どこにでもある恋物語
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好きな子は甘ったる可愛い女の子
近頃、うちの店の中を穴が開くほど見つめて来る女の子がいる。その女の子は斜向かいの花屋さんの女の子だ。週に一回お母さんと一緒にケーキを買いに来て楽しげに選んでいるのが印象的だった。
――なにしに来ているんだ?
ケーキを買いに来る時期を考えるとまだ少しある。でも、あの子は最近毎日のようにケーキを見に来る。
――もしかして食べたいのか?
選んでいるときの様子を見るとあの女の子はケーキが大好きだ。つまり、週一のケーキが待ち遠しくてここ最近我慢出来なくてうちにケーキを見に来ているのではないか。ケーキ屋の息子としては嬉しい限りで、つい女の子に何かしたくなってきた。
手伝いに一区切りつけて外に出てじぃっと見つめている女の子に声をかける。
「よかったらうちのケーキ食べていくか?」
女の子はびっくりとした様子で弟妹たちと同じくらい丸い目を見開いた。驚いた顔は瞬く間に恥ずかしそうに頬を真っ赤にさせて俯いてしまった。
まだ小学生の自分でも分る彼女はこのシュチュエーションに羞恥心を感じていることを。俺は慌てて謝罪をする。
「ごめん。いきなりケーキ食べて行くなんて」
「ぇ、あ、ちがっう」
噤んでいた口を開けて女の子は必死に首を横に振った。どうやら気を遣われたようだ。それでも必死に「違う、違うの」と言う姿に自然と肩に入っていた力が抜ける。どうやら柄にもなく緊張していたみたいだ。
「よかった」
ほろりとその緊張がほぐれて出た言葉に女の子の動きが止まった。
どうしたんだ、と女の子を見ると丸い瞳がキラキラと輝いていた。星をちりばめたようなという表現をこの間妹にせがまれて読んだ童話で見た。まさに、童話に出て来るお姫様の瞳のように目の前の女の子は可愛らしく瞳を輝かせていたのだった。
今考えれば俺の初恋はそこから始まっていた。
* * *
太陽が昇る前の早朝から疲労感が半端じゃない。弟妹に見つからないように下着を朝から選択するだけでここまで疲労になるなんて久々だ。いや、寮生活の今もふとしたことでそういった疲労感は出るが何故か寮より実家の方が気を遣うような気がする。
何にしても朝からこうした事態になったのは久々なのは事実だ。
――あ~、昨日久々にあったからだな。
洗濯機に下着を放り込んで頭を抱えて一人賢者タイムを迎える。
夢精の原因もすでに見当はついている。昨日、久々に彼女と出会ったからだ。ただ、その出会い方というか、見つけ方が悪かった。
昨日は蒸し暑くてとてもベタつく日だった。男ならば髪が長くなければ鬱陶しいくはないが女は別だ。だから髪の長い彼女のあの行動に何ら問題はない。問題はなかったが華奢な項に汗で貼りつく髪の毛という何とも言えないシュチュエーションが目に焼きついてしまったのだ。普通の女性なら別になにも思わないが彼女は別だ。
ケーキが大好きな斜向かいの花屋の幼馴染。他人に紹介するならばそうだ。でも、実際はそれだけではない。自分のケーキを美味しそうに食べてくれるとても甘そうな女の子。いつの間にか他の男の花嫁にしたくない女の子。リドルにお似合い、と言われるくらい身長が低くて可愛い女の子だがリドルにだって渡さない。
全部ひっくるめれば好きな女の子ということだ。
久々に見た彼女は相変らず可愛いし、甘そうだし、可愛い。そんな子は高校に入ってから随分と雰囲気が変わった。
「あれは痩せすぎだ」
中学生まではふっくらというか肉付きのいい身体をしていた。女の子は脂肪がつきやすい年頃だしあれくらいふっくらしていると触り心地が良さそうで好きだった。でも、昨日見たあの子はほっそりとしていた。細いことに問題はないがやはり痩せすぎている気がする。
――あんなの見たら太らせたくなるだろ。
年頃の女子が耳にしたら発狂ものの台詞を心の中で呟く。それでももう少しふっくらしてほしい。別に豚のようになれと言っている訳ではない。もう少し脂肪を取り戻してほしいというだけだ。彼女は嫌だろうが。
「でも、試作品を食べていれば何キロかは戻るだろう」
目測でも平均体重より下ぐらいだろう。ならば、もう少し脂肪をつけさせても問題はあるまい。これから彼女を平均体重に戻す休みが始まるはずだった。
高校生に入ってからやはり雰囲気が変わったことを今思い知らされた。
試食にやって来た彼女は薄く化粧を施し、髪の毛を可愛らしくアレンジし、見慣れないワンピースを身に纏っていた。ついでに、可愛らしくはにかみながら「ど、どうかな? 姉さまたちに教わったんだけど」とワンピースの裾を摘まんで言う。
可愛いに決まっているだろう、と心の中の俺が叫ぶ。でも、それを口にしてしまったら自分のキャラクターが崩れてしまいそうな気がする。何より、口にした後自分がどんなこうどうをするか分からない。それでも彼女が落ち込まないように当たり障りのない言葉を絞り出す。
「随分と雰囲気が変わったな」
彼女は分かりやすく落ち込んだ。いつもすぐに試作したケーキの見た目にはしゃぐ彼女の反応がいまひとつだ。いや、感性を擽らないのかもしれないが彼女は俺のケーキが大好きだ。どんなものでも反応はくれる。けれど、今はない。ということは、だ。
――さっきのやっぱり駄目だったか?
