傲慢に失いそうになった、恋
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◆ ジェイド視点
ナイトレイブンカレッジを会場に複数の魔法士養成学校との交流会が1週間ほど開催されることになった。その中にはロイヤルソードアカデミーに、ノーブルベルカレッジや彼女が在籍する学校もあった。
交流会では学年ごとにグループに分かれて与えられた課題を行い学年ごとに発表するという至ってシンプルなもの。
同じ学年だが僕と彼女はグループが分かれた。僕自身としては別に感じることはない。ただ交流会前に彼女からは「つまらないわ」という連絡があったくらい。
なんて言っても彼女は僕を見かけるといつも駆け寄ってくる。それは誰と話していても、だ。
現にグループワークを抜けて寮関係の仕事をしようと廊下を歩いていたときだった。
彼女が見知らぬ他校の生徒と話しているのが見えるとすぐに彼女が僕を見つけた。そして、話し相手に何か言うと僕に手を振りながら駆けて来た。
すると話し相手が睨んでくる。睨む瞳には妬みや羨望などが含まれているように見えた。
彼女に恋焦がれた雄 からのそういった類の視線を向けられることにはもう慣れたし、たいしたことはない。
僕を睨むだけしかできない雄 たちの愚かしさを冷めた眼差しで返せば眦が上がる。だが、それだけ。
僕を睨むだけでは彼女を手に入れることなんかできないというのに――。
「ジェイド?」
自分自身に焦がれる相手を置いて僕のもとにやってきた彼女を見下ろす。
もはや話していた相手など露ほど興味がないといった様子。いや、彼女のことだから最初から興味がなかったのだろう。そういう人魚だから。
「何か用ですか」
「用なんかないわよ」
「貴方がいたから来たのよ」と言って笑う彼女に呆れた気持ちが込み上げる。同時に彼女の今の言葉を聞いたらあの雄 はどう思うだろうか。なんてきっとあの雄 は一生知ることはないのだろう。
他校との交流会は続き、彼女がとある生徒と話している場面にまた遭遇した。そして、いつものごとく彼女は僕に気づくが――。
――おや?
彼女は手を降ってくるのみで駆け寄ってくることはなかった。
そして、彼女と話していたであろうナイトレイブンカレッジの生徒が肩越しに振り返る。彼は見覚えのある生徒だった。
確か、ディアソムニア寮の2年生だ。よく美術関係で賞を受賞している生徒だ。
なるほど、彼女とも会話が弾むはずだが……胸にさざ波が起きる。
ふと、その生徒はしばしこちらを見てから彼女に話しかけた。僕に手を降っていた彼女は僕から視線を外して彼を見る。
そのまま談笑を始める彼女と生徒。彼女の視線は僕に戻ることはなかった。
進まない足を無理やり動かす。そして、寮の仕事を終えてグループに合流して課題をこなす。
その間も彼女と生徒の姿が脳裏にこびり付いて離れなかった。胸のさざ波はいつの間にか大きなうねりを生み出していた。
交流会最終日、最後に立食形式の食事会がメインストーリーで行われた。そこでも彼女はまたあの生徒と話していた。
彼女が他人と楽しそうに談笑している姿を見た記憶がない。だって彼女がいつも楽しそうにしているのは僕の前でしか見たことがなかったから。
だのに彼女は僕の前ではないヒトの前で楽しそうに笑っている。そして、僕を探すことなくただ目の前のヒトと談笑している。
大きなうねりが渦に変化していく。
彼女が側に来ないことに身体が落ち着かない。彼女が僕を見ないことに苛立つ。彼女以外の生徒が話しかけてくるのが煩わしい。
煩わしい相手に愛想を浮かべ離れる。落ち着いて食事も出来ず、皿に盛った物が減らない。下手をすればグリムくんにまた取られかねない。
