アナタに不似合いなアタシ
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オマエさ、オレのこと好きじゃん
「あぁ~くっそ面倒臭い」
ベンチに座って前髪を後ろに撫で着けながら顔を上げる。顔を上げた先にはシクラメンが咲き誇る花壇だ。さらにその向こう側にはホリデーシーズンを満喫する家族連れに――恋人たちがいた。恋人たちが微笑ましげに花壇を覗き込む姿を見て口元を隠しながら舌を出す。
――あ~。あたしもああしないといけないの? 無理、無理だわ。
今から自分が男を連れたってあの花道を歩くと思うと吐き気がする。いや、もう胃がむかむかして吐き気が止まらない。
「なぁんでよりによってあたしに惚れんのよ」
絶賛、あたしはホリデー期間中のパーティーで一目惚れしたという男を待っていた。本当は待っていたくもないし、会いたくもない。だのに、親戚の懇願によってあたしは仕方なくこの公園にいる。
「あの子の機嫌もさらに斜めになるしほんとに最悪」
家族と一緒に過ごせない。大好きな姉さまと一緒に過ごせない。恋人になったというジェイドにデートをすっぽかされたと機嫌がずっと低空飛行の片割れを思い出す。あの子にとって今回のバケーションは最悪だろう。
「あたしも最悪なのに……はぁあ~」
深い溜息がついて腕時計を見る。待ち合わせ時間にはまだ時間がある。それにしても呼び出した男の方が後に来るってなんなのだろうか。
「馬鹿にしてんのかっての」
苛立ちがさらに募る中、喉が渇いていた。立ち上がってベンチの横にある自販機の前に立つ。
「げっ。ここ紅茶以外ないの?」
自販機のセレクトに眉を寄せる。ついでに機嫌も下がるし苛立ちが増す。
「珈琲とか、ココアが飲みたい気分なのにっ、はぁっ~~」
だからといって道すがらにあったカフェに行く気はしない。その間に待ち合わせの男と鉢合わせする気もする。
「ああでも平凡な顔していたし分からないかも」
送られた相手の顔は薄らぼんやりとしている。個性がない平々凡々な顔立ちであることしか覚えていない。
「それはそれで良さそうだけど……ま、煩いからしないけど」
もう一度深く溜息をついて小銭を入れて紅茶を押そうとしたときだった――。
「オレこれ飲みたぁい」
自分以外の別の指が目的の紅茶よりも二段上にある炭酸飲料を押した。そして、自販機は了解とばかりにガコンと炭酸飲料を落とした。その瞬間あたしは勝手に炭酸飲料を押した男に肩越しで睨む。
「あたし、炭酸飲めないのよ!」
間延びした語尾に、甘ったるい声で誰が押したか分かる。肩越しに睨んだ男はフロイドだった。あたしよりも二十センチ以上高いところにある顔をじっとりと睨む。しかし、フロイドはどこ吹く風。
「だって、オレが飲みたいんだもん。いいから、取れよ」
「イヤ。自分で取んなさいよ」
自販機の前から退いて取り出し口を指さす。それにフロイドの眉間に皺が寄って、唇の両端が下る。
「えぇ~。めんどい。お前の方が地面に近いじゃん」
「やかましい! ほら、さっさと取りなさい。そして退いてちょうだい」
次こそ温かい紅茶を押すからと苛立ちながらつま先で地面を叩く。フロイドはぶすっと唇を尖らせながらしゃがみこんで炭酸飲料を取り出した。
「なんか気分じゃなくなった。挙げる」
「いや、まずあたしのお金だし……って、あたし飲めないって言ったじゃん!」
思わず受け取ってしまったが飲めないものは飲めない。それに冬に流石に甘ったるい水になるだけの炭酸飲料は飲みたくない。
「ったく。どうすんのよ、これ」
流石に捨てられない。鞄に入れるにもあたしの鞄は必要最低限のものが入る小さな鞄だ。フロイドに関しては手ぶらだ。
「あんたが勝手に押すから余計な荷物が増えたじゃないの」
もう手に持っているしかない。何ならこれから会う相手に押し付けてもいい。
「はぁああああ」
何度目になる溜め息をついて再びベンチに座るとフロイドも横に座る。長い足を開いて座る姿は様になる。
――ちくしょう。かっこいいわね! 悔しい!
