アナタに不似合いなアタシ
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貴方のことを飽きることが出来たなら
最近、彼との電話がすごくつまらない。もう本当につまらない。そして現在進行形そのつまらない電話が耳元で鳴り響いている。いつもだったら不愉快にならない彼の甘ったるいような独特な声が嫌で堪らない。
『ねぇ、聞いてんのぉ?』
「はぁ~い、はぁ~い。聞いていますよぉ」
間延びした声が聞こえてあたしは適当に答える。相手にもそれが伝わったのかフロイドは苛立った声で『はぁ? なに苛ついてんの?』と返してきた。あたしはそれにもっと苛ついた。
「あんたが、あたしに興味のない女の子話してくるからよ。ねぇ、恋愛相談なら他にしてちょうだい。あたし、授業サボってまであんたの恋愛相談なんて聞きたくないの」
一気にまくしたてれば相手がさらに苛だった声を出した。
『恋愛相談ぅ? ばっかじゃねぇの? オレがしているのは小エビちゃんの話だしぃ』
「小エビちゃん、小エビちゃんって、あたし知らないし……ていうか、もういい? 授業の時間終わるから」
『べっつにぃ? オレも飽きたしぃ』
「ちょうどいいじゃない、じゃ」
あたしはそのまま彼の返事を聞かないまま電話を切った。同時に授業の終わりを告げるベルが鳴り響いた。流石に次の授業は出なければ。事情は知らないがプリント頼んでいる友人も最近塞ぎこむことが増えた。これ以上の負担は避けたかった。ちなみに、双子の片割れは何かいいことがあったのか鼻歌が最近鼻についてしょうがない。
双子の姉妹はあたしの好きな人の片割れに恋をしている。その恋が順調に言っているのだろうか。それとも無自覚だった彼女が恋に気づいて浮かれているのだろうか。普段だったら茶化しながら訊くが今は自分の傷を抉りそうで何も聞きたくなかった。
「ああ~~~! これもなにもフロイドの所為よっ!」
完全な八つ当たりだと分かっていても叫ばずにはいられなかった。
好きな人から聞く好意に満ち溢れた話なんて聞きたくない。忌々しげに端末を見つめたあたしは雨水がたまったバケツを見つける。
――ちょうどいいところにあるじゃない。
唇の端を引き継上げてあたしはそのバケツに向かって端末を投げ込んだ。真っ白な制服が濡れたって構いやしなかった。それほどあたしはフロイドの電話から聞いた相手に嫉妬していたのだった。
跳ねた雨水を拭いながら駄目になっていく端末を見下ろす。
「新しいの買って貰わないとね……はぁ」
嫉妬に駆られた心は端末が壊れたことで一気に波が引いていく。そして自嘲する。彼は束縛を嫌うのだ。ならば、あたしのような嫉妬深い女は不釣合いだ。
「ちょうどいいじゃない。そういいじゃない」
これから適当な男でもひっかけてホリデーでも楽しもう。自分のぐちゃぐちゃになった恋心に言い聞かすように痛い鼻の奥を誤魔化すように踵を返した。
* * *
実家に呼ばれて久々に故郷の珊瑚の海に帰る。久々に会った姉は少し気落ちしていたが妹のあたしたちに何も話すことはなかった。あたしの片割れは「なんか今のジェイドとの遊びつまらない」と死んだ目で話してきた。この間の有頂天ぶりはどうしたのよ。それにしても、まだあたしに恋バナは厳禁。
痴話喧嘩は他所でしてよ、と言いながらあたしは家の周りを散歩する。
――ああ! やっぱり人魚の姿で泳ぐの気持ちいい!