早く食べなくてはと考えていると視界の端に涼やかな色が掠めた。
まだデザートという気持ちではないが、あれは彼女が好んでいたものだ。それを思い出すと自然と手が伸びた。
ゼリーを手にして振り返り、彼女を探そうとしたが――。
「わっ」
振り返ると探そうとした彼女がいた。ずっと離れた場所で楽しげに話していた彼女が目の前にいた。
別の雄 を見ていた彼女の昏い瞳が僕を映している。
渦巻いていた感情が凪いで穏やかになっていく。
「ジェイド?」
首を傾げて見上げるとサラサラ髪が流れる。
初めて触れたいと思った。だがあいにく今は両手が塞がっていて叶わない。
「ふふ。両手いっぱいね」
「ぁ、いや、これはその、」
ゼリーを彼女に差し出す。彼女は長い睫毛に縁どられた瞳を瞬かせる。そして、僕とゼリーを交互に見た。
「……好きでしたでしょう」
「え? 私、教えたかしら?」
その言い方はまるで僕が彼女に興味がないと言いたげな感じであった。
凪いだ感情が僅かに波立つ。
「僕の前でよく食べていたじゃないですか」
嘘。彼女が僕の前で食べていたのは数えるほどしかない。ただいつだかの誰かとの会話でゼリーが好きなことを記憶していただけ。
「そうだったかしら?」
「はい……食べないんですか?」
「あ、ちょうど気になっていたから貰うわ!」
「ありがとう」と彼女は微笑み僕の手からゼリーを受け取る。受け渡す際に革手袋越しに彼女の指が触れた気がした。
革を挟んでいることを惜しく思った自分に信じられない気持ちが生まれる。
一体自分はどうしたのだろうか。波立つ感情に内心戸惑っていると彼女が「またね」と言って立ち去ろうとする。
信じられない彼女の行動に空いた手で細い腕を掴んで引き止める。
「ジェイド?」
心底不思議そうな眼差しを向けてくる彼女に口が動かない。
荒波のような胸騒ぎがする。一体、交流会の期間に何が起きたのだろうか。この交流会で大きな問題はなかったはずだ。
「どこに、行くんですか?」
絞り出したような声がなんだか情けなくなる。
この情けなさは彼女に伝わってしまうだろうか。心臓の音が聞こえてきそうだ。そんな気持ちで固唾をのんで彼女の答えを待っていると――。
「あそこにいる彼とまだ話し足りないから戻るつもりよ」
彼女の瞳から僕が消える。代わりにあの生徒を映す。それが堪らなく嫌だと思うと同時に僕は彼を睨んでしまいそうになった。
――これではあれらと同じになる。
僕自身が愚かな雑魚と。矜持をかき集めてなんてかそれだけは耐えてただ彼を見た。
彼はこちらを見もしていない。気にもしていなかった。それに安心しそうになってまた嫌になる。もうこれでは愚かと見下した雄 と同じフィールドに立っているのと同じだ。
「もしかしてジェイドも話したい?」
「いいえ……」
僕は彼女の腕から手を離した。そして、彼女の背を押すように「楽しんで来てください」と声をかける。それに彼女はいつものように楽しそうに微笑んだ。
「ふふ。そうね。たくさん話してくるわ!」
彼女はあっさりと僕に背を向けて彼へと向かって行った。
遠ざかっていく華奢な背中とさらさら揺れる髪を僕は彼女に恋焦がれる雄たちと同じように見送った。
* * *
ゆっくりと意識が浮上し覚醒していく。ぼんやりとした思考をしているが直前まで見ていた〝夢〟に目元を覆う。
あれは夢ではない学生時代にあった実際の出来事。僕の中ではトラウマになった出来事だ。悪夢と言ってもいいくらい最悪な思い出であるが、アレのお陰で今があるともいう。
目元を覆う手を退かし顔を横に動く。そこには昨夜、熱を分かちあった彼女がいる。
健やかな寝息を零し眠る彼女の寝顔に安心が胸にじんわり広がる。学生時代から変わらない華奢な身体に手を伸ばす。
