トレイ
Name Change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
甘い微睡みへ
「珍しいわ」
トレイが長い足を放り投げながら横になっている。わたしの身長だと横になっても余裕のあるソファでもやっぱり彼ほどの身長になると足りないよう。
足長いなぁ。股下の長さどれくらいあるのよ。彼を起さないように足音を消して近づく。
「かっこいい」
ほぅと感嘆のため気が自然と零れる。わたしは自然と恋人の顔を覗き込む体制になる。
カレッジを卒業してもう三年が経つ。わたしも少し大人っぽくなったかなと思っていたけれどやっぱりトレイの方が大人っぽくより男らしくなった気がする。
彼は普通の男だと言う。確かにヴィル様のような絶世の美男ではない。けれど、やっぱり普通の男と言いにはトレイはカッコイイ。カッコよすぎる。じゃなきゃ、トレイが勤めるケーキ屋に彼目当てで来るお客さんが出る訳ない。
――わたしが恋人なのに。
醜い感情がどろっと口からこぼれ落ちる。慌てて唇を閉じるけれどやっぱりトレイに好意を寄せる人々に対して醜い感情が込み上げてしまう。
わたしの恋人です。そう紹介できるようになったのは最近。付き合い始めた当初は本当に夢だと思っていたし、自信が持てなかった。だから「彼とは幼馴染です」なんて答えてもいた。でも、恋人として自信の持てないわたしに根気よく付き合ってくれたのがトレイだった。
――よく飽きられなかったな。
卑屈も過ぎれば嫌になるはず。呆れながらもわたしに自信を持たしてくれたトレイは本当に優しい人で愛情深い人。そんな彼に深くはまっていくのは危険だと思うけれどきっともう遅い。
――わたし、捨てられたらどうなるのかしらね。
廃人にでもなるのかしら。それとも死んでしまうかもしれない。どっちにしろ立ち直るのに時間がかかるかもしれない。幼馴染として長い時間を過ごして、恋人としても短くない年数を過ごしている。わたしは別れたら数年は立ち直れないし、きっと他の男性にトレイの面影を探してしまうに違いないわ。いいえ。もしかしたら、ずっと彼の影を追い求めしまうかもしれない。
「想像できるわ」
やんなっちゃう。わたしは眼鏡をかけたままの彼に手を伸ばす。いまだに変わらない黒縁眼鏡。たまに着る服によって眼鏡を変えるけれどやっぱりこれが一番落ち着くとか何とか。一番受けがいいとか色々言っているけれどわたしも実は一番彼に似合っているかもなんて思っている。
「眼鏡して寝たら危ないわよ」
両手でそっとゆっくりとトレイを起さないように眼鏡を引いていく。普段眼鏡を必要としないわたしからするとこの動きはとても緊張する。というか、何度か彼のお願いで外したこともあるけれどやっぱり慣れないし、何だか外すときが外すときだから。
思い出したら恥ずかしくなって来た。脳裏に過る眼鏡を外すタイミングに火照るからだの体温がさらに一、二度上がった気がする。
――わたしってばほんと、ほんと間が悪いんだから。
今はそういうときじゃないでしょ。自分自身に言い聞かせながらすぅっと眼鏡を外しきる。ふぅと息をついてつるを折り畳みソファ前にあるローテーブルに置いておく。
これなら目が悪いトレイでも大丈夫でしょう。わたしは眼鏡を置いてもう一度眠り続けるトレイの寝顔を覗き込む。
眼鏡のなくなった顔はやっぱり素敵だった。でも、眼鏡が緩和していた眼つきの悪さが寝ていてもわかってちょっと面白い。
わたしはまじまじとトレイの寝顔を見ながらふとスマホの存在を思い出す。ローテーブルに置いておいたスマホを取ってカメラアプリを立ち上げる。
「何だか罪深いことをしている気がするわ」
スマホの画面に映るトレイの寝顔。少し疲れ気味なのかなと思うけれどこんなチャンス滅多にない。そもそもうたた寝していてもいつもすぐに起きてしまう。だから、こんな間近で見られるなんて早々ない。
