完全無欠の包囲網
◆ ジャック視点
煙が充満する中、鼻がやられ鍛え上げられた聴覚を頼りに駆けていた。延焼する火を魔法で打ち消しながら逃げ惑う違法オークションの参加者たちの波と逆を行く。そいつらを捉えるのは外で待機している仲間でいい。ジャックはただ、ただ、ここに連れて来てしまったジェイドを探していた。
「クソッ、どこに行ったんだッッ!」
火事が起きる二時間ほど前。ジャックはジェイドと共にまずは美術品のオークション会場に入場した。普通にあっさりと通され肩透かしを食らうが怪しまれるよりましだ。
「で、どうすんか」
「少し待ってください」
ジェイドはスマホを取り出すと誰かに連絡を取った。その様子を見ながら辺りをそれとなく探る。探り方。これは警察官や魔法執行官などになると癖として顕著に出てしまう。傍から見て初めて参加する人間を予想ように見ることに努める。とはいって、ジャックの眼光は鋭いので普通にしていても探りをいているような風に見えてしまうけれど。
「バレますよ」
「うっ。やっぱりそういう風に見えるっすか?」
一般人から見てもやはりそうなのかとジェイドを見下ろす。スマホから視線をあげていたジェイドは眉を下げて「まぁ、そうですね」と珍しく歯切れの悪い返事だ。どうやらお得意のお世辞も言えぬほどらしい。やはりまだ鍛錬不足のようだ。
「ぐぅ。精進します」
「ふふ。頑張ってください……さて、すぐにチケットを確認する給仕係が通ります」
ボソと後半は囁くに言う。ジャックは用心棒よろしくジェイドの傍にいる。今回一応色々設定はしているがたぶんしなくてもいいだろう。
「やっぱりご主人様つった方がいいっすか」
「ぶはっ、ほんきにしたんですか」
珍しく吹き出すジェイドにジャックは少し不貞腐れたように「その方がらしいじゃないっすか」と切り返す。ジェイドは黒く染まった瞳をニヤニヤしながら「お好き」と言う。なら、言ってやると「ご主人様」と呼ぶとまた肩を震わせた。
「や、いいです」
「いや、もう呼ぶんで、ご主人様」
フンと鼻を鳴らしていると僅かに違和感の覚える給仕が近づく。パッとみ細身の男性に見えるがあれは女性だ。ウルフカットの女性がジェイドの前に立つと「どうぞ」とシャンパンを渡す。それをジェイドは「ありがとうございます」と受け取る。そして、女性はくるっと背を向けて去って行った。だが、暫し行った後で一瞬だけこちらを見た。
「どうやら確認が取れたようですね」
ジャックはすぐにジェイドの手首に揺れるブレスレットの色が変化しているのを見る。どうやら先ほどの動作が何かで変化したらしい。それともシャンパンを受け取るという動作だったのか魔法工学に明るくないジャックには分からない。
「さ、行きましょう」
「はい、ご主人様」
そう用心棒役になりきりながら答えるジャックにジェイドは肩を竦めたのだった。
給仕係に連れられて来た場所は表の会場よりも一層煌びやかだった。元来こうした場所は雰囲気づくりのために暗闇で行われることが多い。だのに、ここはシャンデリが散々と輝いていた。
「すっげぇ」
「ええ。相当力を力を入れているようですね」
会場に入る前に手渡された目元を覆う仮面をしながらジャックはジェイドに言う。ジェイドも目元を覆う仮面に揺れる飾りを触れながら答える。
ジャックはもう一度周囲を見回すとどことなく嗅いだことのある香りに眉を顰める。これはただの違法魔法道具のオークションではないようだ。
「臭いますか?」
「ああ。あんまり吸わない方がいい」
「ふふ。わかっています」
人魚でもあるジェイドも薬の匂いに気づいているのだろう。お互い嗅覚の利く者同士この場に長いは無用と考えているのだろう。この状況にジャックは己の読みの浅さに心の内で舌を打つ。やはり、こういうところでは違法薬も取引されているのだろう。いや、もしかしたらここに参加する者の嗜みなのかしれない。
「おい。勧められても何も口にするな」
「ご主人様に随分な口の利き方ですね」
「大丈夫です」とジェイドは付け足すが不安だ。ジャックは出来るだけの情報収集をするために動くことにした。
「すぐに戻ります。すんません」
「ええ。構いません。いってらっしゃい」
こちらに目もくれず言うジェイドに信頼感が込み上げてジャックは影に溶けるように姿を消した。その様子を会場にいる誰も気づかなかった――ただ一人を除いて。
ジャックは魔法を駆使しながら無事に〝バックヤード〟に潜入することに成功した。従業員に変化したまま歩くと違法魔法道具がどっさりと発見できた。それらの写真を撮影しながら同時に仲間に送信する。ついでに違法の魔法薬も撮影して送信していく。だが、ここら辺に〝頭〟になりそうな人間がいない。指揮している人間はきっとその部下だろうが――〝ドン〟がいない。
――そいつを逮捕してぇのに。クソッ、どこだ!
