三途春千夜
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形勢逆転な貴方と、愚かな私
「春千夜くん」
「……はい」
目の前で正座している桜色の髪をした睫毛がバサバサした綺麗な顔な男の人は私の恋人である明石春千夜くん。
見た目ド派手な人だけど不良とかの来歴がない――というわけではない。彼はれっきとした不良だった。そんな春千夜くんだけれど今は大分落ち着いた……はず。はず、というのは結構くだらないことでお兄さんの武臣さんや妹の千寿ちゃんと兄妹喧嘩をしていることがあるから。あと、たまに昔からのやんちゃ仲間とやんちゃしたりする。警察の御用にはギリギリならないレベルで……一応御用にはなっていない。
私は彼が一番やんちゃしていた時期に離れてしまったから詳しくは知らない。高校生の頃に再会したときは今の彼に近かったし、それに彼の幼馴染が口を揃えて「落ち着いた」からと言うのでそう思っている。
再会してまた交流が始まり――20歳を超えた頃に恋人となった。そして、恋人となってもう5年を越えた今彼と結婚することになったのだけれど……だけれど。
「結婚やめようか?」
「やだ!」
ジブリのトウモロコシ持った妹ちゃんを思い出す勢いの拒否だった。二十代後半の男性がする返事じゃない気がするけれど突っ込まない。
それでも私は渋面 を崩すことなく春千夜くんを見下ろす。すると、綺麗な顔の白い顔が青くなった気がする。その表情を見ると自然に手が額にいく。
私は深くため息を洩らす。
「ハァ。私がどうしてやめるなんて言うかわかってるんでしょ?」
「……なんと、なく」
顔を青くさせながら居心地悪そうな春千夜くんを見てチラと視線を横に移す。
視線の先には私と春千夜くんを同じく正座をして真剣な様子で見ている千寿ちゃん。彼のひとつ下の妹でもちろん仲良くしてもらっている。その彼女のさらに背後で悠々とした態度でソファに座り様子を伺っている人を見る。
気怠そうな顔で見ていたその人と目が合うとへらっと笑って手を振って来た。
それに呆れてため息を洩らすと「おい」と不機嫌な声をかけられる。その声の主を見れば先ほどの青白い顔はどこへやら声と同じように不機嫌な表情をしていた。
彼は心が狭いというのか。嫉妬深いのか。はたまた執着心が強いのか。それらすべてなのか。私が他の男性に意識を向けるのを嫌がる。私も他の女性を見てほしくないけれど、彼の場合は私が何とも思っていない相手でも意識を向けるのを嫌がる。
けれど、今はそんなことはどうでもいい。もう一度ため息をついて不機嫌になった彼を呆れた心地で見下ろす。
「春千夜くん」
彼の名前を呼ぶと少し不機嫌な空気がやわらぐ。その瞬間を見た千寿ちゃんが呆れたようにため息をついたのが見えたが今はとりあえず春千夜くんを見つめ続ける。
バサバサの睫毛に囲われた瞳がまっすぐに見つめ返してくる。真剣な態度よろしいと思って腕を組む。
「ユーチューバーであることは問題じゃないのよ」
「うん」
それはプロポーズされたときに了承している。だから問題はそこじゃない。どうやら春千夜くんも分かっているらしい。けれど、口の上手い彼にはどうやら春千夜くんも勝てないらしい。
「武臣さんの散財はどうにかしてねってプロポーズのときに言ったでしょ」
そう。問題は春千夜くんが千寿ちゃんとやっているユーチューバーではない。二人のプロデューサーと言って二人の稼ぎを湯水のごとく使っている。それをどうにかしてほしいと。それをどうにかしてから入籍をすると言った。
「もうプロポーズしてくれたときに言ったよね」
無言で頭を縦に動かす春千夜くん。けれど、実際は上手く武臣さんに言えていないらしい。それだってやりようはあるのに。
もう何度目になるか分からないため息を洩らして武臣さんを見る。
「武臣さん。そろそろご自分で働いたお金でどうにかしてください」
「円花ちゃん。今更オレが働けると思う?」
「そんな自信満々に言わないでください」
頭は回るのにどうしてこう楽な方に行きたがるのか。この人が義兄になると思うと少し気が重い。けれど、このままではいけないのは分かる。
