フロイド
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可愛い人なのよね
「ねぇ、ねぇ」
「ん~ちょっと待って」
後輩とのメッセージのやり取りの最中。恋人のフロイドが甘ったるい声で呼んできた。たぶん、声の調子から甘えたいのか、構ってほしいのか、そのどちらかもしれない。でも、今は後輩とのメッセージのやり取りの方が優先。
「少し待って、今忙しいの」
あとちょっとね。そうフロイドに言って文字を入力する方に集中する。
トン、ト、ト、ト、トン。それを何度も何度も繰り返してメッセージを送る。すぐに既読が着いて一分、二分、とメッセージを待つとポンと次のメッセージが送られてきた。
ちょっと長いな、と読んでいるソファが沈んで跳ねた。え、と思うと横を見る前に身体に重い別の何かが乗って来た。それが何なのかすぐに理解した。
「ちょっっと! 重い!」
身体が横に倒れるほど図体のデカい恋人が寄りかかって来たというより抱き着いて来た。抱き着くついでに横に倒すような勢いでぐいぐいと体重をかけて来るのだ。
「ちょ、っと、ほんとになに、なんなの?」
「あのさぁ、気づいてる?」
「は? 何よ」
抱き着いて来るフロイドを怪訝に見れば眉がギュッと真ん中に寄った。ギザギザの歯がギッと鳴った気がした。不機嫌な空気がより漂う中、ピコンと音が鳴った気がした。その音に確認しようと手にあるスマホを見ようとしたときだった。
「ダメ」
「あっ、ちょっと!」
大きな手が手の中にあるスマホを攫って行った。しかも、長い指で横にある電源ボタンを押して切るような動きをした。
「ちょ、なにして」
「もーおしまーい」
言ってポーーンという感じにスマホを投げた。そう。投げた。ザァと血の気が引いた。だって、投げた方角にあるのはカーペットが引かれた床しかないんだから。
「ぇ、ちょッ!」
「何すんのよ」と叫ぶ。それよりも先にスマホの心配をしなければいけない。何せこの間買い替えたばかりの新型なのだから。画面がバキバキになるかもしれない。いや、でも、この時期ならまだ替えられるだろう。ああ、それでも行くのめんどくさい。
そうこう考えている内にスマホが床にゴンと鈍い音を立ててぶつかる音がした。
「落ちた。落ちたわよね、今」
「うん。でも、カーペットあんじゃん」
「バッッカじゃないの! カーペットがあっても衝撃はあるのよ!」
すぐ傍にあるフロイドの耳に響くように叫ぶ。すると、やっぱり声が響いたのかフロイドが「うるせぇ」と低く唸るような声がした。不機嫌な声なのは百も承知だけれどあたしだって新型のスマホの画面が心配でならない。
「確認するから手退けて」
「やだ」
「退いて」
「やだったら、やーだ」
ぐりぐりと甘えるようにさらに抱き着いて来るフロイド。どうしたのよ。普段なら恋人だからってベタベタなんてしてこないのに。ベタベタしたってこうもうちょっと距離があるというか。とりあえず、こんな身体が全部ぴったりになるのは――その、スるときぐらいじゃない。
途端にこの距離間が恥ずかしくなる。そうだ。いつもならここまでくっつくときはシたいときだけ。そういうポーズがこの距離。でも、でも、そういうときはもっと雰囲気が違う。今はだって甘えるときの声で、構ってほしいときの声。シたいときはもっと、こう、本能に訴えかけるようなそんな声をフロイドは出す。だから、今は違う。
違うというのに身体の熱が上がってしまったのは恥ずかしい。
「ぁ、あの、フロイド、ちょっと、ちょっとだけ離れて」
「ぇえ~なんで?」
クスクス笑いながら顔を僅かに上げて覗き込んで来るフロイド。このタイミングで見るのって意地が悪くないか。いや、この恋人は普通に意地悪だから狙ってやっても何らおかしくない。クソ嵌められたのかもしれない。
これが狙いだったのか。ただの甘えだの、構ってほしいだのと考えていた自分の愚かさといったらない。悔しさに襲われていると辛うじてソファの外にあった両足が床から離れた。
