私たち恋愛初心者
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私たち恋愛初心者
夢主視点
特別な友達だと思っていた男の子が私にはいた。「いた」という過去形なのはその男の子は私にとってとっても特別な大好きな人になったから。その「大好き」は友達の枠にはおさまらないものだった。
でも、改めてその男の子の脈を探ってみると望みが薄い。なにせ私に対して男の子はそっけないんだもの。
どうすれば好きになって貰えるか。分からなかった。告白を何度かされたことがあるけれど、自分から告白なんてなかったし。好きな人だって彼が初めてだし。分からないことばかりだった。
私にどうしたら興味を持ってもらえるのか。もとい女の子としてみてくれるのか分からない。どんな人が好みなのか。学校も違うし中々一緒になる時間はない。
頭を抱えてドン詰まりしているときに彼に会う機会があった。そのとき、珍しく私の顔が疲れていると言って来たので――。
「ジェイドとどうやったら恋人になれるか考えていたの」
馬鹿みたいな返答だったと思う。それに珍しく切れ長の目を見開いて驚いた様子を見せた。珍しいと惚けてみていたらジェイドが呆れたように息を洩らす。
「なら僕に告白してみては?」
「いいの?」
「はい」
なんかちょっとおかしい会話だなと後になって思った。とはいえ、もうそのときの私の頭はもう限界だったので〝告白〟してみた。そうしたらいつもと変わらないようなジェイドが「まぁいいですよ」と言ってくれた。
私はそうしてジェイドと恋人関係になった。悩みから解放されたと後に思い返しても彼はどうしてああいったのか分からなかった。
あまりにもひどい顔をしていたから受け入れてくれたのかしら。ありえそうで、ありえなさそう。それにそうだったとしたら一体私は彼にどんな対価を支払えばいいか分からない。
とりあえず何か対価を請求されたときに支払えばいい。私ができることであればいいのだけれど。
こうして私はジェイドと恋人関係となった。
とはいえ、ジェイドが私をどう思っているか分からないので無理はさせられない。それにあの様子だとデートに誘ったところで同好会とかそっちを優先するんだろうと全然期待していなかった。
それでもやっぱりこんな歪な恋人関係でも一緒にいたいという欲が出てくる。だから、ダメもとでデートに誘ってみた。すぐに返事はないだろうとスマホを放置していたら想像よりも早く通知が来た。まぁ、それでも期待はしないないから諦め心地で返信を開いたら。
「いいですよ。いつにしますか?」
と、返されていたの。あまりのことにその下にあった日付に気づくのに少し時間がかかってしまったくらい。でも、これっきりと思った。最初だから、と。
けど、私の想像を裏切ってジェイドは同好会の活動やモストロ・ラウンジのシフトを調整してちゃんと私とデートしてくれた。もちろん、どうしても都合がつかないときは断られるけれど、その次のデートはちゃんとしてくれる。
もうこの驚きを誰かに伝えたくてしょうがなかった。でも、流石に本人には言えないからヴァネッサに話したら「恋人なんだから当たり前でしょ」って言われた。ああ。もうヴァネッサったらフロイド以外に興味がないから。ジェイドこの違いが分からないのね。そう言うと怒られてしまった。でも事実じゃないの。ねぇ。
でも、ヴァネッサが分からないなら姉様もきっと分からない。ならジェイドと腐れ縁というアズールなら分かると思って電話をしたら「ハァ」と呆れたと言わんばかりにため息をつかれて切られた。酷いったらないわ。
誰もジェイドの変化を理解してくれなかった。
他にも変わったところと言えば、私の他愛もない電話やメッセージのやり取りにも付き合ってくれるようになった。これは前までは気分次第という具合だったけれど、今は根気よく付き合ってくれているという雰囲気がある。だって、メッセのラリーは続くし、電話もちゃんと相槌を返してくれるし。これも嬉しくてついつい話し込んでしまうけれど、今はもちろん気を付けているつもり……たぶんできているはず。
「ここまで考えるとだいぶ私の方が良くしてもらっているわね」
改めてジェイドの恋人になる前となった後のことをノートに纏めてみた。すごい変化。こんなに変わっているのになんで皆心配しないのかしら。
そもそもジェイドもジェイドよ。こんなに私に尽くしてどうするつもりなのかしら。いったいどんな見返りを求めるのかしら。それともこんなに私に時間を費やしてまで欲しいものって何なのかしら。
「それにしても……」
ここまで尽くされてしまうとつい本気にしてしまう。けど、本気にさせないというかギリギリのところで留まれることがある。
ジェイドの表情は恋人前後でもまぁったく変わっていない。ツンとした表情のままだし、態度も前と変わらないわね。だから、ジェイドが〝本気〟ではないと言うのが分かる。
「本気じゃないかぁ」
自分で言っていてちょっと落ち込む。落ち込むたびに結構自分がジェイドのことが好きなんだと認識する。いいことか悪いことか。たぶん、よくない。だって、こうして〝恋人のふり〟だと分かっているのにやっぱり嬉しいから。
「危ないわ」
ほわほわした気持ちから我に返って「危ない、危ない、」と繰り返しながらやっぱり悲しくなる。フリだって分かっているのにあの行動の変わりように期待している自分がいたってことよね。
「これからどうしよう……」
2年生も半ばを過ぎてついこの間春休みを終えた。ここからあっという間に学年末を迎える。毎年恒例ナイトレイブンカレッジとロイヤルソードアカデミーの学園対抗が終われば夏休みを迎える。するとあっという間に3年生だ。お互い益々忙しくなるだろうし、今より会えなくなるかもしれない。
「でも……」
もう少しだけと、意地汚い私の願望が出てきてしまう。
「あと、少しだけ……」
カタン、とあっさり私の中にある欲の天秤が傾いた。なんてひどい女なんだろう。
結局、自分自身の感情を優先してしまった。罪悪感の針にチクチクと攻撃されるけれど、私は無視をした。
でも、その罰が当たったのだろうか。数日後、賢者の島で有名になっているポップコーンで有名なダイナーに友だちと行った帰り、黒い制服の集団を見かけた。
この街にいる黒い制服集団はナイトレイブンカレッジ以外にいない。ついでに、見覚えのあるターコイズブルーの髪色が見えた。周りからひとつ分頭が飛びぬけている。背筋の良さも相まってすぐにジェイドだと気付いたときに私は別のことにも気づいた。
――あんなに楽しそうなんだ。
アズールやフロイドといるときもジェイドはとても楽しそうにしている。でも、他のナイトレイブンカレッジの学生さんともいても同じくらい楽しそう。
私はそんな姿を知らない。そうよ。いつもツンとしたお澄まし顔のジェイドしかしらないんだから。
カタンと天秤が傾くような音がした。
「自分勝手すぎたわね……」
やっぱり相手の感情を無視するのはよくない。ほんとうによくないんだと胸に刻んだ。
その日、寮に返ってすぐに私は夏休みの予定を急いで立て直した。そして、すぐにジェイドに「旅行に行かない?」というメッセージを送った。
優しい恋人をちゃんとこなしてくれているジェイドからはすぐに返事があった。予定を組み直すのでもう少し時間がほしい、と。私は「もちろん」と返した。
次の日には予定を組み直したジェイドから返事が来た。その日付を見てひとり頷いて行先を送った。それに彼は特に問題がないことを伝えてくれた。
こうして無事にジェイドを解放する日が決まった。