「武臣さん。私と春千夜くんが結婚したら家計の管理は私が行いますからね」
「それは小遣い制になるってことか?」
「はい。話が早くて助かります」
じっとりと武臣さんを見ながら言う。武臣さんは難しい顔をしながら手のひらを見せてきた。生命線がはっきりしている。
「手相は見られませんが生命線がはっきりしていますね」
「そうじゃねぇよ! 円花ちゃん、これ、これくらいは出してくれっ!」
「五千円でいいんですか?」
「ガキの小遣いじゃねぇかッッ!」
じゃ、五万かと思ったけれどきっとそれ以上なのだろう。これはクレジットカードの管理も視野にいなければと顔を顰める。
「お金の使い方はしっかりと見直してくださいね」
「ガールフレンドの付き合いもある」
「知りません。ご自分でやりくりしてくださいな」
フンと鼻を鳴らして武臣さんから顔を逸らして次に千寿ちゃんを見る。目が合うと千寿ちゃんが身構える様子を見せて苦笑いが洩れる。
「千寿ちゃんは自分のお金の内でやっているみたいだから何もないよ。ただ武臣さんのことは注意していてね」
「うん! わかった!」
子どもの頃と変わらない笑顔に私も微笑み返す。そして、春千夜くんを見るにっこりと笑い――。
「じゃ。帰るね」
鞄が置いてあるソファに向かって歩き出す。すぐに春千夜くんが「お、おい!」と引き留めに入る。腕を掴まないのは以前掴まられた際に私が「痛い」と言ったことを覚えているからだろう。
必死な形相の春千夜くんをじっとりと目を据わらせて見る。
「今日はもともと武臣さんについてのお話が合ったから来ただけだよ」
「けど、いつもは泊まっていくだろ」
そう。春千夜くんたち兄弟が一緒に住む家に来た時はほとんど夜までいる。そして、春千夜くんや千寿ちゃんと一緒に夕飯を作って食べる。ちなみに武臣さんがいないときは大体泊まらせてもらう。でも、今日はしない。
「今日は泊まるつもりはないよ。これは春千夜くんに対するお仕置き」
「ぇえ」
口をひん曲げる春千夜くんは不満をありありと表している。でも、プロポーズから1か月して武臣さんに言い聞かせることができなかった。結局、私が釘をさすことになった。けど、これで明石家は兄弟だけでの話し合いが基本できないことは理解することができた。
「私だっていつもみたいに泊まりたいけど今日は帰るわ」
ぐぅ、という呻き声が聞こえたけれど無視。私は鞄を肩にかけて武臣さんと千寿ちゃんに「お邪魔しました」と告げる。千寿ちゃんはちょっと残念そうな顔をしているけれど仕方ないと言うように手を振り返してくれた。ちなみに、武臣さんはまだ「誕プレどうすっかな……」とかブツブツ言っている。もう知らない。
ため息をついて帰ろうとすると後ろからついてくる気配がした。肩越しに振り返れば春千夜くんがいた。
パチと目が合うと「送る」と言ってきた。
「別にまだ夕方にもなってないしいいよ」
いつもだったらもっと一緒に居たいからお願いする。でも、今日はそれもちょっと控える。これもちょっとお仕置きというか、自分への罰。だって、春千夜くんにできないことを頼んだようなものだから。けれど、結婚もまだで幼馴染というには会っていない時間が長すぎる私では明石家の家計に口出す権利がないと思ったから。でも、まさか1か月もなぁなぁで話が進んでいないとは思わなかった。
そうなるまで放置していた私も悪い。たぶん、悪いから今日は一人で帰ろうとしたんだけれど――。
「円花ちゃん、送ってもらった方がいいよ」
「え」
千寿ちゃんが正座をしていたにも関わらずすくっと立ち上がって真剣な表情をした。どうしてという意味を込めて首を傾げる。
「自分たちの家って特定したバカがいるせいで変な奴らがうろつき始めたんだよ」
特に最近は酷い、と千寿ちゃんが顔を顰める。そんなに、と目を見開いて春千夜くんを見ると肯定するように頷いた。
「実害は今んところねぇけど近々引っ越しも考えている」
「そう、だったんだ……知らなかった」
人気のあるユーチューバーの家が特定されて迷惑な人間に突撃されているというのは聞いたことがある。どうやら二人ともそれほどの人気がもうあるらしい。
知らなかった、としみじみしながら「あっ」と春千夜くんを見る。