人間の姿も色々なファッションが出来て楽しい。けれど、本来生まれた姿で泳ぎ周るときの解放感とはくらべものにならない。
両親は夕方までに帰ってくればいいと言ったのでこのまま泳ぎ続ける。でも、それも疲れてあたしは人気のないでも太陽の日差しが温かいところで一休みすることにした。
年子との女の子が外で昼寝をするなと言われるが気にしない。何せあたしには魔法がある。ならったばかりの防壁魔法を施そうとしたときだった。
「いっ!」
髪の毛が後ろに無遠慮なく引っ張られる激痛が走った。咄嗟に、手を伸ばすとそこに大きな明らかに女ではない手があった。
恐怖に身体が強張りながら何とかすぐに声を出そうとすると――。
「みぃつけた」
間延びした声が聞こえた。その声は普段の幼馴染に対する親しみはない。ぞっと恐怖が背中を這う。引き攣る喉を何とか動かしてあたしは髪を引っ張る男の名を口にする。
「ふ、フロイド」
「なぁんだ。オレのこと忘れたわけじゃねぇんだ」
「いっぁ!」
ぐっともう一度強く後ろに髪を引っ張られる。あまりの強さと海の中ということかあたしの身体は後ろに居るフロイドの方へと動いてしまう。
トンと背中にぶつかったのは確認せずとも分る。彼の身体だ。見えなくても分かる立派に育った身体だ。けれど、あたしはそれにトキメク場合ではない。
引っ張られる痛みで涙が出て来た。
「いっ、やっ、はなしって」
痛い、痛いの、と必死に訴えると少しだけ力が抜けた。それでも髪の毛に彼の手が絡んでいるのは分かる。あたしはこれから彼の気に入らない返答をすればきっと毛根が死ぬ。
「ふっ、な、なに、何よ、フロイド」
涙目になりながら彼の顔を見ずに訊ねると少し力が入った。慌てて動く範囲で彼をなんとか見上げる。そこには想像していた以上に目を見開いたフロイドがいた。
「ど、どうしたの?」
「はぁ? マジでそれ聞いてんの?」
「いッ!」
今まで一番痛い。毛根よ、サヨナラ。ブチブチって実際に言ってるし、さようなら毛根。
「うぅっ、いた、痛いから、やめてッ」
「チッ」
忌々しいというような舌打ちでようやく髪に絡みつく感覚が消えた。あたしはすぐに彼らか離れようとしたが今度は腰に彼の長い、長い腕絡んできた。
「逃げんなよ」
いつもの甘ったるい間延びした声じゃない。低く唸るような声がすぐに耳元でした。圧が籠った声にあたしの身体は固まってしまった。まるで魔法で石化させられたように身体がコチコチだ。
「ふっ、わ、わかったから、な、なに?」
震える声でもう一度尋ねれば彼の口から「あはっ、なぁに怖がってんのぉ」と普段通りの声で指摘されてしまった。
「いくらあたしでも、今のあんたは怖いのよ」
「どこがぁ?」
「どこもかしこもよ」
身体に回っていた長い腕に力が入った。ご機嫌を損ねたことを分かるが言わないとフロイドは分からない。
「フロイド。何に怒っているのよ」
「……マジでわかんねぇの?」
長身を生かして顔を覗き込んで来るフロイドの表情に目が丸くなる。
フロイドが拗ねている。怒って瞳孔が開いているのかと思えばそうではない。拗ねている。ジェイドが珍しくあたしの片割れを構っているときや、アズールが姉さまに取られているときに何度か見たことがある。何故、そういうときにしか見せない表情をしているのだろうか。
「どうしたのよ、フロイド」
ぎちぎちに抱きしめられている中でなんとかフロイド側を向く。まだ膨れっ面の彼を不思議に見上げる。
「お前さぁ、何で電話してもでない訳?」
「電話?」
「そう。最近全然でないじゃん」
目を眇めるフロイドにあたしは自分が端末を買い替えたことを思い出す。フロイドへの想いを断ち切りたくて新しい端末に彼の番号は登録していない。しかも、登録していない番号は着信拒否設定している。つまり、あたしの端末にフロイドから電話がかかって来たとしても出られない。そもそも電話番号自体変えたのに――。
