完全無欠の包囲網
◆ ジャック視点
ボスに報告した結果、渋い顔をしながらも承諾のサインが出た。ジャックはこれによりジェイドの護衛をしながら潜入調査の任務に就くことになった。
「まぁ、あんたの実力なら大丈夫だろう」
「以前もそうでしたが僕の実力を買ってくださっているということでしょうか?」
リムジンの中、ジェイドはジャックと同じくセミフォーマルなスーツを身に纏っていた。ちなみにジャックが着ているスーツは完成したオーダーメイドのものだ。オーダーメイドということからか仕立てがいいからなのか身体にとても馴染む。何があってもこれなら対処できる。とはいっても、何かあったら防魔プレート仕込みの制服に着替えるが。でなければこのスーツは一発でダメになる。
「そのスーツとても似合ってますよ」
「そりゃどうも」
本心からなのか分からない世辞に鼻を鳴らしながら頷く。そして、どこを走っているか窺えない車の外を眺めている。とはいっても外の景色は見えずただ黒いだけだが。
「ルートは非公開か?」
「いえ。毎回会場が変わるためその必要はないそうです」
「へぇ随分リッチだな」
「だからこそ今までばれなかったのでしょう」
だろうな、と返事をしながら車の中は静かになる。ジャック自身お喋りの性質ではないがジェイドが黙ると何だか身体が痒くなる。オクタヴィネル寮はジャックの中では勝手にしゃべるお喋りという印象がある。だから、ジェイドが無言になるというのは些か意外だった。
――別に喋んなくてもいいんだけどよ……。
落ち着かないと珍しくジャックから口を開いた。
「センパイは卒業した後、珊瑚の海に戻らなかったんすか?」
卒業後も故郷である海に帰り本来の姿に戻らなかった。故郷に愛着があるわけではなさそうだけれど人魚が人間のまま陸で生活していくには何かと大変だろう。
ジャックの疑問を理解しているというようにジェイドが「大変なことばかりです」と答えた。そして、苦笑を零すも左右異なる瞳をすぐに輝かせた。
「それでもこの世界はまだまだ僕の知らないことが沢山あります。何よりこちらの文化もひと際気に入りましたもので」
「なるほど、な。あんたらしい」
楽しそうに笑う彼は言う通りまだまだ陸の生活の探求に勤しんでいるんだろう。すると今度はジェイドがジャックに訊ねて来た。
「ジャックくんは地元に戻ったんでしたっけ?」
「ああ。地元の警察学校に入学した。んで、地元の隣街に配属になった」
「で、どうしてまた魔法執行官に?」
「スカウトだ」
「それはまた珍しい」
感心した声にどうやらジェイドはジャックが警察官から魔法執行官になったのは知っていたらしい。ただ、その経緯までは把握していなかったようだ。興味深そうにするので珍しくジャックは自分から話すことにした。
「地元で魔法執行官が出動するレベルの犯罪が起きたんだ。それで俺が対応に当たっていたんだ」
魔法機動部隊が出動して調査していた事件。表向きの事件はすぐに解決したがその裏にあった事件がこれまたデカすぎる案件だった。そのまま本庁に渡そうかとしたときに魔法絡みとなって出て来たのが魔法庁お抱えの魔法執行官。魔法執行官にすべての調査権限が譲渡されるときに今のボスに出会った。
「俺が引き継ぎ作業をしていたのが今のボスでなんか知らんが気に入られてスカウトされた」
「それで貴方は素直に魔法執行官になったんですか?」
「……悪ぃかよ」
「いえ……貴方が素直に従う人間というのはとても興味深いもので」
あの胡散臭い笑みも浮かべず真剣な眼差しを向けて来るジェイド。あまりにも真剣な様子のジェイドにジャックは「いや、べつに」とリボンで結んだ項の髪を弄る。
「まぁ、ボスって呼ぶに値する人間ではあったな」
「ほぅ。レオナさんやラギーさんを尊敬していた貴方が」
「な、なんだよ」