完全にソファに押し倒された体勢になった。でも、図体のデカいフロイドにはやっぱり窮屈なのか長い腕も長い足も置き場に困っている。ざまぁみろ。
「なに、その顔?」
「はっ。なによ。いつもの顔よ」
「や。バカにしてんだろ」
垂れ目のおかげか愛嬌のある顔立ちがしかめっ面になる。狭い場所に苛々しているのかもしれない。ウツボの人魚とはいえやっぱり人間の身体では狭苦しいのは嫌なのかしら。とはいえ、フロイドがソファ如きで苛立っているのは面白い。
「ふふっ。無駄に長い手足が仇になったわね。てことで、退いてちょうだい」
「それはやだ」
「はぁ?」
窮屈そうにしている癖に何がイヤだなのか。目尻をつり上げてフロイドの顔を見上げる。だが、そこには変わらず居心地の悪そうなフロイドがいる。何をそこまで意固地になっているのか。意地悪したいならもう成功しているようなしていないよう。そもそも自分自身に意識を向けたいならあたしの意識はもう完全にフロイドだ。
「……はぁ。一緒に横になりたいならベッドがいいじゃないの?」
ここに拘る理由は何なのかしら。そう恥ずかしさもなく誘えばフロイドの視線が外れて何か考えるように唸る。すると、ふるふると首を横に振った。その拍子に綺麗なピアスが揺れた。フロイドの兄弟であるジェイドも着けているけれど本当に綺麗なピアスだ。いいなと何度か思うこともあるし、今もいいなって思う。
「いいわよね。このピアス。ほんとに綺麗」
垂れ下がるピアスに触れて軽くも硬い感触を楽しみながら様々な角度で輝くのを楽しむ。流石にお揃いで欲しいとは思わないけれどいつまでも身に着けていて欲しいなって思う。
「欲しい?」
「ううん。いらないわ。ジェイドとお揃いなんてまっぴらごめん」
言えば、フロイドが「あ、そっか」とお思い出したような声を出した。本当に忘れっぽいと言うか。ジェイド関連のことくらいは忘れないでよと思わなくもない。
「なら今度オレがとっておきのプレゼントする」
「ぇえ? いいわよ」
言いながら何とかあたしの身体に長い腕を絡ませて顔を首に埋めながら言う。あたしは誕生日でも記念日でもないプレゼントは要らない。嬉しいけれど――フロイドは何か対価を要求してきそうでヤダ。
「彼氏からのプレゼントは素直に受け取れば?」
「素直に受け取れないのがあんたっていう彼氏でしょ」
全くと身じろぎすれば動くなとばかりに身体を拘束される。足も何だか動かし辛いのは仕方ないとはいえこのまま寝るにも難しい体勢は早くどうにかしたい。
「ねぇ。この体勢イヤなんだけど」
「何が?」
「疲れるの」
「オレも」
なら離してといいたいところだけど身体に回る腕が一向に離れる気配がない。疲れるならこの体勢やめればいいのに。何なら寝るならやっぱり広いベッドに行けばいいのに。
「いつまでこの体勢でいるつもり?」
「わかんねぇ」
「はぁ」
ぐりぐりと子どもみたいに甘えて来るフロイド。あたしはならこのままでいようと身体の力を初めて抜いた。どうせこの体勢で暴れたとしても無駄に長い手足で押さえつけられて終わりよ。
「あれ? 寝んの?」
「寝ない。ただ、疲れるから節電に入ったの」
あたしの体力はフロイドより少ない。運動できるけれど本当に持久力がない。だから、無駄な体力をこんなことで使いたくなかった。だから節電モード。
「まぁ、体力ねぇもんな。あ、でも寝るのなし」
「寝ないわよ……たぶん」
ちょっとそれに自信はない。だって、この体勢にフロイドのほどよい体温。これで寝るなって結構厳しい。寝落ちしそう。というか、言った傍から瞼が重くなってきた気がする。だけど、寝るなとフロイドが言うなら。
「ちょっとやっぱり寝る。無理」
ぐいっとフロイドの肩を押すと結構あっさりと引いた。それからフロイドが起き上がると同時にぐんっと身体が引き起こされた。
「いきなりやめっ、うわぁっ」
今度は腕を引っ張られてフロイドの方へと身体が軽々と動いてしまう。あっという間にフロイドの膝の上じゃない膝の間に抱き込まれた。