「わ、私、普通に出入りしていたけれど……大丈夫なの?」
春千夜くんも千寿ちゃんも容姿がとても整っている。そういった方面のファンももちろん多い。特に春千夜くんは女性の人気も高いとか。
今更二人の本当に人気なユーチューバーであることを悟って血の気が引く。
「あー。それなら平気だぞ」
どこか意識を飛ばしていた武臣さんの声が聞こえてそっちを見る。武臣さんはにんまりと悪徳業者のような笑みを浮かべる。
「オレがちゃんともみ消しておいたし、そこら辺の対策はしっかりしてっから」
「そ、そうだったんですか。ありがとうございます」
感謝を告げると武臣さんが「なら、お金」と言い出すので体の力が抜ける。
「考えておきます」と告げれば晴れやかな表情をするのでもう何も言えない。
「つーわけだ。送ってく」
「ありがとう。でも、春千夜くんが出て平気?」
「平気」
そう言って「グラサン取って来る」と言って先にリビングを出てしまった。
自分の認識不足に落ち込みながらもう一度二人に挨拶をして玄関に向かった。
マンションを出て春千夜くんと一緒にマンションを出て少しだけ周りを見てみる。けれど人影らしき者はなかった。高層マンションが多く周りも裕福層が多い住宅ばかりで特に変わった様子はない。
「この時間よりもう少し後くらいの方が多いな」
「そうなんだ」
ほら、と先を促されて歩き出す。けれど、横を歩くのがなんだか気まずく足取りが重くなる。それに春千夜くんはすかさず気づく。
「今更気にしたって意味ねぇから普通でいろ、普通で」
「そんな難しいこと言わないで」
困ったという顔で春千夜くんを見上げるとため息をつかれる。
だって、という気持ちと色々な気持ちが混ざっていく。
「武臣さんが金遣い荒くても暮らせている時点で察すればよかった」
なんかもう今更感がすごい。だって、なんか、ほんとに自己嫌悪。
「落ち込むなって……」
「だってぇ」
泣き言を零せばまたため息をつかれる。さっきとは逆になってしまった。
「まぁ、お前はオレらがユーチューバーになる前からの付き合いだからな」
「だからって認識が甘すぎたわ」
「テレビ出演の依頼はほとんど断ってからな」
テレビ露出が少ないけれどやっぱり今はそういう時代。二人は相当有名なんだろう。
しょんもりと落ちた気分は中々上がらない中、もうひとつのことに気づく。
「け、結婚報告とかしちゃうの?」
「あー。どうっすっかなぁ」
迷っているならしなくていいんじゃない、と強く春千夜くんを見つめる。すると、サングラスの奥にある目と合うと綺麗な形の唇がにんまりと笑った。それは武臣さんとよく似ていた。顔立ちは千寿ちゃんと似ているけれどこうした表情づくりはやっぱり武臣さんによく似ている。言わないけれど。
その笑みに私はサァっと血が引く。
「だ、だめだよ。言わないでいいよ」
「ファンに言わないってのもな」
「どうせ女がいんのはバレてっし」身をかがめながらそんなことを言う春千夜くん。
今の今までほんとなんもなかったのは春千夜くんたちのお陰だと知る。
「どうせ結婚したら一緒に住むだろ」
「でも、仕事場は別にするんでしょ」
「あ。そうか」
うっかり、と言っているけれど絶対覚えていた。うっかりなんてことない。
これはさっきの仕返しなのか。でも、私も悪いし、と何も言い返せない。
「ま。深くは気にすんな。んで、何かあったらオレに言えよ」
「……わかった。ありがとう」
そう言いながらこれからちょっと気を付けようと認識を改める方向にした。
でも、気分は中々上がらずとぼとぼと歩くと空いていた手が取られる。骨ばった大きな手は紛れもなく春千夜くんのもの。
「いいの?」と訊こうとした口を閉じる。もう散々外で手を繋いでいるのだから今更過ぎる。私はそっと大きな手を握り返した。
「それでいいんだよ」
不敵に笑う彼に気持ちが少し軽くなった気がして私も微笑み返した。
数日後、私は春千夜くんと入籍した。そして、すぐに春千夜くんと千寿ちゃんが動画のネタにしてすぐさま炎上してしまった。さらに、過激なファンによって結婚相手が私と特定しすぐに仕事場まで押しかけるようになってしまった。おかげで仕事が難しくなって辞めることになってしまった。けれど、それに春千夜くんは満足げな顔をしていたのが複雑な気持ちにさせた。