しみじみとしたジェイドにジャックは居心地が悪い。一体、何に興味関心を引いたのだろうか。そもそもジャックだってレオナやラギー以外にだって尊敬する人間はいる。
「その方が羨ましいです」
「は?」
耳を疑うような言葉が聞こえた気がする。いや、自分の大きな耳がそんな聞き間違いする訳がない。ジェイドを凝視するが彼はただ静かに笑むだけ。どういう意味だ、と訊ねようとしたときだった。
「ジャックくん。もう少しお話したかったのですが会場についてしまったようです」
そう言って指を鳴らすと美しい青の髪色が黒く闇に覆われる。そして、次にこちらを見たとき瞳の色さえも深い闇の色と変わっていた。それは、かつて魔力なくして在籍していた同級生を思わせる色彩だった。
「さ、ジャックくんも変えてください」
「っす」
言われてジャックも指を鳴らす。瞬間、ジャックの身体を魔法の粉が包む。身体に生じる違和感は魔法執行官として何度も経験する。この異変だがまだ身体に違和感を覚えるので中々に慣れない。
「……雪原から夜空ですか」
ジェイドに合わせて黒よりの藍色に変えてみた。それがお気に召したのかジェイドが「いいですね」と褒め言葉を述べる。それが何だかくすぐったくジャックが見れば「おや」という声がこぼれた。
「瞳は変えていなかったんですね」
本来の色である左右異なる瞳は違う黒い瞳がしなる。満足気とでもいうか。何とも言い難い熱のこもった瞳だった。熱の籠った瞳に見覚えがあった。学生時代に時折見せていた。ジェイドに恐怖を抱いたときの瞳に似ていた。
ゾクと背筋に走る緊張感に思わず身構える。身構えたジャックにジェイドは何か勘違いしたのか「緊張しますか?」と問いかけて来た。ジャックはそれに誤魔化すように「いや」と返事をした。改めてこれから任務だと無理矢理切り替える。
「はぁ。大丈夫っす」
「そのようで……では、行きましょうか?」
「おう」
車が止まると数分もしないうちに扉が自動で開く。開いた先にある煌々としたライトで照らされる大きな玄関が視界に入った。
ボスに報告した結果、渋い顔をしながらも承諾のサインが出た。ジャックはこれによりジェイドの護衛をしながら潜入調査の任務に就くことになった。
「まぁ、あんたの実力なら大丈夫だろう」
「以前もそうでしたが僕の実力を買ってくださっているということでしょうか?」
リムジンの中、ジェイドはジャックと同じくセミフォーマルなスーツを身に纏っていた。ちなみにジャックが着ているスーツは完成したオーダーメイドのものだ。オーダーメイドということからか仕立てがいいからなのか身体にとても馴染む。何があってもこれなら対処できる。とはいっても、何かあったら防魔プレート仕込みの制服に着替えるが。でなければこのスーツは一発でダメになる。
「そのスーツとても似合ってますよ」
「そりゃどうも」
本心からなのか分からない世辞に鼻を鳴らしながら頷く。そして、どこを走っているか窺えない車の外を眺めている。とはいっても外の景色は見えずただ黒いだけだが。
「ルートは非公開か?」
「いえ。毎回会場が変わるためその必要はないそうです」
「へぇ随分リッチだな」
「だからこそ今までばれなかったのでしょう」
だろうな、と返事をしながら車の中は静かになる。ジャック自身お喋りの性質ではないがジェイドが黙ると何だか身体が痒くなる。オクタヴィネル寮はジャックの中では勝手にしゃべるお喋りという印象がある。だから、ジェイドが無言になるというのは些か意外だった。
――別に喋んなくてもいいんだけどよ……。
落ち着かないと珍しくジャックから口を開いた。
「センパイは卒業した後、珊瑚の海に戻らなかったんすか?」
卒業後も故郷である海に帰り本来の姿に戻らなかった。故郷に愛着があるわけではなさそうだけれど人魚が人間のまま陸で生活していくには何かと大変だろう。
ジャックの疑問を理解しているというようにジェイドが「大変なことばかりです」と答えた。そして、苦笑を零すも左右異なる瞳をすぐに輝かせた。
