ジェイド
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自分だけが知っている彼女の姿
「ねぇねぇ、ジェイド。これってレティシアじゃね?」
「ほら」と言ってフロイドが今の今まで見ていたスマホの画面を顔の前に掲げた。縦長の小さな画面にいっぱいに映っていたのは確かに恋人のレティシアだった。だが、その雰囲気はいつもと違っていた。
暗く死んだような瞳のくせに無邪気に輝かせる瞳は無機質に見えた。透き通るような頬は死人のように生気を感じさせないほど青白い。一瞬本当に死んでしまったのではと思うほどまたは陶器で作られた人形のような彼女が画面にいる。
「姉ちゃんのMV出るって言ってたけどこれだったんだ」
スッと画面が消える。フロイドが引っ込めたからだろうけれどジェイドの視線はその画面があったところから外れない。今の陰鬱とまでいえるほど美しい彼女が忘れられない。普段の無邪気に引っついて好意をアピールしてくる健全だからだろうか。それにしても自分は今の今までその話しを聞いていない。
「フロイドはいつその話を聞いたんですか?」
ピンセットを机に置いてベッドに横になっているフロイドに訊ねる。フロイドはこちらを見ることなく「う~ん。覚えてねぇ」と言う。多分、さして興味がなかったからだろう。ならば、レティシアもそうだったのかもしれない。
「けど、ヴァネッサもそうだけど黙ってっとだいぶ印象変わんね」
「面白れぇ」と言うフロイドにジェイドは濁すような返事しか出来なかった。
その後、テラリウムも作る気も失せてしまった。それほどあの姿の彼女が頭の中に熱烈に刻まれてしまった。同時に他の雄に見られたことが嫌悪感を抱かずにはいられなかった。
* * *
流石真珠のような歌姫と世界に名を広めているレティシアの姉。MVが配信されるや否やたちまち話題となった。さらに曲もそうだがMVも世界チャート一位となった。それもそうだろう。彼女の双子の姉妹が出ているというのだから。姉が絶世の美女なら姉妹もまた美少女とナイトレイブンカレッジでも話題になっている。
とはいえ、ジェイドは彼の歌姫を筆頭に彼女たちの本来の姿を知っているだけに他の皆のように熱が上がることはない。それでも日々耳にする彼女たち話。他二人に対してはアズールやフロイドが聞いたら殺しに行きそうだなと思うだけだ。でもレティシアの話は違う。恋人であるレティシアの話を聞くのは気分が悪かった。今までにないほどの彼女に対する独占欲が初めてジェイドの中で強くなった瞬間だった。けれど、ジェイドはその欲をどう処理するか考えあぐねることとなった。だって、それは初めの抱いた欲だったから。
MVが話題になって暫くレティシアは外に出ることができなかったらしい。出ればすぐに人に声をかけられて大変になっているとか。だから、当分の間デートはなしとしょぼくれて電話してきた。元から姉関連でSNSを中心に情報が出ていたとはいえ今回はシャレにならなかったらしい。
『も~学校にずっと籠って楽しくなぁい』
「お姉さんの影響力を舐めていた貴方が悪いんです」
『そんなぁ……でも、皆ここまで話題にするなんて思わなかったわ』
「貴方って人は」
自分に無頓着すぎる。とはいえ、ジェイドもたまに忘れてしまうがレティシアは傍から見れば美少女なのだ。故郷の珊瑚の海でも美女三姉妹と呼ばれるのだから。付き合いが長い弊害で色々忘れてしまうがレティシアは十分綺麗な女の子なのだ。きっと、ナイトレイブンカレッジ以外の雄共も幻想を抱いて夢想しているに違いない。なんて馬鹿馬鹿しい。
「もうしばらくしたら落ち着くでしょう」
『え~でも、私ジェイドとデートしたいし、手繋ぎたいし、抱き着きたいし、キスしたいし、交尾 したいし』
「最後の方は慎んだ方が?」
『言っておいた方ができる気がするから言っとくの!』
『も~いやぁ~』と画面越しにベソベソするレティシアに優越感が込み上げる。あのレティシアに幻想を抱いて恋い焦がれる雄共は一体今の彼女を見たらどうだろう。
あの鬱蒼とした森で愁いを含んだ顔で佇んでいた少女が恋人一人に執着しているなんて。人形めいた美しい少女が一人の雄に肉欲を向けているなんて想像できるだろうか。いや、しているかもしれないが――結局想像の域はでないだろう。
『ジェイドは寂しくない? 私はすごく寂しいわ』
昏い瞳を涙で潤ませながらこちらを見つめるレティシアに笑みを向ける。瞬間、レティシアは頬を膨らませて拗ねた顔をする。