「あ、ジェイドから聞いたの?」
もっと詳しく言えばあたしの片割れから新しい番号を聞いたのかもしれない。と、推測を立てていたが。
「ぐっ。ちょ、くるしっ」
「お前、オレに絞められたいのぉ?」
ゾッとするほど低い声で彼が囁くと腕の力も、いつの間にか下半身にまで彼の長い尾が回っていた。これは冗談じゃない。
「ふ、フロイドっ」
苦しげに名を呼ぶと少しだけ力が緩んだ。でも、すぐにあたしは彼に絞められる状態だ。冷や汗は海の中でも出るのかと考えつつ彼の切れるポイントを探るが――。
「なんで、怒ってんのよ」
「チッ。まだわかんねぇの?」
「……分からないわよ」
言葉が全く足りない彼に苛立ちげに言い返す。もう絞められているのだからどうとでもなれ。
「あんたに新しい番号教えようが教えまいがあたしの勝手でしょ」
「でも、オレたちトモダチじゃん」
「はっ、腐れ縁よ。ていうか、アズールにも、ジェイドにも教えていないのよ。察しなさいよ」
「なにぉ?」
今度はあたしが盛大な舌打ちをした。それから彼をすごんで見せてずっと溜めこんでいた言葉を放つ。
「あんたの小エビちゃん談義にうんざりしていたのよ」
半分以上が本音。あたしは見ず知らずの異世界から来たと言う子に嫉妬しているのだ。あの双子の――フロイドの心を離して病まないその子が憎たらしい。
醜い感情に口に出してあたしは嫌になる。自己嫌悪に陥っていると「あはっ」と笑い声が聞こえた。
「なぁんだよ。お前、小エビちゃんに嫉妬してんの」
愉快気な顔にあたしのボルテージが一気にあがった。この男にとっては愉快な話かもしれないがあたしにとっては違う。けれど、ここで嫉妬しているなんて負けた気分だ。
「嫉妬。そうね。嫉妬よ。あたしの一番の友達のフロイドが取られた気分でね。つまらないし、嫉妬していたのよ」
決して恋心とは言ってやらない。あくまで友達としてフロイドが取られたという体で言う。それでも結構清々しい気分だ。言葉は違うけど優越感をぶち壊されたことを言えたことはいい。
すっきりとしたあたしは自分の身体に絡みつく長い腕を叩く。
「そろそろ離してよ」
ねぇ、フロイドと彼の顔を見ると彼はとびっきりの笑顔を浮かべていた。
「な、何よ。その笑顔。気持ち悪いわね」
「ひっでーなぁ。ま、いいけど」
「なら、離して」
上機嫌なら離してくれるだろうと期待したがとてもいい笑顔で「やだ」と拒否された。
「なぁなぁ。このままジェイドたちのところ行こーぜ」
「……は! このままっ!」
「そ。このままぁ」
冗談はよしてほしい。嫌だと必死に訴えても彼は一向に話す気配がない。寧ろ彼の長い身体が何故か私の身体にしつこく絡んで来る。その肌を撫でるよう感触にぞわぞわと肌に粟立ち、同時にとても恥ずかしい気持ちになった。
「や、やめて。フロイド」
彼が執拗に絡み合う度に自分の鱗の下半身と鱗がない彼の柔らかい下半身が擦れる。これはとても、とてもイケナイ。
もう一度やめてと口を開けると「ぁっ」とすごく恥ずかしい声が出てしまった。咄嗟に口を押える。途端に身体中が熱くなった。
――ああ、もうヤダっ。
じわっと目尻に涙が込み上げると身体中に絡みついていた感触がなくなった。その束縛に少し惜しい気持ちがするがあたしは勢いよく離れる。口を押えたままフロイドを振り向けばやはり機嫌良さそうに目を細めている。
「も、もう帰るわ」
「いいよぉ~。あ、でもその前に番号教えてよぉ」
「分かったわよ!」
やけくそに叫んだあたしは嬉しいような、辛い気分が綯交ぜになった。
こうしてあたしはまた彼と電話をする日々がまた始まった。
**設定(仮)**
夢主(女主人公)