「それでもこの世界はまだまだ僕の知らないことが沢山あります。何よりこちらの文化もひと際気に入りましたもので」
「なるほど、な。あんたらしい」
楽しそうに笑う彼は言う通りまだまだ陸の生活の探求に勤しんでいるんだろう。すると今度はジェイドがジャックに訊ねて来た。
「ジャックくんは地元に戻ったんでしたっけ?」
「ああ。地元の警察学校に入学した。んで、地元の隣街に配属になった」
「で、どうしてまた魔法執行官に?」
「スカウトだ」
「それはまた珍しい」
感心した声にどうやらジェイドはジャックが警察官から魔法執行官になったのは知っていたらしい。ただ、その経緯までは把握していなかったようだ。興味深そうにするので珍しくジャックは自分から話すことにした。
「地元で魔法執行官が出動するレベルの犯罪が起きたんだ。それで俺が対応に当たっていたんだ」
魔法機動部隊が出動して調査していた事件。表向きの事件はすぐに解決したがその裏にあった事件がこれまたデカすぎる案件だった。そのまま本庁に渡そうかとしたときに魔法絡みとなって出て来たのが魔法庁お抱えの魔法執行官。魔法執行官にすべての調査権限が譲渡されるときに今のボスに出会った。
「俺が引き継ぎ作業をしていたのが今のボスでなんか知らんが気に入られてスカウトされた」
「それで貴方は素直に魔法執行官になったんですか?」
「……悪ぃかよ」
「いえ……貴方が素直に従う人間というのはとても興味深いもので」
あの胡散臭い笑みも浮かべず真剣な眼差しを向けて来るジェイド。あまりにも真剣な様子のジェイドにジャックは「いや、べつに」とリボンで結んだ項の髪を弄る。
「まぁ、ボスって呼ぶに値する人間ではあったな」
「ほぅ。レオナさんやラギーさんを尊敬していた貴方が」
「な、なんだよ」
しみじみとしたジェイドにジャックは居心地が悪い。一体、何に興味関心を引いたのだろうか。そもそもジャックだってレオナやラギー以外にだって尊敬する人間はいる。
「その方が羨ましいです」
「は?」
耳を疑うような言葉が聞こえた気がする。いや、自分の大きな耳がそんな聞き間違いする訳がない。ジェイドを凝視するが彼はただ静かに笑むだけ。どういう意味だ、と訊ねようとしたときだった。
「ジャックくん。もう少しお話したかったのですが会場についてしまったようです」
そう言って指を鳴らすと美しい青の髪色が黒く闇に覆われる。そして、次にこちらを見たとき瞳の色さえも深い闇の色と変わっていた。それは、かつて魔力なくして在籍していた同級生を思わせる色彩だった。
「さ、ジャックくんも変えてください」
「っす」
言われてジャックも指を鳴らす。瞬間、ジャックの身体を魔法の粉が包む。身体に生じる違和感は魔法執行官として何度も経験する。この異変だがまだ身体に違和感を覚えるので中々に慣れない。
「……雪原から夜空ですか」
ジェイドに合わせて黒よりの藍色に変えてみた。それがお気に召したのかジェイドが「いいですね」と褒め言葉を述べる。それが何だかくすぐったくジャックが見れば「おや」という声がこぼれた。
「瞳は変えていなかったんですね」
本来の色である左右異なる瞳は違う黒い瞳がしなる。満足気とでもいうか。何とも言い難い熱のこもった瞳だった。熱の籠った瞳に見覚えがあった。学生時代に時折見せていた。ジェイドに恐怖を抱いたときの瞳に似ていた。
ゾクと背筋に走る緊張感に思わず身構える。身構えたジャックにジェイドは何か勘違いしたのか「緊張しますか?」と問いかけて来た。ジャックはそれに誤魔化すように「いや」と返事をした。改めてこれから任務だと無理矢理切り替える。
「はぁ。大丈夫っす」
「そのようで……では、行きましょうか?」
「おう」
車が止まると数分もしないうちに扉が自動で開く。開いた先にある煌々としたライトで照らされる大きな玄関が視界に入った。