Clear a Stage
◇ ジェイド視点
強く目を瞑るジャックを前にジェイドも心臓が大忙しだった。まさか条件が変更するとは予想していなかった。しかも、さらに過激になった。魔法の部屋に感謝するべきなのか。よけいなことを、と苛立ちをぶつければいいいのか。
でも、大義名分のもとキスができるとなるとジェイドの男心は賑わう。それにジャックがここまで身を任せてくれるならば男としてやるしかないし、好感度を上げるまたとないチャンスだ。
ギュッと両目を閉じるジャックの姿は一回目のときと同じだった。深いキスをするというのにまた唇が真っ直ぐ閉じられている。初心な状態に戻ったジャックに微笑ましい気持ちが込み上げる。とはいえ――。
「ジャックくん、口開けて」
「ぁ、すんません」
ジャックは従順に唇を僅かに開く。唇の隙間からは鋭く尖った犬歯が見えた。自分とはまた違う鋭い歯は獣人属特有のもの。その歯を擽ったらどうなるのか想像しながらもまだその時ではないことを戒める。
ドキドキと煩い鼓動のまま自分の唇も僅かに開いて唇を重ねた。
「んっ」
鼻にかかる声と同時にジェイドの肩は大きな手が掴まれる。ぐっと押され唇がずれる感じがしてジェイドは咄嗟に顎を掴み固定し、腰に腕を回して逃げないように抑え込む。すると、ぶわっと膨れた尻尾が当った気がした。途端、身体の強張りが強くなり。
――ジャックくんっ。
深く重なる唇に羞恥心か、パニックかぐいぐい肩を押してくる。これでは我を忘れたジャックに殴られかねない。ジェイドは唇を離れ身体を離す。すると、ジャックはいきなり終わったキスに体勢が整えられなかったのかベッドに上体を横に倒しかける。
「はっ、ぁっはっ」
顔を真っ赤にして息を乱すジャックにジェイドは知らず喉が鳴る。やばいと思って咄嗟に喉を抑えながら彼が落ち着くのを待つ。それから暫くジャックの息が整ったのを見計らって声をかける。
「平気ですか?」
「……っす」
満月のように美しい金色の瞳が涙で潤んでいる。それにまた心擽られ喉が鳴りそうになるが何とか堪えて先輩然とした態度を取る。
「怖かったですか?」
羞恥心より恋人でもない男との深いキスが怖かったのかもしれない。冷静になった思考回路で訊ねればジャックが小さな子どもみたいに頭を左右に振った。
「やっぱ、その、はずかしくて」
「そうですか」
優しく、優しく、甘い蜜を与えるようにジェイドは動揺しているジャックに声をかける。すると、それが利いているのかジャックが落ち着いく。
「どうします? しないと出られませんが――ジャックくんからできそうですか」
「ッ!」
バッと勢いよくジャックがジェイドを見てへたと耳を下げる。これはダメと言っていないのに言っているのと同じだ。あまりの可愛らしさに頬が緩みそうになるのを何とか耐える。もうずっと耐えてばっかりだ。
「では、ここからは僕からしましょう」
「……すんません」
いつもの凛々しい偉丈夫なのにすっかり可愛い仔犬になってしまった。情けないと思っていそうだがこれはこれでジェイドからすれば眼福である。そして、ほんの少し悪戯心が騒ぎ――仕掛けてみることにした。
「では、準備をしましょう」
ジェイドはそう言ってジャケットを脱いだ。そして、皺にならないように封筒が置いてあったテーブルにいつの間にか現れた番いの椅子に魔法でかける。
その間にもジャックは「な、ど」と言葉にならない声を発する。そんな動揺する彼を横目にジェイドは皮手袋を外しサイドチェストの上に置き、ピアスを外し同じくサイドチェストにご丁寧に置かれているアクセサリートレイに入れる。
「ジャックくんもジェケット脱いだ方がいいですよ」
「な、なんで?」
狼狽するジャックを尻目にネクタイを緩めて第一釦を開ける。それから悪戯を仕掛けるためのもっともらしい説明をする。
「ベッドで横になった方が楽でしょう」
「な、なんで横になるんすか!」
「その方が楽かと思いまして」
ジャックはジェイドの言葉を頭の中で整理するように黙り込む。尻尾が不安に揺れている気がするがこの状況でジャックは断わるとは思わなかった。
「さっきの体勢だとジャックくんの身体がびっくりして逃げてしまうと思うんです。それで不成立になってはいけませんから」
「不成立――あ! さっきのは成立してんすか!」
そういえば、とジェイドはジャケットのポケットからカードを召喚する。手のひらにひらりと現れたカードを見てジェイドは内心で薄く微笑みながら表の顔では残念らしく眉を下げる。器用に感情表現をしながらカードをジャックに手渡す。
「はい。どうぞ」
「っす……あ、へ、減ってない」
回数が減っていない。ジャックが青ざめるのを見ながらカードをするりと抜きとる。そして、恐る恐る見て来る彼に優しく微笑みかける。
「さて、合格ラインがまだ分かりませんから探りながら続きをしましょう」
瞬間、もしかしたら自分は最低な男に見えたかもしれない。だが、嘘は何ひとつ言っていない。ジェイドは「さぁ」と促しながら微笑んだ。
