大輪の薔薇一輪
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大輪の薔薇一輪
2月14日ツイステッドワンダーランドの各国で〝愛を告げる日〟とされている。
その日、友人に、家族に、夫に、妻に、恋人に、好きな人に愛を告げる。この日は、いつできたのかはよく分かっていない。いまだに謎が多く、その謎を解明するために研究する者もたくさんいるらしい。
とはいえ、このイベントは一部の者にとっては苦痛であるのは言うまでもない。
二大名門魔法士養成学校のナイトレイブンカレッジ。男子校ゆえに女子生徒は在籍していない。ゆえに、一部の生徒は安堵しながらも、またある一部の生徒は残念がる者もいる。その残念がる者の多くは――〝恋人〟がいる生徒であった。
愛を告げる日は何も恋人だけのイベントではない。家族や友人も愛を告げる対象である。ただし、年頃の男子生徒が家族や友人に日ごろの思いを告げるなんて気恥ずかしくてできやしない。よくて友人同士ふざけ合ってお菓子を送り合うことはある。だが、何が悲しくて友人同士で菓子を送り合わなければいけない。
だが、恋人持ちの生徒は違う。この〝愛を告げる日〟がある週の休みは外出届が多くでる。そう。恋人とデートしてイチャイチャするのだ。
そうして、学園に戻る頃には艶々しているのだから腹立たしいやら、何やら。もちろん、「リア充イベント」と割り切っている生徒もいたりはするが、多くの生徒はやはり腹立たしいイベントであることに違いはない。
さて、その中一部、恋人がいる男たちは愛しい彼女に会いに向かうのだった。
* * *
薔薇の王国では男性が女性に愛情が詰まったギフトを贈り、愛を告げる。
この日、ケーキをギフトに選ぶヒトも多く実家のケーキ屋は大忙しだった。トレイはナイトレイブンカレッジに入学してもその日だけは許可をもらって帰省し店の手伝いをしている。そして、今年も例にもれず手伝いに帰省している。
「父さん、少し外れても平気かな」
「ああ、構わないよ」
店の賑わいが落ち着いたところを見計らって父に声をかけると、快く頷いてくれた。それに安堵しながら他にも途中であった母さんやスタッフに声をかけて店を出る。
冬らしい冷たいすっきりとした空気が肌を撫でる。それでもあまり寒く感じることはなかった。そのまま住居部分へと迎い、そのままキッチンへと向かう。
「あれ? お兄ちゃん、もう終わったの?」
「いや。でもひと段落着いたからな」
「そっか」
同じく手伝いが終わった妹がキッチンにいた。どうやら遅めの昼食の準備をしているようだった。だが、何かもの言いたげにじぃっとなぜかトレイの方を見てくる。
「な、なんだ?」
「お兄ちゃんさ……アンジェちゃんのところ行かなくていいの?」
「ぇ゛う゛、ゴホッ」
驚きで声が詰まって咽てしまった。そんなトレイの反応に妹から呆れをたっぷり含んだ眼差しを向けられた。
「もしかして付き合ってるの隠しているつもりだった?」
「や、ぇ、なんで知ってるんだ?」
トレイは幼馴染のアンジェリーナとウィンタホリデーの頃から付き合い始めていた。長らく片想いでいた彼女と結ばれて初めての2月14日の愛を告げる日。もうすでに想いは伝えてはいるため、特別何かするつもりはなかったが――。
「マジないわ」
ケイトの茶化しのないかつ若干軽蔑の色を含んだ眼差しを向けられた。
それに「やっぱりした方がいいか」というトレイの言葉にケイトが普段以上に辛辣な言葉を交えながらトレイに2月14日がいかに恋人にとって大切に語ってみせた。
ケイトの怒涛の勢いにトレイはもう頷くしかなかった。
彼女もちょうど実家の花屋の手伝いで帰省していると言うし、会う時間も確保することができた。その際のDMのやり取りのテンションの高さからこしたイベントが好きなことを改めて知った。