僕の腕にあっさり包まれる身体をそのまま胸に収め、細い素足に脚を絡める。さらりと学生時代から伸びた彼女の柔らかな髪が手を掠めた。
柔らかな髪を逃さないように指で絡め梳くう。あの時触れることが叶わなかったが、今はいとも簡単に触れられる。そんな距離に彼女がいる。
思うと学生時代の僕と彼女の距離は近くて随分と遠かった。交流会で彼女と彼が近くことがなければ僕は傲慢のまま別れていたに違いない。
あの出来事はトラウマだが感謝している。トラウマになったが――。
胸に抱いた彼女が身動ぎし始める覚醒が近いみたいだ。そっと腕を緩めて長い睫毛を震るわせる彼女の顔覗き込む。
緩やかに上がる瞼は数回瞬きのために上がって下がる。
「――」
彼女の名前を呼ぶと覚醒したばかりの昏い瞳に僕が映る。それがどうしようもなく嬉しくて身を起こして彼女の眦に唇で触れた。
擽ったそうに彼女の長い睫毛が瞬く。
「なぁに? どうしたの?」
寝起き以外が原因の掠れた声で甘く訊ねられる。眦を下げまだ眠たげに蕩けた様子が自然と可愛いと思えた。でも、それを形にするには気恥ずかしく言葉にはできなかった。まだ、素直になれない自分がいる。
「ふっふふ、」
覚醒したらしい彼女が楽しげに笑いだす。
何だと見たら細く白い手が伸びて僕の頭に、いや髪に触れる。
「なんでこんなに寝グセがつくのかしらね、ふふ」
あちらこちらに跳ねているだろう僕の髪を撫でる。それでは自由奔放に跳ねる寝グセがなくならないことを彼女も知っているだろうに。
「相変わらず直らないわねぇ」
楽しそうに言って彼女の手が離れる。
離れていく手が寂しくて追いかけて掴む。華奢な手は小さくて僕の手にすっぽりと包まれてしまう。
「あったかい……まだ寝る?」
包まれた手が動いて指を絡めてくる。甘えるようなそれに応えるように絡める。
「起きます……あなたは?」
「うん。起きる」
言って絡めた指を緩めて離れて行こうとする。それが惜しく追いかけて絡め直す。
「起きるんでしょ」
「はい……けど」
もう少し。あの時離してしまった分を取り戻すように彼女に絡みついた。
ナイトレイブンカレッジを会場に複数の魔法士養成学校との交流会が1週間ほど開催されることになった。その中にはロイヤルソードアカデミーに、ノーブルベルカレッジや彼女が在籍する学校もあった。
交流会では学年ごとにグループに分かれて与えられた課題を行い学年ごとに発表するという至ってシンプルなもの。
同じ学年だが僕と彼女はグループが分かれた。僕自身としては別に感じることはない。ただ交流会前に彼女からは「つまらないわ」という連絡があったくらい。
なんて言っても彼女は僕を見かけるといつも駆け寄ってくる。それは誰と話していても、だ。
現にグループワークを抜けて寮関係の仕事をしようと廊下を歩いていたときだった。
彼女が見知らぬ他校の生徒と話しているのが見えるとすぐに彼女が僕を見つけた。そして、話し相手に何か言うと僕に手を振りながら駆けて来た。
すると話し相手が睨んでくる。睨む瞳には妬みや羨望などが含まれているように見えた。
彼女に恋焦がれた
僕を睨むだけしかできない
僕を睨むだけでは彼女を手に入れることなんかできないというのに――。
「ジェイド?」
自分自身に焦がれる相手を置いて僕のもとにやってきた彼女を見下ろす。
もはや話していた相手など露ほど興味がないといった様子。いや、彼女のことだから最初から興味がなかったのだろう。そういう人魚だから。
「何か用ですか」
「用なんかないわよ」
「貴方がいたから来たのよ」と言って笑う彼女に呆れた気持ちが込み上げる。同時に彼女の今の言葉を聞いたらあの
他校との交流会は続き、彼女がとある生徒と話している場面にまた遭遇した。そして、いつものごとく彼女は僕に気づくが――。
――おや?
