可愛い恋人と特別ショコラ
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【 1 】
魔法士養成学校に在籍している生徒は何かと忙しい。とくにレベルの高い学校は学業以外にイベントに、部活の大会に、他の養成学校との交流会など予定が詰まっている。なかなかハードな学生生活。
私もそこそこってところよね。
一応、名門と言われている養成学校に通って私もそれなりに忙しい。でも今日は違う。忙しそうにしているのは二大名門のひとつナイトレイブンカレッジの生徒たち。そんな中、私は悠々とコロシアムに繋がる道を歩いていく。
メインストーリーにはたくさんの出店が並んでいる。賢者の島の麓の街に出ているお店だけじゃなくて各国で有名なお店も出張してきている。食べ物だけではなく小物もたくさんあってみているだけでも楽しい。
冷やかしのように店先を覗き込んでいるとひと際賑わっているお店があった。
「なにかしら……」
気になって近づけば甘い香りが鼻を擽る。
……お菓子かしら?
香りに誘われるように近づいて見てそのお店の名前を見て賑わっていることに「なるほど」と納得した。お店は麓の街にある老舗パティスリー『ボンボン・ルセット』の出張店舗だった。とはいえ、これは珍しい。
どれどれと列の合間から商品を見てみる。すると、可愛いパッケージのお菓子が陳列されているのが見えた。
あら。あれって――ふふ♪
ちょうどいいプレゼントが見つかったわ!
いそいそと長くなり始めた列に並ぶことにした。ちょっと時間はかかると思うけれど、今の時間に会いに行ったところで忙しくて碌に相手をしてくれにないだろう。きっと、ここでプレゼントを買えた頃がちょうどいいだろう。
「何にしようかなぁ~」
スマホを取り出してお店のマジカメアカウントを見てみる。そこには出張店舗の情報がしっかり載せられていた。商品たちの写真も一枚一枚あってみてみることにした。
どれも可愛いらしい商品で目移りしてしまう。今日以降は麓の街の方でも販売するらしいけれど、いつも人気なお店だからこれ以上に並ぶかもしれない。
考えながら商品たちの写真を一枚、一枚、吟味する。もう全種類買ってもいいかもしれない、けれどジェイドにプレゼントするのはやっぱり〝コレ〟がいいかしら。
うんうん、と一人頷きながら他の商品も見てみる。すでに売られているロングセラー商品や、出張店舗用の限定パッケージなど他の商品にも目移りしてしまいそうになる。
あまり買い過ぎても持てないしなぁ。それでも結局たくさん買いたい商品があった。何とか持ち帰るほどの量で考えているとあっという間に自分の前に回って来た。
「コレくださぁい」
私はお目当ての〝もの〟を指さした。
* * *
ショッパーを揺らしながら鏡舎に入り唯一ゲストが入ることを許されている寮の鏡を潜る。潜るその一瞬、身体が包まれる感覚は面白かった。そして、その感覚も去り目を開けばそこには故郷の珊瑚の海と似たような海が広がっていた。
「すごい……」
透明な膜に触れながらよく見る。海の中に寮があるとは言っていたけれど、すごい。珊瑚の海は人魚や海の中で呼吸するための魔法薬を飲んだ人間しかいない。だから、空気がある空間があるっていうのが新鮮。
まじまじと見ていると私を包む膜がパチンと弾けた。
「あ、もう寮の中?」
辺りを見渡せばしっかりと空気がある空間だった。
左右見回しながら歩き出す。マジカメで散々見ていたオクタヴィネル寮。実際そこを歩いているというのがまだちょっと現実感が薄い。
ほんとうに寮の中なんだなぁ、と歩き出すと反対側から数人の女の子が歩いて来る。
彼女たちの表情がキラキラとしているところを見るにカフェからの帰りなのだろう。
まぁなんて可愛いらしいの。
ナイトレイブンカレッジは素敵な生徒が多い。だから、こういう外部の人が入れるイベントは大人気だ。今年度からオクタヴィネル寮に〝モストロ・ラウンジ〟というカフェができてから寮の中にも入れるとすごい話題になっていた。
今日も大繁盛なんでしょうねぇ。アズールのにこやかな笑みが脳裏に浮かぶ。
と、なるともしかして今モストロ・ラウンジに行っても相手にされないかも。いつも以上に適当にあしらわれてしまうかも。でも、稼ぎ時の今は仕方ないでしょうね。
「コレ、渡せるかしら?」
せっかく選んだプレゼントを見下ろす。もしかしたら会えないかも。そしたらこのプレゼントどうしようかしら。持って帰るのもいいけれど――あ。
「会わせてもらえない可能性もあるかしら……?」
彼がナイトレイブンカレッジの生徒の中でも注目されている生徒であることを思い出す。ジェイドは紳士的だから声もかけやすいわよね。