お腹の前に回る長い腕にまた首にぐりぐりとフロイドが頭を押し付けて来る。猫みたい。人魚なのに――猫とか笑える。
「ふっ、ふふっ」
「あ? 何が面白れぇんだよ」
「や、なんか、あんたが猫みたいだなぁって」
「はぁ?」
やっぱり人魚のせいか他の動物に例えられるのが嫌だったみたい。拗ねた声で「猫じゃねぇし」と言い返された。とはいえ、慣れた後の甘えっぷりはやっぱり猫だ。それに密かに見てしまったジェイドがぎこちなく双子の姉妹に甘える姿を思い出す。やっぱり似た者兄弟なのね。
「可愛いからいいじゃない。猫ちゃん」
「それって猫が可愛いからってことでしょ」
「あらあら。その言い方だとあんた自身を可愛いって思わないといけないわけ?」
まぁ心底可愛い人だとは思っている。でも、それを言ったら拗ねそうというか「は?」って顔されるから言わないでいた。
「可愛いって言ってほしいの?」
お望みならば言うわよ。そういう意地の悪さを込めて言えばぐりぐりしていたフロイドの行動がピタリと止んだ。照れるとか恥ずかしいとかそういう感情はないだろうけれど何か琴線に触れたのかもしれない。
機嫌が悪くならなければいいやと後ろのフロイドに寄り掛かる。すると、お腹の前で交差していたフロイドの腕に力が入ってギュッと抱きしめられる。もうなになんて聞かないけれど何だかさっきより背中に触れる身体が熱い気がする。
「なに照れたの?」
「べつにぃ~そうじゃねぇし」
「ならどうしたのよ」
「だから、どうもしねぇってのぉ」
やっぱり拗ねた声というかちょっと照れているときの声に似ている。もしかして可愛いって思ってほしかったのかしら。それとも可愛いって思われていることが意外だったのかしら。どっちにしても今のフロイドは猫とか例える以前に可愛い。
「ふっ、ふふはっ、今のあんた可愛いわね」
「うるせぇな」
怒るぞ、と言いたげな言い方にあたしは笑いが納まらなかった。それに不貞腐れたフロイドが暴れ出すのはもう数秒先のこと。
「ねぇ、ねぇ」
「ん~ちょっと待って」
後輩とのメッセージのやり取りの最中。恋人のフロイドが甘ったるい声で呼んできた。たぶん、声の調子から甘えたいのか、構ってほしいのか、そのどちらかもしれない。でも、今は後輩とのメッセージのやり取りの方が優先。
「少し待って、今忙しいの」
あとちょっとね。そうフロイドに言って文字を入力する方に集中する。
トン、ト、ト、ト、トン。それを何度も何度も繰り返してメッセージを送る。すぐに既読が着いて一分、二分、とメッセージを待つとポンと次のメッセージが送られてきた。
ちょっと長いな、と読んでいるソファが沈んで跳ねた。え、と思うと横を見る前に身体に重い別の何かが乗って来た。それが何なのかすぐに理解した。
「ちょっっと! 重い!」
身体が横に倒れるほど図体のデカい恋人が寄りかかって来たというより抱き着いて来た。抱き着くついでに横に倒すような勢いでぐいぐいと体重をかけて来るのだ。
「ちょ、っと、ほんとになに、なんなの?」
「あのさぁ、気づいてる?」
「は? 何よ」
抱き着いて来るフロイドを怪訝に見れば眉がギュッと真ん中に寄った。ギザギザの歯がギッと鳴った気がした。不機嫌な空気がより漂う中、ピコンと音が鳴った気がした。その音に確認しようと手にあるスマホを見ようとしたときだった。
「ダメ」
「あっ、ちょっと!」
大きな手が手の中にあるスマホを攫って行った。しかも、長い指で横にある電源ボタンを押して切るような動きをした。
「ちょ、なにして」
「もーおしまーい」
言ってポーーンという感じにスマホを投げた。そう。投げた。ザァと血の気が引いた。だって、投げた方角にあるのはカーペットが引かれた床しかないんだから。
「ぇ、ちょッ!」
「何すんのよ」と叫ぶ。それよりも先にスマホの心配をしなければいけない。何せこの間買い替えたばかりの新型なのだから。画面がバキバキになるかもしれない。いや、でも、この時期ならまだ替えられるだろう。ああ、それでも行くのめんどくさい。
