これから末永くよろしくお願いします

これから末永くよろしくお願いします・3



 放課後。ジャックはジェイドに言われた通りにモストロ・ラウンジに向かった。そこでアズールが満面の笑みで出迎えたので後悔が募ったが男に二言はなし。
 通された部屋が嫌な思い出しかないVIPルームだった。そこにはアズール以外に言った通りジェイドがいた。何だか闇金融に来た気分になりながらジャックは提示された労働条件や雇用内容を聞き最後に契約書を渡された。その契約書を隅から隅まで読んでからサインをした。
 アズールが「早速今日からお願いします」と言われてジャックは渡されたエプロンを片手に厨房に向かったのだが――。

「先輩が教えてくれんすか」
「はい。もしかして僕ではお嫌でしたか?」

 悲し気に眉を下げる相手にジャックは正直に「意外だった」と答える。すると、ジェイドは驚いたように目を丸くして「意外とは」と返して来た。

「あんた副寮長で忙しいだろ。なのに新人の教育係になるとは思えなくて」
「おや。僕はアズールほど忙しくありませんよ。でも、心配していただきありがとうございます」

 何だか普段の胡散臭さもなく純粋に嬉しそうな笑みを浮かべるジェイド。といっても付き合いの希薄で学年の違う彼の普段を知らないため分からないが。
 意外な一面を見たなと思いながら用意された野菜を見る。

「なんかいきなりハードルが高そうだな」
「そんなことありませんよ。失敗しても活用できるようにまかないを作ろうと思います」
「は? いきなり作るのか?」

 まかないは仕事終わりの楽しみだ。それを新人かつ初心者が補佐ありきとはいえ作っていいものか。あまりにも高いハードルに流石のジャックも尻込みする。

「そう身構えないでください。ほぼ僕が作ります。それならジャックくんは野菜を切るだけで済みますしね」
「けど、」
「平気ですから、ね」

 まるで宥めるような優しい声。今まで聞いたことのないジェイドの声に宥められて恥ずかしくなる。それにこの何だか調子が狂うくらい優しいときに妥協しておいた方がいい。機嫌を損ねたときが得たいが知れないし。

「じゃ、お願いします」
「はい。じゃ、始めましょう」

 こうしてジャックの料理修行が始まった。



「ジャックくんはやっぱり器用ですね」
「そうっすか?」

 初日が終わりジャックは普段使わない部分を使ったせいか身体が少し疲れていた。あと、仕事が終わった人たちのためのまかないでもあったせいか神経もすり減らした気がする。疲れたなと思いながら教育係であったジェイドの評価に耳を傾ける。
 ジェイドは真剣な顔で「皮の薄さはもう少しですが」「切り方は均等に」と次々とアドバイスをしてくれる。意外にちゃんと面倒を見てくれている。

「次のときまでに練習しておいてくださいね」
「はい」

 指摘されたことを頭の中で反芻しながら「次は誰なんすか」と訊ねる。たぶん、初日だけジェイドが見てくれたのだろう。そう思いながら訊ねればジェイドが目を瞬かせた。

「次、とは?」
「いや。流石に毎回あんたじゃねぇだろ?」

 誰かに引き継いでイヤだけどもしかしたらフロイドかもしれない。他にも厨房経験の長い生徒とか、教えるのが上手い生徒とか。持ち回りのローテンションかもしれない。なら、毎回教え方も変わるかもしれない。そう身構えていた方がいいだろうと思ったのだが。彼の様子を見るにどうやら違うようだ。

「まさか、毎回あんたなのか?」
「僕じゃ嫌なんですか?」

 悲し気に瞼を伏せるジェイドにジャックは焦る気持ちが芽生える。どうやら本当にジャックが独り立ちするまで面倒を見てくれるらしい。これはものにできなかったときに嫌味を言われかねないし、ジャックのプライドを傷つけられる可能性が高い。改めて気合を入れなければ。

「教え方も丁寧だったんでイヤじゃねぇっす。あの、じゃ、次もよろしくお願いします」
「はい。次も楽しみにしていますよ」

 ケロっと表情を変えたジェイドにジャックはしてやられたような気分になる。これを毎度耐えなければいけないのか。それでもジャックは一人のときよりもやりがいが芽生えていた。



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