年頃の女の子は分からない。そもそも男子校に通う自分が中学生までの女の子しかしらない自分が分かる訳がない。でも、彼女のことは分かっているつもりだったが違うようだ。
もう一度褒め直したところでこちらがあからさまに気を遣った形になる。彼女もそれを望んでいないだろう。
ぐるぐると考えながらケーキを切って、寮から持参した紅茶を入れて彼女の前に出す。途端に彼女の頬が緩んでふわりと蕾が綻んだようだった。
色白の頬が赤みを覚える姿は本当に何度見ていても飽きない。本当はもっとずっと見ていた。それはあと何年か先の話だ。
「流石トレイね。ホールの状態も可愛くて好きだったけど、切っても綺麗だわ」
「ありがとな」
お世辞でも嬉しい、と言えば彼女は違うと不服な顔をする。その顔も随分可愛らしいが以前よりも大人びた色を感じる。彼女も大人になっていくのだと思うと早く繋ぎ止めておかない。可笑しな焦りが滲み出る。
「ねぇ。リドルくんだけど……」
唐突に彼女の口から幼馴染の名が出て来る。とても珍しいことだ。俺とリドルは幼馴染だけど彼女は違う。お互い顔も知り程度である。そもそも彼女はリドルの性格を苦手だと覚えていた。一体どんな風向きだろうか。
続いて彼女は「何だか酷く苛立っていた様子だけど学校で何かあったの?」と訊ねた。それに自分の心配は杞憂であることを悟る。ならば、学校でのリドルのことを話そう。
「お前にはそう見えたか?」
「ええ。確かに彼はお家のことを考えれば規律に厳しくて神経質な性質だと思うけど……なんか、それとはまた違う気がするのよね」
意外だった。彼女はリドルを苦手としていたから関心を持っているとは考えたことはなかった。胸に小さなひっかき傷が出来た。
――駄目だな。
彼女は純粋に幼馴染のことを心配しているだけだ。冷静を取り戻しつつ俺はリドルの近状を話し始めた。
リドルの話を終えると彼女がようやく俺の作ったケーキを食べ始めた。
先ほどまでの真剣な顔が和らいでそれはもうとても美味しそうだ。柔らかそうな白い頬が可愛らしくもくもくと動く。それでも以前の方が丸み帯びていて良かった。やはり彼女はもう少し丸くなった方がいい。
「お前随分と痩せたな……いや、痩せすぎじゃないか?」
「……え?」
目を丸くさせた彼女が若干引き攣りながら「や、痩せすぎかしら?」と聞き返す。それに頷いてひとつ思い至ったことを口にする。
「もしかして学校の食事が美味くないのか?」
彼女は慌てて「そんなことはない」と言う。では「食欲は?」と訊ねればそれもないと首を横に振る。もし食欲がなければ俺のケーキは食べられないと、それにケーキもとても美味しいと言う。彼女に褒められると嬉しくなって思わず頬が緩む。
けど、これはこれ、それはそれだ。俺は暑くなるから食欲を落とさないように忠告しておく。とくにしっかりと食べろと言えば顔がまた引き攣った。これは怪しい。
――よし。ホリデーのうちは様子を見るか。
こうして俺の休みは過ぎて行った。
* * *
怒涛の新学期を終えてウィンターホリデーを迎えた。同郷のリドルと共に帰省すると同じく彼女も帰省していた。
実家の傍まで来ると同じタイミングで花屋から出て来た彼女がいた。彼女はすぐに気づいてこちらに歩み寄って挨拶をしてくれた。
「トレイ。久しぶり」
「……久しぶり」
声をかけてきた彼女は以前よりもふっくらとしていた。とはいっても太ったわけではない。平均体重くらいにはなったのかと思うがそれ以上に俺に大きな衝撃を彼女は与えた。
――何だか疲れ顔をしているな。
無事進級し後輩もできて忙しいと思う。だが、それにしても彼女の顔は疲れているように見えた。
「大丈夫か? 何だか疲れた顔をしているな」
「え。そうかしら? でも、きっと二年生になったからよ」
「それにね。わたしも副寮長にされてしまってね」と疲れた顔で言う。なるほど寮長が相当扱い辛いのだろう。ついでに自分の勉強もあって彼女も大変なはずだ。
「そうだったのか。そうだ。せっかくだしうちでケーキでも食べていくか?」
ケーキが好きな彼女のことだ。すぐに承諾してくれるだろうと思ったが――。
「あ、んと、ごめんなさい。行けない……」
気まずそうに視線を下に向ける彼女。俺はというと彼女からの初めてのお断りに大きな衝撃を受けた。
「あ、用事か。それだったらしかたないな」
つとめて平静に返事をすれば彼女は苦笑して「それも違うけど」と言う。
――なら、なんだ!