そうこう考えている内にスマホが床にゴンと鈍い音を立ててぶつかる音がした。
「落ちた。落ちたわよね、今」
「うん。でも、カーペットあんじゃん」
「バッッカじゃないの! カーペットがあっても衝撃はあるのよ!」
すぐ傍にあるフロイドの耳に響くように叫ぶ。すると、やっぱり声が響いたのかフロイドが「うるせぇ」と低く唸るような声がした。不機嫌な声なのは百も承知だけれどあたしだって新型のスマホの画面が心配でならない。
「確認するから手退けて」
「やだ」
「退いて」
「やだったら、やーだ」
ぐりぐりと甘えるようにさらに抱き着いて来るフロイド。どうしたのよ。普段なら恋人だからってベタベタなんてしてこないのに。ベタベタしたってこうもうちょっと距離があるというか。とりあえず、こんな身体が全部ぴったりになるのは――その、スるときぐらいじゃない。
途端にこの距離間が恥ずかしくなる。そうだ。いつもならここまでくっつくときはシたいときだけ。そういうポーズがこの距離。でも、でも、そういうときはもっと雰囲気が違う。今はだって甘えるときの声で、構ってほしいときの声。シたいときはもっと、こう、本能に訴えかけるようなそんな声をフロイドは出す。だから、今は違う。
違うというのに身体の熱が上がってしまったのは恥ずかしい。
「ぁ、あの、フロイド、ちょっと、ちょっとだけ離れて」
「ぇえ~なんで?」
クスクス笑いながら顔を僅かに上げて覗き込んで来るフロイド。このタイミングで見るのって意地が悪くないか。いや、この恋人は普通に意地悪だから狙ってやっても何らおかしくない。クソ嵌められたのかもしれない。
これが狙いだったのか。ただの甘えだの、構ってほしいだのと考えていた自分の愚かさといったらない。悔しさに襲われていると辛うじてソファの外にあった両足が床から離れた。
完全にソファに押し倒された体勢になった。でも、図体のデカいフロイドにはやっぱり窮屈なのか長い腕も長い足も置き場に困っている。ざまぁみろ。
「なに、その顔?」
「はっ。なによ。いつもの顔よ」
「や。バカにしてんだろ」
垂れ目のおかげか愛嬌のある顔立ちがしかめっ面になる。狭い場所に苛々しているのかもしれない。ウツボの人魚とはいえやっぱり人間の身体では狭苦しいのは嫌なのかしら。とはいえ、フロイドがソファ如きで苛立っているのは面白い。
「ふふっ。無駄に長い手足が仇になったわね。てことで、退いてちょうだい」
「それはやだ」
「はぁ?」
窮屈そうにしている癖に何がイヤだなのか。目尻をつり上げてフロイドの顔を見上げる。だが、そこには変わらず居心地の悪そうなフロイドがいる。何をそこまで意固地になっているのか。意地悪したいならもう成功しているようなしていないよう。そもそも自分自身に意識を向けたいならあたしの意識はもう完全にフロイドだ。
「……はぁ。一緒に横になりたいならベッドがいいじゃないの?」
ここに拘る理由は何なのかしら。そう恥ずかしさもなく誘えばフロイドの視線が外れて何か考えるように唸る。すると、ふるふると首を横に振った。その拍子に綺麗なピアスが揺れた。フロイドの兄弟であるジェイドも着けているけれど本当に綺麗なピアスだ。いいなと何度か思うこともあるし、今もいいなって思う。
「いいわよね。このピアス。ほんとに綺麗」
垂れ下がるピアスに触れて軽くも硬い感触を楽しみながら様々な角度で輝くのを楽しむ。流石にお揃いで欲しいとは思わないけれどいつまでも身に着けていて欲しいなって思う。
「欲しい?」
「ううん。いらないわ。ジェイドとお揃いなんてまっぴらごめん」
言えば、フロイドが「あ、そっか」とお思い出したような声を出した。本当に忘れっぽいと言うか。ジェイド関連のことくらいは忘れないでよと思わなくもない。
「なら今度オレがとっておきのプレゼントする」
「ぇえ? いいわよ」
言いながら何とかあたしの身体に長い腕を絡ませて顔を首に埋めながら言う。あたしは誕生日でも記念日でもないプレゼントは要らない。嬉しいけれど――フロイドは何か対価を要求してきそうでヤダ。