探すが見つからない。すると、填めた指輪から信号が出る。突入する合図が入る。突撃するということだ。それにジャックは意見しようと合図を送ろうとした時だった。
ドンッッッ!
嫌な音が響いた。ジャックはすぐに耳をそばたてるが奥に入り込み過ぎたのか何も聞こえない。ただ、すぐに身を隠して辺りを見ると従業員たちがバタバタと慌て出した。
「おい! 火災だ!」
「魔法道具の誤動作か?」
「違う! 魔法だ! 魔法!」
「はぁ?」
魔法による火災。これは厄介だ。魔法の火災は普通の水で消えないこともある。よって、世間的にも魔法による火災は魔法機動部隊に所属する魔法士の消防士が行う。つまり、このような場所で魔法による火災が起きたら大惨事だ。
「くそ! ありったけの魔法士を呼べ!」
「もう呼んだ!」
傍に居た従業員が駆けだすのを見て物影から出る。ジャックはこの事態に渋面を作る。まさかこのような事態になるとは。きっと今回のオークションは中止になるだろう。だが、この騒ぎに乗じて突入は出来るだろう。
ジャックは火災の様子を見に行くことにした。だが、ジャックが考える火災とは現場は全く異なっていた。
「なんだこれは」
従業員の姿を解いて戻る道を歩き出す。だが、その未知の最中従業員や参加者だろう人間たちが逃げ惑うように駆けだしていた。そして、その奥から轟轟と燃え盛る紅蓮の炎に黒煙。鼻を刺激する香りに鼻を覆いながら眉根を寄せる。
「おい! どうなってる!」
「うわぁっ! 止めるんじゃねぇ!」
「答えろッッッ!」
ガウッと吠えると男は怯えて「か、火事が」とだけ弱々しく答えた。だが、それ以上は状況を知らないらしくてジャックは苛立った様子で腕を離す。
「ッ、先輩っ!」
ジャックはすぐに会場に残したままのジェイドの安否確認へと向かった。本来ならお互いに連絡を取るための通信機を持っているが今は役に立たない。それほど今この会場が異常事態に包まれているということだ。ジャックは業火に燃える会場へと飛び込んだ。
煌びやかな会場は当たり一面魔法によってつくられた火の海となっていた。ジャックは鼻と口元を覆いながらマジカルペンを携え、スーツを魔法執行官の制服に変える。これで魔法の火から自分を守れる。すぐに魔法でマスクを着けて辺りを探す。
周りの人間は魔法執行官であるジャックを気にすることはなかった。いや、怯える暇もなくただ魔法執行官であるジャックに助けを求めた。ジャックは犯罪者である彼らに魔法で保護しながら一番保護するべき男を探した。
――どこだ、どこだ、ジェイド先輩はどこだッッ!