心のままに叫びたかったがそんなみっともないことは出来ない。特に好きな子の前でなんて絶対にしない。でも、彼女が自分の誘いを断るほどの理由は知りたい。
「……何かあったのか? 俺も副寮長しているし相談に乗るぞ」
「ありがとう……そうね。なら、ちょっと今からいい?」
「分かった。ちょっと荷物置いてくるから待っていてくれ」
頷く彼女を見て速攻で荷物を置いて両親、弟妹に帰省の挨拶をする。ちなみに、弟妹は残念そうにするが彼女の名を出すとあっさりと身を引く。物わかりのいい弟妹で助かる。
外へ出れば彼女はちょこんと店の前で待っていた。夏とは違う冬特有のもこもことした服装が可愛らしい。
「悪い。待たせたな」
「ううん。そんなことないわ。じゃ、行きましょう」
俺は彼女に促されるまま着いていく。
歩き続けると懐かしい公園に彼女は手首を数回振った。手首からシャンと軽やかな音がした。
――俺たちのところのマジカルペンみたいなものか。
学校ごとに形態が違うんだなと感心していると彼女がこちらを振り返った。
「今人除けの魔法を使ったから人はことないと思うの」
恥ずかしげに人が来ないなんて言葉普通に男に使ってはいけない。その言葉を使ってくれたのが自分で良かった。他の男に使ってくれなくて良かった。
よく分らない安堵を取り繕って「何だ。秘密の話か?」と彼女が何を言いたいのか促す。彼女は少し口篭もりながら意を決したようにこちらを見上げた。
「わたし、トレイのことが好きだったわ」
「ずっと小さい頃から好きだったの」と白い頬を薄らと赤く染めながら告げる彼女。
驚きと、想像以上の歓喜、ちょっとした疑問が過る。
「過去形だな」
彼女は過去形で今告白してきた。何故だ。ポツリと呟くと彼女は痛ましい笑みを浮かべて長い髪を耳にかける。
「けじめよ」
「なんのだ?」
「わたしの恋の」
まるですでに振られている前提で彼女は話している。こめかみに手を置いて首を振る。
「話しが見えないぞ」
「……トレイはわたしを女の子と見ていないでしょ」
指をもじつかせながら言う彼女に反射的に首を横に振った。彼女はどうやら鈍感だったようだ。いや、自分も何か非はあるだろう。でも、明らかに周りの女の子たちとは違う扱いをしていた通りだ。
――けれど幼馴染なら周りと違うとも思うよな。
もっとあからさまに行動すればよかったのか。それはそれで自分らしくない。アプローチ不足が否めないことだけは分かった。
「それにトレイの学校に女の子いるでしょ」
「女の子?」
言われて首を傾げる。男子校のナイトレイブンカレッジに女の子は居ないが――ひとつ心当たりがある。
――監督生のことか。でも、あいつは女か、男かも分からないし、な。
顔立ちは可愛らしいが身長は女にしては高い方だ。本人も性別に言及していない。だが、何故彼女が監督生のことを知っているのだろうか。
「何でお前が知っているんだ」
「ケイトくんのマジカメ見たら載っていたの」
マジカメしていたのかとよりも、ケイトのことは「くん」付けなのかと別の方向に意識がいってしまう。随分と小さな嫉妬をするものだ。いや、彼女の告白がどうにも自分の神経を逆なでしているようだ。
「監督生は男だ。それに俺からしたら可愛い後輩の一人だ」
恋愛感情はそこに一ミリもない。こうなったら焼けだ。
「俺の好きな子はお前だよ」
「へ」
ぽかんとした顔をする彼女に苦笑いを向ける。それから彼女の小さな手を掴む。手袋を着けるほど寒くないが真っ白な指先が赤くかじかんでいる。
「ずっと昔からお前のことしか俺は見ていない」
ついでに真っ赤になっている可愛い指先にキスをする。
さて、これくらい臭いことをすれば伝わるだろうと期待を込めて見る。そこには固まった彼女がいた。
「は、はは。やりすぎたか?」
それでも彼女からの反応がなくて泣きたくなる。どうすればいいと真っ赤になっている指先が気になって擦ると消えた。
彼女が手を引いたのだ。それはもう素早く。そして、バッと自分の手を包むと寒さで冷えて赤くなっていた頬が真っ赤になった。
「う、わぁわ、あ、あした、わたし死ぬのね!」
「なんでそうなるんだ!」
死ぬ、死ぬと連呼する彼女の肩を掴んで「死なない」と叫び返す。何だ。このやり取りは。このとき心底周りに魔法が施されていて良かったと思う。でなければ警察沙汰だ。とりあえず、死ぬ、死ぬ連呼を止めさせよう。
