トレイ
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なんて素晴らしい日でしょうか!
スマホにはキラキラと宝石のように輝くコスメのウェブページ。末の妹も好みそうなキラキラしたコスメたちが映った画面に目が痛くなって来た。
一端見るのをやめるか。トレイはスマホの画面を切ってテーブルに伏せて置く。それから眼鏡を外して目頭を揉む。もうなん時間あのページを見ているだろうか。もう値段も覚えてしまったくらいには見ている。だのに、いまだにその中から選べない。
「はぁ」
「はは。随分お疲れみたいだね」
「ケイト」
目の前で参考書とノートを広げていたケイトはいつのまにかスマホを操作していた。たぶん、マジカメに何か投稿しているかハッシュタグの検索をしているのだろう。また、リドルにどやされるぞと言いたいが今はそれよりも自分の悩みで頭が一杯だった。
「妹ちゃんにプレゼント贈りたいの?」
このコスメずっと見ていたでしょ。そう言ってケイトが自分のスマホの画面を見せる。そこには誰かのマジカメアカウントで紹介されているさっきまでトレイが見ていたコスメだった。やはり人気のコスメらしく「いいね」が沢山ついている。
「今流行りのブランドだろ?」
「んー。今ってわけじゃないけどオレたちぐらいの子に特に人気のブランドだよ」
「そうなのか」
「うん。値段も他のデパコスよりも優しいからオレたちくらいの子がバイトしたら買えちゃうくらいの値段」
「ああ。確かに手が出しやすい値段だったな」
覚えたくらいのコスメの値段は確かにトレイでもプレゼントとして選べるものだった。世の中のコスメ好きの人間はこうしたところからデパコスへとやらに入っていくのだろうか。なんて感心しながらはたと思いつく。
「そうか。マジカメ……その手があったかっ」
トレイは「ありがとう」という気持ちを込めてケイトを見るが「大丈夫?」と何故か心配されてしまった。なぜだと首を傾げながらもトレイはもう一度スマホを手に取った。
数時間後。トレイはさらに途方に暮れたような気がした。スマホをうつ伏せに置いて組んだ手に額をくっつけて「わからん」と唸るように囁く。
マジカメのハッシュタグを利用してあらゆるコスメ好きのアカウントを回った。全然分からなかった。こういうところで情報を得てハイスクールデビューやらをする人間は兵すぎないか。トレイだったら絶対情報の海に溺れてデビューの準備すらままならない。
「ダメだったみたいだね」
「ケイト」
顔を上げればケイトが眉を下げていた。そのケイトに項垂れながら「わからない」と助けを求めるように言う。正直、このナイトレイブンカレッジではどれだけ親しくても何かしらの代償が伴う。それでもトレイは助けを求めずにはいられなかった。
「妹ちゃんのプレゼント選びにお兄ちゃんも大変だねぇ」
「妹……? 妹の誕生日は終わったばかりだぞ」
「え? じゃあ、誰に向けてのプレゼント?」
スマホを見ようとしていたケイトは止めて不思議そうにこちらを見て来る。
トレイは首を傾げながら言っていなかったか、なんて思いながら「恋人に」と答える。すると、ケイトの垂れた目がみるみる見開きカッと開いた。
「はぁッッ! トレイ! 恋人いるのッッ!」
「え、言ってなかったか?」
「なんで!」
「や、なんでって」
あまりの驚きようと形相にトレイは視線を泳がせながら頬を掻く。一体何をそんなに驚くことがある。もしかして普通過ぎる男に恋人なんていないと思ったのか。いや、流石にそうはないだろうが。一体全体なぜそこまで驚く。
「なんで教えてくれなかったのさ……」
「じゃあ、ケイトは恋人できたら教えてくれるのか?」
「ぇ、あ、た、たぶん」
「ほんとか?」
半眼でみればケイトの勢いがしゅるしゅる納まっていく。どうやら恋人ができても教えてくれるつもりはないようだ。それはそれで残念だな、と思いながらもトレイはケイトに相談することを決めた。
