Clear a Stage

◇ ジェイド視点


 いきなり元気いっぱいに声を上げて尻尾を振る後輩にジェイドは心配になった。

 ――あまりにもチョロ過ぎませんか。

 大人になったときに悪い人に騙されないか心配になる。でも、そのとき自分が隣にいる予定だから大丈夫だろうし、大人になるまでにしっかり躾ければいい。まずは変な人について行かない、とか教えた方がいいだろう。
 ジェイドはジャックのことを憎からず想っている。いや、想っているなんてきっと優しい言葉では表せないほどには深く重い感情を抱いている。まさか自分がこのような人を好きになるとは全く持って想像もしていなかった。その想像を越えた相手を好きになったことは面白いが――いかんせん初めて人を好きになる相手としては攻略が難しい人だった。攻略しがいはあるがどうしようとあぐねていたときにこの部屋だ。

 ――まさか本当に条件を満たさないと出られない部屋があるとは。

 噂には聞いていた。閉じ込められる部屋。一人で閉じ込められる場合もあれば数人で閉じ込められる時もある。そういう場合はふざけた内容で結構すぐに出られると言う。ただ、二人きりで閉じ込められた場合が厄介なのだ。
 ここからはジャックにも話していないが閉じ込められた人数が二人のときは恋人として成立しそうな関係であると噂されている。または可能性があるとか、片方が強い想いを抱いているとか。
 ジェイドがジャックと一緒に閉じ込められたのはそういう意味なのだろう。そして、二人を恋人として成立させるために今回のような過激な条件を提示する。ただ、この条件を越えた二人の多くは恋人になると言う。
 他人の魔法にお膳立てされたのは癪だがこの機会いを逃すつもりはない。意気込んでジャックがやる気に満ちてくれたのだ。使わない手はない。

「ジャックくん、経験は?」
「なッ! ないに決まってんだろ!」

 健康的に日焼けした褐色の肌が目に見えて赤くなる。わ分かりやすく照れるジャック。そうかキスの経験はない。つまり、ファーストキスということになるのか。気分が俄然上がる。

「僕もです」
「うっ、なんか、そ、れは、なんか、すんません」
「謝ることではありません」

 耳がぺたっと伏せて尻尾の元気がなくなる。獣人属の卑怯な仕草というか心擽る仕草。とはいっても、ジェイドが可愛いなって思う仕草は彼だけなのだが。
 分かりやすく気を落とすジャックに歩み寄る。

「ジャックくん。初めて同士です。気楽にいきましょう」
「き、気楽ってなぁ」

 未だに緊張した面持ちのジャックに微笑みかける。すると、少し強張った肩の力が抜けたのが見えた。一歳しか違わないのにどうも幼く見えるのは不思議だ。学園の外に出てしまえば一歳など変わらないというのに。

「時間も惜しいですし、そろそろ」

 「キスしましょう」と続けて言えばあからさまにジャックの視線が泳ぐ。それにすぐに気づいたのかギュッと両目を強く瞑った。
 これは、これは、とジェイドは知らずリード権を握っていたようだ。というか、ジャックは無意識に先輩で年上のジェイドからと考えているようだ。経験がないことをからかっていなかったからだろうか。とりあえず自然と握らせてもらったリード権を離さないようにしっかりと掴み直す。これで彼はもう逃げられない。
 見られていないことをいいことに薄ら笑いながらジャックの顎に触れる。

「……失礼しますね、ジャックくん」

 ふるふる哀れに震えている狼にウツボが噛みついた。

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