「死なないって。なんだよ、その反応は」
「だ、だって、トレイ、わたしのこと女の子って見てなかったもの!」
「女の子だったぞ。ずっと、出逢った頃から」
「なら、もっと反応してよぉぉ!」
今度は泣きべそをかきながら抱き着いて来たので抱き留める。
本当に感情が忙しい女の子だ。でも、実際彼女の努力に何も反応していなかったのは自分だ。これからは反省しなければ。
――ということは、痩せ始めたのはダイエットでそれもアプローチだったてことか。
無駄なことをする、と口が裂けてもいえない。それは何となく分った。
もこもこの彼女を抱きしめながら頭を撫でると泣きべそが聞こえなくなった。どうしたんだ、と両頬を挟んで顔を上げさせる。
目を潤ませた目元を赤く染めたちょっと残念な顔の彼女。でも、俺から見ればとても愛おしい顔だ。
「わたしの顔酷いわ」
「そんなことないぞ」
「嘘」
「嘘じゃない」
可愛い、と言えば視線を彷徨わせてから「ありがとう」と可愛らしくはにかんだ。本当に可愛くてどうにかなりそうで我慢の限界だった。
丸い額にキスを、まだ薄らと赤い目元にキスを、して真っ赤な顔の彼女と目が合う。キラキラした瞳はそっと伏せられて隠れたのが合図となった。
キュッと結ばれた小さな唇に触れようとしたところだった――。
「あと少しで魔法が解けそうだにゃぁ」
「ちょ、おい! チェーニャ! 野暮なことをすんじゃない!」
聞き覚えのある声に咄嗟に彼女の身体を離す。そして、二つの声は自分に聞こえたということは彼女にも聞こえたというわけで――。
「っっ!」
羞恥心で顔を真っ赤にしていた。可哀想なほどに真っ赤なので隠す意図で彼女を抱き寄せる。そして、よく見れば魔法が殆ど解けかけている。
はぁと深い溜息を吐いて彼女がかけた魔法を解く。そして、草むらにいる二人を見る。
「お前たち何してるんだ」
「お! トレイぃ~」
「い、いや、これはっ、違う!」
呑気に手を振るチェーニャと、顔を髪の毛と同じくらい真っ赤にしたリドル。分かりやすく覗き見をされていたようだ。けれど、二人の魔法の力を考えれば頷ける。
「ぼ、ボクは野暮なことをするなって!」
「ええ~。リドルは『な、なんて破廉恥な!』って言ってたじゃん」
「言ってない!」
二人の野暮な行動の言い訳に耳を傾けつつ腕の中の存在が小さくなっていくのを感じる。そろそろ突き飛ばされて逃げ出されてしまいに違いない。
「おい。お前たち、とりあえずどっか行ってくれ」
「分かったにゃぁ~。んじゃ、これは俺からのお詫び」
チェーニャが指を鳴らすと再び周りから気配が消える。どうやら何か周りから見えなくなる魔法が使われたようだ。とはいっても、他人がかけた魔法はちょっと心もとない。トレイもポケットから取り出したマジカルペンを振ってかけ直す。
「これでいいだろ……って、こともないか」
雰囲気もぶち壊されてはキスの続きなんて到底できない。
「おい。もう大丈夫だぞ」
「ぅぅ~恥ずかしい。しかも、魔法が解けかけていたなんて」
色々と恥ずかしいようだ。これはもう本当にキスの続きはお預けのようだ。
「まぁ、効果の持続は難しいからな。練習だな」
背中を宥めるように擦る。すると、強張っていた身体の力が抜けてきた。
「もう平気か? 帰るか?」
「え」
顔を勢いよく上げた彼女は情けなく眉を下げた。意外な彼女の反応に諦めかけていた欲が起き上がる。そして、からかいたい気分になった。
「なんだ? その顔は?」
自分は悪い顔をしているだろう。現に彼女がしどろもどろしている。こんな反応されたらもっとからかいたくなる。けれど、からかい過ぎてこのチャンスを潰したくはない。
「続きしていいのか?」
顔を近づけて訊ねる。忙しなく動いていた視線はこちらに向けられて伏せられた。何とも愛らしくてあざとい誘いに乗らない訳ない。
彼女の小さな顎に手をかけてようやくキスをした。触れるほどの幼いキスだったが離れたときの彼女はすこぶる可愛かった。
――次はいつできるか……あと、眼鏡は取ろう。
そうしたらもう少し長く出来るだろう。少し下心のあることを考えながらホリデー期間のデートの話をした。
近頃、うちの店の中を穴が開くほど見つめて来る女の子がいる。その女の子は斜向かいの花屋さんの女の子だ。週に一回お母さんと一緒にケーキを買いに来て楽しげに選んでいるのが印象的だった。
――なにしに来ているんだ?
