ジェイド × ジャック
宵が醒める前も後も
とろん、とろん、した満月のような瞳。普段イヌ科なのに縦に長い瞳孔が丸くなっているようにさえ見える。立派な三角の耳もふにゃりと柔らかく伏せられている。大きな尻尾もパタ、パタと左右に緩く動くだけ。背中さえも丸くしながらベッドに寝転んでいる。
「ジャックくん。大丈夫ですか?」
「ん、ぅぅ」
ジェイドはジャックからの返事に「ふむ」と頷きながら足を組み直す。しどけない姿ともいえる姿を晒すジャックの観察を続行することにした。とはいってもジャックを観察して実に一時間近く経っている。その中で分かったことはただひとつ。ジャックは酩酊しているということだけ。
酩酊しているからといってジャックが飲酒したわけではない。このようなあられもない姿をさらす羽目になったのは実のところジェイドはよく分らない。
「お酒は出していないはずなんですがねぇ」
怪訝に眉を顰めながらテーブルに並べられた食事や飲み物を思い出す。勿論、モストロ・ラウンジに酒類はない。とはいっても、料理に使う酒はある。だが、それはあくまで調理に使用するもので飲酒に向くものとは到底思えない。
「誰か外部の人間でしょうか? それともジャックくんはアルコールに弱いんでしょうか?」
酒を使用した料理はいくつか出ていた。だが、それは酩酊するほどのアルコールなどない。デザートにブランデーの入ったケーキにチョコはあった。けれど、それだってたかが知れている。ジェイドは顎を撫でながらどうしてジャックが酩酊しているのか考える。
「やはり誰か内密に酒を用意したとしか――」
「ん、んぅ」
「おや」
眠りから覚める子どものような声が聞こえてジャックを見る。すると、とろんと溶けていた目を手の甲で擦って起き上がるジャックがいた。ごしごしと目を擦りながら何とかジャックが身体を起す。
「ぅ、ぁあ~、どこだぁ?」
「おや。どこに連れられて来たのか分からないのですか?」
まだ意識が定まっていないのか上体を起こした状況でジャックが呟く。ジェイドに入っているようなわけでもないがジェイドが答える。すると、ようやくジャックはジェイドがいたことに気づく。
とろん、と溶けたままの満月の瞳で「じぇいどせんぱい」と舌ったらずに答える。いよいよ普段のジャックと違い過ぎてジェイドは頭が可笑しくなりそうだった。だが、面白いと嬉々として「はい、そうです」と答える。
「なんで?」
とろ、とろ、眠たそうな瞳でジャックが首を傾げる。普段見せない可愛い仕草を見せる。ここにいるのが自分一人だけでよかった。心底そう思いながらワクワクして心臓が逸るのを抑えながら問いかける。
「モストロ・ラウンジで陸上部の打ち上げに出ていたのをお忘れですか?」
「りくじょーぶ……」
「はい。ジャックくんたちが参加した大会で優秀な成績を納めましたでしょう。それのお祝いとして学園長がモストロ・ラウンジで打ち上げが行われていたんです」
「覚えていませんか」と問いかければ凛々しい眉を顰めて唸る。その唸り声も普段とは異なり「きゅぅ」と何だか可愛い。ジェイドは今日の可愛いジャックを写真や動画に納めたいなと思った。もっと意識があるときにとっておけばよかった。
「じぇど、せんぱい」
「なんですか?」
可愛いジャックくん、と心の中で答えるとまたジャックの身体が起きる。大きな身体を揺らしながら何とか身体を起す。それからどうするのか見ていると――。
「じぇぃど、せんぱい」
「ふっ、ふふ、はい」
ジャックは椅子に座るジェイドの真正面のベッドの縁に座った。先ほどよりも近くにジャックがいることにやっぱり嬉しくて頬が緩む。それがジャックの琴線に触れたのか嬉しそうに目尻を下げて「じぇいどせんぱい」と低い声に甘さを含んで呼ぶ。だから、ジェイドも「はい」とたっぷり蜜を含ませて答える。
それが良かったのかジャックはふにゃりとしていた耳をピコンと立たせる。そして、大きな身体の奥に見えるふっさりとした尻尾がゆらゆらと動く。普段でも見るけれど無邪気さの滲む姿でされると尚のこと可愛い。
