ジェイド
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たぶん彼女は可愛いのかたまり
「レティシアのどこが可愛いって思う?」
片割れの兄弟から放たれたことは中々に衝撃だった。豊作村で見聞きしたことを纏める手を止めて顎にそっと手を添える。
「なんの流れの会話ですか?」
フロイドの話は左から聞いて右に流していた。重要なことはそれとなく頭に残っているはずだが何も残っていない。そもそもいつ頃部屋に戻って来たのかさえ覚えていない。それほど熱心に豊作村で受けた刺激的な出来事で頭がいっぱいだった。
「なぜ、彼女の名前が出てきたんですか」
「えぇ~説明とかだるいんだけどぉ」
もう片方のベッドを見れば怠そうに部屋着に着替えたフロイドが横になっていた。辺りに脱ぎ散らかした制服に眉を下げながら魔法で片づけてやる。それに「ん。ありがとぉ」と言いながらフロイドはスマホが弄り始める。
「フロイド、話しは終わってませんよ」
「オレの中では終わってんだけど」
もういいでしょと言うように背を向けるフロイドの気まぐれに自然と息が零れる。ジェイドもならともう一度ノートに向かうけれど集中力が途切れてしまった。それから作業に戻ることはできなかった。
* * *
「ジェイド、久しぶり」
「レティ」
「元気にしてた?」
「私は元気よ」と腕を絡めて抱き着いてくる。その様子はいつもと変わりない。
彼女は魔法士養成学校の交流会でナイトレイブンカレッジに来ている。そして、いつもの調子でジェイドの目の前に現れた。
抱き着いて来る彼女を見下ろして数日前に気まぐれに問われたことを思い出す。
――可愛いところか。
聞かれた日からずっと考えているけれど答えは出ない。
レティシアは外見だけ見れば見まごう事なき美少女と呼ばれる部類である。知り合う前のエレメンタリースクールは知らないが、ミドルスクールの頃に幾度か雄に群がられ、雌に疎まれる光景を見たことがあった。そうなるくらいの容姿ではある。
今も交流会に参加している魔法士見習いの男子生徒から視線がチラホラ向けられている。
「ん? なに?」
「いえ……」
ジェイドの視線に上目遣いをして見上げてくる。きっと他の雄はこうして上目遣いで見られる仕草などに可愛さを感じるのだろう。ジェイドのツボではないから感じはしない、が。
さて容姿は一級品であるが性格は……彼女の性格はフロイドほどではないが気まぐれ気質だ。あと、こうと思ったら一直線の猪突猛進なところもある。かといって、ただ愚かな者でもない。頭が回るところもある。とはいっても恋愛は得意でないのか空回りというか斜め上に思考を飛ばしがちだ。お陰でジェイドは中々苦労したのだが、それを彼女は知らない。
「はぁ」
「ちょっとジェイドさっきから何を考えているの?」
「なんでも」
「え~」不満の声を上げて袖を引く彼女を無視して歩き出す。ひっついている彼女が歩きやすい速度で歩いていると「レティシアか?」と男の声がした。
前を見れば見慣れない男子生徒が近づいて来る。制服を見てみればバルガスの母校である魔法士養成学校のものだ。
魔法士養成学校の中でもスポーツに特化している学校の生徒と彼女が一体どんな関わりがあるのか。レティシアの知らない情報にもやっとすると腕に絡みついていた感触がなくなる。
「シリウスじゃない」
彼女のいつもの甘い声ではなく少し作ったような凛とした声で男の名前を呼んだ。久々に取り繕ったというか外面をしているのを見た。そんなレティシアを見てから男を見れば相手は手を挙げて返事をした。
「やぁ。やっぱりレティシアだ」
男はハンサムな顔をさらに輝かさせ一歩前に進み出る。そして、許可を得ることもなく彼女の色白の華奢な手を自然に手に取ると手の甲に唇を触れさせた。
「ッ」
瞬間ゾワッと得も言えぬものが肌を這った。これはロイヤルソードアカデミーの生徒と相対したときのものに近いがそれとは違う怒りのような感情が滲む。
