ジェイド × ジャック

美しい手に口づけのおねだり



 副寮長の特権のひとつで一人部屋のジェイド。その一人部屋にジェイドは恋人のジャックを連れ込んでいる。モストロ・ラウンジも今日は休み。お互いの予定もなく放課後から久々に恋人同士の時間を満喫している。

 ベッドに座るジェイドの前でジャックは膝をついていた。あのプライドの高いジャックが、だ。最近では悪態をつくことの増えたジェイドの前で騎士のようにかしずき皮の手袋を取ったジェイドの手を取っている。
 とはいえ、それは忠誠を誓った騎士のような清廉な儀式な様なものではない。ジャックはどうやらジェイドの手、特に素手が好きなようだ。

 今のような恋人の時間になるとあの蜜色のおいしそうな瞳で物欲しげに見つめてくるのだ。最初はどうして欲しいのかとからかって遊んだが今はそんなことしていない。ただ、彼の求めるように手を差し出してやっている。

 それを彼はあの鋭い瞳を僅かに下げて嬉しそうにして取るのだ。それがどうにも可愛らしくて嵌ってしまった。
 今もジャックはジェイドの手を恭しい仕草で手にして指先に口づけている。それからあの厚い舌先をチラリと覗かせて指先を撫でる。

 ぬるりと熱い感触にゾクリと得も言えぬモンが走る。ちらりとあの蜜色のおいしそうな瞳がさらにおいしそうな瞳で見て来る。窺うような瞳に瞳で微笑み返せば逸らされてしまった。可愛らしいのに勿体ない、と思いながらジェイドは彼の好きにさせる。

 それにしても何故彼はここまでジェイドの素手を好むのか。考えて見ると、制服でも、寮服でもジェイドの素手は隠れている。唯一手袋に包まれていないのは運動着姿に、寝起きするとき、あとは彼と秘め事をするときくらいだろうか。いや、他にも諸々考えれば手袋を外すタイミングはあるが意外に彼の前では少ないかもしれない。

「ジェイド先輩?」
「すいません。少しだけ考え事していました」

 途端にジャックの眉間に一本の皺が出来る。いつも難しい顔をしているのだから皺になってしまうと最近心配することだ。フロイドにお願いして例の美容液を作って贈ろうかとさえ考える始末だ。

「ジャックくん。眉間の皺が痕になっちゃいますよ」

 空いている方の手で眉間を擦ると逃げられてしまった。でも、ジェイドの手をしっかりと掴んでいるのを見ると何だか微笑ましくなってしまうというか可愛らしい。

「あんたがよそ見しなければいい話だろ」

 言って自分でも擦るジャックにジェイドは目を丸くさせる。

 何と、何と、そこまで言うようになりましたか。

 最近のツンケンした態度にも時折甘やかな情が混じるとは思っていた。けれど、ここまでほだされてくれているとは。いや、恋人にその言い方はない失礼かもしれない。失礼かもしれないが思わずにはいられない。何せ彼を懐かせることから恋情を抱かせて手に入れるまでの道のりは本当に遠かったのだから。ジェイドはジャックがここまでこの手に溺れてくれていると思うと感慨深いものがあるのだ。

 頑張って口説き落として飼い慣らしたかいがありますねぇ。

 これくらいの懐いてくれると嬉しさ唇が緩みそうになるのを堪える。それにジャックが気付いたのか先ほどの拗ねた顔のまま「あの何かあったんすか?」と訊ねる。
 ジェイドは何でもないように首を振る。

「いえいえ。本当に何でもありませんよ」
「そうっすか?」

 するりと彼の手から手を抜き取る。ジャックは「あ」と名残惜しげな声を出すと耳をしょんもりと伏せた。普段見ない幼げな姿のいじらしさといったら堪らない。
 思わず食べたくなるほどの可愛らしさに舌なめずりをして彼の耳に手を伸ばす。

「んっ」

 触れると小さく呻くが特に拒否の言葉はない。
 触り心地のいいふわふわした耳。その耳の付け根に触れるとぴくぴくと動いて楽しくて心が躍る。そして、楽しくなって耳の反応を窺うように掻いていると舌の方から小さく喘ぐ声が聞こえる。

「んっ、ぁっ、ジェ、イドせんぱい」
「はい。何ですか」

 少し熱っぽい彼の呼び方に劣情が駆られる。僅かに上がる息を堪えるようにでも彼の劣情も煽るように熱っぽく答える。
 ピクンッと大きく跳ねた耳はふにゃりと伏せられた。

 あ、落ちましたね。

 ジェイドは耳に触れたまま下にあるジャックの顔を見る。同じように蜜のおいしそうな瞳がこちらを物欲しげに見つめていた。
 その瞳にジェイドは答えるように耳に触れていない手、先ほどかれに渡した手を向ける。
 未だに濡れた指先を向けるとジャックがその手を取って口元に持っていく。

 彼は、ちゅっと可愛らしいリップ音を鳴らして指先に口づけをした。何が楽しいのか分からないけれどそれから何度もジェイドの指に口づけを落としていく。それが満足すると今度はジェイドの指を口に入れて舌を這わせ出す。
 クチュクチュという水音にジェイドの耳が犯される。こちらからも熱の吐息を零すと彼は舐めるのをやめてなんと口をすぼめて吸った。

「っ」

 思わず声が漏れそうになるのを堪える。でも、獣人属の彼の耳にはジェイドの漏らした声もしっかりと届いたのか愉しげに瞳で笑っている。

 おやおや。まったく誰に教わったんですかね。

 普段の真面目然とした彼を知っている者たちが見たらどんな反応をするだろうか。生憎この淫らに誘うジャックを知ることが出来るのはジェイドだけだ。

「はぁ。ジャックくん」
「んぅ」

 ぬるりとした肉厚な舌から指を引き抜くと厭らしい声が漏れた。それにやはり欲情する自分も相当のものだ。でも、嫌ではない。
 指はジャックの唾液でぬらぬら光っている。その指とジャックを交互に見ればジャックの瞳はさらに甘く艶めいていく。

 知らずに笑いが込み上げて空いている手でジャックの襟を掴んでこちらに引き寄せる。彼は驚くことなくジェイドの身体に腕を回して縋るような体勢を取る。ジャックのふさふさの尻尾がゆらゆら揺れている。

「ふっ。随分と可愛いヒトになりましたね」

 ジャックがそれに反論する前に先ほどまで自分の指をくわえていた唇にキスを贈る。すると待っていましたとばかりにジャックから唇に吸いついて来た。
 可愛らしい恋人のジャック行動に応えるように口を開いて上げる。同じように口を開いてこちらに舌を突っ込んでこようとするジャック。

 流石にそこまでは駄目ですよ。

 ジェイドはジャックよりも早く彼の口に舌を挿しこんだ。ジャックから呻く様な声を聞こえるがすぐにそれは消えて鼻に抜ける様な甘さを含んだ声になる。

 暫くそうキスをしてジェイドはぬるりと自分の長い舌を抜く。ツゥっと二人の間に出来る透明な糸はすぐにプツリと途切れた。
 うっとりとしたいつもの厳しい眼つきが甘くとろけている。

 ああ。その瞳が食べてみたい。

 実際に食べることはできないのは分かっている。けれど、いつかその甘ったるそうな蜜色の飴玉を食べてみたいと思いながらもう一度濡れた唇に噛みついた。



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