「恋人は幼馴染で俺のひとつ下の女の子だ」
「幼馴染の年下の女の子とか……漫画の主人公かよ」
「はぁ。それくらい絶対ほかにもいるから」
ケイトの発言に呆れながらスマホでアンジェリーナの写真を見せる。写真はブルームノヴァに入学したときのもので制服だからあまり先入観もないだろう。そう思ったがケイトの顔が何だか複雑なものになっていく。
「魔法士養成学校の中でも有名な女子校じゃん。トレイの恋人なんか色々設定もりもりな気がするぅ」
「なんのだ」
彼女も至って普通の可愛い女の子だ。どこに設定が盛られているという。そう言えばケイトに「惚気はいらないよ」と素気無く言われてしまった。トレイはケイトの若干棘のある態度を無視する。
ふと目の端に見覚えのあるコスメのマジカメアカウントが目に入る。たしか彼女がこのコスメブランドを使っていたような記憶がある。
「このブランドも女子に人気なのか?」
「ん? あ、そうだね。姉ちゃんたちもよく買ってるよ」
「そうか……」
新作という写真を見るがよく分からない。同じに見える。
「恋人ちゃんも使ってるかんじ?」
「ああ。気に入っているリップがあるらしい」
「ふーん。そのリップもしかしてトレイくんに特別なときに塗るとか言っていた?」
それはどうだっただろうか。何せ見せてくれたときは付き合う前だったし。
「それは分からないな」
「へぇ。でも当たりだと思うよ」
「なんで分かるんだ?」
「だってそのコスメブランドのコンセプトだから」
にんまりと笑いながらケイトがスマホを差し出す。それに合わせて見ればコスメブランドの広告があって――。
「なるほど……」
じわりと熱くなる頬。気づかれたくなくてすぐに自分のスマホを見る。
「で、その恋人ちゃんのプレゼントにオレの助言は必要?」
「いや、いい」
「即答!」
流石に他の男が選んだ物を彼女に着けてほしくない。ケイトもわかっているのか気にした様子なくとスマホを操作し始めた。
「けど、トレイくんがまた迷宮入りしないためにオススメブランドのURL送っておくね」
「……それは助かる」
自分で選びたいが探し出せる自信はやはりないので。
「今度のお茶会でドゥードゥル・スートよろしくねぇ」
「わかったよ」
それくらいお安い御用だ。ケイトが「やったぁ」と叫ぶと八重歯を覗かせディスプレイを軽やかにタップする。しばらくすると軽快な音がスマホから聞こえた。
「この辺りが新作ラインアップでマジカメでも人気だよ。持っているにはちょっと高校生には難しいかもしれないからいーんじゃない?」
「そうか。じゃあ、少し見てみる」
「ん。あ、あと、この人のマジカメも見ておいた方がいいよ」
そうして、ケイトから様々な情報を得て何とかプレゼントを買うことができた。
* * *
「アンジェリーナ。誕生日おめでとう」
そう言ってずっと片想いをして恋人になった幼馴染のトレイがプレゼントをくれた。
恋人になって初めてのプレゼントに感動から手が震えそうになる。それを何とか抑え込んで、今までとは意味合いと重さが異なるプレゼントを受け取る。手渡されたプレゼントのショッパーは小さいわりには本当に重さがった。
「これは割れ物?」
受け取ったプレゼントをこわごわ見つめた後に訊ねる。それにトレイはいつものように困ったように眉を下げた。
「割れ物じゃないが落としたらヒビは入るかもしれないな」
「わ、割れ物じゃない!」
魔法で保護して置こうと呪文を唱える。アンジェリーナの行動にトレイは「大袈裟だな」と言うけれど大袈裟なんかじゃない。だって、これはトレイから幼馴染の女の子としてじゃなくて恋人として初めて貰ったプレゼントなのだから。何よりも大切にすべきものだ。何だったら使わずに一生保存しておきたいくらい。
けれど、アンジェリーナの感動や恐れは彼には伝わらないのは何となく分る。