「レティ。この方は?」
ジェイドも彼女の横に並ぶように一歩前に進んですかさず訊ねる。すると、シリウスと呼ばれた男がさも今気づいたというように爽やかな瞳をこちらに向けた。
癪に障る瞳だ、と思いながら顔に出さずいつも通り微笑みを浮かべ見返す。それにシリウスは爽やかな瞳を一瞬見開きカラカラと笑い出す。
「ハハッ! もしかしてこちらさんがレティシアが夢中になっている人か?」
「あら。わかるの?」
「わかるさ! それに今日の君はいつも以上に美しいからな」
「そりゃ恋人に会うんだものいつもより気合が入るわよ」
「そうか、そうか!」
フフンと顎を僅かに上げるレティシアにシリウスが声を上げて笑う。何がそんなに面白いのかというほどこの男は笑っている。そういえばバルガスも何だかんだ声を上げてよく笑っている。もしかしてこの魔法士養成学校の生徒はそういう性質なのか。
「まぁ。俺のハニーもそういう可愛いところがあるからな」
恋人がいたのか。それにしてもなんて甘ったるい呼び方だ。以前カリムに入れてもらった紅茶を飲んで歯が溶けてしまいそうなほどの甘ったるさだ。本当に歯が溶けていないかと尖った歯を思わず舌で撫でる。
「おっとそろそろグループで集まらなければいけない時間だ」
「あら、もうそんな時間?」
「うん。君も早く行った方がいい」
「そうするわ」と返事するレティシアにジェイドも時間の流れの早さを感じる。副寮長を務める自分はグループリーダーも務めている。早く教室に行かないといけない。声をかけようと彼女を見たときだった。
「では、また」
「ええ。またね」
二人の距離が俄かに近くなって顔が重なると「チュッ、チュッ」と軽快なリップ音が聞こえた。それからシリウスは上体を上げてそのまま爽やかに笑って去って行った。
人間生活もとい陸生活二年目となったジェイド。それなりに陸生活に慣れて来たと思うし、人間の文化を身に着けたつもりだ。だが、一体自分が見たものは何だ。
「ジェイド? 貴方も行かなくていいの?」
くいくいと引っ張られる感覚にジェイドは夢から覚めたような心地だった。どうやら今の光景に思考が飛んでいたようだ。
「大丈夫? シリウスのキラキラにやられちゃった?」
「キラキラとは」
「ほら、ナイトレイブンカレッジの人ってロイヤルソードみたいな人苦手でしょ」
シリウスもそうだから。なるほど確かにキラキラしている。だが、キラキラというよりもギラギラしている。バルガスよりは爽やかだけれど確かに苦手なタイプだ。
「彼とは一年生のときの交流会で出会ってね。とっても歌声が素敵なのよ!」
つい一緒に踊りたくなるし、歌いたくなる。楽器も合わせたくなるの。先ほどのよそ行きの態度もすっかりと剥がして楽しげに話すレティシア。
「そうですか」
素っ気なく反応しながらも先ほどの光景も相まって胸の辺りが気持ち悪い。胸やけしているわけではないけれど。気持ち悪さに眉を顰めるとまた「大丈夫?」という心配の声がかけられる。
「平気です……」
「ほんとうに?」
じぃっと心配そうに眉を下げて見上げて来る。何だかいじらしい姿に見えて胸に巣食う靄が薄らいで自然と頬が緩む。
「大丈夫です。ほんとうに平気です」
「そう。でも、無理しないでね」
「はい、はい」
綺麗な頭を撫でると目を細めた彼女の顔が近づいて来る。合わせて屈めば唇に柔らかくて甘い唇が触れる。そのまま唇が小さく吸われて離れていく。
離れると閉じていた彼女の目がパッと開いて昏い瞳がキラキラ輝く。それがまるで悪戯が成功した顔をしている。どうやら自分は悪戯を仕掛けられたらしい。
「ふふ。これで頑張れる?」
「はぁ。貴方がしたかっただけでしょうに」
「それもあるわ」
笑った彼女に今度は自分からしてやろう。もう一度身を屈めたときに先ほどのシリウスとの光景が浮かんだ。
――確か、こうでしたっけ?
