自由の花を貴方へ


自由の花を貴方へ




 熱砂の国の首都の中心には大層立派な宮殿が聳え立っている。ドーム状の屋根にシメントリーな庭園の構造は熱砂の国の伝統的な建造様式。その宮殿の周りにはチラホラ高層ビルが建っている。伝統的様式と近代的なビルが混じる。それが今の熱砂の国の首都である。だが、ビルの周囲は開発が進んではいるが、まだ多くの場所が昔ながらの店が並んでいる。
 王宮のほど近くにわたしの家はある。かつて「預言者」として王族に仕えていたときの功績があっての近さだ。今は当時のような星読みが必要ではないため、そうした意味で王族に仕えていない。父もただの文官に過ぎない。
 ただ我が一族は代々先見の力があるというのか。星読みとしての力が代々受け継がれており、魔力を持った者の多くは先見や予言系のユニーク魔法を発現する。ちなみに現在我が家で魔力があるのは父方の祖母とわたしのみ。そして、魔法と関係あるのか分からないがただの占いもよく当たる。よって、王族の相談役として特別な役職に就くことになっている。
 古臭いというが、当たるものは当たるので重宝されているといえば重宝されている。流石に祖母はもう役職を辞しているが、次はわたしということだ。
 そして、わたしが仕えることになるお方が熱砂の国第一王子ミナジール・ティラージャ様。まだ14歳というのに同い年とは思えないほど大人びた雰囲気を持っていらっしゃるお方。

「ミナジール様。また難しいお顔をしていますね」
「はぁ。しかたねぇだろ。また見合いの話が来たんだよ」

 綺麗な顔をこれでもかと歪める。この顔もすっかりと見慣れてしまったわ。
 ハイスクールを飛び級で合格してからというもの婚約者候補にと見合いなどが絶えない。周りも自由を求めて家出を繰り返すミナジール様に変な虫が着く前に見合ったご令嬢を添えたいのは分からないでもないけれど。
 わたしも周りからそういう占いをしてくれと何度か言われたことがある。さすがにそれはしたくない。それはミナジール様のためでもあるけれど――初恋をミナジール様に捧げたわたしの勝手な思いもあった。

「お疲れ様でございます」
「はぁ。そう言うなら大臣たちに『今はそういう時期ではありません』って言ってくれ」
「さすがに大臣たちに嘘を言うことはできません」

 「申し訳ありません」と告げるとミナジール様はまた深いため息をついて凛々しい眉を眉間に寄せる。

「そもそも俺は勝手に結婚相手を選ばれるのもイヤなんだ。自由に選びさせてくれって話だ」

 ソファーに横になったミナジール様の表情が憂いたものになる。その表情にきっと多くの少女が感嘆のため息をつくに違いないわ。わたしも心の中でため息を零すと同時に先ほどから痛む胸を忘れさせる。
 いつの頃から、幼い頃から、出会ったときからかわたしはミナジール様に恋している。もしかしたら聡明なお方だからわたしの恋心に気づいているかもしれないけれど、普通に接してくれる。なんだかんだ言いながらもこのお方はお優しい。
 だから、どうかこのお方には幸せになってほしい。

「では、ミナジール様の運命のお相手でも占ってみせましょうか?」
「運命の相手?」
「はい。いつか現れるだろうミナジール様の恋人またはご結婚相手でございます」

 周りは納得しないだろうけれど、もしミナジール様がそういう占いを気にするならばその占いをしたのがわたしならば少しは変わるかもしれない。
 ミナジール様は先ほどの憂い顔が消えて興味深そうにわたしの方を向く。

「それっていつ頃に素敵な人が現れて出会うってことか?」
「そうでございます。ミナジール様はとても行動的でありますし、そういう方は恋占いもバカにはできませんよ」
「ふぅん」

 普段なら怪訝そうな反応をするのに今回は食いつきがいい。今回のお相手がよほどだったのだろうか。

「おもしろい。じゃあ、占ってみろよ」

 形のいい唇の口角を上げて挑戦的な眼差しを向けてくるミナジール様。それに真正面から受けて心臓がドキドキする。この時ばかりはヴェールがあったことに感謝をする。

「では……」

 わたしはタロットカードを出す。すると、ミナジール様は怪訝そうに片方の眉を上げた。どうやらわたしのユニーク魔法で占うと思われたらしい。残念ながらわたしの魔法はまだ不安定。それにおばあ様からはむやみに占うなと言われているし、王族相手は尚さら慎重にと言われている。

「ミナジール様。わたしの普通の占いも相当なものですよ。そうご不満な顔はなさらないでくださいませ」
「……はぁ。わかったよ」

 肩を上げて下げたミナジール様に安心しながらわたしはカードを並べていこうとした時だった。脳裏にパッととある場面が一瞬浮かぶ。
 いけない、と頭を振りかぶろうとしようにも身体は従順に並べて動いて行く。その間も、脳裏にパッ、パッと軽快に見知らぬ場面が浮かんでいく。だが、よく見るとその場面には【ミナジール様】らしき青年が映っている。
 目の前のミナジール様よりもより大人の面差しをしている。数年後のミナジール様なのかもしれない。横にはフォークを髪飾りのようにして挿している青年がいる。他には見知らぬ青年たちがと思いきや一人いた。あれはアジーム家のご長男カリム様の従者のジャミルさんだ。でも、わたしの知っているジャミルさんはもっと幼い。やはりこれは未来―――わたしはユニーク魔法の未来視をしている。

 普段カード占いではめったにないのに。失態だ。

 そして、そういうただの占いの時にこうした魔法が動いてしまったとき、占いの結果はたいがい当たる。つまり、ただの憶測ではなくなる。

 ああ。見たくない、見たくないのに……。

 場面が変わり、変わり、変わり――プツと途切れると同時にカードが手から離れる。同時に意識が現実に戻っていくが口は勝手に動く。

『ミナジール様の運命のお相手は数年後にこの【世界】に現れるでしょう』

 結果を告げるとふっと身体が軽くなり、意識がはっきりとする。視界がクリアになってわたしはすぐにカードをしまう。

「さて、結果はいかがでしょうか」
「いや、いかがでしょうかってなんか随分曖昧だな」
「占いとはそういうものですよ」

 肩透かしを食らったようなミナジール様にわたしは取り繕う。その間にも背中には冷や汗が流れていく。これはもう帰った方がいい。

「さて、占いもしましたしそろそろ失礼いたします」
「……もう帰るのか?」
「はい」

 名残惜しそうなミナジール様。わたしもそうだけれど、お互い14歳という年齢。そして異性である。間違いがないように侍従や侍女が目を光らせているのは知っている。だから、占いをしたのだけれど――。

「ふふ。また会いに来ますから、そうお寂しい顔をしないでくださいませ」
「なっ、別に寂しいわけじゃない!」

 途端に誤魔化すように顔を顰めるミナジール様。照れ隠しの仕方は昔から変わらない。まだまだ可愛いところがあるお方に安心しながら立ち上がる。

「では、失礼いたします」
「ああ。またな」

 そうしていつものようにミナジール様と別れた。




 あれから数年。テレビの向こう側にはロイヤルソードアカデミーの代表としてナイトレイブンカレッジとの学園対抗戦に選手として出場していた。14歳の時に未来視した場面は去年のことかと思いきや違った。【今年】のものだったらしい。

「さぁ。ミナジール様、運命のお相手によいところをお見せするところですよ」

 貴方様のご活躍わたしは脇役として見届けさせていただきます。



2026.04.05
2/2ページ