「春千夜くん」
「……はい」
目の前で正座している桜色の髪をした睫毛がバサバサした綺麗な顔な男の人は私の恋人である明石春千夜くん。
見た目ド派手な人だけど不良とかの来歴がない――というわけではない。彼はれっきとした不良だった。そんな春千夜くんだけれど今は大分落ち着いた……はず。はず、というのは結構くだらないことでお兄さんの武臣さんや妹の千寿ちゃんと兄妹喧嘩をしていることがあるから。あと、たまに昔からのやんちゃ仲間とやんちゃしたりする。警察の御用にはギリギリならないレベルで……一応御用にはなっていない。
私は彼が一番やんちゃしていた時期に離れてしまったから詳しくは知らない。高校生の頃に再会したときは今の彼に近かったし、それに彼の幼馴染が口を揃えて「落ち着いた」からと言うのでそう思っている。
再会してまた交流が始まり――20歳を超えた頃に恋人となった。そして、恋人となってもう5年を越えた今彼と結婚することになったのだけれど……だけれど。
「結婚やめようか?」
「やだ!」
ジブリのトウモロコシ持った妹ちゃんを思い出す勢いの拒否だった。二十代後半の男性がする返事じゃない気がするけれど突っ込まない。
それでも私は
私は深くため息を洩らす。
「ハァ。私がどうしてやめるなんて言うかわかってるんでしょ?」
「……なんと、なく」
顔を青くさせながら居心地悪そうな春千夜くんを見てチラと視線を横に移す。
視線の先には私と春千夜くんを同じく正座をして真剣な様子で見ている千寿ちゃん。彼のひとつ下の妹でもちろん仲良くしてもらっている。その彼女のさらに背後で悠々とした態度でソファに座り様子を伺っている人を見る。
気怠そうな顔で見ていたその人と目が合うとへらっと笑って手を振って来た。
それに呆れてため息を洩らすと「おい」と不機嫌な声をかけられる。その声の主を見れば先ほどの青白い顔はどこへやら声と同じように不機嫌な表情をしていた。
彼は心が狭いというのか。嫉妬深いのか。はたまた執着心が強いのか。それらすべてなのか。私が他の男性に意識を向けるのを嫌がる。私も他の女性を見てほしくないけれど、彼の場合は私が何とも思っていない相手でも意識を向けるのを嫌がる。
けれど、今はそんなことはどうでもいい。もう一度ため息をついて不機嫌になった彼を呆れた心地で見下ろす。
「春千夜くん」
彼の名前を呼ぶと少し不機嫌な空気がやわらぐ。その瞬間を見た千寿ちゃんが呆れたようにため息をついたのが見えたが今はとりあえず春千夜くんを見つめ続ける。
バサバサの睫毛に囲われた瞳がまっすぐに見つめ返してくる。真剣な態度よろしいと思って腕を組む。
「ユーチューバーであることは問題じゃないのよ」
「うん」
それはプロポーズされたときに了承している。だから問題はそこじゃない。どうやら春千夜くんも分かっているらしい。けれど、口の上手い彼にはどうやら春千夜くんも勝てないらしい。
「武臣さんの散財はどうにかしてねってプロポーズのときに言ったでしょ」
そう。問題は春千夜くんが千寿ちゃんとやっているユーチューバーではない。二人のプロデューサーと言って二人の稼ぎを湯水のごとく使っている。それをどうにかしてほしいと。それをどうにかしてから入籍をすると言った。
「もうプロポーズしてくれたときに言ったよね」
無言で頭を縦に動かす春千夜くん。けれど、実際は上手く武臣さんに言えていないらしい。それだってやりようはあるのに。
もう何度目になるか分からないため息を洩らして武臣さんを見る。
「武臣さん。そろそろご自分で働いたお金でどうにかしてください」
「円花ちゃん。今更オレが働けると思う?」
「そんな自信満々に言わないでください」
頭は回るのにどうしてこう楽な方に行きたがるのか。この人が義兄になると思うと少し気が重い。けれど、このままではいけないのは分かる。
「武臣さん。私と春千夜くんが結婚したら家計の管理は私が行いますからね」
「それは小遣い制になるってことか?」
「はい。話が早くて助かります」
じっとりと武臣さんを見ながら言う。武臣さんは難しい顔をしながら手のひらを見せてきた。生命線がはっきりしている。