ケーキを買いに来る時期を考えるとまだ少しある。でも、あの子は最近毎日のようにケーキを見に来る。
――もしかして食べたいのか?
選んでいるときの様子を見るとあの女の子はケーキが大好きだ。つまり、週一のケーキが待ち遠しくてここ最近我慢出来なくてうちにケーキを見に来ているのではないか。ケーキ屋の息子としては嬉しい限りで、つい女の子に何かしたくなってきた。
手伝いに一区切りつけて外に出てじぃっと見つめている女の子に声をかける。
「よかったらうちのケーキ食べていくか?」
女の子はびっくりとした様子で弟妹たちと同じくらい丸い目を見開いた。驚いた顔は瞬く間に恥ずかしそうに頬を真っ赤にさせて俯いてしまった。
まだ小学生の自分でも分る彼女はこのシュチュエーションに羞恥心を感じていることを。俺は慌てて謝罪をする。
「ごめん。いきなりケーキ食べて行くなんて」
「ぇ、あ、ちがっう」
噤んでいた口を開けて女の子は必死に首を横に振った。どうやら気を遣われたようだ。それでも必死に「違う、違うの」と言う姿に自然と肩に入っていた力が抜ける。どうやら柄にもなく緊張していたみたいだ。
「よかった」
ほろりとその緊張がほぐれて出た言葉に女の子の動きが止まった。
どうしたんだ、と女の子を見ると丸い瞳がキラキラと輝いていた。星をちりばめたようなという表現をこの間妹にせがまれて読んだ童話で見た。まさに、童話に出て来るお姫様の瞳のように目の前の女の子は可愛らしく瞳を輝かせていたのだった。
今考えれば俺の初恋はそこから始まっていた。
* * *
太陽が昇る前の早朝から疲労感が半端じゃない。弟妹に見つからないように下着を朝から選択するだけでここまで疲労になるなんて久々だ。いや、寮生活の今もふとしたことでそういった疲労感は出るが何故か寮より実家の方が気を遣うような気がする。
何にしても朝からこうした事態になったのは久々なのは事実だ。
――あ~、昨日久々にあったからだな。
洗濯機に下着を放り込んで頭を抱えて一人賢者タイムを迎える。
夢精の原因もすでに見当はついている。昨日、久々に彼女と出会ったからだ。ただ、その出会い方というか、見つけ方が悪かった。
昨日は蒸し暑くてとてもベタつく日だった。男ならば髪が長くなければ鬱陶しいくはないが女は別だ。だから髪の長い彼女のあの行動に何ら問題はない。問題はなかったが華奢な項に汗で貼りつく髪の毛という何とも言えないシュチュエーションが目に焼きついてしまったのだ。普通の女性なら別になにも思わないが彼女は別だ。
ケーキが大好きな斜向かいの花屋の幼馴染。他人に紹介するならばそうだ。でも、実際はそれだけではない。自分のケーキを美味しそうに食べてくれるとても甘そうな女の子。いつの間にか他の男の花嫁にしたくない女の子。リドルにお似合い、と言われるくらい身長が低くて可愛い女の子だがリドルにだって渡さない。
全部ひっくるめれば好きな女の子ということだ。
久々に見た彼女は相変らず可愛いし、甘そうだし、可愛い。そんな子は高校に入ってから随分と雰囲気が変わった。
「あれは痩せすぎだ」
中学生まではふっくらというか肉付きのいい身体をしていた。女の子は脂肪がつきやすい年頃だしあれくらいふっくらしていると触り心地が良さそうで好きだった。でも、昨日見たあの子はほっそりとしていた。細いことに問題はないがやはり痩せすぎている気がする。
――あんなの見たら太らせたくなるだろ。
年頃の女子が耳にしたら発狂ものの台詞を心の中で呟く。それでももう少しふっくらしてほしい。別に豚のようになれと言っている訳ではない。もう少し脂肪を取り戻してほしいというだけだ。彼女は嫌だろうが。
「でも、試作品を食べていれば何キロかは戻るだろう」
目測でも平均体重より下ぐらいだろう。ならば、もう少し脂肪をつけさせても問題はあるまい。これから彼女を平均体重に戻す休みが始まるはずだった。
高校生に入ってからやはり雰囲気が変わったことを今思い知らされた。
試食にやって来た彼女は薄く化粧を施し、髪の毛を可愛らしくアレンジし、見慣れないワンピースを身に纏っていた。ついでに、可愛らしくはにかみながら「ど、どうかな? 姉さまたちに教わったんだけど」とワンピースの裾を摘まんで言う。
可愛いに決まっているだろう、と心の中の俺が叫ぶ。でも、それを口にしてしまったら自分のキャラクターが崩れてしまいそうな気がする。何より、口にした後自分がどんなこうどうをするか分からない。それでも彼女が落ち込まないように当たり障りのない言葉を絞り出す。
「随分と雰囲気が変わったな」
彼女は分かりやすく落ち込んだ。いつもすぐに試作したケーキの見た目にはしゃぐ彼女の反応がいまひとつだ。いや、感性を擽らないのかもしれないが彼女は俺のケーキが大好きだ。どんなものでも反応はくれる。けれど、今はない。ということは、だ。
――さっきのやっぱり駄目だったか?