心の中でトレイに謝りながら息と止めてスマホを構える。そして、いい角度を探しながら画面をタップすると小さくカシャと音がする。
その音が少し大きかったのかトレイの眉が僅かに顰められる。わたしは慌てて彼から距離を取って写真を確認する。
「あ、撮れてる」
そこには綺麗に撮影できたトレイの寝顔があった。綺麗な寝顔に頬が緩んで行くのを感じながらわたしはまた一つ思い出して悔しさに呻く。
「眼鏡バージョンも撮っておけばよかった」
思い馳せていないでサッサとスマホの存在を思い出していればよかった。もう一度眼鏡をかけるなんて芸当が寝ている相手にできるはずがない。魔法で装着するのも難しい。というか、こんな馬鹿げたことに魔法なんて使えない。
「うぅ~。またの機会って来ないわよね」
もう絶対ない気がする、と静かに後ろを振り返ると――目が覚めているトレイがこちらを見ていた。「ッッ」わたしは声なき声を上げながらスマホをしっかりと胸に抱き込む。そして、ドッと溢れる冷や汗を感じながら彼の名前を呼ぶ。
「と、とれい、起きてたの?」
「や。いま起きたとこだ」
よく見れば眼つきの悪い目がさらに悪くなっている。眼つきの悪いまま「眼鏡」と掠れた声でトレイが眼鏡を探す。わたしは慌てて「前にあるわ」と言う。
わたしの言葉にトレイはさらに目を眇めながら「前」と見つめてようやく眼鏡を取った。そのまま眼鏡をかけるとまだ眠そうに瞬きを繰り返しながらようやく身体を起した。
「どれくらい寝てた?」
「わたしがお風呂から出て来たときには寝ていたわ」
「じゃあ、そんなにではないか」
身体を解すトレイを見ながら隠し撮りしたことにドキドキしてしまう。わたしは彼に気づかれぬようにアルバムを閉じてスマホをローテーブルに置く。コト、とスマホを置いた瞬間名前を呼ばれる。
「なに、トレイ?」
「ちょっと」
まだ眠そうな顔でトレイは腕を広げる。足も長ければ腕の長さもある。鷲が大きく翼を広げたみたいなそれにわたしは恥ずかしくなりながらも近づく。そのまま腕の中に納まろうとしたときだった。
「ぁ、おれも入って来る」
「ぇ?」
「風呂」というと長い腕がパタと下がる。わたしは恥ずかしかったのに腕が無くなると途端に寂しくなる。現金だなぁと思いながら「いってらっしゃい」と彼の前から退く。
「先にベッド行ってくれ」
そう言ってトレイが頬にキスをしてきた。こそばゆさに肩をすくめながら「わかった」と返事をしてよたっとしたまま歩いていく彼を見送る。
「お風呂で溺れないといいんだけど……」
相当疲れたのかな。よれよれのトレイを見送ってわたしも寝る支度に入った。
けど、ベッドに横になった瞬間わたしの意識はコトンと落ちてしまった。
身体が引っ張られる感じがした。なに、と思って目を開くと真っ暗だけれど何だか布っぽいもので視界が埋め尽くされた。腕を動かすと何だか硬いものがすぐ傍にあることが分かる。これは、そう、あれだ。
「んぅ、とれぃ?」
「起こしたか?」
耳元で聞こえる声はソファのときに聞いた声よりはっきりしている。
さっきと逆ね。わたしはクスと笑いながらトレイの大きな身体に抱き着き顔を胸に埋める。
「苦しくないのか?」
「ん。だいじょぶ」
トレイの匂いはわたしと少し似ている。同じボディーソープだからか。同じ洗剤で服を洗っているからか。それとも同じ部屋で過ごしているからなのか。似ている。それがやっぱりこそばゆくて、でも彼を気にしている人に対して優越感を覚えてしまう。
「せいかくわるぃわね」
「ん? 誰が?」
「わたし?」
「そうか?」
そうよ。わたしって性格悪いの。そう言ったらあなたはわたしを嫌いになるかしら。そう口にしたか眠気が来て分からなかったけれど。
「まさか。寧ろ俺もそうだからきっと俺たちお似合いなんだよ」
それこそまさか。あなたはとってもいい人よ。誰よりも優しくて恋人に甘い人よ。わたしはトレイに伝えることができたかしら。沈んでいく意識の中ただ優しい「おやすみ」が聞こえたような気がした。