そんな人気な生徒に会わせてほしいって言って取り次いでもらえるわけないわよね。これはしくった。考えていなかった。あ~ジェイドにいつ頃行くか連絡しておけばよかったぁ。
「わぁ……」
メッセージを送らなかったことを後悔していたら目的地に辿り着いてしまったが――これは想定外。
カフェにたくさんの人が並んでいる。しかもほとんど女の子。在学生らしい男の子もいるけれど、なんか肩身が狭そうにしているくらい。女の子が多い。
「ジェイドに会えるのかしら?」
思わず肩の力が抜ける。とはいえ、この列を無視して入店はできない。そんな常識知らずの行動を起こすつもりはない。
とりあえず長蛇の列に並ぶ、そして見てもらえるか分からないけれどジェイドにメッセージも送っておく。
ん~無理よねぇ。
この忙しさじゃ、ともう一度心の中で呟いてスマホをしまう。それからぼんやりとガラスの向こう側の海を眺め続けた。
「お客様はこちらへ」
「ん?」
順番になって店内に入ると微笑みを浮かべる式典服を着たスタッフさんにそう告げられた。どういう意味か訊ねようとしたけれど、スタッフさんは忙しいのか私の反応を気にすることなく案内を始める。よく分からないが、立ち止まっている時間が惜しい。私は黙ってスタッフさんに着いて行くことにした。
黙ってついて行くとスタッフさんは奥へと進んで行き明らかに個室と言える部屋の扉を開いた。
スタッフさんに中に入るように勧められるので素直に入ることにした。個室だからホールとは違う雰囲気ではあるけれど、この空間は何だか商談をする場所という風に感じる。
ソファに座るように勧められ大人しく座るとスタッフさんが魔法でメニュー表を召喚した。
「すぐにジェイド副寮長がいらっしゃると思いますが、何かご注文がありましたらいつでもお呼びください」
「あ、来るんだ」と思いながら「はい」としおらしく答えておく。
案内をしてくれたスタッフさんはにこやかに微笑んでそのまま部屋を出て行った。
メニューを手にしたまま部屋を見渡す。
モストロ・ラウンジの内装はマジカメで散々見ていた。紳士的な寮服の雰囲気に会う大人びた空間。個室はよりそう感じる空間だった。
一人というのはありがたいけれど妙に落ち着かない。
もう無理だと思っていたジェイドに会えんだもの。嬉しいという気持ちと本当なのかとどこか信じられない気持ちがない交ぜになってもしょうがない。
メニュー表も見ているけれど目が滑っていく。頭に入らない。
浮つく気持ちながらメニュー表を見ていく。とはいえ、これから学校に戻って夕飯を考えると女性限定メニューもちょっと量が多い気がする。するとソフトドリンクがいいかしら。なら、さっき見かけたハイエナの獣人属の子がトレーに乗せていたものでも頼もうかしら。
なんか水色でアイスが乗ってるの。クリームソーダかしら。でも、あれって緑色じゃなかったっけ?
なんてソワソワしていた気持ちが少し落ち着いてメニューを見ていると――。
「随分真剣に選んでいますね」
聞き慣れた声に勢いよくメニューから顔を上げる。
「ジェイド!」
他のスタッフと同じように式典服を着ているジェイドがいた。
本当にすぐ来た。もう終わったのとか色々聞きたいことがあったけれど、それを封じるように視界の端に銀色のトレーを捉えた。
がっくりと気持ちが落ちる。どうやらまだ仕事は終わらないらしい。
「忙しそうね」
「はい。大繁盛のようで安心しました」
上品に微笑みながらどこか疲れた様子を見せるジェイド。これだけ大繁盛なら副寮長の彼も大変なのは想像できる。
やっぱり気軽に来るべきではなかったのかもしれない。私も考えが足りなかったわ。でも、それでもこうして少しでも会えたのは嬉しい。
これならプレゼントをパッと渡して帰った方がいいわね。いや、その前にちゃんと何か頼まないと――なんて考えていたら目の前にアイスが乗った水色の飲み物が置かれた。よく見るとワンポイントにサクランボが乗っている。
思わずジェイドを見上げる。
「私、まだ頼んでいないけれど」
「飲み終わる頃には落ち着くと思うので」
「え?」
どういう意味と思う前に扉をノックする音が聞こえる。ジェイドはそれにすぐに反応して行ってしまう。扉を開いて何かやり取りをしているとおもむろに彼が振り返った。
「あと少しなので待っていてください」
それだけ言うとジェイドは出て行ってしまった。
「え、ぇ~~」
ジェイドが出て行った扉を見て、次に見つめたのはアイスが炭酸飲料に溶け始めたクリームソーダを見下ろす。
「……ほんと?」
思わずポツリと零した私の声にクリームソーダはもちろん答えてくれなかった。
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