限りなく普通の恋
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男の子の悩み
特別な女の子。大切な女の子。
アンジェリーナが最初からそういう存在だったというわけではなかった。いつからだったか定かではないけれど出会ってからそう年数はかかっていな気がする。でも、そうだとはっきりと気づいたのは随分後からになってからだった。
気づいてからは幼馴染よりいっそう〝特別〟で〝大事〟で〝大切〟な女の子になった。だから、誰よりも特別に大切に扱った。扱っていたはずが本人には薔薇のとげほども伝わっていなかった。嘘だと思っても彼女の反応を見る限りそうだったと認識しなければいけなかった。
そこまで曖昧な態度だったか。もっとはっきりと言って、はっきりと行動しなければいけないのか。実際お互い学園に戻る前の別れ際のアンジェリーナに訊ねれば白い頬を真っ赤にさせて――。
「トレイはわたしを殺すつもりなの」
「やめてちょうだい」とまで言った。それは困る。せっかく恋人になったのだし死なれては困る。でもならどうすればいい。今までのあれでは一ミリも伝わらないのだから。俺の気持ちが全然伝わらないって彼女の俺に対する後ろ向きの思考を思えば早々に別れ話が飛び出しそうだ。
別れる。せっかく恋人になれたのに、このまま別れるなんて。そもそも今はお互い寮生活で会える時間も限られている。卒業してからが本番だ。いや卒業後もお互い目指すところを考えればプライベートの時間だって限られている。時間が足りないのに早々にすれ違って別れるなんて嫌だ。絶対に嫌だ。
「薔薇の騎士 どうしたんだい?」
「うぁっ」
ぐるぐる回っていた思考を遮断したのは呼ぶなと何度も言っているあだ名だった。
落としそうになった如雨露を何とか堪えて横を見れば綺麗に切りそろえた髪をさらさらと流したルークがいた。
実験時に着けたゴーグルの奥からすべてを見透かすような瞳で見つめてくる。自称狩人という彼の瞳は自分が見せていないところまで見透かすような瞳をしている。だから、苦手というかあまり見つめ合いたくない瞳だった。
そっと逸らしながら「ちょっとな」と言えば「愁いを含んだ顔をしているね」と返された。すべて見透かす瞳は全てお見通しか。
逸らした瞳を戻せば彼の瞳がポムフィオーレの寮生らしく微笑んだ。
「愁いのある横顔はまるで恋に悩む少年の――いや青年のようだったよ」
「お前なぁ」
呆れた、けれど本当に何で分かるのか。如雨露が軽くなったのを感じて身体ごとルークに向き合う。ルークは僅かに楽しそうに俺を見ている。他人の恋バナの何が楽しい。
「恋物語はどんなものでも素晴らしいからね。小さくとも大きくとも何でもね」
「へぇ」
「で、君は何を悩んでいるんだい」楽しさを孕んだような親切心のような読めない表情のルークに問われて悩む。とはいえ、彼のような男の方がちょうどいいのかもしれない。
「恋人が出来たがすれ違いそうなんだよ」
「ん~! 少し待ってくれないかい~」
お前が相談に乗るよ、っていう顔したくせになんだ。待ってと手を翳すルークを冷たく見つめれば彼は珍しく焦った顔をする。
「ノンノン! 相談には乗るさ! いや、でも、すでに恋煩いの段階を過ぎていたとは」
「恋煩いはとっくに過ぎた話だ。今はその後だ、その後」
「そ、その後かい」
先ほどの何でも見透かした瞳が左右に揺れ動く。何だか初めて見たルークの青少年らしい反応に何だかいいものを見せてもらった気がする。これは狩人の弱点を握ったのでは。それをルークは察したのかあっさりと動揺を消し去った。
「んー。すれ違い、か……それはトレイくんが寮生活だからかい?」
「いいや。恋人も寮生活なんだ」
ブルームノヴァカレッジの生徒なんだ、と言えば彼の切れ長の目が見開いた。何だと訝しんだ瞬間破顔した。
「薔薇の騎士 ~! 安心したまえ!」
「は?」
勢いよく手を広げ芝居がかった口調をするルークに半歩下がってしまった。だが、すぐにルークがその半歩を埋めるように前へと足を進める。ずいっと来た彼に「なんだ」と言えば「ウィ!」と返事をされた。
「愛おしい恋人がブルームノヴァカレッジならば何も問題ないということだよ」
「だから、何でだ?」
あの学園はこの賢者の島よりもさらに辺境の地にある。一部のファンからは秘密の花園とか言われているらしいが彼女曰く何もないただの島らしい。この賢者の島の方が数十倍いいというくらいなのだ。
「フフ。そうだね。私も一度は行ってみたいところだよ」
一体何があるのかね、とちょっと妖しい雰囲気で言うからこれ以上情報を与えてはいけないとさえ思った。
「で、何で問題ないんだ」
「実はね。ブルームノヴァカレッジとこの賢者の島は〝ゲート〟で繋がっているのさ」