好きな人のカッコイイ姿に思わずときめく。本当にかっこよすぎて少し離れたとこに待ち合わせで集まっている少女たちに見るなと叫びたくなる。だが、彼はあたしの恋人ではないのでそんなこと出来ない。嫉妬の火がついたが見ず知らずの男に対する苛立ちが少し減る。
忙しない感情に落ち着けと念じ始めるとフロイドが徐に声を掛けてきた。
「んで、お前なんでここに居んの?」
手持ち無沙汰な様子でこちらを見て訊ねるフロイドに口の端を下げて説明する。
――あれ、あたし好きな人に男とデートの待ち合わせをしているということを説明しているわよね?
嫌だ。すぐに止めたい。その頭の信号が口に伝わってしまったようだ。饒舌に動いていたあたしの口がキュッと結ばれた。
「あ? どーしたんだよ?」
「ぁ、い、いや」
怪訝そうなフロイドに苦笑いをして取りつくろう。
「とりあえず親戚のお願いでデートの待ち合わせしてんの」
「へぇ。お前んち相変わらずめんどい」
興味なさげのフロイドに残念なような気分になる。やはり彼にとってあたしはその程度なのだ。きっと彼のおめがねにかなった子と付き合って、結婚をするのだろう。
その候補はきっと例の小エビちゃんなのだろう。電話をするときに話題から減ったが時折お騒がせな小エビちゃんとして出て来る。今では僅かな嫉妬で済んでいるけど――以前よりもっと深い話が出たらあたしは気が狂ってしまう気がした。
「で、あんたはここになんの用なのよ」
話題を切り替えるべくフロイドに話を振る。彼の実家はこの時期流氷で帰れない。ならホリデー期間は学園の寮にいたはずだ。でも、制服での外出ではないのならば私用だろうか。
「アズールたちのお使いってわけじゃないって感じね」
「ん~。違う、ちょっと用事があっただけ」
「へぇ」
ギザギザの歯を覗かせない笑みに嫌な予感がなる。この男何かするつもりではないだろうか。あたしは用心深く彼を見つめる。
「ねぇ。変な依頼でもされたの?」
「べっつにぃ~ないけどぉ、何? 気になんの?」
にぃっと笑う彼にあたしは踏み込むのをやめた。これは碌なことじゃない。
「あ、いいわ。もういいわ。気になんない」
「えぇ! つまんねぇ! 聞けし!」
「遠慮します。いいです、結構」
貼りつけた笑みで首を横に振れば不貞腐れた顔をするフロイド。いくら好きな人でも厄介事は御免だ。
「あー。早く来ないかなぁ」
「うわっ。あからさまに話し逸らしやがったぁ」
ずりぃ~とこちらを突いてくるフロイドの長い指を払う。
「いやよ。聞かない。あんた絶対面倒事抱えているでしょ」
「そんなことねぇって」
口を閉じた状態で微笑むのだから駄目だ、これは。耳を塞いで聞かないという意志表示をする。
「やめてね」
「ちぇっ。分かった」
拗ねた顔をしたフロイドはそっぽを向いてしまったがこれで一安心。余計なことに巻き込まれて約束をすっぽかすのは御免だ。今日で何が何でも終わりたいのだ。そのためにも面倒臭い約束を取り付けた相手に会わなければいけない。
そっと両耳から手を退かした時だった。
「なぁんて」
「へ」
そっぽを向いていたフロイドがこちらを見てギザギザの歯を見せて笑う。その笑みのまま長い指があたしの顎を掴んだ。至近距離に左右違う色をした瞳が間近に迫った。
こんな距離になるとより色の違いが分かる。呑気に何色なんだろう、と考えていると彼の垂れ目がちの目尻がさらに下がって現実に引き戻される。
瞬く間にあたしの身体の体温が上昇する。赤くなりやすい頬は隠すこともできない。でも、彼から離れることはできるはずだ。空いている両手で押し返そうと彼の身体に触れると手を片方取られてしまった。
「ぁっ、ちょ、ふろ――」
「しぃ」
やめてほしいと言おうとするとさらに距離を近づけて静かにと言う。彼の前髪と自分の前髪が絡み合っている。つまり、額がくっついているということなのだが――。
――や、やめてぇ!