『わかっているわ。貴方は私と会えなくて――』
「寂しいですよ」
言い切る前に言葉を重ねる。瞬間、拗ねた顔をしていた彼女が瞠目して息を飲んだように見えた。暗い瞳を瞬かせてまじまじとジェイドを見つめて来る。
面白い反応だなと肩を揺らして笑って凝視してくる彼女を見返しながら続ける。
「寂しいです。貴方はお喋りだし面白いですから」
『なんだか複雑な言い方』
「そうですか?」
『うん。でも……ジェイドらしくて好き』
『とっても』レティシアはふやけた顔でうっとりと呟く。こうして愛を囁く姿を見られるのも自分だけで他の雄が彼女と〝番〟にならない限りあり得ない。今後、たぶん他の雄が見ることはないとは思うが。
「ほとぼりが冷めたらデートしましょうね。手も繋ぎましょう。ああ、キスもしたいんでしたっけ――あと交尾 したいんでしたっけ」
『抱き着きたいが抜けているわ』
「そうでした。うーん。抱っこでいいですか?」
『ん。それでいい……』
ゆらゆらとしているレティシアにあと一声かければ耐えられるのだろう。さて、なんて言葉をかけるかと考えるより前に浮かんだ言葉があった。
「レティシア。好きですよ」
だからもう少し我慢してください。そう告げるとまた大きく目を見開いてレティシアの透き通るような頬が熟れ過ぎた林檎のように真っ赤になる。
『は、はじめてじゃない?』
「おや。そうでしたか?」
『うん、そうよ。初めて……ふふ、嬉しいわ』
今まで見たことがないくらいふやける彼女にこっちも恥ずかしくなって来る。それを誤魔化すように咳払いをする。
『ね。ね。もう一度言って?』
「イヤです」
『えー。言ってくれたら我慢できる』
「それでもイヤです」
断固拒否しながらも幸せそうにふにゃふにゃなレティシアを見ると満更でもなくなる。でも、やっぱり言い過ぎるとありがたみはなくなるのは身をもって知ってもいる。
「次は会ったとき言います。それでいいでしょ」
『ッ! ええ、いいわ!』
これでもかと顔を輝かせる彼女が可愛く思えるからきっと自分はもう手放せない。少し前の手を離れていくレティシアを追うことはないと思ったがもう駄目だ。
「次会うとき楽しみにしていますよ」
『私もよ!』
「あ、ちなみに次出るときはあらかじめ言ってくださいね」
でなければ対策など出来やしないのだから。
「ねぇねぇ、ジェイド。これってレティシアじゃね?」
「ほら」と言ってフロイドが今の今まで見ていたスマホの画面を顔の前に掲げた。縦長の小さな画面にいっぱいに映っていたのは確かに恋人のレティシアだった。だが、その雰囲気はいつもと違っていた。
暗く死んだような瞳のくせに無邪気に輝かせる瞳は無機質に見えた。透き通るような頬は死人のように生気を感じさせないほど青白い。一瞬本当に死んでしまったのではと思うほどまたは陶器で作られた人形のような彼女が画面にいる。
「姉ちゃんのMV出るって言ってたけどこれだったんだ」
スッと画面が消える。フロイドが引っ込めたからだろうけれどジェイドの視線はその画面があったところから外れない。今の陰鬱とまでいえるほど美しい彼女が忘れられない。普段の無邪気に引っついて好意をアピールしてくる健全だからだろうか。それにしても自分は今の今までその話しを聞いていない。
「フロイドはいつその話を聞いたんですか?」
ピンセットを机に置いてベッドに横になっているフロイドに訊ねる。フロイドはこちらを見ることなく「う~ん。覚えてねぇ」と言う。多分、さして興味がなかったからだろう。ならば、レティシアもそうだったのかもしれない。
「けど、ヴァネッサもそうだけど黙ってっとだいぶ印象変わんね」
「面白れぇ」と言うフロイドにジェイドは濁すような返事しか出来なかった。
その後、テラリウムも作る気も失せてしまった。それほどあの姿の彼女が頭の中に熱烈に刻まれてしまった。同時に他の雄に見られたことが嫌悪感を抱かずにはいられなかった。
* * *
流石真珠のような歌姫と世界に名を広めているレティシアの姉。MVが配信されるや否やたちまち話題となった。さらに曲もそうだがMVも世界チャート一位となった。それもそうだろう。彼女の双子の姉妹が出ているというのだから。姉が絶世の美女なら姉妹もまた美少女とナイトレイブンカレッジでも話題になっている。