ジェイドは屈んで彼がしたようにキスを送った。僅かに離れるとレティシアはくすぐったそうに肩をすくめながら顔を輝かせるのが見えた。
「ふふ。さっきのもしかして嫉妬したの?」
「嫉妬? 僕がですか?」
「うん。ふふ。でもあれは挨拶だから、ふふふっ」
挨拶。あれが。そういう顔をしたからだろうか。彼女は「チークキスよ」と教えてくれた。どうやら頬を合わせて唇を鳴らすだけらしい。輝石の国や歓喜の港に他でも数か国。挨拶の文化としてあるらしい。
「挨拶ですか。距離間の難しそうな挨拶ですね」
「私も最初は驚いたわ」
クスクス笑う彼女にそれでもなお複雑な心境だった。やはりヤキモチしていたからなのだろうか。恋人としては当たり前なのだが素直にヤキモチを焼いたことを認められない。
「ふふ。ジェイドが嫉妬してくれた。うれしいわ」
複雑な心境でもレティシアの嬉しそうな様子に零れそうな溜息を飲み込んだ。
「あなたが嬉しそうで何よりです」
もしかしたらこういうところが可愛いのかもしれない。とはいえ、結局ジェイドの中で明確な言葉になることはなかった。
2024.07.20 一部修正
「レティシアのどこが可愛いって思う?」
片割れの兄弟から放たれたことは中々に衝撃だった。豊作村で見聞きしたことを纏める手を止めて顎にそっと手を添える。
「なんの流れの会話ですか?」
フロイドの話は左から聞いて右に流していた。重要なことはそれとなく頭に残っているはずだが何も残っていない。そもそもいつ頃部屋に戻って来たのかさえ覚えていない。それほど熱心に豊作村で受けた刺激的な出来事で頭がいっぱいだった。
「なぜ、彼女の名前が出てきたんですか」
「えぇ~説明とかだるいんだけどぉ」
もう片方のベッドを見れば怠そうに部屋着に着替えたフロイドが横になっていた。辺りに脱ぎ散らかした制服に眉を下げながら魔法で片づけてやる。それに「ん。ありがとぉ」と言いながらフロイドはスマホが弄り始める。
「フロイド、話しは終わってませんよ」
「オレの中では終わってんだけど」
もういいでしょと言うように背を向けるフロイドの気まぐれに自然と息が零れる。ジェイドもならともう一度ノートに向かうけれど集中力が途切れてしまった。それから作業に戻ることはできなかった。
* * *
「ジェイド、久しぶり」
「レティ」
「元気にしてた?」
「私は元気よ」と腕を絡めて抱き着いてくる。その様子はいつもと変わりない。
彼女は魔法士養成学校の交流会でナイトレイブンカレッジに来ている。そして、いつもの調子でジェイドの目の前に現れた。
抱き着いて来る彼女を見下ろして数日前に気まぐれに問われたことを思い出す。
――可愛いところか。
聞かれた日からずっと考えているけれど答えは出ない。
レティシアは外見だけ見れば見まごう事なき美少女と呼ばれる部類である。知り合う前のエレメンタリースクールは知らないが、ミドルスクールの頃に幾度か雄に群がられ、雌に疎まれる光景を見たことがあった。そうなるくらいの容姿ではある。
今も交流会に参加している魔法士見習いの男子生徒から視線がチラホラ向けられている。
「ん? なに?」
「いえ……」
ジェイドの視線に上目遣いをして見上げてくる。きっと他の雄はこうして上目遣いで見られる仕草などに可愛さを感じるのだろう。ジェイドのツボではないから感じはしない、が。
さて容姿は一級品であるが性格は……彼女の性格はフロイドほどではないが気まぐれ気質だ。あと、こうと思ったら一直線の猪突猛進なところもある。かといって、ただ愚かな者でもない。頭が回るところもある。とはいっても恋愛は得意でないのか空回りというか斜め上に思考を飛ばしがちだ。お陰でジェイドは中々苦労したのだが、それを彼女は知らない。
「はぁ」
「ちょっとジェイドさっきから何を考えているの?」
「なんでも」
「え~」不満の声を上げて袖を引く彼女を無視して歩き出す。ひっついている彼女が歩きやすい速度で歩いていると「レティシアか?」と男の声がした。
前を見れば見慣れない男子生徒が近づいて来る。制服を見てみればバルガスの母校である魔法士養成学校のものだ。
魔法士養成学校の中でもスポーツに特化している学校の生徒と彼女が一体どんな関わりがあるのか。レティシアの知らない情報にもやっとすると腕に絡みついていた感触がなくなる。
「シリウスじゃない」
彼女のいつもの甘い声ではなく少し作ったような凛とした声で男の名前を呼んだ。久々に取り繕ったというか外面をしているのを見た。そんなレティシアを見てから男を見れば相手は手を挙げて返事をした。
「やぁ。やっぱりレティシアだ」
男はハンサムな顔をさらに輝かさせ一歩前に進み出る。そして、許可を得ることもなく彼女の色白の華奢な手を自然に手に取ると手の甲に唇を触れさせた。
「ッ」
瞬間ゾワッと得も言えぬものが肌を這った。これはロイヤルソードアカデミーの生徒と相対したときのものに近いがそれとは違う怒りのような感情が滲む。
「レティ。この方は?」