「手相は見られませんが生命線がはっきりしていますね」
「そうじゃねぇよ! 円花ちゃん、これ、これくらいは出してくれっ!」
「五千円でいいんですか?」
「ガキの小遣いじゃねぇかッッ!」
じゃ、五万かと思ったけれどきっとそれ以上なのだろう。これはクレジットカードの管理も視野にいなければと顔を顰める。
「お金の使い方はしっかりと見直してくださいね」
「ガールフレンドの付き合いもある」
「知りません。ご自分でやりくりしてくださいな」
フンと鼻を鳴らして武臣さんから顔を逸らして次に千寿ちゃんを見る。目が合うと千寿ちゃんが身構える様子を見せて苦笑いが洩れる。
「千寿ちゃんは自分のお金の内でやっているみたいだから何もないよ。ただ武臣さんのことは注意していてね」
「うん! わかった!」
子どもの頃と変わらない笑顔に私も微笑み返す。そして、春千夜くんを見るにっこりと笑い――。
「じゃ。帰るね」
鞄が置いてあるソファに向かって歩き出す。すぐに春千夜くんが「お、おい!」と引き留めに入る。腕を掴まないのは以前掴まられた際に私が「痛い」と言ったことを覚えているからだろう。
必死な形相の春千夜くんをじっとりと目を据わらせて見る。
「今日はもともと武臣さんについてのお話が合ったから来ただけだよ」
「けど、いつもは泊まっていくだろ」
そう。春千夜くんたち兄弟が一緒に住む家に来た時はほとんど夜までいる。そして、春千夜くんや千寿ちゃんと一緒に夕飯を作って食べる。ちなみに武臣さんがいないときは大体泊まらせてもらう。でも、今日はしない。
「今日は泊まるつもりはないよ。これは春千夜くんに対するお仕置き」
「ぇえ」
口をひん曲げる春千夜くんは不満をありありと表している。でも、プロポーズから1か月して武臣さんに言い聞かせることができなかった。結局、私が釘をさすことになった。けど、これで明石家は兄弟だけでの話し合いが基本できないことは理解することができた。
「私だっていつもみたいに泊まりたいけど今日は帰るわ」
ぐぅ、という呻き声が聞こえたけれど無視。私は鞄を肩にかけて武臣さんと千寿ちゃんに「お邪魔しました」と告げる。千寿ちゃんはちょっと残念そうな顔をしているけれど仕方ないと言うように手を振り返してくれた。ちなみに、武臣さんはまだ「誕プレどうすっかな……」とかブツブツ言っている。もう知らない。
ため息をついて帰ろうとすると後ろからついてくる気配がした。肩越しに振り返れば春千夜くんがいた。
パチと目が合うと「送る」と言ってきた。
「別にまだ夕方にもなってないしいいよ」
いつもだったらもっと一緒に居たいからお願いする。でも、今日はそれもちょっと控える。これもちょっとお仕置きというか、自分への罰。だって、春千夜くんにできないことを頼んだようなものだから。けれど、結婚もまだで幼馴染というには会っていない時間が長すぎる私では明石家の家計に口出す権利がないと思ったから。でも、まさか1か月もなぁなぁで話が進んでいないとは思わなかった。
そうなるまで放置していた私も悪い。たぶん、悪いから今日は一人で帰ろうとしたんだけれど――。
「円花ちゃん、送ってもらった方がいいよ」
「え」
千寿ちゃんが正座をしていたにも関わらずすくっと立ち上がって真剣な表情をした。どうしてという意味を込めて首を傾げる。
「自分たちの家って特定したバカがいるせいで変な奴らがうろつき始めたんだよ」
特に最近は酷い、と千寿ちゃんが顔を顰める。そんなに、と目を見開いて春千夜くんを見ると肯定するように頷いた。
「実害は今んところねぇけど近々引っ越しも考えている」
「そう、だったんだ……知らなかった」
人気のあるユーチューバーの家が特定されて迷惑な人間に突撃されているというのは聞いたことがある。どうやら二人ともそれほどの人気がもうあるらしい。
知らなかった、としみじみしながら「あっ」と春千夜くんを見る。
「わ、私、普通に出入りしていたけれど……大丈夫なの?」
春千夜くんも千寿ちゃんも容姿がとても整っている。そういった方面のファンももちろん多い。特に春千夜くんは女性の人気も高いとか。