フロイドと同い年の女の子。別の女子校の魔法士養成学校に通っている。三つ上の姉、双子の姉妹がいる。フロイドのことが好きで、彼の興味を引く異世界から来た子に嫉妬している。フロイドと和解したあとでもやはり面白くない存在。嫉妬深いことは認識している。音楽一家のお嬢様な人魚。
フロイド
夢主とは仲の良い友達だと思っている(当社比)。小エビちゃんが面白いことを知ってほしくて話していたら切れられた。暫く連絡取れなくて無性に苛々していたらジェイド情報で実家に帰っていることを突き止めて突撃。その後、仲直り出来たと思っているし、また尾びれ絡ませたいなって思ってる。
最近、彼との電話がすごくつまらない。もう本当につまらない。そして現在進行形そのつまらない電話が耳元で鳴り響いている。いつもだったら不愉快にならない彼の甘ったるいような独特な声が嫌で堪らない。
『ねぇ、聞いてんのぉ?』
「はぁ~い、はぁ~い。聞いていますよぉ」
間延びした声が聞こえてあたしは適当に答える。相手にもそれが伝わったのかフロイドは苛立った声で『はぁ? なに苛ついてんの?』と返してきた。あたしはそれにもっと苛ついた。
「あんたが、あたしに興味のない女の子話してくるからよ。ねぇ、恋愛相談なら他にしてちょうだい。あたし、授業サボってまであんたの恋愛相談なんて聞きたくないの」
一気にまくしたてれば相手がさらに苛だった声を出した。
『恋愛相談ぅ? ばっかじゃねぇの? オレがしているのは小エビちゃんの話だしぃ』
「小エビちゃん、小エビちゃんって、あたし知らないし……ていうか、もういい? 授業の時間終わるから」
『べっつにぃ? オレも飽きたしぃ』
「ちょうどいいじゃない、じゃ」
あたしはそのまま彼の返事を聞かないまま電話を切った。同時に授業の終わりを告げるベルが鳴り響いた。流石に次の授業は出なければ。事情は知らないがプリント頼んでいる友人も最近塞ぎこむことが増えた。これ以上の負担は避けたかった。ちなみに、双子の片割れは何かいいことがあったのか鼻歌が最近鼻についてしょうがない。
双子の姉妹はあたしの好きな人の片割れに恋をしている。その恋が順調に言っているのだろうか。それとも無自覚だった彼女が恋に気づいて浮かれているのだろうか。普段だったら茶化しながら訊くが今は自分の傷を抉りそうで何も聞きたくなかった。
「ああ~~~! これもなにもフロイドの所為よっ!」
完全な八つ当たりだと分かっていても叫ばずにはいられなかった。
好きな人から聞く好意に満ち溢れた話なんて聞きたくない。忌々しげに端末を見つめたあたしは雨水がたまったバケツを見つける。
――ちょうどいいところにあるじゃない。
唇の端を引き継上げてあたしはそのバケツに向かって端末を投げ込んだ。真っ白な制服が濡れたって構いやしなかった。それほどあたしはフロイドの電話から聞いた相手に嫉妬していたのだった。
跳ねた雨水を拭いながら駄目になっていく端末を見下ろす。
「新しいの買って貰わないとね……はぁ」
嫉妬に駆られた心は端末が壊れたことで一気に波が引いていく。そして自嘲する。彼は束縛を嫌うのだ。ならば、あたしのような嫉妬深い女は不釣合いだ。
「ちょうどいいじゃない。そういいじゃない」
これから適当な男でもひっかけてホリデーでも楽しもう。自分のぐちゃぐちゃになった恋心に言い聞かすように痛い鼻の奥を誤魔化すように踵を返した。
* * *
実家に呼ばれて久々に故郷の珊瑚の海に帰る。久々に会った姉は少し気落ちしていたが妹のあたしたちに何も話すことはなかった。あたしの片割れは「なんか今のジェイドとの遊びつまらない」と死んだ目で話してきた。この間の有頂天ぶりはどうしたのよ。それにしても、まだあたしに恋バナは厳禁。
痴話喧嘩は他所でしてよ、と言いながらあたしは家の周りを散歩する。
――ああ! やっぱり人魚の姿で泳ぐの気持ちいい!