何の経緯で口にしたか分からない酒の影響で可愛い状態になったジャック。これをどうにかできる権利をジェイドは一応持っている。とはいて、本人の意思のないところで何かことを起したら正気に戻ったときが恐ろしい。でも、やっぱりこんな出来上がっている状態の〝恋人〟をジェイドはどうにかしてしまいたい。
身体中に湧き出る欲を吐き出してしまいたくなる。だが、それだけで身体の熱が納まるわけがない。グツグツと煮込みだす欲の鍋を掻き混ぜているような心地だった。
「ギュッ、きゅぅぅっ」
喉が変な音がしてきた。ジェイドはそっと喉に手を添える。そこは不気味な音で震えている。
――おやおや。これは大変だ。
と、心の中で嘯く。人間の声帯では出し難い音。人魚であれば薬の効果が切れたのかと心配になるような鳴き声。だが、ジェイドはそれだけ自分の人魚の本能が揺さぶられているのかと面白くなってくる。
だって、目の前にいるジャックは普段絶対に見せない姿だから。ツンツンと誰に対してもツンケンしている姿を見たことがある。誰かに憧れて満月の瞳を輝かすのを見たことがある。尊敬する誰かに褒められて尻尾を振っている様を見たことをある。
恋人になってからジェイドだけの知る姿を何度も見ている。でも、こうしてフワフワ可愛いのは初めてだ。無邪気というのか子どもっぽい彼の姿にジェイドは楽しすぎて堪らない。
「せんぱい、せんぱい」
「はいはい。どうしました?」
乞うように呼ぶので答えると逞しい腕を伸ばして来た。大きな手が求めるようにジェイドに向かって伸びる。それだけのことなのに身体の底から嬉しさが込み上げる。ジェイドは伸びる大きな手に触れる。
――あ、手袋。とっておけばよかった。
一枚の布を隔てて触れた大きな手。それでも高い体温は伝わる。でも、直に触れられなかったことに自分の失態に舌打ちをしたくなる。だが、それよりも早く相手が、ジャックが不満を訴えて来た。
「て、じゃま、じゃねえか?」
凛々しい眉がギュウと不満そうに寄る。ごもっともとジェイドは大きな手から離れると両手から白い手袋を取る。そして、いまだに手を上げたままのジャックの大きな手に触れる。すると、ジャックから指を絡ませてきた。
ジャックの熱い手のひらとジェイドの冷たい手のひらが交じり合う。何とも言えない感覚に吐息を零すと無骨な長い指がスリッと動いた。その動きにビクッと反射的に手が跳ねた。
「ふっ、はは、くすぐったかったすか?」
おや、と思いながらジェイドはジャックを見る。まだ薄らと潤む瞳、目元は健康的に焼けた褐色の肌で分かりにくいが赤い。いつもと調子が違う。やはりまだ酩酊状態だろう。だのに、どこか普段に近いジャックに見えた。
「ジャックくん。酔い醒めてきました?」
「ん? や? どーだろ?」
「おお自力でそこまで?」
「はは。なにが?」
無邪気で可愛いジャックはどうやら終わってしまったようだ。でも、半分覚醒した状態のジャックもこれはこれで可愛いし楽しいことに変わらない。
現にジャックは普段絶対しない接触の仕方をしている。いつも何か仕掛けるのはジェイドから。それをジャックがしてやられたという顔をしてツンツンしながら受け入れる。さて、この状況だったらどうなるのか。ワクワクしながらジャックの様子を観察することにした。
「せんぱい、打ち上げは?」
「先ほど終わったと連絡がありました」
「え、」
手をにぎにぎしていたジャックがぽかんとこっちを見た。その間抜けさというか拍子抜けした顔というのが面白くて思わず笑い声が漏れる。
「ふっふふ。そういう時間ですよ」
「ぇ、じゃ、ふろいど、せんぱいは?」
「ん? 僕といるのに他の雄の名前を出すんですか?」
「うっ」と耳を伏せるジャックは珍しくしおらしい反応だ。普段なら恥ずかしくなってガウバウと噛みついて来るのに。こういう反応もまたいいかもしれない。普段絶対に見られないが。
「フロイドは少々お暇してもらいました」
「……あの人がおとなしく?」
「あれでも話しが分かるウツボですよ」
「あれで?」
「あれで」