なら、と張り切って飴で作った薔薇の飴細工をケーキに乗せた。それを持ち帰って実家の冷蔵庫に置いていたのだが――。
「ケーキか!」
「いや、違うけど……ていうかね。見れば分かるよ。見れば」
「え」
そこまで分かりやすいのか。あまり言われたことがなかったことに思わず顔を振れていると。
「ハァ。一応お兄ちゃんの妹だから。なんならお兄ちゃんよりもアンジェちゃんの方が分かりやすいからね」
アンジェリーナは口が軽い性格ではない。ただ分かりやすいかといえばたぶん分かりやすい方ではある。だが、トレイは彼女も自分のことを好きだったということに長らく気づかなかったため分かりやすいと言っていいかは悩むところだ。
「というか、ここであたしと駄弁ってないで早く会いに行きなよ。そうしないと、アンジェちゃんに男共が群がってくるよ」
妹の言葉に「そうだった!」と慌てて冷蔵庫に駆け寄る。冷蔵庫の中からそっと白い箱を取り出す。そのまま大事に箱を持ち直す。
「じゃ、すぐに戻るから店の方はよろしくな」
「すぐじゃなくても平気だよ。ごゆっくり~」
肩眉を上げて口角を上げる笑う顔はトレイと似ているように見えた。こういうとき、妹とも兄妹なんだなとしみじみと感じる。
「なら。何かあったら頼むな」
「はい、はい。いってらっしゃい」
妹にあしらわれるようにトレイは家を出て、はす向かいにある彼女の実家が営む花屋に向かった。
花屋は人だかりがというとそうでもない。アンジェリーナの両親の花束は緋色の都でも人気でこの日に用意する花束は予約のみとなっている。おかげで当日は以前のように人だかりができるということはなくなった。
それでも彼女は忙しい両親のために2月14日は花束の引き渡しや、掃除などの雑務を行うために帰省している。
この時間ならアンジェリーナの両親もひと段落ついているだろう。トレイはそう考えながら少しだけ歩くのを早くして向かう。
店に辿り着くといつもと変わらない花の香りがする。寮内には薔薇が咲き乱れているがここは様々な花の香りがする。その次回を感じているとレジカウンターの方から話し声が聞こえる。
接客中だったのか、とトレイは思ったが何だか少し違う気がした。嫌な予感がして足を進めるとカウンター越しのアンジェリーナの姿と男性の後ろ姿が見えた。
アンジェリーナの様子も接客というものではない。無理矢理注文しに来た客の相手とも感じない。それでも困ったように眉を下げている様子から導かれるのはひとつ。
どうやら妹の予言は的中したらしい。
はっ、と息を短く吐き出して手に入りかけた力を抜いて足を踏み出す。
「アンジェ」
なんてことないように愛称で呼ぶとアンジェリーナの視線がトレイに向けられる。すると、困った眉が少しだけ上がって少しだけ安心したように頬が緩む。
「トレイ、いらっしゃい」
「ん。もしかして接客中だったか?」
悪かったな、と眉を下げて男性の方をチラリと見る。
男性――と思ったが顔を見ればトレイより少し年下に見える少年だった。そして、その少年の手にはピンクの薔薇を主体にした小さな花束があった。
やっぱりな、と少年を見る。すると、こちらを伺っていた少年は忌々しそう睨み見返してくる。
告白を邪魔しに来やがって、と言いたげな少年に営業スマイルを向ける。たった、それだけで少し怯んだように少年は顔を反らした。
張り合いのない男だ。ナイトレイブンカレッジだったら好戦的にしかけてくる奴らばっかりなのに、なんて思っていたが再びこちらを見ていた少年の眼光が鋭くなった。
「おれが先に彼女に告白していたんだ。きみは後にしてくれ」
「ん?」
男子の発言に一瞬何を言われているか分からなかった。だが、彼の視線がトレイの手元に言ったことですぐに理解した。