とはいえ、ジェイドは彼の歌姫を筆頭に彼女たちの本来の姿を知っているだけに他の皆のように熱が上がることはない。それでも日々耳にする彼女たち話。他二人に対してはアズールやフロイドが聞いたら殺しに行きそうだなと思うだけだ。でもレティシアの話は違う。恋人であるレティシアの話を聞くのは気分が悪かった。今までにないほどの彼女に対する独占欲が初めてジェイドの中で強くなった瞬間だった。けれど、ジェイドはその欲をどう処理するか考えあぐねることとなった。だって、それは初めの抱いた欲だったから。
MVが話題になって暫くレティシアは外に出ることができなかったらしい。出ればすぐに人に声をかけられて大変になっているとか。だから、当分の間デートはなしとしょぼくれて電話してきた。元から姉関連でSNSを中心に情報が出ていたとはいえ今回はシャレにならなかったらしい。
『も~学校にずっと籠って楽しくなぁい』
「お姉さんの影響力を舐めていた貴方が悪いんです」
『そんなぁ……でも、皆ここまで話題にするなんて思わなかったわ』
「貴方って人は」
自分に無頓着すぎる。とはいえ、ジェイドもたまに忘れてしまうがレティシアは傍から見れば美少女なのだ。故郷の珊瑚の海でも美女三姉妹と呼ばれるのだから。付き合いが長い弊害で色々忘れてしまうがレティシアは十分綺麗な女の子なのだ。きっと、ナイトレイブンカレッジ以外の雄共も幻想を抱いて夢想しているに違いない。なんて馬鹿馬鹿しい。
「もうしばらくしたら落ち着くでしょう」
『え~でも、私ジェイドとデートしたいし、手繋ぎたいし、抱き着きたいし、キスしたいし、
「最後の方は慎んだ方が?」
『言っておいた方ができる気がするから言っとくの!』
『も~いやぁ~』と画面越しにベソベソするレティシアに優越感が込み上げる。あのレティシアに幻想を抱いて恋い焦がれる雄共は一体今の彼女を見たらどうだろう。
あの鬱蒼とした森で愁いを含んだ顔で佇んでいた少女が恋人一人に執着しているなんて。人形めいた美しい少女が一人の雄に肉欲を向けているなんて想像できるだろうか。いや、しているかもしれないが――結局想像の域はでないだろう。
『ジェイドは寂しくない? 私はすごく寂しいわ』
昏い瞳を涙で潤ませながらこちらを見つめるレティシアに笑みを向ける。瞬間、レティシアは頬を膨らませて拗ねた顔をする。
『わかっているわ。貴方は私と会えなくて――』
「寂しいですよ」
言い切る前に言葉を重ねる。瞬間、拗ねた顔をしていた彼女が瞠目して息を飲んだように見えた。暗い瞳を瞬かせてまじまじとジェイドを見つめて来る。
面白い反応だなと肩を揺らして笑って凝視してくる彼女を見返しながら続ける。
「寂しいです。貴方はお喋りだし面白いですから」
『なんだか複雑な言い方』
「そうですか?」
『うん。でも……ジェイドらしくて好き』
『とっても』レティシアはふやけた顔でうっとりと呟く。こうして愛を囁く姿を見られるのも自分だけで他の雄が彼女と〝番〟にならない限りあり得ない。今後、たぶん他の雄が見ることはないとは思うが。
「ほとぼりが冷めたらデートしましょうね。手も繋ぎましょう。ああ、キスもしたいんでしたっけ――あと
『抱き着きたいが抜けているわ』
「そうでした。うーん。抱っこでいいですか?」
『ん。それでいい……』
ゆらゆらとしているレティシアにあと一声かければ耐えられるのだろう。さて、なんて言葉をかけるかと考えるより前に浮かんだ言葉があった。
「レティシア。好きですよ」
だからもう少し我慢してください。そう告げるとまた大きく目を見開いてレティシアの透き通るような頬が熟れ過ぎた林檎のように真っ赤になる。
『は、はじめてじゃない?』
「おや。そうでしたか?」
『うん、そうよ。初めて……ふふ、嬉しいわ』
今まで見たことがないくらいふやける彼女にこっちも恥ずかしくなって来る。それを誤魔化すように咳払いをする。
『ね。ね。もう一度言って?』
「イヤです」
『えー。言ってくれたら我慢できる』
「それでもイヤです」
断固拒否しながらも幸せそうにふにゃふにゃなレティシアを見ると満更でもなくなる。でも、やっぱり言い過ぎるとありがたみはなくなるのは身をもって知ってもいる。
「次は会ったとき言います。それでいいでしょ」
『ッ! ええ、いいわ!』
これでもかと顔を輝かせる彼女が可愛く思えるからきっと自分はもう手放せない。少し前の手を離れていくレティシアを追うことはないと思ったがもう駄目だ。
「次会うとき楽しみにしていますよ」
『私もよ!』
「あ、ちなみに次出るときはあらかじめ言ってくださいね」
でなければ対策など出来やしないのだから。
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