再び妖しく目を細めた微笑むルーク。彼に俺は「魔法の鏡じゃないのか」と訊ねれば「ノンノン」と頭を横に振った。サラサラと頬に触れる髪を払いながら「市街地にあるのさ」と答えた。
「市街地に?」
「そうさ。君も言った通りあそこは市街地もない辺境の地。年頃の学生が何もない場所で青春を過ごすには些か物足りない場所だろう」
刺激の足りない場所というところだろうか。確かに、ここにいるナイトレイブンカレッジの学生だって何もないところと不満を零しているのだ。同じ年頃の女子だって同じ不満を抱くだろう。
「彼女たちのストレスを減らすためにあらゆる施設を作っているらしいけれど――やはり限界もあるらしくてね」
あらゆる国と契約を交わしてゲートを置いているらしいよ、と告げるルークの情報源は一体どこにあるのか。
「何で知っているんだ」
「それは秘密さ」
パチンとポムフィオーレらしい綺麗なウィンクにこれ以上踏み込むのはやめた。それにルークの情報については信用性が高い。つまり、彼女は制限があったとしてもここに来ることができるということだ。
「フフ。愛しい恋人に足を運ばせることは嫌だろうけど逢瀬は楽しめるよ」
「だな……」
それにしてもなんで言ってくれなかったんだ。彼女のことだから知っているはずだが今まで市街地で会ったこともない。それにロイヤルソードアカデミーと交流があると聞いたことがあるからチェーニャも知っている――。
「あいつは言うはずないか……」
面白そうとか言って見過ごしていそうだ。
「さて、これでトレイくんの悩みも解消出来たところで――植木鉢が大変なことになっているよ」
「え……」
指に沿って視線を下げて「アッ!」と声をあげる。
そこには水浸しになった鉢植えがあった。考え込み過ぎてここだけに水を上げてしまったようだ。
「ハァ。これは根腐りするな」
「そうだね……ああ。でもこの様子はまるで君の恋人――アンジェリーナ・パーカーくんそのものかもしれないね」
「ッ!」
突然出てきた誰にも教えていない彼女の名前にルークを見る。彼はただ微笑んで「気を付けたまえ」と忠告を口にする。
「何をだ……」
「愛に溺れた者の末路は酷いものだから」
退廃的な美しさしかないよ、と言ったルークは「おっと!」とわざとらしい声を上げた。
「これからヴィルと約束があった。悪いけど先に失礼させてもらうよ」
「……ああ」
そしてルークは意味不明な忠告を残して去って行った。そして、俺は一人水浸しになった鉢を見つめ続けたが忠告の意味は理解できなかった。
特別な女の子。大切な女の子。
アンジェリーナが最初からそういう存在だったというわけではなかった。いつからだったか定かではないけれど出会ってからそう年数はかかっていな気がする。でも、そうだとはっきりと気づいたのは随分後からになってからだった。
気づいてからは幼馴染よりいっそう〝特別〟で〝大事〟で〝大切〟な女の子になった。だから、誰よりも特別に大切に扱った。扱っていたはずが本人には薔薇のとげほども伝わっていなかった。嘘だと思っても彼女の反応を見る限りそうだったと認識しなければいけなかった。
そこまで曖昧な態度だったか。もっとはっきりと言って、はっきりと行動しなければいけないのか。実際お互い学園に戻る前の別れ際のアンジェリーナに訊ねれば白い頬を真っ赤にさせて――。
「トレイはわたしを殺すつもりなの」
「やめてちょうだい」とまで言った。それは困る。せっかく恋人になったのだし死なれては困る。でもならどうすればいい。今までのあれでは一ミリも伝わらないのだから。俺の気持ちが全然伝わらないって彼女の俺に対する後ろ向きの思考を思えば早々に別れ話が飛び出しそうだ。
別れる。せっかく恋人になれたのに、このまま別れるなんて。そもそも今はお互い寮生活で会える時間も限られている。卒業してからが本番だ。いや卒業後もお互い目指すところを考えればプライベートの時間だって限られている。時間が足りないのに早々にすれ違って別れるなんて嫌だ。絶対に嫌だ。
「薔薇の
「うぁっ」
ぐるぐる回っていた思考を遮断したのは呼ぶなと何度も言っているあだ名だった。
落としそうになった如雨露を何とか堪えて横を見れば綺麗に切りそろえた髪をさらさらと流したルークがいた。
実験時に着けたゴーグルの奥からすべてを見透かすような瞳で見つめてくる。自称狩人という彼の瞳は自分が見せていないところまで見透かすような瞳をしている。だから、苦手というかあまり見つめ合いたくない瞳だった。
そっと逸らしながら「ちょっとな」と言えば「愁いを含んだ顔をしているね」と返された。すべて見透かす瞳は全てお見通しか。
逸らした瞳を戻せば彼の瞳がポムフィオーレの寮生らしく微笑んだ。
「愁いのある横顔はまるで恋に悩む少年の――いや青年のようだったよ」
「お前なぁ」
