朝の一幕

ちょっとした事件のこと



「と、当店ではそういったサービスは行っておりませんッッ!!」

 人の賑わいで満ちていた店内が一斉に音が無くなる。いや、実際には店内のBGMが流れているため無音ではない。だが、今まで各々過ごしていた客や、注文を受けていた店員や食事を運んでいた店員も皆が一斉に動きを止めてある一点を見つめる。
 その先は学内唯一の女子生徒でありオクタヴィネル寮生としてモストロ・ラウンジで働いているエルサ・アレンデールだった。
 彼女は真っ青な顔で口を開けたままだった。そして、その彼女の華奢な手首を掴んでいるのは某寮に所属する生徒。その寮生は目を見開き固まっている。
 この生徒は先ほどからことあるごとにエルサを呼びつけて注文していたり、食事を運ばせていた。どうやら、支配人のアズールや、その右腕であるジェイドがいないことをいいことに好き勝手やっていたらしい。
 間に他の寮生が入ってもお構いなしという状況に――先ほどの台詞だった。
 叫んだエルサは「やってしまった! お客様になんてことを!」と初めての接客業で色々キャパオーバーになってしまったのだ。

「あははははッッ! なんだし、その返しッ!」

 誰も動こうとしない。ただBGMが流れている状況が破かれる。
 エルサの視線も、他の視線もその声の持ち主に向けられる。その先に居たのは今回調理場のまとめ役となっていたフロイドだった。寮長、副寮長ではないがオクタヴィネルのまとめ役――いわゆる幹部の一人だ。

「あ~マジ受ける。ね、アズール、ジェイド」

 一通り笑って彼の視線がまた動く。面白いように視線が皆動いて行く。そこへ、出入口には所用で出ていた寮長のアズールと、副寮長のジェイドがいた。アズールの背後ではジェイドが背を向けて肩を震わせていた。どうやら彼のツボにもハマったらしい。

「ハァ。まったく何しているんだ」

 その声にエルサが我に返るが、それはエルサの手を掴む生徒もだった。

「お、おい! アーシェングロット! テメェの店、どうなって――」
「どうなっているかですって?」

 アズールの声は良く通った。彼は制服から素早く寮服に着替えると颯爽と彼の前へと立った。そして、エルサの腕を掴む大きな手を容赦なく引き剥がした。

「それはこちらの台詞だ」

 冷ややかな視線に声にエルサに必要に迫っていた生徒が怯む。

「チッ。店員もこんなんなら店長も店長だ」
「ふ。それなら貴方の所属する寮長も貴方のような寮長だ、ということですよ」

 この様子では後ほど生徒が所属する寮に連絡が行くのは明白。男は勢いよく立ち上がりアズールを押しのけて出入口へと向かう。

「ジェイド。お客様がお帰りですよ」
「はい」

 いつの間にか寮服へと着替えたジェイドが対応に出た。

「さて、お客様にはご迷惑おかけしました」

 そこからアズールが仕切られる。
 こうしてエルサはこの日を境にホールには出ることはなくなった。そして、件の生徒は彼の所属する寮の寮長にこってりと絞られ――いつの間にか学園からいなくなっていた。



2025.09.21 ピクシブと同日公開
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