強く目を瞑るジャックを前にジェイドも心臓が大忙しだった。まさか条件が変更するとは予想していなかった。しかも、さらに過激になった。魔法の部屋に感謝するべきなのか。よけいなことを、と苛立ちをぶつければいいいのか。
でも、大義名分のもとキスができるとなるとジェイドの男心は賑わう。それにジャックがここまで身を任せてくれるならば男としてやるしかないし、好感度を上げるまたとないチャンスだ。
ギュッと両目を閉じるジャックの姿は一回目のときと同じだった。深いキスをするというのにまた唇が真っ直ぐ閉じられている。初心な状態に戻ったジャックに微笑ましい気持ちが込み上げる。とはいえ――。
「ジャックくん、口開けて」
「ぁ、すんません」
ジャックは従順に唇を僅かに開く。唇の隙間からは鋭く尖った犬歯が見えた。自分とはまた違う鋭い歯は獣人属特有のもの。その歯を擽ったらどうなるのか想像しながらもまだその時ではないことを戒める。
ドキドキと煩い鼓動のまま自分の唇も僅かに開いて唇を重ねた。
「んっ」
鼻にかかる声と同時にジェイドの肩は大きな手が掴まれる。ぐっと押され唇がずれる感じがしてジェイドは咄嗟に顎を掴み固定し、腰に腕を回して逃げないように抑え込む。すると、ぶわっと膨れた尻尾が当った気がした。途端、身体の強張りが強くなり。
――ジャックくんっ。
深く重なる唇に羞恥心か、パニックかぐいぐい肩を押してくる。これでは我を忘れたジャックに殴られかねない。ジェイドは唇を離れ身体を離す。すると、ジャックはいきなり終わったキスに体勢が整えられなかったのかベッドに上体を横に倒しかける。
「はっ、ぁっはっ」
顔を真っ赤にして息を乱すジャックにジェイドは知らず喉が鳴る。やばいと思って咄嗟に喉を抑えながら彼が落ち着くのを待つ。それから暫くジャックの息が整ったのを見計らって声をかける。
「平気ですか?」
「……っす」
満月のように美しい金色の瞳が涙で潤んでいる。それにまた心擽られ喉が鳴りそうになるが何とか堪えて先輩然とした態度を取る。
「怖かったですか?」
羞恥心より恋人でもない男との深いキスが怖かったのかもしれない。冷静になった思考回路で訊ねればジャックが小さな子どもみたいに頭を左右に振った。
「やっぱ、その、はずかしくて」
「そうですか」
優しく、優しく、甘い蜜を与えるようにジェイドは動揺しているジャックに声をかける。すると、それが利いているのかジャックが落ち着いく。
「どうします? しないと出られませんが――ジャックくんからできそうですか」
「ッ!」
バッと勢いよくジャックがジェイドを見てへたと耳を下げる。これはダメと言っていないのに言っているのと同じだ。あまりの可愛らしさに頬が緩みそうになるのを何とか耐える。もうずっと耐えてばっかりだ。
「では、ここからは僕からしましょう」
「……すんません」
いつもの凛々しい偉丈夫なのにすっかり可愛い仔犬になってしまった。情けないと思っていそうだがこれはこれでジェイドからすれば眼福である。そして、ほんの少し悪戯心が騒ぎ――仕掛けてみることにした。
「では、準備をしましょう」
ジェイドはそう言ってジャケットを脱いだ。そして、皺にならないように封筒が置いてあったテーブルにいつの間にか現れた番いの椅子に魔法でかける。
その間にもジャックは「な、ど」と言葉にならない声を発する。そんな動揺する彼を横目にジェイドは皮手袋を外しサイドチェストの上に置き、ピアスを外し同じくサイドチェストにご丁寧に置かれているアクセサリートレイに入れる。
「ジャックくんもジェケット脱いだ方がいいですよ」
「な、なんで?」
狼狽するジャックを尻目にネクタイを緩めて第一釦を開ける。それから悪戯を仕掛けるためのもっともらしい説明をする。
「ベッドで横になった方が楽でしょう」
「な、なんで横になるんすか!」
「その方が楽かと思いまして」
ジャックはジェイドの言葉を頭の中で整理するように黙り込む。尻尾が不安に揺れている気がするがこの状況でジャックは断わるとは思わなかった。
「さっきの体勢だとジャックくんの身体がびっくりして逃げてしまうと思うんです。それで不成立になってはいけませんから」
「不成立――あ! さっきのは成立してんすか!」
そういえば、とジェイドはジャケットのポケットからカードを召喚する。手のひらにひらりと現れたカードを見てジェイドは内心で薄く微笑みながら表の顔では残念らしく眉を下げる。器用に感情表現をしながらカードをジャックに手渡す。
「はい。どうぞ」
「っす……あ、へ、減ってない」
回数が減っていない。ジャックが青ざめるのを見ながらカードをするりと抜きとる。そして、恐る恐る見て来る彼に優しく微笑みかける。
「さて、合格ラインがまだ分かりませんから探りながら続きをしましょう」
瞬間、もしかしたら自分は最低な男に見えたかもしれない。だが、嘘は何ひとつ言っていない。ジェイドは「さぁ」と促しながら微笑んだ。