年頃の女の子は分からない。そもそも男子校に通う自分が中学生までの女の子しかしらない自分が分かる訳がない。でも、彼女のことは分かっているつもりだったが違うようだ。
もう一度褒め直したところでこちらがあからさまに気を遣った形になる。彼女もそれを望んでいないだろう。
ぐるぐると考えながらケーキを切って、寮から持参した紅茶を入れて彼女の前に出す。途端に彼女の頬が緩んでふわりと蕾が綻んだようだった。
色白の頬が赤みを覚える姿は本当に何度見ていても飽きない。本当はもっとずっと見ていた。それはあと何年か先の話だ。
「流石トレイね。ホールの状態も可愛くて好きだったけど、切っても綺麗だわ」
「ありがとな」
お世辞でも嬉しい、と言えば彼女は違うと不服な顔をする。その顔も随分可愛らしいが以前よりも大人びた色を感じる。彼女も大人になっていくのだと思うと早く繋ぎ止めておかない。可笑しな焦りが滲み出る。
「ねぇ。リドルくんだけど……」
唐突に彼女の口から幼馴染の名が出て来る。とても珍しいことだ。俺とリドルは幼馴染だけど彼女は違う。お互い顔も知り程度である。そもそも彼女はリドルの性格を苦手だと覚えていた。一体どんな風向きだろうか。
続いて彼女は「何だか酷く苛立っていた様子だけど学校で何かあったの?」と訊ねた。それに自分の心配は杞憂であることを悟る。ならば、学校でのリドルのことを話そう。
「お前にはそう見えたか?」
「ええ。確かに彼はお家のことを考えれば規律に厳しくて神経質な性質だと思うけど……なんか、それとはまた違う気がするのよね」
意外だった。彼女はリドルを苦手としていたから関心を持っているとは考えたことはなかった。胸に小さなひっかき傷が出来た。
――駄目だな。
彼女は純粋に幼馴染のことを心配しているだけだ。冷静を取り戻しつつ俺はリドルの近状を話し始めた。
リドルの話を終えると彼女がようやく俺の作ったケーキを食べ始めた。
先ほどまでの真剣な顔が和らいでそれはもうとても美味しそうだ。柔らかそうな白い頬が可愛らしくもくもくと動く。それでも以前の方が丸み帯びていて良かった。やはり彼女はもう少し丸くなった方がいい。
「お前随分と痩せたな……いや、痩せすぎじゃないか?」
「……え?」
目を丸くさせた彼女が若干引き攣りながら「や、痩せすぎかしら?」と聞き返す。それに頷いてひとつ思い至ったことを口にする。
「もしかして学校の食事が美味くないのか?」
彼女は慌てて「そんなことはない」と言う。では「食欲は?」と訊ねればそれもないと首を横に振る。もし食欲がなければ俺のケーキは食べられないと、それにケーキもとても美味しいと言う。彼女に褒められると嬉しくなって思わず頬が緩む。
けど、これはこれ、それはそれだ。俺は暑くなるから食欲を落とさないように忠告しておく。とくにしっかりと食べろと言えば顔がまた引き攣った。これは怪しい。
――よし。ホリデーのうちは様子を見るか。
こうして俺の休みは過ぎて行った。
* * *
怒涛の新学期を終えてウィンターホリデーを迎えた。同郷のリドルと共に帰省すると同じく彼女も帰省していた。
実家の傍まで来ると同じタイミングで花屋から出て来た彼女がいた。彼女はすぐに気づいてこちらに歩み寄って挨拶をしてくれた。
「トレイ。久しぶり」
「……久しぶり」
声をかけてきた彼女は以前よりもふっくらとしていた。とはいっても太ったわけではない。平均体重くらいにはなったのかと思うがそれ以上に俺に大きな衝撃を彼女は与えた。
――何だか疲れ顔をしているな。
無事進級し後輩もできて忙しいと思う。だが、それにしても彼女の顔は疲れているように見えた。
「大丈夫か? 何だか疲れた顔をしているな」
「え。そうかしら? でも、きっと二年生になったからよ」
「それにね。わたしも副寮長にされてしまってね」と疲れた顔で言う。なるほど寮長が相当扱い辛いのだろう。ついでに自分の勉強もあって彼女も大変なはずだ。
「そうだったのか。そうだ。せっかくだしうちでケーキでも食べていくか?」
ケーキが好きな彼女のことだ。すぐに承諾してくれるだろうと思ったが――。
「あ、んと、ごめんなさい。行けない……」
気まずそうに視線を下に向ける彼女。俺はというと彼女からの初めてのお断りに大きな衝撃を受けた。
「あ、用事か。それだったらしかたないな」
つとめて平静に返事をすれば彼女は苦笑して「それも違うけど」と言う。
――なら、なんだ!