彼女は手を降ってくるのみで駆け寄ってくることはなかった。
そして、彼女と話していたであろうナイトレイブンカレッジの生徒が肩越しに振り返る。彼は見覚えのある生徒だった。
確か、ディアソムニア寮の2年生だ。よく美術関係で賞を受賞している生徒だ。
なるほど、彼女とも会話が弾むはずだが……胸にさざ波が起きる。
ふと、その生徒はしばしこちらを見てから彼女に話しかけた。僕に手を降っていた彼女は僕から視線を外して彼を見る。
そのまま談笑を始める彼女と生徒。彼女の視線は僕に戻ることはなかった。
進まない足を無理やり動かす。そして、寮の仕事を終えてグループに合流して課題をこなす。
その間も彼女と生徒の姿が脳裏にこびり付いて離れなかった。胸のさざ波はいつの間にか大きなうねりを生み出していた。
交流会最終日、最後に立食形式の食事会がメインストーリーで行われた。そこでも彼女はまたあの生徒と話していた。
彼女が他人と楽しそうに談笑している姿を見た記憶がない。だって彼女がいつも楽しそうにしているのは僕の前でしか見たことがなかったから。
だのに彼女は僕の前ではないヒトの前で楽しそうに笑っている。そして、僕を探すことなくただ目の前のヒトと談笑している。
大きなうねりが渦に変化していく。
彼女が側に来ないことに身体が落ち着かない。彼女が僕を見ないことに苛立つ。彼女以外の生徒が話しかけてくるのが煩わしい。
煩わしい相手に愛想を浮かべ離れる。落ち着いて食事も出来ず、皿に盛った物が減らない。下手をすればグリムくんにまた取られかねない。
早く食べなくてはと考えていると視界の端に涼やかな色が掠めた。
まだデザートという気持ちではないが、あれは彼女が好んでいたものだ。それを思い出すと自然と手が伸びた。
ゼリーを手にして振り返り、彼女を探そうとしたが――。
「わっ」
振り返ると探そうとした彼女がいた。ずっと離れた場所で楽しげに話していた彼女が目の前にいた。
別の
渦巻いていた感情が凪いで穏やかになっていく。
「ジェイド?」
首を傾げて見上げるとサラサラ髪が流れる。
初めて触れたいと思った。だがあいにく今は両手が塞がっていて叶わない。
「ふふ。両手いっぱいね」
「ぁ、いや、これはその、」
ゼリーを彼女に差し出す。彼女は長い睫毛に縁どられた瞳を瞬かせる。そして、僕とゼリーを交互に見た。
「……好きでしたでしょう」
「え? 私、教えたかしら?」
その言い方はまるで僕が彼女に興味がないと言いたげな感じであった。
凪いだ感情が僅かに波立つ。
「僕の前でよく食べていたじゃないですか」
嘘。彼女が僕の前で食べていたのは数えるほどしかない。ただいつだかの誰かとの会話でゼリーが好きなことを記憶していただけ。
「そうだったかしら?」
「はい……食べないんですか?」
「あ、ちょうど気になっていたから貰うわ!」
「ありがとう」と彼女は微笑み僕の手からゼリーを受け取る。受け渡す際に革手袋越しに彼女の指が触れた気がした。
革を挟んでいることを惜しく思った自分に信じられない気持ちが生まれる。
一体自分はどうしたのだろうか。波立つ感情に内心戸惑っていると彼女が「またね」と言って立ち去ろうとする。
信じられない彼女の行動に空いた手で細い腕を掴んで引き止める。
「ジェイド?」
心底不思議そうな眼差しを向けてくる彼女に口が動かない。
荒波のような胸騒ぎがする。一体、交流会の期間に何が起きたのだろうか。この交流会で大きな問題はなかったはずだ。
「どこに、行くんですか?」
絞り出したような声がなんだか情けなくなる。
この情けなさは彼女に伝わってしまうだろうか。心臓の音が聞こえてきそうだ。そんな気持ちで固唾をのんで彼女の答えを待っていると――。