ジェイドも彼女の横に並ぶように一歩前に進んですかさず訊ねる。すると、シリウスと呼ばれた男がさも今気づいたというように爽やかな瞳をこちらに向けた。
癪に障る瞳だ、と思いながら顔に出さずいつも通り微笑みを浮かべ見返す。それにシリウスは爽やかな瞳を一瞬見開きカラカラと笑い出す。
「ハハッ! もしかしてこちらさんがレティシアが夢中になっている人か?」
「あら。わかるの?」
「わかるさ! それに今日の君はいつも以上に美しいからな」
「そりゃ恋人に会うんだものいつもより気合が入るわよ」
「そうか、そうか!」
フフンと顎を僅かに上げるレティシアにシリウスが声を上げて笑う。何がそんなに面白いのかというほどこの男は笑っている。そういえばバルガスも何だかんだ声を上げてよく笑っている。もしかしてこの魔法士養成学校の生徒はそういう性質なのか。
「まぁ。俺のハニーもそういう可愛いところがあるからな」
恋人がいたのか。それにしてもなんて甘ったるい呼び方だ。以前カリムに入れてもらった紅茶を飲んで歯が溶けてしまいそうなほどの甘ったるさだ。本当に歯が溶けていないかと尖った歯を思わず舌で撫でる。
「おっとそろそろグループで集まらなければいけない時間だ」
「あら、もうそんな時間?」
「うん。君も早く行った方がいい」
「そうするわ」と返事するレティシアにジェイドも時間の流れの早さを感じる。副寮長を務める自分はグループリーダーも務めている。早く教室に行かないといけない。声をかけようと彼女を見たときだった。
「では、また」
「ええ。またね」
二人の距離が俄かに近くなって顔が重なると「チュッ、チュッ」と軽快なリップ音が聞こえた。それからシリウスは上体を上げてそのまま爽やかに笑って去って行った。
人間生活もとい陸生活二年目となったジェイド。それなりに陸生活に慣れて来たと思うし、人間の文化を身に着けたつもりだ。だが、一体自分が見たものは何だ。
「ジェイド? 貴方も行かなくていいの?」
くいくいと引っ張られる感覚にジェイドは夢から覚めたような心地だった。どうやら今の光景に思考が飛んでいたようだ。
「大丈夫? シリウスのキラキラにやられちゃった?」
「キラキラとは」
「ほら、ナイトレイブンカレッジの人ってロイヤルソードみたいな人苦手でしょ」
シリウスもそうだから。なるほど確かにキラキラしている。だが、キラキラというよりもギラギラしている。バルガスよりは爽やかだけれど確かに苦手なタイプだ。
「彼とは一年生のときの交流会で出会ってね。とっても歌声が素敵なのよ!」
つい一緒に踊りたくなるし、歌いたくなる。楽器も合わせたくなるの。先ほどのよそ行きの態度もすっかりと剥がして楽しげに話すレティシア。
「そうですか」
素っ気なく反応しながらも先ほどの光景も相まって胸の辺りが気持ち悪い。胸やけしているわけではないけれど。気持ち悪さに眉を顰めるとまた「大丈夫?」という心配の声がかけられる。
「平気です……」
「ほんとうに?」
じぃっと心配そうに眉を下げて見上げて来る。何だかいじらしい姿に見えて胸に巣食う靄が薄らいで自然と頬が緩む。
「大丈夫です。ほんとうに平気です」
「そう。でも、無理しないでね」
「はい、はい」
綺麗な頭を撫でると目を細めた彼女の顔が近づいて来る。合わせて屈めば唇に柔らかくて甘い唇が触れる。そのまま唇が小さく吸われて離れていく。
離れると閉じていた彼女の目がパッと開いて昏い瞳がキラキラ輝く。それがまるで悪戯が成功した顔をしている。どうやら自分は悪戯を仕掛けられたらしい。
「ふふ。これで頑張れる?」
「はぁ。貴方がしたかっただけでしょうに」
「それもあるわ」
笑った彼女に今度は自分からしてやろう。もう一度身を屈めたときに先ほどのシリウスとの光景が浮かんだ。
――確か、こうでしたっけ?
ジェイドは屈んで彼がしたようにキスを送った。僅かに離れるとレティシアはくすぐったそうに肩をすくめながら顔を輝かせるのが見えた。
「ふふ。さっきのもしかして嫉妬したの?」
「嫉妬? 僕がですか?」
「うん。ふふ。でもあれは挨拶だから、ふふふっ」
挨拶。あれが。そういう顔をしたからだろうか。彼女は「チークキスよ」と教えてくれた。どうやら頬を合わせて唇を鳴らすだけらしい。輝石の国や歓喜の港に他でも数か国。挨拶の文化としてあるらしい。
「挨拶ですか。距離間の難しそうな挨拶ですね」
「私も最初は驚いたわ」
クスクス笑う彼女にそれでもなお複雑な心境だった。やはりヤキモチしていたからなのだろうか。恋人としては当たり前なのだが素直にヤキモチを焼いたことを認められない。
「ふふ。ジェイドが嫉妬してくれた。うれしいわ」
複雑な心境でもレティシアの嬉しそうな様子に零れそうな溜息を飲み込んだ。
「あなたが嬉しそうで何よりです」
もしかしたらこういうところが可愛いのかもしれない。とはいえ、結局ジェイドの中で明確な言葉になることはなかった。
2024.07.20 一部修正
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