やはり酔いが醒めているのだろうか。フロイド対する不信感がありありと鋭い眼光に浮かんでいる。どうしてそんなに疑うのか。ジェイドは不思議に思いながら絡んだ手を引く。
「おわぁっ」
ベッドに腰をかけていたジャックは簡単に引っ張られた。普段ならないだろうがやはり身体はまだ酔っているらしい。簡単にジェイドの方へと倒れ込んで来た。立派な体格故に衝撃はあるが耐えられないわけではない。
「な、なにすんだっ」
「はは。いつも通りになってきましたね」
寂しいけれどいつも通りの生意気な狼で結構結構。ジェイドは指を解いて自由になった手でギュウっと抱きしめる。
「な、せんぱいっ」
「なんですか、今さら」
ふふ、と自然と込み上げる笑い。ジャックはその後僅かにもがくも「なんなんだ」とすっかりと酔いが醒めたらしく悪態をつく。
「それにしても何故酔ったんですか?」
「なんか、デュースがくれたジュース飲んだ後から記憶がねぇ」
くいくいと、チョーカーを引きながら問えばジャックが唸りながら答えた。
ジュースと考えながらもやはり心当たりはない。
「なんかすげぇ甘たるかったんだよなぁ」
「そうですか……今度原因を探しておきます」
やはり心当たりがない。確かに甘いジュースは準備していたけれど副寮長のジェイドさえも把握していないものがあるのか。紛れた可能性もあるけれどアズールが見過ごすか。
「あの、先輩」
恥じらいを含んだ声と共にジャックがジェイドの身体を押した。離れる高い体温の塊。おしまいかと惜しくなりながらジャックが目の前に立つ。そして、見下ろす顔がほんのりと赤いのが見て取れた。その様には見覚えが合って思わず喉がキュウと鳴る。
「なんですか、ジャックくん」
先を促すように言えばジャックの薄い唇が動いた。そこから紡がれた言葉にジェイドは彼の腕を引いて答えた。
後日、ジャックが飲んだと言われる甘ったるいジュースはやはり何かの手違いで入った果実酒であった。尚、綺麗な色だったからデュースはジャックに手渡したそうで。飲んだのはジャックだけだった。
とろん、とろん、した満月のような瞳。普段イヌ科なのに縦に長い瞳孔が丸くなっているようにさえ見える。立派な三角の耳もふにゃりと柔らかく伏せられている。大きな尻尾もパタ、パタと左右に緩く動くだけ。背中さえも丸くしながらベッドに寝転んでいる。
「ジャックくん。大丈夫ですか?」
「ん、ぅぅ」
ジェイドはジャックからの返事に「ふむ」と頷きながら足を組み直す。しどけない姿ともいえる姿を晒すジャックの観察を続行することにした。とはいってもジャックを観察して実に一時間近く経っている。その中で分かったことはただひとつ。ジャックは酩酊しているということだけ。
酩酊しているからといってジャックが飲酒したわけではない。このようなあられもない姿をさらす羽目になったのは実のところジェイドはよく分らない。
「お酒は出していないはずなんですがねぇ」
怪訝に眉を顰めながらテーブルに並べられた食事や飲み物を思い出す。勿論、モストロ・ラウンジに酒類はない。とはいっても、料理に使う酒はある。だが、それはあくまで調理に使用するもので飲酒に向くものとは到底思えない。
「誰か外部の人間でしょうか? それともジャックくんはアルコールに弱いんでしょうか?」
酒を使用した料理はいくつか出ていた。だが、それは酩酊するほどのアルコールなどない。デザートにブランデーの入ったケーキにチョコはあった。けれど、それだってたかが知れている。ジェイドは顎を撫でながらどうしてジャックが酩酊しているのか考える。
「やはり誰か内密に酒を用意したとしか――」
「ん、んぅ」
「おや」
眠りから覚める子どものような声が聞こえてジャックを見る。すると、とろんと溶けていた目を手の甲で擦って起き上がるジャックがいた。ごしごしと目を擦りながら何とかジャックが身体を起す。
「ぅ、ぁあ~、どこだぁ?」
「おや。どこに連れられて来たのか分からないのですか?」
まだ意識が定まっていないのか上体を起こした状況でジャックが呟く。ジェイドに入っているようなわけでもないがジェイドが答える。すると、ようやくジャックはジェイドがいたことに気づく。