唇が触れ合いそうな距離のため心で叫ぶ。もうあたしのライフはゼロだ。何故突然こんなことになっているのだか全然分からない。そもそも。これを約束の相手に見られたら厄介なことになる。
「ふろ、フロ――」
「だから、しぃだってんだろ」
途端、苛立ちの孕んだ瞳が薄らと輝くと唇が重なった。
あたしは今フロイドとキスをしている。キス、きす――認識すると唇の感触が様々と伝わって慌てて空いている手で押すけれど彼はビクともしない。
フロイドはあたしの抵抗が気に入らなかったのか顎を掴んでいた手を離した。だが、その手はすぐに首の後ろに回ってキスが深くなるだけだった。
もうあたしはどうしようとするほど頭が動かなくなっていた。キスなんてしたことがない。息継ぎは意外に上手くいっているけれど、どうすることもできない。
何故このような展開になっているのかも分からない状態が続く。
永遠に続くのではと思うほどの時間が続く。そんな体感に差し掛かった時、唇に濡れた柔らかなモノが這った。
「んっ、はぁっ、ァッ」
驚いて口を開くと彼の口も離れた。
「はぁ、はっ、ちょ、な、何して」
着つくフロイドを睨むが彼の視線はあたしに向いていない。彼の視線はあたしの後ろだった。つられるように後ろを振り向けば慌てて駆けだしていく人間の背中があった。
その人間に唇の端が引き攣る。
「あ、あれってもしかして……」
恐る恐るフロイドを見れば彼も同じようにこちらを見て微笑んだ。
「よかったじゃん。これでぇ、無駄な一日過ごさなくてぇ」
「フロイド!」
怒鳴って自由になった手で彼の肩を叩く。
「ちょ、なんで怒ってんだよ!」
「怒るわ! 面倒くさいことになったらあんたの責任よ!」
「なんだよぉ~」
不機嫌な顔をしたフロイドに両手を再び取られた。思わず舌打ちをしながらフロイドを強く、強くねめつける。
「余計なことぉ」
「はぁ?」
恨み言を呟けば目を見開いたフロイドから低い声が出た。これは嫌だ。唇が震える。
「何だよ。お前、あの人間とデートしたかったってわけぇ?」
目を見開いたままのフロイドの問いかけに首を横に振る。
「したくなかった、けど、だって」
「ならいいじゃん」
見開いた瞳が戻る。そして、いつものようにギザギザの歯が見える笑いに戻る。
「他のことはさ、姉ちゃんたちに任せてけよ」
どうやら姉さまたちはこの状況を知っているようだ。となると、彼にデートぶち壊し依頼をしたのは姉さまか、片割れと言うことになる。
「つーかさ、その親戚に『あたし、好きな人魚がいるんです』って言えばよかったんじゃねぇの」
フロイドの似ていない真似の言葉に今度はこちらが目を瞠る番だ。
「そ、それは、」
「嘘じゃねぇじゃん? だって、お前さぁ――」
続いた言葉に驚愕の眼差しを向けて固まっていると不意打ちにキスをされた。そのキスは一瞬だったけれど一体どんな意味があったのか絶叫を上げながら逃げたあたしは分からなかった。
**設定(仮)**
夢主(女主人公)
フロイドと同い年の人魚の女の子。新年早々親戚の強引なデートをさせられそうになる。しかし、フロイドによってブチ壊れる。フロイドに長らく片想いしている。今回のキスが正直何の意味が分からない。何故なら分からないまま帰宅してしまったから。
フロイド
夢主に対しては友達感覚の方がまだ強い。それでもキス出来る。ぶっちゃけもっとキスしたいし。彼女をデートに誘った人間は依頼を聞いてからクソ目障りだと思っていた。小エビちゃんの話しは控え目になった。
「あぁ~くっそ面倒臭い」