探しながらジャックはさらに火の手の上がる場所へと駆け寄ると二つの影があった。ひとつは背の高い男の影で、もうひとつは地面に倒れかけている女性の影。ジャックはそのひとつの影の名を呼んだ。
「ジェイド先輩?」
「はい。そうです」
マスクで籠る声に影は気軽に返事をした。その顔には同じくマスクが着いている。だが、あの美しいスーツはジャケットが無くなっていた。さらに、よく見るとジェイドの身体には無数の傷がついていた。
明らかに姿にジャックの頭がカッと血が上った。グルと喉から威嚇の声が出る。だが、すぐにジャックは冷静さを取り戻す。こういうことは警察官になる前から逐一指摘されていたことだ。お蔭でこういうときにすぐに我に戻れる。
ジャックはそれでも怒りを僅かに隠せずドスドスとジェイドに近づいた。しかし、ジェイドはなんてことない顔で手にしていた女の身体から手を離す。そして、近づいたジャックに向かって目を細めて言う。
「ここの〝頭〟ですよ」
ジャックの背後で火の爆ぜる音がした。
煙が充満する中、鼻がやられ鍛え上げられた聴覚を頼りに駆けていた。延焼する火を魔法で打ち消しながら逃げ惑う違法オークションの参加者たちの波と逆を行く。そいつらを捉えるのは外で待機している仲間でいい。ジャックはただ、ただ、ここに連れて来てしまったジェイドを探していた。
「クソッ、どこに行ったんだッッ!」
火事が起きる二時間ほど前。ジャックはジェイドと共にまずは美術品のオークション会場に入場した。普通にあっさりと通され肩透かしを食らうが怪しまれるよりましだ。
「で、どうすんか」
「少し待ってください」
ジェイドはスマホを取り出すと誰かに連絡を取った。その様子を見ながら辺りをそれとなく探る。探り方。これは警察官や魔法執行官などになると癖として顕著に出てしまう。傍から見て初めて参加する人間を予想ように見ることに努める。とはいって、ジャックの眼光は鋭いので普通にしていても探りをいているような風に見えてしまうけれど。
「バレますよ」
「うっ。やっぱりそういう風に見えるっすか?」
一般人から見てもやはりそうなのかとジェイドを見下ろす。スマホから視線をあげていたジェイドは眉を下げて「まぁ、そうですね」と珍しく歯切れの悪い返事だ。どうやらお得意のお世辞も言えぬほどらしい。やはりまだ鍛錬不足のようだ。
「ぐぅ。精進します」
「ふふ。頑張ってください……さて、すぐにチケットを確認する給仕係が通ります」
ボソと後半は囁くに言う。ジャックは用心棒よろしくジェイドの傍にいる。今回一応色々設定はしているがたぶんしなくてもいいだろう。
「やっぱりご主人様つった方がいいっすか」
「ぶはっ、ほんきにしたんですか」
珍しく吹き出すジェイドにジャックは少し不貞腐れたように「その方がらしいじゃないっすか」と切り返す。ジェイドは黒く染まった瞳をニヤニヤしながら「お好き」と言う。なら、言ってやると「ご主人様」と呼ぶとまた肩を震わせた。
「や、いいです」
「いや、もう呼ぶんで、ご主人様」
フンと鼻を鳴らしていると僅かに違和感の覚える給仕が近づく。パッとみ細身の男性に見えるがあれは女性だ。ウルフカットの女性がジェイドの前に立つと「どうぞ」とシャンパンを渡す。それをジェイドは「ありがとうございます」と受け取る。そして、女性はくるっと背を向けて去って行った。だが、暫し行った後で一瞬だけこちらを見た。
「どうやら確認が取れたようですね」
ジャックはすぐにジェイドの手首に揺れるブレスレットの色が変化しているのを見る。どうやら先ほどの動作が何かで変化したらしい。それともシャンパンを受け取るという動作だったのか魔法工学に明るくないジャックには分からない。
「さ、行きましょう」
「はい、ご主人様」
そう用心棒役になりきりながら答えるジャックにジェイドは肩を竦めたのだった。
給仕係に連れられて来た場所は表の会場よりも一層煌びやかだった。元来こうした場所は雰囲気づくりのために暗闇で行われることが多い。だのに、ここはシャンデリが散々と輝いていた。
「すっげぇ」
「ええ。相当力を力を入れているようですね」
会場に入る前に手渡された目元を覆う仮面をしながらジャックはジェイドに言う。ジェイドも目元を覆う仮面に揺れる飾りを触れながら答える。
ジャックはもう一度周囲を見回すとどことなく嗅いだことのある香りに眉を顰める。これはただの違法魔法道具のオークションではないようだ。
「臭いますか?」
「ああ。あんまり吸わない方がいい」
「ふふ。わかっています」
人魚でもあるジェイドも薬の匂いに気づいているのだろう。お互い嗅覚の利く者同士この場に長いは無用と考えているのだろう。この状況にジャックは己の読みの浅さに心の内で舌を打つ。やはり、こういうところでは違法薬も取引されているのだろう。いや、もしかしたらここに参加する者の嗜みなのかしれない。
「おい。勧められても何も口にするな」
「ご主人様に随分な口の利き方ですね」
「大丈夫です」とジェイドは付け足すが不安だ。ジャックは出来るだけの情報収集をするために動くことにした。
「すぐに戻ります。すんません」
「ええ。構いません。いってらっしゃい」
こちらに目もくれず言うジェイドに信頼感が込み上げてジャックは影に溶けるように姿を消した。その様子を会場にいる誰も気づかなかった――ただ一人を除いて。
ジャックは魔法を駆使しながら無事に〝バックヤード〟に潜入することに成功した。従業員に変化したまま歩くと違法魔法道具がどっさりと発見できた。それらの写真を撮影しながら同時に仲間に送信する。ついでに違法の魔法薬も撮影して送信していく。だが、ここら辺に〝頭〟になりそうな人間がいない。指揮している人間はきっとその部下だろうが――〝ドン〟がいない。
――そいつを逮捕してぇのに。クソッ、どこだ!