人間の姿も色々なファッションが出来て楽しい。けれど、本来生まれた姿で泳ぎ周るときの解放感とはくらべものにならない。
両親は夕方までに帰ってくればいいと言ったのでこのまま泳ぎ続ける。でも、それも疲れてあたしは人気のないでも太陽の日差しが温かいところで一休みすることにした。
年子との女の子が外で昼寝をするなと言われるが気にしない。何せあたしには魔法がある。ならったばかりの防壁魔法を施そうとしたときだった。
「いっ!」
髪の毛が後ろに無遠慮なく引っ張られる激痛が走った。咄嗟に、手を伸ばすとそこに大きな明らかに女ではない手があった。
恐怖に身体が強張りながら何とかすぐに声を出そうとすると――。
「みぃつけた」
間延びした声が聞こえた。その声は普段の幼馴染に対する親しみはない。ぞっと恐怖が背中を這う。引き攣る喉を何とか動かしてあたしは髪を引っ張る男の名を口にする。
「ふ、フロイド」
「なぁんだ。オレのこと忘れたわけじゃねぇんだ」
「いっぁ!」
ぐっともう一度強く後ろに髪を引っ張られる。あまりの強さと海の中ということかあたしの身体は後ろに居るフロイドの方へと動いてしまう。
トンと背中にぶつかったのは確認せずとも分る。彼の身体だ。見えなくても分かる立派に育った身体だ。けれど、あたしはそれにトキメク場合ではない。
引っ張られる痛みで涙が出て来た。
「いっ、やっ、はなしって」
痛い、痛いの、と必死に訴えると少しだけ力が抜けた。それでも髪の毛に彼の手が絡んでいるのは分かる。あたしはこれから彼の気に入らない返答をすればきっと毛根が死ぬ。
「ふっ、な、なに、何よ、フロイド」
涙目になりながら彼の顔を見ずに訊ねると少し力が入った。慌てて動く範囲で彼をなんとか見上げる。そこには想像していた以上に目を見開いたフロイドがいた。
「ど、どうしたの?」
「はぁ? マジでそれ聞いてんの?」
「いッ!」
今まで一番痛い。毛根よ、サヨナラ。ブチブチって実際に言ってるし、さようなら毛根。
「うぅっ、いた、痛いから、やめてッ」
「チッ」
忌々しいというような舌打ちでようやく髪に絡みつく感覚が消えた。あたしはすぐに彼らか離れようとしたが今度は腰に彼の長い、長い腕絡んできた。
「逃げんなよ」
いつもの甘ったるい間延びした声じゃない。低く唸るような声がすぐに耳元でした。圧が籠った声にあたしの身体は固まってしまった。まるで魔法で石化させられたように身体がコチコチだ。
「ふっ、わ、わかったから、な、なに?」
震える声でもう一度尋ねれば彼の口から「あはっ、なぁに怖がってんのぉ」と普段通りの声で指摘されてしまった。
「いくらあたしでも、今のあんたは怖いのよ」
「どこがぁ?」
「どこもかしこもよ」
身体に回っていた長い腕に力が入った。ご機嫌を損ねたことを分かるが言わないとフロイドは分からない。
「フロイド。何に怒っているのよ」
「……マジでわかんねぇの?」
長身を生かして顔を覗き込んで来るフロイドの表情に目が丸くなる。
フロイドが拗ねている。怒って瞳孔が開いているのかと思えばそうではない。拗ねている。ジェイドが珍しくあたしの片割れを構っているときや、アズールが姉さまに取られているときに何度か見たことがある。何故、そういうときにしか見せない表情をしているのだろうか。
「どうしたのよ、フロイド」
ぎちぎちに抱きしめられている中でなんとかフロイド側を向く。まだ膨れっ面の彼を不思議に見上げる。
「お前さぁ、何で電話してもでない訳?」
「電話?」
「そう。最近全然でないじゃん」
目を眇めるフロイドにあたしは自分が端末を買い替えたことを思い出す。フロイドへの想いを断ち切りたくて新しい端末に彼の番号は登録していない。しかも、登録していない番号は着信拒否設定している。つまり、あたしの端末にフロイドから電話がかかって来たとしても出られない。そもそも電話番号自体変えたのに――。
「あ、ジェイドから聞いたの?」
もっと詳しく言えばあたしの片割れから新しい番号を聞いたのかもしれない。と、推測を立てていたが。
「ぐっ。ちょ、くるしっ」
「お前、オレに絞められたいのぉ?」