ベンチに座って前髪を後ろに撫で着けながら顔を上げる。顔を上げた先にはシクラメンが咲き誇る花壇だ。さらにその向こう側にはホリデーシーズンを満喫する家族連れに――恋人たちがいた。恋人たちが微笑ましげに花壇を覗き込む姿を見て口元を隠しながら舌を出す。
――あ~。あたしもああしないといけないの? 無理、無理だわ。
今から自分が男を連れたってあの花道を歩くと思うと吐き気がする。いや、もう胃がむかむかして吐き気が止まらない。
「なぁんでよりによってあたしに惚れんのよ」
絶賛、あたしはホリデー期間中のパーティーで一目惚れしたという男を待っていた。本当は待っていたくもないし、会いたくもない。だのに、親戚の懇願によってあたしは仕方なくこの公園にいる。
「あの子の機嫌もさらに斜めになるしほんとに最悪」
家族と一緒に過ごせない。大好きな姉さまと一緒に過ごせない。恋人になったというジェイドにデートをすっぽかされたと機嫌がずっと低空飛行の片割れを思い出す。あの子にとって今回のバケーションは最悪だろう。
「あたしも最悪なのに……はぁあ~」
深い溜息がついて腕時計を見る。待ち合わせ時間にはまだ時間がある。それにしても呼び出した男の方が後に来るってなんなのだろうか。
「馬鹿にしてんのかっての」
苛立ちがさらに募る中、喉が渇いていた。立ち上がってベンチの横にある自販機の前に立つ。
「げっ。ここ紅茶以外ないの?」
自販機のセレクトに眉を寄せる。ついでに機嫌も下がるし苛立ちが増す。
「珈琲とか、ココアが飲みたい気分なのにっ、はぁっ~~」
だからといって道すがらにあったカフェに行く気はしない。その間に待ち合わせの男と鉢合わせする気もする。
「ああでも平凡な顔していたし分からないかも」
送られた相手の顔は薄らぼんやりとしている。個性がない平々凡々な顔立ちであることしか覚えていない。
「それはそれで良さそうだけど……ま、煩いからしないけど」
もう一度深く溜息をついて小銭を入れて紅茶を押そうとしたときだった――。
「オレこれ飲みたぁい」
自分以外の別の指が目的の紅茶よりも二段上にある炭酸飲料を押した。そして、自販機は了解とばかりにガコンと炭酸飲料を落とした。その瞬間あたしは勝手に炭酸飲料を押した男に肩越しで睨む。
「あたし、炭酸飲めないのよ!」
間延びした語尾に、甘ったるい声で誰が押したか分かる。肩越しに睨んだ男はフロイドだった。あたしよりも二十センチ以上高いところにある顔をじっとりと睨む。しかし、フロイドはどこ吹く風。
「だって、オレが飲みたいんだもん。いいから、取れよ」
「イヤ。自分で取んなさいよ」
自販機の前から退いて取り出し口を指さす。それにフロイドの眉間に皺が寄って、唇の両端が下る。
「えぇ~。めんどい。お前の方が地面に近いじゃん」
「やかましい! ほら、さっさと取りなさい。そして退いてちょうだい」
次こそ温かい紅茶を押すからと苛立ちながらつま先で地面を叩く。フロイドはぶすっと唇を尖らせながらしゃがみこんで炭酸飲料を取り出した。
「なんか気分じゃなくなった。挙げる」
「いや、まずあたしのお金だし……って、あたし飲めないって言ったじゃん!」
思わず受け取ってしまったが飲めないものは飲めない。それに冬に流石に甘ったるい水になるだけの炭酸飲料は飲みたくない。
「ったく。どうすんのよ、これ」
流石に捨てられない。鞄に入れるにもあたしの鞄は必要最低限のものが入る小さな鞄だ。フロイドに関しては手ぶらだ。
「あんたが勝手に押すから余計な荷物が増えたじゃないの」
もう手に持っているしかない。何ならこれから会う相手に押し付けてもいい。
「はぁああああ」
何度目になる溜め息をついて再びベンチに座るとフロイドも横に座る。長い足を開いて座る姿は様になる。
――ちくしょう。かっこいいわね! 悔しい!
