Clear a Stage

◆ ジャック視点


 唇に柔らかいものが触れた。ビクッと情けなく身体が跳ねる。尻尾がブワッと膨らんだ気がした。情けない。ダサい。たかがキスだろうに、と脳内で自寮長に言われた気がした。けれど、ジャックにとってはたかがキスではない。キスは大切なのだ。
 固まっているうちに柔らかいものが離れていく。詰めていた息を細く吐き出して情けなく瞑っていた両目を開く、とジェイドが離れて立っていた。その手には例のカードがあった。

「せんぱ、」
「ジャックくん、見てください」
「ぁ、はい」

 差し出されたカードを反射的に受け取って見る。すると、書かれていた数字が減っていた。十回となっていた数字が九回と減っている。

「どうやらキスをするとちゃんとカウントしてくれるようですね」
「ありがてぇ機能とは思えねぇっすけど」
「ふふ。そうですね」

 何とか先ほどの張り詰めた空気がなくなったことに安心するが完全に安心はできない。だって、まだ一回しかしていない。これから残り九回する。あの緊張がまだ九回。九回もなんて正気でいられるかどうか。気絶したい。

「さて、カウントはしてくれるということですしサッサと終わらせますか」
「あんたすげぇ前向きっすね」
「腹を括りしましたからね」

 「ジャックくんもでしょう」と首を傾けるとピアスの音が鳴る。その涼やかな音は好きだ。また少し熱が冷めた気がした。
 そうだ。自分もジェイドと同じく腹を括ったのだ。いちいち仔犬のように震えているわけにはいられない。

「つ、次は俺からします」
「おや。ジャックくんからですか?」

 意外そうに目を見開き瞬くジェイド。どうやら先ほどのジャックのビビり具合をしっかり見られていたようだ。そうだろうな。

「先輩ばっかりその任せるのはと思ってよ……」
「これはこれは随分と先輩想いで」

 感動した泣き真似をするジェイドに若干イラつきながら「やります」と断言した。
 ジャックの力強い断言に泣き真似をやめたジェイドが面白そうに笑みを描く。そういうときの笑い方はやっぱり苦手だ。というか、やめてほしい。イラついた心にぐぅと唸りそうになるのをなんとか堪えて今度は自分からジェイドに近づく。

 ――さ、さっきの先輩みたいにすればいいのか?

 大分スマートだった。それを経験なしの自分ができるのか。そっと顎を支えてキスとか想像してちょっと吐きたくなった。無理だ。

「ジャックくん。一応聞きますが平気ですか」
「……ッ! へ、平気っす!」

 今日は本当に珍しくジェイドが心配してくれるし――困惑してくれる。何だか意外な一面だ。とはいえ、流石に悪徳三人組の一人とはいえこれ以上迷惑をかけたくない。

「がんばるっす」
「……無理なさらないように」

 本気の心配顔になったジェイドに恥ずかしくなる。もうやけくそだと「目を閉じてくれると助かります!」と空回り気味に言う。ジェイドは文句なく「はい」と言って切れ長の目を閉じてくれた。その顔の綺麗さに見惚れてすぐに顔を左右に振ってついでに頬を抓る。

 ――早く、早く、やるぞ!

 っし、と気合を入れて恐る恐るジェイドの頬に手をのばしてジャックは顔を寄せた。


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