プレゼントは寮に戻ったら見よう。その前に感謝の言葉を言おうとトレイを見たときだった。トレイが期待に満ちた瞳でこっちを見下ろしていた。
「ど、どうしたの、トレイ」
「ん? や、どういう反応をアンジェがするかしっかりと見ておきたくてな」
「え」
トレイの言葉に瞬く間に頬に熱が集まる。今までこんな言葉を貰ったことがない。けれど、彼が今態々言うということはこの贈物にアンジェリーナが喜ぶだろうと想像しながら選んでくれたということだ。いや、もしかしたら今までもそうだったのかもしれない。こういうところに彼との関係の変化をアンジェリーナは感じた。
「今、見た方がいいかしら?」
本来なら訊くべきではないかもしれない。途端にキラキラ新作ケーキを語るときのように輝いていた瞳の輝きがしぼんでいく。これに心が痛む。でも、もし壊してしまったらと考えたらアンジェリーナは安易に包みを解くことができなかった。
「ここで見ないのか?」
「少し、怖いの」
「怖い?」
「ええ。壊したらとか、と考えたら部屋で開けたいかなって」
「ああ。さっきの俺のせいか」
呻きながら否定できないのが申し訳なく項垂れる。保護魔法をかけたけれど一度壊れたものを直すことは魔法でもできない。出来たとしても永久に魔法が維持できるわけでもないのだから結局一日も持たずに壊れてしまう。
「はは。悪い、脅し過ぎたな。大丈夫だよ」
「ほんとう?」
「うん。それにアンジェも保護魔法かけていただろ。十分大丈夫だ」
それなら、と辺りを見回す前にトレイが「ベンチに座ろう」と見つけてくれた。誘われるままベンチに座って膝にプレゼントを乗せる。
ドキドキしながらショッパーから上品な色合いの箱を取り出す。膝に乗せてリボンを解いて上品な箱の蓋を開けると――。
「わぁ。可愛い!」
箱の中には花細工の愛らしい小物が入っていた。一体何だろうとキラキラしたそれを取り出す。手のひらサイズのそれは少しずっしりとしている。そして、よくよく見ればつまみを見つけてそれを捻ってあけると――。
「あ、鏡!」
パカと開いたそれは両面に鏡がついていた。コンパクトだった。
アンジェリーナは横に座っているトレイを見る。
――わぁ。なんて嬉しそうな顔をしているの。
今まで見たことがないくらい嬉しそうな顔をしたトレイがいた。眼鏡のレンズの奥にある灰色がかっていた黄色の瞳は鋭さもなく目尻が甘く下がっている。僅かに口角を上げているのも満足さが零れている。こんな顔は幼馴染として今まで見たことがない。
「う、嬉しいの?」
「まぁ、そりゃ真剣に考えたものを恋人が喜んでくれたら嬉しいさ」
それは自分もそうだからアンジェリーナも分かる。でも、そんな生クリームたっぷりなケーキみたいな甘ったるい顔をされたら何だかこそばゆい。
「嬉しい。わたしも嬉しいよ。今まで貰ったプレゼントの中で一番」
「それは言いすぎじゃないか?」
「そんなことないよ。あ、でも、もし次もあるならまた一番になるかも」
一年後があるか分からないけれど。そう考えてしまう後ろ向きで自信が持てない自分が嫌になる。もう少し前向きで自信のある自分にならなければとコンパクトを握ると名前を呼ばれる。
「なに?」
「来年は実習で忙しいと思うけれどちゃんと贈るから」
「え」
来年、という言葉に先ほどまで薄らと雲がかかっていた心が晴れていく。自分の単純さに呆れながら心の底から滲む嬉しさに身体が熱くなっていく。
「来年……そうね。来年は忙しいけれどあなたが言うなら待ってる」
「ああ。あ、なんなら、アンジェが来てくれてもいいな」
「ふふ。それもいいかも」
たった一年だけれど好きな人と、トレイと未来の話ができることは嬉しい。そして、相手が一緒にいることを考えてくれることが心の底から嬉しくてたまらない。でも、それはどうにもまだ言葉にするのは難しくてアンジェリーナはただトレイを見つめることしかできなかった。けれど、彼は言葉を求めることもせずただ幼馴染の頃よりも僅かに愛おしさの熱を込めて見つめ返してくれた。それだけアンジェリーナの心は満たされる思いだった。