好きな人のカッコイイ姿に思わずときめく。本当にかっこよすぎて少し離れたとこに待ち合わせで集まっている少女たちに見るなと叫びたくなる。だが、彼はあたしの恋人ではないのでそんなこと出来ない。嫉妬の火がついたが見ず知らずの男に対する苛立ちが少し減る。
忙しない感情に落ち着けと念じ始めるとフロイドが徐に声を掛けてきた。
「んで、お前なんでここに居んの?」
手持ち無沙汰な様子でこちらを見て訊ねるフロイドに口の端を下げて説明する。
――あれ、あたし好きな人に男とデートの待ち合わせをしているということを説明しているわよね?
嫌だ。すぐに止めたい。その頭の信号が口に伝わってしまったようだ。饒舌に動いていたあたしの口がキュッと結ばれた。
「あ? どーしたんだよ?」
「ぁ、い、いや」
怪訝そうなフロイドに苦笑いをして取りつくろう。
「とりあえず親戚のお願いでデートの待ち合わせしてんの」
「へぇ。お前んち相変わらずめんどい」
興味なさげのフロイドに残念なような気分になる。やはり彼にとってあたしはその程度なのだ。きっと彼のおめがねにかなった子と付き合って、結婚をするのだろう。
その候補はきっと例の小エビちゃんなのだろう。電話をするときに話題から減ったが時折お騒がせな小エビちゃんとして出て来る。今では僅かな嫉妬で済んでいるけど――以前よりもっと深い話が出たらあたしは気が狂ってしまう気がした。
「で、あんたはここになんの用なのよ」
話題を切り替えるべくフロイドに話を振る。彼の実家はこの時期流氷で帰れない。ならホリデー期間は学園の寮にいたはずだ。でも、制服での外出ではないのならば私用だろうか。
「アズールたちのお使いってわけじゃないって感じね」
「ん~。違う、ちょっと用事があっただけ」
「へぇ」
ギザギザの歯を覗かせない笑みに嫌な予感がなる。この男何かするつもりではないだろうか。あたしは用心深く彼を見つめる。
「ねぇ。変な依頼でもされたの?」
「べっつにぃ~ないけどぉ、何? 気になんの?」
にぃっと笑う彼にあたしは踏み込むのをやめた。これは碌なことじゃない。
「あ、いいわ。もういいわ。気になんない」
「えぇ! つまんねぇ! 聞けし!」
「遠慮します。いいです、結構」
貼りつけた笑みで首を横に振れば不貞腐れた顔をするフロイド。いくら好きな人でも厄介事は御免だ。
「あー。早く来ないかなぁ」
「うわっ。あからさまに話し逸らしやがったぁ」
ずりぃ~とこちらを突いてくるフロイドの長い指を払う。
「いやよ。聞かない。あんた絶対面倒事抱えているでしょ」
「そんなことねぇって」
口を閉じた状態で微笑むのだから駄目だ、これは。耳を塞いで聞かないという意志表示をする。
「やめてね」
「ちぇっ。分かった」
拗ねた顔をしたフロイドはそっぽを向いてしまったがこれで一安心。余計なことに巻き込まれて約束をすっぽかすのは御免だ。今日で何が何でも終わりたいのだ。そのためにも面倒臭い約束を取り付けた相手に会わなければいけない。
そっと両耳から手を退かした時だった。
「なぁんて」
「へ」
そっぽを向いていたフロイドがこちらを見てギザギザの歯を見せて笑う。その笑みのまま長い指があたしの顎を掴んだ。至近距離に左右違う色をした瞳が間近に迫った。
こんな距離になるとより色の違いが分かる。呑気に何色なんだろう、と考えていると彼の垂れ目がちの目尻がさらに下がって現実に引き戻される。
瞬く間にあたしの身体の体温が上昇する。赤くなりやすい頬は隠すこともできない。でも、彼から離れることはできるはずだ。空いている両手で押し返そうと彼の身体に触れると手を片方取られてしまった。
「ぁっ、ちょ、ふろ――」
「しぃ」
やめてほしいと言おうとするとさらに距離を近づけて静かにと言う。彼の前髪と自分の前髪が絡み合っている。つまり、額がくっついているということなのだが――。
――や、やめてぇ!