今更二人の本当に人気なユーチューバーであることを悟って血の気が引く。
「あー。それなら平気だぞ」
どこか意識を飛ばしていた武臣さんの声が聞こえてそっちを見る。武臣さんはにんまりと悪徳業者のような笑みを浮かべる。
「オレがちゃんともみ消しておいたし、そこら辺の対策はしっかりしてっから」
「そ、そうだったんですか。ありがとうございます」
感謝を告げると武臣さんが「なら、お金」と言い出すので体の力が抜ける。
「考えておきます」と告げれば晴れやかな表情をするのでもう何も言えない。
「つーわけだ。送ってく」
「ありがとう。でも、春千夜くんが出て平気?」
「平気」
そう言って「グラサン取って来る」と言って先にリビングを出てしまった。
自分の認識不足に落ち込みながらもう一度二人に挨拶をして玄関に向かった。
マンションを出て春千夜くんと一緒にマンションを出て少しだけ周りを見てみる。けれど人影らしき者はなかった。高層マンションが多く周りも裕福層が多い住宅ばかりで特に変わった様子はない。
「この時間よりもう少し後くらいの方が多いな」
「そうなんだ」
ほら、と先を促されて歩き出す。けれど、横を歩くのがなんだか気まずく足取りが重くなる。それに春千夜くんはすかさず気づく。
「今更気にしたって意味ねぇから普通でいろ、普通で」
「そんな難しいこと言わないで」
困ったという顔で春千夜くんを見上げるとため息をつかれる。
だって、という気持ちと色々な気持ちが混ざっていく。
「武臣さんが金遣い荒くても暮らせている時点で察すればよかった」
なんかもう今更感がすごい。だって、なんか、ほんとに自己嫌悪。
「落ち込むなって……」
「だってぇ」
泣き言を零せばまたため息をつかれる。さっきとは逆になってしまった。
「まぁ、お前はオレらがユーチューバーになる前からの付き合いだからな」
「だからって認識が甘すぎたわ」
「テレビ出演の依頼はほとんど断ってからな」
テレビ露出が少ないけれどやっぱり今はそういう時代。二人は相当有名なんだろう。
しょんもりと落ちた気分は中々上がらない中、もうひとつのことに気づく。
「け、結婚報告とかしちゃうの?」
「あー。どうっすっかなぁ」
迷っているならしなくていいんじゃない、と強く春千夜くんを見つめる。すると、サングラスの奥にある目と合うと綺麗な形の唇がにんまりと笑った。それは武臣さんとよく似ていた。顔立ちは千寿ちゃんと似ているけれどこうした表情づくりはやっぱり武臣さんによく似ている。言わないけれど。
その笑みに私はサァっと血が引く。
「だ、だめだよ。言わないでいいよ」
「ファンに言わないってのもな」
「どうせ女がいんのはバレてっし」身をかがめながらそんなことを言う春千夜くん。
今の今までほんとなんもなかったのは春千夜くんたちのお陰だと知る。
「どうせ結婚したら一緒に住むだろ」
「でも、仕事場は別にするんでしょ」
「あ。そうか」
うっかり、と言っているけれど絶対覚えていた。うっかりなんてことない。
これはさっきの仕返しなのか。でも、私も悪いし、と何も言い返せない。
「ま。深くは気にすんな。んで、何かあったらオレに言えよ」
「……わかった。ありがとう」
そう言いながらこれからちょっと気を付けようと認識を改める方向にした。
でも、気分は中々上がらずとぼとぼと歩くと空いていた手が取られる。骨ばった大きな手は紛れもなく春千夜くんのもの。
「いいの?」と訊こうとした口を閉じる。もう散々外で手を繋いでいるのだから今更過ぎる。私はそっと大きな手を握り返した。
「それでいいんだよ」
不敵に笑う彼に気持ちが少し軽くなった気がして私も微笑み返した。
数日後、私は春千夜くんと入籍した。そして、すぐに春千夜くんと千寿ちゃんが動画のネタにしてすぐさま炎上してしまった。さらに、過激なファンによって結婚相手が私と特定しすぐに仕事場まで押しかけるようになってしまった。おかげで仕事が難しくなって辞めることになってしまった。けれど、それに春千夜くんは満足げな顔をしていたのが複雑な気持ちにさせた。
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