どうやらトレイも告白しに来たと思われたらしい。
「ぶはっ」
トレイは思わず吹き出してしまった。ケーキ箱は何とか潰さなかったが笑いが止まらなかった。
「は? お、おい! 何が可笑しいんだ!」
「い、いや、まぁ。そう。そうだよなぁって思って。悪い、悪い」
笑いながら謝るが少年のプライドが傷ついたのか顔が真っ赤に染まっている。そんな彼を横目にトレイはアンジェリーナに話しかける。
「アンジェ。これ2月14日の俺からのギフトだ」
「ぇ、え。い、いま?」
「今以外ないだろ」
困惑気味のアンジェリーナを見ながらカウンターにケーキ箱を置く。そのあままずずっと彼女の方へと押しやる。
彼女は反射的に受け取ってトレイを見る。
「は、はぁ? ちょ、待て! どういうことだよ!」
「どうもこうも。彼女に告白断られたんだろ。恋人がいるって」
意地悪く少年に向かって言えばさらに顔を赤くさせた。同時にすぐ思い至ったのか「ぐぅ」と耐えるような声を出したと思いきや。
「バカにしやがって!」
と、叫んで店から出て行った。
足音も聞こえなくなった後にアンジェリーナを見れば肩の強張りがなくなっていた。
「大丈夫か」
「ぇ? あ、うん。あの子くらいなら大丈夫よ……」
力なく笑う彼女にあの様子からだいぶ詰められていたのではないかと心配になる。同時にもっと早く着たらもう少しあの少年といる時間が減ったかもしれない。自分の行動に少し悔やんでいるとガタッと音がした。
「ケーキ。ありがとう」
アンジェリーナの頬が薄っすらと色づく。この瞬間、自分の本来の目的を思い出す。だが、その肝心のケーキはさっきの少年に分からせるためにすでに彼女の小さな手の中にある。
「溶けちゃうといけないから冷蔵庫に入れて来ようと思うけど……トレイ時間はまだ平気」
「あ、ああ。もう少しくらい大丈夫だ」
「そう。ならちょっと待っててね。あ、カウンターの中に入って座っててちょうだい」
嬉しそうにはにかむとくるっと背を向けて店の奥に入って行った。
はぁ、と息を吐いてありがたく椅子に座らせてもらうことにした。カウンターの中に入って彼女が言った通り椅子がふたつある。そのひとつに腰をかける。
花の香りと秒針が動く音に何だか眠くなりかけたときだった。小さな足音が聞こえる。
「お待たせ!」
現れたアンジェリーナの手に真っ赤な薔薇が一輪あった。そして、トレイの前に立つとそっと両手で差し出した。
「今日は男性から女性へ愛を告げる日だけれど、東方の国では女性が男性へ愛を告げる日なんですって」
「へぇ」と感心しながらもトレイは「やられた」と同時に思った。
間抜けな顔でアンジェリーナを見れば白い頬が真っ赤な薔薇のように赤くなっている。
「その、だからね。わたしからでもいいかなって……」
キラキラした瞳がトレイを射抜く。
「トレイ。小さい頃から今もずっと好きよ」
トレイは差し出された丁寧に棘の処理をされた大輪の薔薇を受け取る。そのまま離れていきそうな彼女の小さな手を空いた手で掴む。そして、顔を上げてしっかりと星が瞬く瞳を見る。
「俺だって、そうだよ。アンジェのことずっと、ずっと好きだ」
輝く瞳を見開きそしてそっと伏せた睫毛が震えた。しばらく目を伏せた彼女はそっとまた瞼を開いて艶やかに瞳を濡らして嬉しそうに微笑んだ。
「うれしいわ」
震えた声に身体が動いた。
椅子を蹴る勢いで立ち上がりアンジェリーナの身体を抱き寄せる。柔らかい身体を深く抱き込む。甘い香りと花の香りが混じるのは紛れもなく彼女のもの。
か細い声でトレイの名を呼ぶ彼女に抱き寄せた腕を少し緩める。顔を覗き込む。
コーティングされたような艶々で甘そうな瞳に引き寄せられるように顔を寄せた。
トレイはこの年から以降ずっとこの日を大切にすることにした。そして、毎年二人愛を確かめ合った。