「珍しいわ」
トレイが長い足を放り投げながら横になっている。わたしの身長だと横になっても余裕のあるソファでもやっぱり彼ほどの身長になると足りないよう。
足長いなぁ。股下の長さどれくらいあるのよ。彼を起さないように足音を消して近づく。
「かっこいい」
ほぅと感嘆のため気が自然と零れる。わたしは自然と恋人の顔を覗き込む体制になる。
カレッジを卒業してもう三年が経つ。わたしも少し大人っぽくなったかなと思っていたけれどやっぱりトレイの方が大人っぽくより男らしくなった気がする。
彼は普通の男だと言う。確かにヴィル様のような絶世の美男ではない。けれど、やっぱり普通の男と言いにはトレイはカッコイイ。カッコよすぎる。じゃなきゃ、トレイが勤めるケーキ屋に彼目当てで来るお客さんが出る訳ない。
――わたしが恋人なのに。
醜い感情がどろっと口からこぼれ落ちる。慌てて唇を閉じるけれどやっぱりトレイに好意を寄せる人々に対して醜い感情が込み上げてしまう。
わたしの恋人です。そう紹介できるようになったのは最近。付き合い始めた当初は本当に夢だと思っていたし、自信が持てなかった。だから「彼とは幼馴染です」なんて答えてもいた。でも、恋人として自信の持てないわたしに根気よく付き合ってくれたのがトレイだった。
――よく飽きられなかったな。
卑屈も過ぎれば嫌になるはず。呆れながらもわたしに自信を持たしてくれたトレイは本当に優しい人で愛情深い人。そんな彼に深くはまっていくのは危険だと思うけれどきっともう遅い。
――わたし、捨てられたらどうなるのかしらね。
廃人にでもなるのかしら。それとも死んでしまうかもしれない。どっちにしろ立ち直るのに時間がかかるかもしれない。幼馴染として長い時間を過ごして、恋人としても短くない年数を過ごしている。わたしは別れたら数年は立ち直れないし、きっと他の男性にトレイの面影を探してしまうに違いないわ。いいえ。もしかしたら、ずっと彼の影を追い求めしまうかもしれない。
「想像できるわ」
やんなっちゃう。わたしは眼鏡をかけたままの彼に手を伸ばす。いまだに変わらない黒縁眼鏡。たまに着る服によって眼鏡を変えるけれどやっぱりこれが一番落ち着くとか何とか。一番受けがいいとか色々言っているけれどわたしも実は一番彼に似合っているかもなんて思っている。
「眼鏡して寝たら危ないわよ」
両手でそっとゆっくりとトレイを起さないように眼鏡を引いていく。普段眼鏡を必要としないわたしからするとこの動きはとても緊張する。というか、何度か彼のお願いで外したこともあるけれどやっぱり慣れないし、何だか外すときが外すときだから。
思い出したら恥ずかしくなって来た。脳裏に過る眼鏡を外すタイミングに火照るからだの体温がさらに一、二度上がった気がする。
――わたしってばほんと、ほんと間が悪いんだから。
今はそういうときじゃないでしょ。自分自身に言い聞かせながらすぅっと眼鏡を外しきる。ふぅと息をついてつるを折り畳みソファ前にあるローテーブルに置いておく。
これなら目が悪いトレイでも大丈夫でしょう。わたしは眼鏡を置いてもう一度眠り続けるトレイの寝顔を覗き込む。
眼鏡のなくなった顔はやっぱり素敵だった。でも、眼鏡が緩和していた眼つきの悪さが寝ていてもわかってちょっと面白い。
わたしはまじまじとトレイの寝顔を見ながらふとスマホの存在を思い出す。ローテーブルに置いておいたスマホを取ってカメラアプリを立ち上げる。
「何だか罪深いことをしている気がするわ」
スマホの画面に映るトレイの寝顔。少し疲れ気味なのかなと思うけれどこんなチャンス滅多にない。そもそもうたた寝していてもいつもすぐに起きてしまう。だから、こんな間近で見られるなんて早々ない。
心の中でトレイに謝りながら息と止めてスマホを構える。そして、いい角度を探しながら画面をタップすると小さくカシャと音がする。