「彼氏からのプレゼントは素直に受け取れば?」
「素直に受け取れないのがあんたっていう彼氏でしょ」
全くと身じろぎすれば動くなとばかりに身体を拘束される。足も何だか動かし辛いのは仕方ないとはいえこのまま寝るにも難しい体勢は早くどうにかしたい。
「ねぇ。この体勢イヤなんだけど」
「何が?」
「疲れるの」
「オレも」
なら離してといいたいところだけど身体に回る腕が一向に離れる気配がない。疲れるならこの体勢やめればいいのに。何なら寝るならやっぱり広いベッドに行けばいいのに。
「いつまでこの体勢でいるつもり?」
「わかんねぇ」
「はぁ」
ぐりぐりと子どもみたいに甘えて来るフロイド。あたしはならこのままでいようと身体の力を初めて抜いた。どうせこの体勢で暴れたとしても無駄に長い手足で押さえつけられて終わりよ。
「あれ? 寝んの?」
「寝ない。ただ、疲れるから節電に入ったの」
あたしの体力はフロイドより少ない。運動できるけれど本当に持久力がない。だから、無駄な体力をこんなことで使いたくなかった。だから節電モード。
「まぁ、体力ねぇもんな。あ、でも寝るのなし」
「寝ないわよ……たぶん」
ちょっとそれに自信はない。だって、この体勢にフロイドのほどよい体温。これで寝るなって結構厳しい。寝落ちしそう。というか、言った傍から瞼が重くなってきた気がする。だけど、寝るなとフロイドが言うなら。
「ちょっとやっぱり寝る。無理」
ぐいっとフロイドの肩を押すと結構あっさりと引いた。それからフロイドが起き上がると同時にぐんっと身体が引き起こされた。
「いきなりやめっ、うわぁっ」
今度は腕を引っ張られてフロイドの方へと身体が軽々と動いてしまう。あっという間にフロイドの膝の上じゃない膝の間に抱き込まれた。
お腹の前に回る長い腕にまた首にぐりぐりとフロイドが頭を押し付けて来る。猫みたい。人魚なのに――猫とか笑える。
「ふっ、ふふっ」
「あ? 何が面白れぇんだよ」
「や、なんか、あんたが猫みたいだなぁって」
「はぁ?」
やっぱり人魚のせいか他の動物に例えられるのが嫌だったみたい。拗ねた声で「猫じゃねぇし」と言い返された。とはいえ、慣れた後の甘えっぷりはやっぱり猫だ。それに密かに見てしまったジェイドがぎこちなく双子の姉妹に甘える姿を思い出す。やっぱり似た者兄弟なのね。
「可愛いからいいじゃない。猫ちゃん」
「それって猫が可愛いからってことでしょ」
「あらあら。その言い方だとあんた自身を可愛いって思わないといけないわけ?」
まぁ心底可愛い人だとは思っている。でも、それを言ったら拗ねそうというか「は?」って顔されるから言わないでいた。
「可愛いって言ってほしいの?」
お望みならば言うわよ。そういう意地の悪さを込めて言えばぐりぐりしていたフロイドの行動がピタリと止んだ。照れるとか恥ずかしいとかそういう感情はないだろうけれど何か琴線に触れたのかもしれない。
機嫌が悪くならなければいいやと後ろのフロイドに寄り掛かる。すると、お腹の前で交差していたフロイドの腕に力が入ってギュッと抱きしめられる。もうなになんて聞かないけれど何だかさっきより背中に触れる身体が熱い気がする。
「なに照れたの?」
「べつにぃ~そうじゃねぇし」
「ならどうしたのよ」
「だから、どうもしねぇってのぉ」
やっぱり拗ねた声というかちょっと照れているときの声に似ている。もしかして可愛いって思ってほしかったのかしら。それとも可愛いって思われていることが意外だったのかしら。どっちにしても今のフロイドは猫とか例える以前に可愛い。
「ふっ、ふふはっ、今のあんた可愛いわね」
「うるせぇな」
怒るぞ、と言いたげな言い方にあたしは笑いが納まらなかった。それに不貞腐れたフロイドが暴れ出すのはもう数秒先のこと。
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