お前には一切関係ない

◆ ジャック視点



「へぇ。この綺麗な人がジャックの恋人なのか」
「はい。僕がジャックくんの恋人です」

 どうしてこうなったのか。ジャックは目の前でバチバチと火花を散らす男たちに居心地が悪かった。いや、もっと細かく話すと目の前の男たちのやり取りよりも周りの好奇の視線で居心地が悪かった。なにせここは警備会社の入るビルのロビー。このビルにはいくつもの会社が入っている。しかも早番のジャックの退勤時間は他の会社の退勤時間とも重なる。

 ――い、胃がいてぇ。

 これから頑張って男の対処をするぞというときにやって来たひとつのメッセージ。恋人のジェイドからの何でもお見通しというメッセージ。そして、今日迎えに行くというのでそれは嬉しいけれど結局こうなってしまったので胃が痛い。

「へぇ。タッパはあるけど随分細身だな」
「そうですね。ジャックっくんとも身長はそう変わりませんがいやはや筋肉がつかないもので」
「ふぅん。でも、あんたがジャックの恋人かぁ」

 男が明らかに納得言っていませんと言う顔をするとこっちを向いた。そして、男にしては珍しく小声で――。

「お前は抱く側よりも抱かれる側の方が似合っていると思うぜ」

 デリケートすぎる話題にジャックは思わず目を見開く。いや、そもそも抱く側じゃねぇしと思いながらもこういう話は公衆の面前で話す内容ではない。すぐに眉を顰めて「そういう話す場所じゃねぇだろ」と苦言を返す。けど、男は「仕方ねぇだろ今は」というとまたジェイドを見据える。

「あんたのお綺麗な顔なら他にもいい奴はいくらでもいんだろ? 他の相手探してジャックくれねぇか?」

 「は」と怒りの息が零れついでにこめかみに青筋が浮く感じがした。この男は恋人というものを何だと思っているのか。そもそも恋人同士だからといって肉体関係がない間柄だってある。ジャックは一気にこの男の元から低かった好感度がなくなった。これはもう会社に訴えてもいいよな。いいだろ。
 ぜってぇ明日になったら上司に相談する。そう決めたときだったジェイドが「ふふ」と声を出して笑った。見て見ればすぅっと尖った牙を見せながら哂っていた。

「他にいる? 譲れ? はは、最低な考えですね。そこらの魚と雌とあらば発情する雄とかわらないじゃないですか」

 あ、これはヤバイとジャックは思わず耳を伏せる。この人切れている。男が地雷を踏み抜いていることは承知していたが想像以上に切れている。

「あなたは〝穴〟があれば誰でもいいでしょう」

 哀れな、と眉を下げて愉快そうに笑っているのにオッドアイは侮蔑の色が現れている。男もジェイドの言葉に煽られているのか「男だからな」と答える。

「おや。その言い草は誠実な男性に失礼です。もちろん、ジャックくんにも、僕にも」
「はは。でも、そういうことは誰だって考えるだろ?」

 「なぁ」と男がジャックに水を向けて来る。ジャックは溜息をついて頭を左右に振る。

「知らねぇよ」
「まぁ、お前はそうだな。って、そういう話じゃねぇだろ」
「ああ。そうでしたね」

 言うなりジェイドが鞄からタブレットを取り出してとんでもないいい笑顔をした。けれどオッドアイはやっぱり笑ってない。

「貴方のこと少々調べさせてもらいまして、ね」

 きっと仕事している最中もこういう顔をするときがあるんだろう。ジャックはそう思いながらスライドショーを男に見せるジェイドを見て思った。
 さて、男の反応を見てみると――真っ青だった。

 ――人間ってあそこまで青くなんのかよ。つか、何かやらかしてるパターンだったのか。

 やべぇ奴だと思ったがマジでやべぇ奴だったのか。危なかった。
 一通りスライドショーが終わったのか男が「ど、どうして」とタブレットに手を伸ばす。だが、それを颯爽と避けて「何が」とジェイドが小首を傾げる。

「ちゃんと消したはずだし、」
「ふふ。最近はちゃんと消さないと消えないんですよ」

 「困りますよね」と眉を下げるけど全然困っている感じがない。流石オクタヴィネル寮の副寮長を務めた男と称賛を送りながら敵にしたくないと改めて思った。

「さて、これ以上晒されることがなければ――ね」

 何て思い「ね」だろうか。ジャックは結局何もできなかった無力感を噛みしめつつむ明日上司に言おうと心に決めたのだった。


 ジャックが上司に進言したことにより男はあっさりと元の支社へと戻って行った。そして、風の噂で男はその後すぐに退社したという。けれど、それはジャックには関係のない話だった。



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