2025.02.16
2月14日ツイステッドワンダーランドの各国で〝愛を告げる日〟とされている。
その日、友人に、家族に、夫に、妻に、恋人に、好きな人に愛を告げる。この日は、いつできたのかはよく分かっていない。いまだに謎が多く、その謎を解明するために研究する者もたくさんいるらしい。
とはいえ、このイベントは一部の者にとっては苦痛であるのは言うまでもない。
二大名門魔法士養成学校のナイトレイブンカレッジ。男子校ゆえに女子生徒は在籍していない。ゆえに、一部の生徒は安堵しながらも、またある一部の生徒は残念がる者もいる。その残念がる者の多くは――〝恋人〟がいる生徒であった。
愛を告げる日は何も恋人だけのイベントではない。家族や友人も愛を告げる対象である。ただし、年頃の男子生徒が家族や友人に日ごろの思いを告げるなんて気恥ずかしくてできやしない。よくて友人同士ふざけ合ってお菓子を送り合うことはある。だが、何が悲しくて友人同士で菓子を送り合わなければいけない。
だが、恋人持ちの生徒は違う。この〝愛を告げる日〟がある週の休みは外出届が多くでる。そう。恋人とデートしてイチャイチャするのだ。
そうして、学園に戻る頃には艶々しているのだから腹立たしいやら、何やら。もちろん、「リア充イベント」と割り切っている生徒もいたりはするが、多くの生徒はやはり腹立たしいイベントであることに違いはない。
さて、その中一部、恋人がいる男たちは愛しい彼女に会いに向かうのだった。
* * *
薔薇の王国では男性が女性に愛情が詰まったギフトを贈り、愛を告げる。
この日、ケーキをギフトに選ぶヒトも多く実家のケーキ屋は大忙しだった。トレイはナイトレイブンカレッジに入学してもその日だけは許可をもらって帰省し店の手伝いをしている。そして、今年も例にもれず手伝いに帰省している。
「父さん、少し外れても平気かな」
「ああ、構わないよ」
店の賑わいが落ち着いたところを見計らって父に声をかけると、快く頷いてくれた。それに安堵しながら他にも途中であった母さんやスタッフに声をかけて店を出る。
冬らしい冷たいすっきりとした空気が肌を撫でる。それでもあまり寒く感じることはなかった。そのまま住居部分へと迎い、そのままキッチンへと向かう。
「あれ? お兄ちゃん、もう終わったの?」
「いや。でもひと段落着いたからな」
「そっか」
同じく手伝いが終わった妹がキッチンにいた。どうやら遅めの昼食の準備をしているようだった。だが、何かもの言いたげにじぃっとなぜかトレイの方を見てくる。
「な、なんだ?」
「お兄ちゃんさ……アンジェちゃんのところ行かなくていいの?」
「ぇ゛う゛、ゴホッ」
驚きで声が詰まって咽てしまった。そんなトレイの反応に妹から呆れをたっぷり含んだ眼差しを向けられた。
「もしかして付き合ってるの隠しているつもりだった?」
「や、ぇ、なんで知ってるんだ?」
トレイは幼馴染のアンジェリーナとウィンタホリデーの頃から付き合い始めていた。長らく片想いでいた彼女と結ばれて初めての2月14日の愛を告げる日。もうすでに想いは伝えてはいるため、特別何かするつもりはなかったが――。
「マジないわ」
ケイトの茶化しのないかつ若干軽蔑の色を含んだ眼差しを向けられた。
それに「やっぱりした方がいいか」というトレイの言葉にケイトが普段以上に辛辣な言葉を交えながらトレイに2月14日がいかに恋人にとって大切に語ってみせた。
ケイトの怒涛の勢いにトレイはもう頷くしかなかった。
彼女もちょうど実家の花屋の手伝いで帰省していると言うし、会う時間も確保することができた。その際のDMのやり取りのテンションの高さからこしたイベントが好きなことを改めて知った。
なら、と張り切って飴で作った薔薇の飴細工をケーキに乗せた。それを持ち帰って実家の冷蔵庫に置いていたのだが――。
