あたしと、小さい王子さま

男の子の計画は順調です



 ぶん、ぶん、と不機嫌に揺れる尻尾にあたしは心の中で溜息を飲み込んで話しかける。

「チェカ様。また拗ねていらっしゃるのですか……」
「べつに拗ねてないよ」

 と言いながら唇を尖らしているのだから信じられない。
 いまだに愛らしさの勝るチェカ様は八歳になられ、あたしは十歳になった。八歳といえば子ども盛りであるが十歳のあたしからお話するのに少々物足りない年齢。でも、こうして会わされるのは正式に許嫁になったからだ。

 将来の自分を決められてしまったようでイヤだなと思うけれど今はどうしようもできない。もう少し大人になればどうにかできる。だからそれまであたしはこの年下の許嫁とお話しなければいけない。

 さてさて、この年下の許嫁の王子様は最近ずっとこんな顔ばかりだ。眉間に皺を作って、唇と尖らせて、尻尾をぶんぶん振っている。このお顔の原因は最近お生まれになった第二王子レオナ様の御子で、チェカ様の従兄弟だ。

 国王の御子ではないとはいえ王族の新しい誕生に国はとても賑わったのは記憶に新しい。これは第二王子のレオナ様のご結婚以来ではないかというくらいだ。

 さて、それまで王族の中でも最年少であったチェカ様はとても喜んでいた。はりきいってまだはいはいもできない従兄弟と遊ぶのだと宣言していたが――この通りだ。

「レオナ様を取られて拗ねていらっしゃるのでしょう」
「だから、拗ねてない!」

 ガオと反論するが顔には「拗ねています」と書いている。ここで意地を張るなんて意味ないのにと思いながらチェカ様が拗ねるのも当たり前のこと。今まで何だかんだとレオナ様に構ってもらえて、その妃となったお姉様にも構ってもらったのだ。

 チェカ様は他に弟妹も居らず一番であることがたぶん当たり前になっていたんだと思う。そこへ、現れたレオナ様の御子。しかも、あのレオナ様が愛したお姉様との間に出来た御子を可愛がらないわけがない。今は公務や外交が終わればすぐに屋敷に戻るとか噂が流れるほどだ。つまり、目に入れても可愛くないほどレオナ様は我が子が可愛いということだ。

「チェカ様に構う時間が減るのは当たり前です」
「うっ、ぅ」

 丸い耳がぺたんと伏せる。そこに畳みかけるのは流石に可哀想でお姉様のことは伏せて置く。

「そもそもレオナ様はもう学生じゃないんです。お仕事も忙しいんです」
「わかってるぅ」

 この声は年下の従弟がしていた声だ。きっとチェカ様もわかってはいるのだろう。まだ八歳の心についていけないだけで。ふぅと心の中でまた溜息をつく。

「ねぇ。キミも会ってるの?」

 窺うようなチェカ様の声に視線をあげる。そこには拗ねた顔というにはちょっと違う顔をしている。じっと窺うような太陽のような瞳。真意がわからないが誤魔化すことでもないので素直に答えることにした。

「はい。わたしもお姉様のいる屋敷にはお稽古もかねてうかがいますので」

 この間は抱っこさせてもらった。そのときのまだ赤ちゃんらしい匂いと柔らかさを思い出すと頬が緩んでしまうくらいだ。

「……可愛かった?」
「もちろんです。赤ちゃんは誰よりも可愛いんですから」
「そう。ならキミも自分の赤ちゃんは可愛いの?」

 意外な方向への話の変化に目を瞬かせたが深い意味はないだろう。あたしは斜め上を見て考える。この先、最有力候補の花婿はチェカ様だが別の人――もし好きな人ができてその人の子どもができたら。

「可愛いです。だって、大好きな人の間に産まれた子どもですから」

 答えるとチェカ様の表情が明るくなる。何だかよくわからない反応に首をかしげる。

「どうして嬉しそうなんですか?」
「え? そうかな?」
「はい。あ、もしかしてチェカ様も同じだからですか?」
「うん! 僕もキミと同じ!」

 いっしょだねぇ~、と言ってふにゃふにゃ笑うチェカ様に首を反対に傾げる。さっきまで大好きな叔父と義叔母が取られて拗ねていたのに変なチェカ様。

「ねぇ! ねぇ! そろそろお散歩に行こう!」

 ブンブン不機嫌にゆれていた尻尾を機嫌よくふわふわ揺らし始めた。どうやら曲がっていたおへそが直ったようだ。ならば、これ以上年上らしい会話はしなくていい。

「はい。行きましょう」

 立ち上がってチェカ様の横に立つと小さな手が差し出された。

「お手をどうぞ」

 フンと大人ぶる言葉を言うチェカ様の微笑ましさったらない。でも、やっぱりそこらへんの子息がするとは違うのはこの方が王子様だからだろう。

 もう少し成長したらきっと周りのお嬢様方の視線を集めるのかもしれない。それにチェカ様も成長すれば周りの他のお嬢様や他国の姫君が集まるはずだ。つまり、あたしは許嫁から外される可能性もある。そもそもチェカ様に好きな人が出来ればあたしはお払い箱だ。

 まだ将来を諦めるのは早い。これからももっと勉強してお母様やお姉様たちのように立派なレディになって見せる。
 小さな手を握りながらあたしは将来歩く道を模索し始めた。


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