「あそこにいる彼とまだ話し足りないから戻るつもりよ」
彼女の瞳から僕が消える。代わりにあの生徒を映す。それが堪らなく嫌だと思うと同時に僕は彼を睨んでしまいそうになった。
――これではあれらと同じになる。
僕自身が愚かな雑魚と。矜持をかき集めてなんてかそれだけは耐えてただ彼を見た。
彼はこちらを見もしていない。気にもしていなかった。それに安心しそうになってまた嫌になる。もうこれでは愚かと見下した
「もしかしてジェイドも話したい?」
「いいえ……」
僕は彼女の腕から手を離した。そして、彼女の背を押すように「楽しんで来てください」と声をかける。それに彼女はいつものように楽しそうに微笑んだ。
「ふふ。そうね。たくさん話してくるわ!」
彼女はあっさりと僕に背を向けて彼へと向かって行った。
遠ざかっていく華奢な背中とさらさら揺れる髪を僕は彼女に恋焦がれる雄たちと同じように見送った。
* * *
ゆっくりと意識が浮上し覚醒していく。ぼんやりとした思考をしているが直前まで見ていた〝夢〟に目元を覆う。
あれは夢ではない学生時代にあった実際の出来事。僕の中ではトラウマになった出来事だ。悪夢と言ってもいいくらい最悪な思い出であるが、アレのお陰で今があるともいう。
目元を覆う手を退かし顔を横に動く。そこには昨夜、熱を分かちあった彼女がいる。
健やかな寝息を零し眠る彼女の寝顔に安心が胸にじんわり広がる。学生時代から変わらない華奢な身体に手を伸ばす。
僕の腕にあっさり包まれる身体をそのまま胸に収め、細い素足に脚を絡める。さらりと学生時代から伸びた彼女の柔らかな髪が手を掠めた。
柔らかな髪を逃さないように指で絡め梳くう。あの時触れることが叶わなかったが、今はいとも簡単に触れられる。そんな距離に彼女がいる。
思うと学生時代の僕と彼女の距離は近くて随分と遠かった。交流会で彼女と彼が近くことがなければ僕は傲慢のまま別れていたに違いない。
あの出来事はトラウマだが感謝している。トラウマになったが――。
胸に抱いた彼女が身動ぎし始める覚醒が近いみたいだ。そっと腕を緩めて長い睫毛を震るわせる彼女の顔覗き込む。
緩やかに上がる瞼は数回瞬きのために上がって下がる。
「――」
彼女の名前を呼ぶと覚醒したばかりの昏い瞳に僕が映る。それがどうしようもなく嬉しくて身を起こして彼女の眦に唇で触れた。
擽ったそうに彼女の長い睫毛が瞬く。
「なぁに? どうしたの?」
寝起き以外が原因の掠れた声で甘く訊ねられる。眦を下げまだ眠たげに蕩けた様子が自然と可愛いと思えた。でも、それを形にするには気恥ずかしく言葉にはできなかった。まだ、素直になれない自分がいる。
「ふっふふ、」
覚醒したらしい彼女が楽しげに笑いだす。
何だと見たら細く白い手が伸びて僕の頭に、いや髪に触れる。
「なんでこんなに寝グセがつくのかしらね、ふふ」
あちらこちらに跳ねているだろう僕の髪を撫でる。それでは自由奔放に跳ねる寝グセがなくならないことを彼女も知っているだろうに。
「相変わらず直らないわねぇ」
楽しそうに言って彼女の手が離れる。
離れていく手が寂しくて追いかけて掴む。華奢な手は小さくて僕の手にすっぽりと包まれてしまう。
「あったかい……まだ寝る?」
包まれた手が動いて指を絡めてくる。甘えるようなそれに応えるように絡める。
「起きます……あなたは?」
「うん。起きる」
言って絡めた指を緩めて離れて行こうとする。それが惜しく追いかけて絡め直す。
「起きるんでしょ」
「はい……けど」
もう少し。あの時離してしまった分を取り戻すように彼女に絡みついた。
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