「ケーキか!」
「いや、違うけど……ていうかね。見れば分かるよ。見れば」
「え」
そこまで分かりやすいのか。あまり言われたことがなかったことに思わず顔を振れていると。
「ハァ。一応お兄ちゃんの妹だから。なんならお兄ちゃんよりもアンジェちゃんの方が分かりやすいからね」
アンジェリーナは口が軽い性格ではない。ただ分かりやすいかといえばたぶん分かりやすい方ではある。だが、トレイは彼女も自分のことを好きだったということに長らく気づかなかったため分かりやすいと言っていいかは悩むところだ。
「というか、ここであたしと駄弁ってないで早く会いに行きなよ。そうしないと、アンジェちゃんに男共が群がってくるよ」
妹の言葉に「そうだった!」と慌てて冷蔵庫に駆け寄る。冷蔵庫の中からそっと白い箱を取り出す。そのまま大事に箱を持ち直す。
「じゃ、すぐに戻るから店の方はよろしくな」
「すぐじゃなくても平気だよ。ごゆっくり~」
肩眉を上げて口角を上げる笑う顔はトレイと似ているように見えた。こういうとき、妹とも兄妹なんだなとしみじみと感じる。
「なら。何かあったら頼むな」
「はい、はい。いってらっしゃい」
妹にあしらわれるようにトレイは家を出て、はす向かいにある彼女の実家が営む花屋に向かった。
花屋は人だかりがというとそうでもない。アンジェリーナの両親の花束は緋色の都でも人気でこの日に用意する花束は予約のみとなっている。おかげで当日は以前のように人だかりができるということはなくなった。
それでも彼女は忙しい両親のために2月14日は花束の引き渡しや、掃除などの雑務を行うために帰省している。
この時間ならアンジェリーナの両親もひと段落ついているだろう。トレイはそう考えながら少しだけ歩くのを早くして向かう。
店に辿り着くといつもと変わらない花の香りがする。寮内には薔薇が咲き乱れているがここは様々な花の香りがする。その次回を感じているとレジカウンターの方から話し声が聞こえる。
接客中だったのか、とトレイは思ったが何だか少し違う気がした。嫌な予感がして足を進めるとカウンター越しのアンジェリーナの姿と男性の後ろ姿が見えた。
アンジェリーナの様子も接客というものではない。無理矢理注文しに来た客の相手とも感じない。それでも困ったように眉を下げている様子から導かれるのはひとつ。
どうやら妹の予言は的中したらしい。
はっ、と息を短く吐き出して手に入りかけた力を抜いて足を踏み出す。
「アンジェ」
なんてことないように愛称で呼ぶとアンジェリーナの視線がトレイに向けられる。すると、困った眉が少しだけ上がって少しだけ安心したように頬が緩む。
「トレイ、いらっしゃい」
「ん。もしかして接客中だったか?」
悪かったな、と眉を下げて男性の方をチラリと見る。
男性――と思ったが顔を見ればトレイより少し年下に見える少年だった。そして、その少年の手にはピンクの薔薇を主体にした小さな花束があった。
やっぱりな、と少年を見る。すると、こちらを伺っていた少年は忌々しそう睨み見返してくる。
告白を邪魔しに来やがって、と言いたげな少年に営業スマイルを向ける。たった、それだけで少し怯んだように少年は顔を反らした。
張り合いのない男だ。ナイトレイブンカレッジだったら好戦的にしかけてくる奴らばっかりなのに、なんて思っていたが再びこちらを見ていた少年の眼光が鋭くなった。
「おれが先に彼女に告白していたんだ。きみは後にしてくれ」
「ん?」
男子の発言に一瞬何を言われているか分からなかった。だが、彼の視線がトレイの手元に言ったことですぐに理解した。
どうやらトレイも告白しに来たと思われたらしい。
「ぶはっ」
トレイは思わず吹き出してしまった。ケーキ箱は何とか潰さなかったが笑いが止まらなかった。