ゾッとするほど低い声で彼が囁くと腕の力も、いつの間にか下半身にまで彼の長い尾が回っていた。これは冗談じゃない。
「ふ、フロイドっ」
苦しげに名を呼ぶと少しだけ力が緩んだ。でも、すぐにあたしは彼に絞められる状態だ。冷や汗は海の中でも出るのかと考えつつ彼の切れるポイントを探るが――。
「なんで、怒ってんのよ」
「チッ。まだわかんねぇの?」
「……分からないわよ」
言葉が全く足りない彼に苛立ちげに言い返す。もう絞められているのだからどうとでもなれ。
「あんたに新しい番号教えようが教えまいがあたしの勝手でしょ」
「でも、オレたちトモダチじゃん」
「はっ、腐れ縁よ。ていうか、アズールにも、ジェイドにも教えていないのよ。察しなさいよ」
「なにぉ?」
今度はあたしが盛大な舌打ちをした。それから彼をすごんで見せてずっと溜めこんでいた言葉を放つ。
「あんたの小エビちゃん談義にうんざりしていたのよ」
半分以上が本音。あたしは見ず知らずの異世界から来たと言う子に嫉妬しているのだ。あの双子の――フロイドの心を離して病まないその子が憎たらしい。
醜い感情に口に出してあたしは嫌になる。自己嫌悪に陥っていると「あはっ」と笑い声が聞こえた。
「なぁんだよ。お前、小エビちゃんに嫉妬してんの」
愉快気な顔にあたしのボルテージが一気にあがった。この男にとっては愉快な話かもしれないがあたしにとっては違う。けれど、ここで嫉妬しているなんて負けた気分だ。
「嫉妬。そうね。嫉妬よ。あたしの一番の友達のフロイドが取られた気分でね。つまらないし、嫉妬していたのよ」
決して恋心とは言ってやらない。あくまで友達としてフロイドが取られたという体で言う。それでも結構清々しい気分だ。言葉は違うけど優越感をぶち壊されたことを言えたことはいい。
すっきりとしたあたしは自分の身体に絡みつく長い腕を叩く。
「そろそろ離してよ」
ねぇ、フロイドと彼の顔を見ると彼はとびっきりの笑顔を浮かべていた。
「な、何よ。その笑顔。気持ち悪いわね」
「ひっでーなぁ。ま、いいけど」
「なら、離して」
上機嫌なら離してくれるだろうと期待したがとてもいい笑顔で「やだ」と拒否された。
「なぁなぁ。このままジェイドたちのところ行こーぜ」
「……は! このままっ!」
「そ。このままぁ」
冗談はよしてほしい。嫌だと必死に訴えても彼は一向に話す気配がない。寧ろ彼の長い身体が何故か私の身体にしつこく絡んで来る。その肌を撫でるよう感触にぞわぞわと肌に粟立ち、同時にとても恥ずかしい気持ちになった。
「や、やめて。フロイド」
彼が執拗に絡み合う度に自分の鱗の下半身と鱗がない彼の柔らかい下半身が擦れる。これはとても、とてもイケナイ。
もう一度やめてと口を開けると「ぁっ」とすごく恥ずかしい声が出てしまった。咄嗟に口を押える。途端に身体中が熱くなった。
――ああ、もうヤダっ。
じわっと目尻に涙が込み上げると身体中に絡みついていた感触がなくなった。その束縛に少し惜しい気持ちがするがあたしは勢いよく離れる。口を押えたままフロイドを振り向けばやはり機嫌良さそうに目を細めている。
「も、もう帰るわ」
「いいよぉ~。あ、でもその前に番号教えてよぉ」
「分かったわよ!」
やけくそに叫んだあたしは嬉しいような、辛い気分が綯交ぜになった。
こうしてあたしはまた彼と電話をする日々がまた始まった。
**設定(仮)**
夢主(女主人公)
フロイドと同い年の女の子。別の女子校の魔法士養成学校に通っている。三つ上の姉、双子の姉妹がいる。フロイドのことが好きで、彼の興味を引く異世界から来た子に嫉妬している。フロイドと和解したあとでもやはり面白くない存在。嫉妬深いことは認識している。音楽一家のお嬢様な人魚。
フロイド
夢主とは仲の良い友達だと思っている(当社比)。小エビちゃんが面白いことを知ってほしくて話していたら切れられた。暫く連絡取れなくて無性に苛々していたらジェイド情報で実家に帰っていることを突き止めて突撃。その後、仲直り出来たと思っているし、また尾びれ絡ませたいなって思ってる。
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