2024.08.16 文章一部改訂
スマホにはキラキラと宝石のように輝くコスメのウェブページ。末の妹も好みそうなキラキラしたコスメたちが映った画面に目が痛くなって来た。
一端見るのをやめるか。トレイはスマホの画面を切ってテーブルに伏せて置く。それから眼鏡を外して目頭を揉む。もうなん時間あのページを見ているだろうか。もう値段も覚えてしまったくらいには見ている。だのに、いまだにその中から選べない。
「はぁ」
「はは。随分お疲れみたいだね」
「ケイト」
目の前で参考書とノートを広げていたケイトはいつのまにかスマホを操作していた。たぶん、マジカメに何か投稿しているかハッシュタグの検索をしているのだろう。また、リドルにどやされるぞと言いたいが今はそれよりも自分の悩みで頭が一杯だった。
「妹ちゃんにプレゼント贈りたいの?」
このコスメずっと見ていたでしょ。そう言ってケイトが自分のスマホの画面を見せる。そこには誰かのマジカメアカウントで紹介されているさっきまでトレイが見ていたコスメだった。やはり人気のコスメらしく「いいね」が沢山ついている。
「今流行りのブランドだろ?」
「んー。今ってわけじゃないけどオレたちぐらいの子に特に人気のブランドだよ」
「そうなのか」
「うん。値段も他のデパコスよりも優しいからオレたちくらいの子がバイトしたら買えちゃうくらいの値段」
「ああ。確かに手が出しやすい値段だったな」
覚えたくらいのコスメの値段は確かにトレイでもプレゼントとして選べるものだった。世の中のコスメ好きの人間はこうしたところからデパコスへとやらに入っていくのだろうか。なんて感心しながらはたと思いつく。
「そうか。マジカメ……その手があったかっ」
トレイは「ありがとう」という気持ちを込めてケイトを見るが「大丈夫?」と何故か心配されてしまった。なぜだと首を傾げながらもトレイはもう一度スマホを手に取った。
数時間後。トレイはさらに途方に暮れたような気がした。スマホをうつ伏せに置いて組んだ手に額をくっつけて「わからん」と唸るように囁く。
マジカメのハッシュタグを利用してあらゆるコスメ好きのアカウントを回った。全然分からなかった。こういうところで情報を得てハイスクールデビューやらをする人間は兵すぎないか。トレイだったら絶対情報の海に溺れてデビューの準備すらままならない。
「ダメだったみたいだね」
「ケイト」
顔を上げればケイトが眉を下げていた。そのケイトに項垂れながら「わからない」と助けを求めるように言う。正直、このナイトレイブンカレッジではどれだけ親しくても何かしらの代償が伴う。それでもトレイは助けを求めずにはいられなかった。
「妹ちゃんのプレゼント選びにお兄ちゃんも大変だねぇ」
「妹……? 妹の誕生日は終わったばかりだぞ」
「え? じゃあ、誰に向けてのプレゼント?」
スマホを見ようとしていたケイトは止めて不思議そうにこちらを見て来る。
トレイは首を傾げながら言っていなかったか、なんて思いながら「恋人に」と答える。すると、ケイトの垂れた目がみるみる見開きカッと開いた。
「はぁッッ! トレイ! 恋人いるのッッ!」
「え、言ってなかったか?」
「なんで!」
「や、なんでって」
あまりの驚きようと形相にトレイは視線を泳がせながら頬を掻く。一体何をそんなに驚くことがある。もしかして普通過ぎる男に恋人なんていないと思ったのか。いや、流石にそうはないだろうが。一体全体なぜそこまで驚く。
「なんで教えてくれなかったのさ……」
「じゃあ、ケイトは恋人できたら教えてくれるのか?」
「ぇ、あ、た、たぶん」
「ほんとか?」
半眼でみればケイトの勢いがしゅるしゅる納まっていく。どうやら恋人ができても教えてくれるつもりはないようだ。それはそれで残念だな、と思いながらもトレイはケイトに相談することを決めた。