その音が少し大きかったのかトレイの眉が僅かに顰められる。わたしは慌てて彼から距離を取って写真を確認する。
「あ、撮れてる」
そこには綺麗に撮影できたトレイの寝顔があった。綺麗な寝顔に頬が緩んで行くのを感じながらわたしはまた一つ思い出して悔しさに呻く。
「眼鏡バージョンも撮っておけばよかった」
思い馳せていないでサッサとスマホの存在を思い出していればよかった。もう一度眼鏡をかけるなんて芸当が寝ている相手にできるはずがない。魔法で装着するのも難しい。というか、こんな馬鹿げたことに魔法なんて使えない。
「うぅ~。またの機会って来ないわよね」
もう絶対ない気がする、と静かに後ろを振り返ると――目が覚めているトレイがこちらを見ていた。「ッッ」わたしは声なき声を上げながらスマホをしっかりと胸に抱き込む。そして、ドッと溢れる冷や汗を感じながら彼の名前を呼ぶ。
「と、とれい、起きてたの?」
「や。いま起きたとこだ」
よく見れば眼つきの悪い目がさらに悪くなっている。眼つきの悪いまま「眼鏡」と掠れた声でトレイが眼鏡を探す。わたしは慌てて「前にあるわ」と言う。
わたしの言葉にトレイはさらに目を眇めながら「前」と見つめてようやく眼鏡を取った。そのまま眼鏡をかけるとまだ眠そうに瞬きを繰り返しながらようやく身体を起した。
「どれくらい寝てた?」
「わたしがお風呂から出て来たときには寝ていたわ」
「じゃあ、そんなにではないか」
身体を解すトレイを見ながら隠し撮りしたことにドキドキしてしまう。わたしは彼に気づかれぬようにアルバムを閉じてスマホをローテーブルに置く。コト、とスマホを置いた瞬間名前を呼ばれる。
「なに、トレイ?」
「ちょっと」
まだ眠そうな顔でトレイは腕を広げる。足も長ければ腕の長さもある。鷲が大きく翼を広げたみたいなそれにわたしは恥ずかしくなりながらも近づく。そのまま腕の中に納まろうとしたときだった。
「ぁ、おれも入って来る」
「ぇ?」
「風呂」というと長い腕がパタと下がる。わたしは恥ずかしかったのに腕が無くなると途端に寂しくなる。現金だなぁと思いながら「いってらっしゃい」と彼の前から退く。
「先にベッド行ってくれ」
そう言ってトレイが頬にキスをしてきた。こそばゆさに肩をすくめながら「わかった」と返事をしてよたっとしたまま歩いていく彼を見送る。
「お風呂で溺れないといいんだけど……」
相当疲れたのかな。よれよれのトレイを見送ってわたしも寝る支度に入った。
けど、ベッドに横になった瞬間わたしの意識はコトンと落ちてしまった。
身体が引っ張られる感じがした。なに、と思って目を開くと真っ暗だけれど何だか布っぽいもので視界が埋め尽くされた。腕を動かすと何だか硬いものがすぐ傍にあることが分かる。これは、そう、あれだ。
「んぅ、とれぃ?」
「起こしたか?」
耳元で聞こえる声はソファのときに聞いた声よりはっきりしている。
さっきと逆ね。わたしはクスと笑いながらトレイの大きな身体に抱き着き顔を胸に埋める。
「苦しくないのか?」
「ん。だいじょぶ」
トレイの匂いはわたしと少し似ている。同じボディーソープだからか。同じ洗剤で服を洗っているからか。それとも同じ部屋で過ごしているからなのか。似ている。それがやっぱりこそばゆくて、でも彼を気にしている人に対して優越感を覚えてしまう。
「せいかくわるぃわね」
「ん? 誰が?」
「わたし?」
「そうか?」
そうよ。わたしって性格悪いの。そう言ったらあなたはわたしを嫌いになるかしら。そう口にしたか眠気が来て分からなかったけれど。
「まさか。寧ろ俺もそうだからきっと俺たちお似合いなんだよ」
それこそまさか。あなたはとってもいい人よ。誰よりも優しくて恋人に甘い人よ。わたしはトレイに伝えることができたかしら。沈んでいく意識の中ただ優しい「おやすみ」が聞こえたような気がした。
4/4ページ