唇が触れ合いそうな距離のため心で叫ぶ。もうあたしのライフはゼロだ。何故突然こんなことになっているのだか全然分からない。そもそも。これを約束の相手に見られたら厄介なことになる。
「ふろ、フロ――」
「だから、しぃだってんだろ」
途端、苛立ちの孕んだ瞳が薄らと輝くと唇が重なった。
あたしは今フロイドとキスをしている。キス、きす――認識すると唇の感触が様々と伝わって慌てて空いている手で押すけれど彼はビクともしない。
フロイドはあたしの抵抗が気に入らなかったのか顎を掴んでいた手を離した。だが、その手はすぐに首の後ろに回ってキスが深くなるだけだった。
もうあたしはどうしようとするほど頭が動かなくなっていた。キスなんてしたことがない。息継ぎは意外に上手くいっているけれど、どうすることもできない。
何故このような展開になっているのかも分からない状態が続く。
永遠に続くのではと思うほどの時間が続く。そんな体感に差し掛かった時、唇に濡れた柔らかなモノが這った。
「んっ、はぁっ、ァッ」
驚いて口を開くと彼の口も離れた。
「はぁ、はっ、ちょ、な、何して」
着つくフロイドを睨むが彼の視線はあたしに向いていない。彼の視線はあたしの後ろだった。つられるように後ろを振り向けば慌てて駆けだしていく人間の背中があった。
その人間に唇の端が引き攣る。
「あ、あれってもしかして……」
恐る恐るフロイドを見れば彼も同じようにこちらを見て微笑んだ。
「よかったじゃん。これでぇ、無駄な一日過ごさなくてぇ」
「フロイド!」
怒鳴って自由になった手で彼の肩を叩く。
「ちょ、なんで怒ってんだよ!」
「怒るわ! 面倒くさいことになったらあんたの責任よ!」
「なんだよぉ~」
不機嫌な顔をしたフロイドに両手を再び取られた。思わず舌打ちをしながらフロイドを強く、強くねめつける。
「余計なことぉ」
「はぁ?」
恨み言を呟けば目を見開いたフロイドから低い声が出た。これは嫌だ。唇が震える。
「何だよ。お前、あの人間とデートしたかったってわけぇ?」
目を見開いたままのフロイドの問いかけに首を横に振る。
「したくなかった、けど、だって」
「ならいいじゃん」
見開いた瞳が戻る。そして、いつものようにギザギザの歯が見える笑いに戻る。
「他のことはさ、姉ちゃんたちに任せてけよ」
どうやら姉さまたちはこの状況を知っているようだ。となると、彼にデートぶち壊し依頼をしたのは姉さまか、片割れと言うことになる。
「つーかさ、その親戚に『あたし、好きな人魚がいるんです』って言えばよかったんじゃねぇの」
フロイドの似ていない真似の言葉に今度はこちらが目を瞠る番だ。
「そ、それは、」
「嘘じゃねぇじゃん? だって、お前さぁ――」
続いた言葉に驚愕の眼差しを向けて固まっていると不意打ちにキスをされた。そのキスは一瞬だったけれど一体どんな意味があったのか絶叫を上げながら逃げたあたしは分からなかった。
**設定(仮)**
夢主(女主人公)
フロイドと同い年の人魚の女の子。新年早々親戚の強引なデートをさせられそうになる。しかし、フロイドによってブチ壊れる。フロイドに長らく片想いしている。今回のキスが正直何の意味が分からない。何故なら分からないまま帰宅してしまったから。
フロイド
夢主に対しては友達感覚の方がまだ強い。それでもキス出来る。ぶっちゃけもっとキスしたいし。彼女をデートに誘った人間は依頼を聞いてからクソ目障りだと思っていた。小エビちゃんの話しは控え目になった。