反発しあって、俺に意地悪をしているのか。原作の南雲薫はとてもひどい扱いを受けていたが、俺は働かされてはいるもののご飯や着るものをきちんと与えられているし暴力を加えられたことはない。これは俺というイレギュラーによって原作と変わってしまったのだろうと考えている。これはこれで俺はありがたく思っている。本来の原作通りであれば俺は耐えられる気がしないからだ。
(・・・千鶴にあいたいな)
里内を走りまわっている子らをみながら、ぽっかり空いた心にふたをして、本日の仕事を終わらせるために歩みを速めた。
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