とろん、と溶けたままの満月の瞳で「じぇいどせんぱい」と舌ったらずに答える。いよいよ普段のジャックと違い過ぎてジェイドは頭が可笑しくなりそうだった。だが、面白いと嬉々として「はい、そうです」と答える。
「なんで?」
とろ、とろ、眠たそうな瞳でジャックが首を傾げる。普段見せない可愛い仕草を見せる。ここにいるのが自分一人だけでよかった。心底そう思いながらワクワクして心臓が逸るのを抑えながら問いかける。
「モストロ・ラウンジで陸上部の打ち上げに出ていたのをお忘れですか?」
「りくじょーぶ……」
「はい。ジャックくんたちが参加した大会で優秀な成績を納めましたでしょう。それのお祝いとして学園長がモストロ・ラウンジで打ち上げが行われていたんです」
「覚えていませんか」と問いかければ凛々しい眉を顰めて唸る。その唸り声も普段とは異なり「きゅぅ」と何だか可愛い。ジェイドは今日の可愛いジャックを写真や動画に納めたいなと思った。もっと意識があるときにとっておけばよかった。
「じぇど、せんぱい」
「なんですか?」
可愛いジャックくん、と心の中で答えるとまたジャックの身体が起きる。大きな身体を揺らしながら何とか身体を起す。それからどうするのか見ていると――。
「じぇぃど、せんぱい」
「ふっ、ふふ、はい」
ジャックは椅子に座るジェイドの真正面のベッドの縁に座った。先ほどよりも近くにジャックがいることにやっぱり嬉しくて頬が緩む。それがジャックの琴線に触れたのか嬉しそうに目尻を下げて「じぇいどせんぱい」と低い声に甘さを含んで呼ぶ。だから、ジェイドも「はい」とたっぷり蜜を含ませて答える。
それが良かったのかジャックはふにゃりとしていた耳をピコンと立たせる。そして、大きな身体の奥に見えるふっさりとした尻尾がゆらゆらと動く。普段でも見るけれど無邪気さの滲む姿でされると尚のこと可愛い。
何の経緯で口にしたか分からない酒の影響で可愛い状態になったジャック。これをどうにかできる権利をジェイドは一応持っている。とはいて、本人の意思のないところで何かことを起したら正気に戻ったときが恐ろしい。でも、やっぱりこんな出来上がっている状態の〝恋人〟をジェイドはどうにかしてしまいたい。
身体中に湧き出る欲を吐き出してしまいたくなる。だが、それだけで身体の熱が納まるわけがない。グツグツと煮込みだす欲の鍋を掻き混ぜているような心地だった。
「ギュッ、きゅぅぅっ」
喉が変な音がしてきた。ジェイドはそっと喉に手を添える。そこは不気味な音で震えている。
――おやおや。これは大変だ。
と、心の中で嘯く。人間の声帯では出し難い音。人魚であれば薬の効果が切れたのかと心配になるような鳴き声。だが、ジェイドはそれだけ自分の人魚の本能が揺さぶられているのかと面白くなってくる。
だって、目の前にいるジャックは普段絶対に見せない姿だから。ツンツンと誰に対してもツンケンしている姿を見たことがある。誰かに憧れて満月の瞳を輝かすのを見たことがある。尊敬する誰かに褒められて尻尾を振っている様を見たことをある。
恋人になってからジェイドだけの知る姿を何度も見ている。でも、こうしてフワフワ可愛いのは初めてだ。無邪気というのか子どもっぽい彼の姿にジェイドは楽しすぎて堪らない。
「せんぱい、せんぱい」
「はいはい。どうしました?」
乞うように呼ぶので答えると逞しい腕を伸ばして来た。大きな手が求めるようにジェイドに向かって伸びる。それだけのことなのに身体の底から嬉しさが込み上げる。ジェイドは伸びる大きな手に触れる。
――あ、手袋。とっておけばよかった。
一枚の布を隔てて触れた大きな手。それでも高い体温は伝わる。でも、直に触れられなかったことに自分の失態に舌打ちをしたくなる。だが、それよりも早く相手が、ジャックが不満を訴えて来た。
「て、じゃま、じゃねえか?」
凛々しい眉がギュウと不満そうに寄る。ごもっともとジェイドは大きな手から離れると両手から白い手袋を取る。そして、いまだに手を上げたままのジャックの大きな手に触れる。すると、ジャックから指を絡ませてきた。