心のままに叫びたかったがそんなみっともないことは出来ない。特に好きな子の前でなんて絶対にしない。でも、彼女が自分の誘いを断るほどの理由は知りたい。
「……何かあったのか? 俺も副寮長しているし相談に乗るぞ」
「ありがとう……そうね。なら、ちょっと今からいい?」
「分かった。ちょっと荷物置いてくるから待っていてくれ」
頷く彼女を見て速攻で荷物を置いて両親、弟妹に帰省の挨拶をする。ちなみに、弟妹は残念そうにするが彼女の名を出すとあっさりと身を引く。物わかりのいい弟妹で助かる。
外へ出れば彼女はちょこんと店の前で待っていた。夏とは違う冬特有のもこもことした服装が可愛らしい。
「悪い。待たせたな」
「ううん。そんなことないわ。じゃ、行きましょう」
俺は彼女に促されるまま着いていく。
歩き続けると懐かしい公園に彼女は手首を数回振った。手首からシャンと軽やかな音がした。
――俺たちのところのマジカルペンみたいなものか。
学校ごとに形態が違うんだなと感心していると彼女がこちらを振り返った。
「今人除けの魔法を使ったから人はことないと思うの」
恥ずかしげに人が来ないなんて言葉普通に男に使ってはいけない。その言葉を使ってくれたのが自分で良かった。他の男に使ってくれなくて良かった。
よく分らない安堵を取り繕って「何だ。秘密の話か?」と彼女が何を言いたいのか促す。彼女は少し口篭もりながら意を決したようにこちらを見上げた。
「わたし、トレイのことが好きだったわ」
「ずっと小さい頃から好きだったの」と白い頬を薄らと赤く染めながら告げる彼女。
驚きと、想像以上の歓喜、ちょっとした疑問が過る。
「過去形だな」
彼女は過去形で今告白してきた。何故だ。ポツリと呟くと彼女は痛ましい笑みを浮かべて長い髪を耳にかける。
「けじめよ」
「なんのだ?」
「わたしの恋の」
まるですでに振られている前提で彼女は話している。こめかみに手を置いて首を振る。
「話しが見えないぞ」
「……トレイはわたしを女の子と見ていないでしょ」
指をもじつかせながら言う彼女に反射的に首を横に振った。彼女はどうやら鈍感だったようだ。いや、自分も何か非はあるだろう。でも、明らかに周りの女の子たちとは違う扱いをしていた通りだ。
――けれど幼馴染なら周りと違うとも思うよな。
もっとあからさまに行動すればよかったのか。それはそれで自分らしくない。アプローチ不足が否めないことだけは分かった。
「それにトレイの学校に女の子いるでしょ」
「女の子?」
言われて首を傾げる。男子校のナイトレイブンカレッジに女の子は居ないが――ひとつ心当たりがある。
――監督生のことか。でも、あいつは女か、男かも分からないし、な。
顔立ちは可愛らしいが身長は女にしては高い方だ。本人も性別に言及していない。だが、何故彼女が監督生のことを知っているのだろうか。
「何でお前が知っているんだ」
「ケイトくんのマジカメ見たら載っていたの」
マジカメしていたのかとよりも、ケイトのことは「くん」付けなのかと別の方向に意識がいってしまう。随分と小さな嫉妬をするものだ。いや、彼女の告白がどうにも自分の神経を逆なでしているようだ。
「監督生は男だ。それに俺からしたら可愛い後輩の一人だ」
恋愛感情はそこに一ミリもない。こうなったら焼けだ。
「俺の好きな子はお前だよ」
「へ」
ぽかんとした顔をする彼女に苦笑いを向ける。それから彼女の小さな手を掴む。手袋を着けるほど寒くないが真っ白な指先が赤くかじかんでいる。
「ずっと昔からお前のことしか俺は見ていない」
ついでに真っ赤になっている可愛い指先にキスをする。
さて、これくらい臭いことをすれば伝わるだろうと期待を込めて見る。そこには固まった彼女がいた。
「は、はは。やりすぎたか?」
それでも彼女からの反応がなくて泣きたくなる。どうすればいいと真っ赤になっている指先が気になって擦ると消えた。
彼女が手を引いたのだ。それはもう素早く。そして、バッと自分の手を包むと寒さで冷えて赤くなっていた頬が真っ赤になった。
「う、わぁわ、あ、あした、わたし死ぬのね!」
「なんでそうなるんだ!」
死ぬ、死ぬと連呼する彼女の肩を掴んで「死なない」と叫び返す。何だ。このやり取りは。このとき心底周りに魔法が施されていて良かったと思う。でなければ警察沙汰だ。とりあえず、死ぬ、死ぬ連呼を止めさせよう。