呆れた、けれど本当に何で分かるのか。如雨露が軽くなったのを感じて身体ごとルークに向き合う。ルークは僅かに楽しそうに俺を見ている。他人の恋バナの何が楽しい。
「恋物語はどんなものでも素晴らしいからね。小さくとも大きくとも何でもね」
「へぇ」
「で、君は何を悩んでいるんだい」楽しさを孕んだような親切心のような読めない表情のルークに問われて悩む。とはいえ、彼のような男の方がちょうどいいのかもしれない。
「恋人が出来たがすれ違いそうなんだよ」
「ん~! 少し待ってくれないかい~」
お前が相談に乗るよ、っていう顔したくせになんだ。待ってと手を翳すルークを冷たく見つめれば彼は珍しく焦った顔をする。
「ノンノン! 相談には乗るさ! いや、でも、すでに恋煩いの段階を過ぎていたとは」
「恋煩いはとっくに過ぎた話だ。今はその後だ、その後」
「そ、その後かい」
先ほどの何でも見透かした瞳が左右に揺れ動く。何だか初めて見たルークの青少年らしい反応に何だかいいものを見せてもらった気がする。これは狩人の弱点を握ったのでは。それをルークは察したのかあっさりと動揺を消し去った。
「んー。すれ違い、か……それはトレイくんが寮生活だからかい?」
「いいや。恋人も寮生活なんだ」
ブルームノヴァカレッジの生徒なんだ、と言えば彼の切れ長の目が見開いた。何だと訝しんだ瞬間破顔した。
「薔薇の
「は?」
勢いよく手を広げ芝居がかった口調をするルークに半歩下がってしまった。だが、すぐにルークがその半歩を埋めるように前へと足を進める。ずいっと来た彼に「なんだ」と言えば「ウィ!」と返事をされた。
「愛おしい恋人がブルームノヴァカレッジならば何も問題ないということだよ」
「だから、何でだ?」
あの学園はこの賢者の島よりもさらに辺境の地にある。一部のファンからは秘密の花園とか言われているらしいが彼女曰く何もないただの島らしい。この賢者の島の方が数十倍いいというくらいなのだ。
「フフ。そうだね。私も一度は行ってみたいところだよ」
一体何があるのかね、とちょっと妖しい雰囲気で言うからこれ以上情報を与えてはいけないとさえ思った。
「で、何で問題ないんだ」
「実はね。ブルームノヴァカレッジとこの賢者の島は〝ゲート〟で繋がっているのさ」
再び妖しく目を細めた微笑むルーク。彼に俺は「魔法の鏡じゃないのか」と訊ねれば「ノンノン」と頭を横に振った。サラサラと頬に触れる髪を払いながら「市街地にあるのさ」と答えた。
「市街地に?」
「そうさ。君も言った通りあそこは市街地もない辺境の地。年頃の学生が何もない場所で青春を過ごすには些か物足りない場所だろう」
刺激の足りない場所というところだろうか。確かに、ここにいるナイトレイブンカレッジの学生だって何もないところと不満を零しているのだ。同じ年頃の女子だって同じ不満を抱くだろう。
「彼女たちのストレスを減らすためにあらゆる施設を作っているらしいけれど――やはり限界もあるらしくてね」
あらゆる国と契約を交わしてゲートを置いているらしいよ、と告げるルークの情報源は一体どこにあるのか。
「何で知っているんだ」
「それは秘密さ」
パチンとポムフィオーレらしい綺麗なウィンクにこれ以上踏み込むのはやめた。それにルークの情報については信用性が高い。つまり、彼女は制限があったとしてもここに来ることができるということだ。
「フフ。愛しい恋人に足を運ばせることは嫌だろうけど逢瀬は楽しめるよ」
「だな……」
それにしてもなんで言ってくれなかったんだ。彼女のことだから知っているはずだが今まで市街地で会ったこともない。それにロイヤルソードアカデミーと交流があると聞いたことがあるからチェーニャも知っている――。
「あいつは言うはずないか……」
面白そうとか言って見過ごしていそうだ。
「さて、これでトレイくんの悩みも解消出来たところで――植木鉢が大変なことになっているよ」
「え……」
指に沿って視線を下げて「アッ!」と声をあげる。
そこには水浸しになった鉢植えがあった。考え込み過ぎてここだけに水を上げてしまったようだ。
「ハァ。これは根腐りするな」
「そうだね……ああ。でもこの様子はまるで君の恋人――アンジェリーナ・パーカーくんそのものかもしれないね」
「ッ!」
突然出てきた誰にも教えていない彼女の名前にルークを見る。彼はただ微笑んで「気を付けたまえ」と忠告を口にする。
「何をだ……」
「愛に溺れた者の末路は酷いものだから」
退廃的な美しさしかないよ、と言ったルークは「おっと!」とわざとらしい声を上げた。
「これからヴィルと約束があった。悪いけど先に失礼させてもらうよ」
「……ああ」
そしてルークは意味不明な忠告を残して去って行った。そして、俺は一人水浸しになった鉢を見つめ続けたが忠告の意味は理解できなかった。