ジャックの熱い手のひらとジェイドの冷たい手のひらが交じり合う。何とも言えない感覚に吐息を零すと無骨な長い指がスリッと動いた。その動きにビクッと反射的に手が跳ねた。
「ふっ、はは、くすぐったかったすか?」
おや、と思いながらジェイドはジャックを見る。まだ薄らと潤む瞳、目元は健康的に焼けた褐色の肌で分かりにくいが赤い。いつもと調子が違う。やはりまだ酩酊状態だろう。だのに、どこか普段に近いジャックに見えた。
「ジャックくん。酔い醒めてきました?」
「ん? や? どーだろ?」
「おお自力でそこまで?」
「はは。なにが?」
無邪気で可愛いジャックはどうやら終わってしまったようだ。でも、半分覚醒した状態のジャックもこれはこれで可愛いし楽しいことに変わらない。
現にジャックは普段絶対しない接触の仕方をしている。いつも何か仕掛けるのはジェイドから。それをジャックがしてやられたという顔をしてツンツンしながら受け入れる。さて、この状況だったらどうなるのか。ワクワクしながらジャックの様子を観察することにした。
「せんぱい、打ち上げは?」
「先ほど終わったと連絡がありました」
「え、」
手をにぎにぎしていたジャックがぽかんとこっちを見た。その間抜けさというか拍子抜けした顔というのが面白くて思わず笑い声が漏れる。
「ふっふふ。そういう時間ですよ」
「ぇ、じゃ、ふろいど、せんぱいは?」
「ん? 僕といるのに他の雄の名前を出すんですか?」
「うっ」と耳を伏せるジャックは珍しくしおらしい反応だ。普段なら恥ずかしくなってガウバウと噛みついて来るのに。こういう反応もまたいいかもしれない。普段絶対に見られないが。
「フロイドは少々お暇してもらいました」
「……あの人がおとなしく?」
「あれでも話しが分かるウツボですよ」
「あれで?」
「あれで」
やはり酔いが醒めているのだろうか。フロイド対する不信感がありありと鋭い眼光に浮かんでいる。どうしてそんなに疑うのか。ジェイドは不思議に思いながら絡んだ手を引く。
「おわぁっ」
ベッドに腰をかけていたジャックは簡単に引っ張られた。普段ならないだろうがやはり身体はまだ酔っているらしい。簡単にジェイドの方へと倒れ込んで来た。立派な体格故に衝撃はあるが耐えられないわけではない。
「な、なにすんだっ」
「はは。いつも通りになってきましたね」
寂しいけれどいつも通りの生意気な狼で結構結構。ジェイドは指を解いて自由になった手でギュウっと抱きしめる。
「な、せんぱいっ」
「なんですか、今さら」
ふふ、と自然と込み上げる笑い。ジャックはその後僅かにもがくも「なんなんだ」とすっかりと酔いが醒めたらしく悪態をつく。
「それにしても何故酔ったんですか?」
「なんか、デュースがくれたジュース飲んだ後から記憶がねぇ」
くいくいと、チョーカーを引きながら問えばジャックが唸りながら答えた。
ジュースと考えながらもやはり心当たりはない。
「なんかすげぇ甘たるかったんだよなぁ」
「そうですか……今度原因を探しておきます」
やはり心当たりがない。確かに甘いジュースは準備していたけれど副寮長のジェイドさえも把握していないものがあるのか。紛れた可能性もあるけれどアズールが見過ごすか。
「あの、先輩」
恥じらいを含んだ声と共にジャックがジェイドの身体を押した。離れる高い体温の塊。おしまいかと惜しくなりながらジャックが目の前に立つ。そして、見下ろす顔がほんのりと赤いのが見て取れた。その様には見覚えが合って思わず喉がキュウと鳴る。
「なんですか、ジャックくん」
先を促すように言えばジャックの薄い唇が動いた。そこから紡がれた言葉にジェイドは彼の腕を引いて答えた。
後日、ジャックが飲んだと言われる甘ったるいジュースはやはり何かの手違いで入った果実酒であった。尚、綺麗な色だったからデュースはジャックに手渡したそうで。飲んだのはジャックだけだった。
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