「死なないって。なんだよ、その反応は」
「だ、だって、トレイ、わたしのこと女の子って見てなかったもの!」
「女の子だったぞ。ずっと、出逢った頃から」
「なら、もっと反応してよぉぉ!」
今度は泣きべそをかきながら抱き着いて来たので抱き留める。
本当に感情が忙しい女の子だ。でも、実際彼女の努力に何も反応していなかったのは自分だ。これからは反省しなければ。
――ということは、痩せ始めたのはダイエットでそれもアプローチだったてことか。
無駄なことをする、と口が裂けてもいえない。それは何となく分った。
もこもこの彼女を抱きしめながら頭を撫でると泣きべそが聞こえなくなった。どうしたんだ、と両頬を挟んで顔を上げさせる。
目を潤ませた目元を赤く染めたちょっと残念な顔の彼女。でも、俺から見ればとても愛おしい顔だ。
「わたしの顔酷いわ」
「そんなことないぞ」
「嘘」
「嘘じゃない」
可愛い、と言えば視線を彷徨わせてから「ありがとう」と可愛らしくはにかんだ。本当に可愛くてどうにかなりそうで我慢の限界だった。
丸い額にキスを、まだ薄らと赤い目元にキスを、して真っ赤な顔の彼女と目が合う。キラキラした瞳はそっと伏せられて隠れたのが合図となった。
キュッと結ばれた小さな唇に触れようとしたところだった――。
「あと少しで魔法が解けそうだにゃぁ」
「ちょ、おい! チェーニャ! 野暮なことをすんじゃない!」
聞き覚えのある声に咄嗟に彼女の身体を離す。そして、二つの声は自分に聞こえたということは彼女にも聞こえたというわけで――。
「っっ!」
羞恥心で顔を真っ赤にしていた。可哀想なほどに真っ赤なので隠す意図で彼女を抱き寄せる。そして、よく見れば魔法が殆ど解けかけている。
はぁと深い溜息を吐いて彼女がかけた魔法を解く。そして、草むらにいる二人を見る。
「お前たち何してるんだ」
「お! トレイぃ~」
「い、いや、これはっ、違う!」
呑気に手を振るチェーニャと、顔を髪の毛と同じくらい真っ赤にしたリドル。分かりやすく覗き見をされていたようだ。けれど、二人の魔法の力を考えれば頷ける。
「ぼ、ボクは野暮なことをするなって!」
「ええ~。リドルは『な、なんて破廉恥な!』って言ってたじゃん」
「言ってない!」
二人の野暮な行動の言い訳に耳を傾けつつ腕の中の存在が小さくなっていくのを感じる。そろそろ突き飛ばされて逃げ出されてしまいに違いない。
「おい。お前たち、とりあえずどっか行ってくれ」
「分かったにゃぁ~。んじゃ、これは俺からのお詫び」
チェーニャが指を鳴らすと再び周りから気配が消える。どうやら何か周りから見えなくなる魔法が使われたようだ。とはいっても、他人がかけた魔法はちょっと心もとない。トレイもポケットから取り出したマジカルペンを振ってかけ直す。
「これでいいだろ……って、こともないか」
雰囲気もぶち壊されてはキスの続きなんて到底できない。
「おい。もう大丈夫だぞ」
「ぅぅ~恥ずかしい。しかも、魔法が解けかけていたなんて」
色々と恥ずかしいようだ。これはもう本当にキスの続きはお預けのようだ。
「まぁ、効果の持続は難しいからな。練習だな」
背中を宥めるように擦る。すると、強張っていた身体の力が抜けてきた。
「もう平気か? 帰るか?」
「え」
顔を勢いよく上げた彼女は情けなく眉を下げた。意外な彼女の反応に諦めかけていた欲が起き上がる。そして、からかいたい気分になった。
「なんだ? その顔は?」
自分は悪い顔をしているだろう。現に彼女がしどろもどろしている。こんな反応されたらもっとからかいたくなる。けれど、からかい過ぎてこのチャンスを潰したくはない。
「続きしていいのか?」
顔を近づけて訊ねる。忙しなく動いていた視線はこちらに向けられて伏せられた。何とも愛らしくてあざとい誘いに乗らない訳ない。
彼女の小さな顎に手をかけてようやくキスをした。触れるほどの幼いキスだったが離れたときの彼女はすこぶる可愛かった。
――次はいつできるか……あと、眼鏡は取ろう。
そうしたらもう少し長く出来るだろう。少し下心のあることを考えながらホリデー期間のデートの話をした。