探すが見つからない。すると、填めた指輪から信号が出る。突入する合図が入る。突撃するということだ。それにジャックは意見しようと合図を送ろうとした時だった。
ドンッッッ!
嫌な音が響いた。ジャックはすぐに耳をそばたてるが奥に入り込み過ぎたのか何も聞こえない。ただ、すぐに身を隠して辺りを見ると従業員たちがバタバタと慌て出した。
「おい! 火災だ!」
「魔法道具の誤動作か?」
「違う! 魔法だ! 魔法!」
「はぁ?」
魔法による火災。これは厄介だ。魔法の火災は普通の水で消えないこともある。よって、世間的にも魔法による火災は魔法機動部隊に所属する魔法士の消防士が行う。つまり、このような場所で魔法による火災が起きたら大惨事だ。
「くそ! ありったけの魔法士を呼べ!」
「もう呼んだ!」
傍に居た従業員が駆けだすのを見て物影から出る。ジャックはこの事態に渋面を作る。まさかこのような事態になるとは。きっと今回のオークションは中止になるだろう。だが、この騒ぎに乗じて突入は出来るだろう。
ジャックは火災の様子を見に行くことにした。だが、ジャックが考える火災とは現場は全く異なっていた。
「なんだこれは」
従業員の姿を解いて戻る道を歩き出す。だが、その未知の最中従業員や参加者だろう人間たちが逃げ惑うように駆けだしていた。そして、その奥から轟轟と燃え盛る紅蓮の炎に黒煙。鼻を刺激する香りに鼻を覆いながら眉根を寄せる。
「おい! どうなってる!」
「うわぁっ! 止めるんじゃねぇ!」
「答えろッッッ!」
ガウッと吠えると男は怯えて「か、火事が」とだけ弱々しく答えた。だが、それ以上は状況を知らないらしくてジャックは苛立った様子で腕を離す。
「ッ、先輩っ!」
ジャックはすぐに会場に残したままのジェイドの安否確認へと向かった。本来ならお互いに連絡を取るための通信機を持っているが今は役に立たない。それほど今この会場が異常事態に包まれているということだ。ジャックは業火に燃える会場へと飛び込んだ。
煌びやかな会場は当たり一面魔法によってつくられた火の海となっていた。ジャックは鼻と口元を覆いながらマジカルペンを携え、スーツを魔法執行官の制服に変える。これで魔法の火から自分を守れる。すぐに魔法でマスクを着けて辺りを探す。
周りの人間は魔法執行官であるジャックを気にすることはなかった。いや、怯える暇もなくただ魔法執行官であるジャックに助けを求めた。ジャックは犯罪者である彼らに魔法で保護しながら一番保護するべき男を探した。
――どこだ、どこだ、ジェイド先輩はどこだッッ!
探しながらジャックはさらに火の手の上がる場所へと駆け寄ると二つの影があった。ひとつは背の高い男の影で、もうひとつは地面に倒れかけている女性の影。ジャックはそのひとつの影の名を呼んだ。
「ジェイド先輩?」
「はい。そうです」
マスクで籠る声に影は気軽に返事をした。その顔には同じくマスクが着いている。だが、あの美しいスーツはジャケットが無くなっていた。さらに、よく見るとジェイドの身体には無数の傷がついていた。
明らかに姿にジャックの頭がカッと血が上った。グルと喉から威嚇の声が出る。だが、すぐにジャックは冷静さを取り戻す。こういうことは警察官になる前から逐一指摘されていたことだ。お蔭でこういうときにすぐに我に戻れる。
ジャックはそれでも怒りを僅かに隠せずドスドスとジェイドに近づいた。しかし、ジェイドはなんてことない顔で手にしていた女の身体から手を離す。そして、近づいたジャックに向かって目を細めて言う。
「ここの〝頭〟ですよ」
ジャックの背後で火の爆ぜる音がした。