「は? お、おい! 何が可笑しいんだ!」
「い、いや、まぁ。そう。そうだよなぁって思って。悪い、悪い」
笑いながら謝るが少年のプライドが傷ついたのか顔が真っ赤に染まっている。そんな彼を横目にトレイはアンジェリーナに話しかける。
「アンジェ。これ2月14日の俺からのギフトだ」
「ぇ、え。い、いま?」
「今以外ないだろ」
困惑気味のアンジェリーナを見ながらカウンターにケーキ箱を置く。そのあままずずっと彼女の方へと押しやる。
彼女は反射的に受け取ってトレイを見る。
「は、はぁ? ちょ、待て! どういうことだよ!」
「どうもこうも。彼女に告白断られたんだろ。恋人がいるって」
意地悪く少年に向かって言えばさらに顔を赤くさせた。同時にすぐ思い至ったのか「ぐぅ」と耐えるような声を出したと思いきや。
「バカにしやがって!」
と、叫んで店から出て行った。
足音も聞こえなくなった後にアンジェリーナを見れば肩の強張りがなくなっていた。
「大丈夫か」
「ぇ? あ、うん。あの子くらいなら大丈夫よ……」
力なく笑う彼女にあの様子からだいぶ詰められていたのではないかと心配になる。同時にもっと早く着たらもう少しあの少年といる時間が減ったかもしれない。自分の行動に少し悔やんでいるとガタッと音がした。
「ケーキ。ありがとう」
アンジェリーナの頬が薄っすらと色づく。この瞬間、自分の本来の目的を思い出す。だが、その肝心のケーキはさっきの少年に分からせるためにすでに彼女の小さな手の中にある。
「溶けちゃうといけないから冷蔵庫に入れて来ようと思うけど……トレイ時間はまだ平気」
「あ、ああ。もう少しくらい大丈夫だ」
「そう。ならちょっと待っててね。あ、カウンターの中に入って座っててちょうだい」
嬉しそうにはにかむとくるっと背を向けて店の奥に入って行った。
はぁ、と息を吐いてありがたく椅子に座らせてもらうことにした。カウンターの中に入って彼女が言った通り椅子がふたつある。そのひとつに腰をかける。
花の香りと秒針が動く音に何だか眠くなりかけたときだった。小さな足音が聞こえる。
「お待たせ!」
現れたアンジェリーナの手に真っ赤な薔薇が一輪あった。そして、トレイの前に立つとそっと両手で差し出した。
「今日は男性から女性へ愛を告げる日だけれど、東方の国では女性が男性へ愛を告げる日なんですって」
「へぇ」と感心しながらもトレイは「やられた」と同時に思った。
間抜けな顔でアンジェリーナを見れば白い頬が真っ赤な薔薇のように赤くなっている。
「その、だからね。わたしからでもいいかなって……」
キラキラした瞳がトレイを射抜く。
「トレイ。小さい頃から今もずっと好きよ」
トレイは差し出された丁寧に棘の処理をされた大輪の薔薇を受け取る。そのまま離れていきそうな彼女の小さな手を空いた手で掴む。そして、顔を上げてしっかりと星が瞬く瞳を見る。
「俺だって、そうだよ。アンジェのことずっと、ずっと好きだ」
輝く瞳を見開きそしてそっと伏せた睫毛が震えた。しばらく目を伏せた彼女はそっとまた瞼を開いて艶やかに瞳を濡らして嬉しそうに微笑んだ。
「うれしいわ」
震えた声に身体が動いた。
椅子を蹴る勢いで立ち上がりアンジェリーナの身体を抱き寄せる。柔らかい身体を深く抱き込む。甘い香りと花の香りが混じるのは紛れもなく彼女のもの。
か細い声でトレイの名を呼ぶ彼女に抱き寄せた腕を少し緩める。顔を覗き込む。
コーティングされたような艶々で甘そうな瞳に引き寄せられるように顔を寄せた。
トレイはこの年から以降ずっとこの日を大切にすることにした。そして、毎年二人愛を確かめ合った。
2025.02.16
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