「恋人は幼馴染で俺のひとつ下の女の子だ」
「幼馴染の年下の女の子とか……漫画の主人公かよ」
「はぁ。それくらい絶対ほかにもいるから」
ケイトの発言に呆れながらスマホでアンジェリーナの写真を見せる。写真はブルームノヴァに入学したときのもので制服だからあまり先入観もないだろう。そう思ったがケイトの顔が何だか複雑なものになっていく。
「魔法士養成学校の中でも有名な女子校じゃん。トレイの恋人なんか色々設定もりもりな気がするぅ」
「なんのだ」
彼女も至って普通の可愛い女の子だ。どこに設定が盛られているという。そう言えばケイトに「惚気はいらないよ」と素気無く言われてしまった。トレイはケイトの若干棘のある態度を無視する。
ふと目の端に見覚えのあるコスメのマジカメアカウントが目に入る。たしか彼女がこのコスメブランドを使っていたような記憶がある。
「このブランドも女子に人気なのか?」
「ん? あ、そうだね。姉ちゃんたちもよく買ってるよ」
「そうか……」
新作という写真を見るがよく分からない。同じに見える。
「恋人ちゃんも使ってるかんじ?」
「ああ。気に入っているリップがあるらしい」
「ふーん。そのリップもしかしてトレイくんに特別なときに塗るとか言っていた?」
それはどうだっただろうか。何せ見せてくれたときは付き合う前だったし。
「それは分からないな」
「へぇ。でも当たりだと思うよ」
「なんで分かるんだ?」
「だってそのコスメブランドのコンセプトだから」
にんまりと笑いながらケイトがスマホを差し出す。それに合わせて見ればコスメブランドの広告があって――。
「なるほど……」
じわりと熱くなる頬。気づかれたくなくてすぐに自分のスマホを見る。
「で、その恋人ちゃんのプレゼントにオレの助言は必要?」
「いや、いい」
「即答!」
流石に他の男が選んだ物を彼女に着けてほしくない。ケイトもわかっているのか気にした様子なくとスマホを操作し始めた。
「けど、トレイくんがまた迷宮入りしないためにオススメブランドのURL送っておくね」
「……それは助かる」
自分で選びたいが探し出せる自信はやはりないので。
「今度のお茶会でドゥードゥル・スートよろしくねぇ」
「わかったよ」
それくらいお安い御用だ。ケイトが「やったぁ」と叫ぶと八重歯を覗かせディスプレイを軽やかにタップする。しばらくすると軽快な音がスマホから聞こえた。
「この辺りが新作ラインアップでマジカメでも人気だよ。持っているにはちょっと高校生には難しいかもしれないからいーんじゃない?」
「そうか。じゃあ、少し見てみる」
「ん。あ、あと、この人のマジカメも見ておいた方がいいよ」
そうして、ケイトから様々な情報を得て何とかプレゼントを買うことができた。
* * *
「アンジェリーナ。誕生日おめでとう」
そう言ってずっと片想いをして恋人になった幼馴染のトレイがプレゼントをくれた。
恋人になって初めてのプレゼントに感動から手が震えそうになる。それを何とか抑え込んで、今までとは意味合いと重さが異なるプレゼントを受け取る。手渡されたプレゼントのショッパーは小さいわりには本当に重さがった。
「これは割れ物?」
受け取ったプレゼントをこわごわ見つめた後に訊ねる。それにトレイはいつものように困ったように眉を下げた。
「割れ物じゃないが落としたらヒビは入るかもしれないな」
「わ、割れ物じゃない!」
魔法で保護して置こうと呪文を唱える。アンジェリーナの行動にトレイは「大袈裟だな」と言うけれど大袈裟なんかじゃない。だって、これはトレイから幼馴染の女の子としてじゃなくて恋人として初めて貰ったプレゼントなのだから。何よりも大切にすべきものだ。何だったら使わずに一生保存しておきたいくらい。
けれど、アンジェリーナの感動や恐れは彼には伝わらないのは何となく分る。
プレゼントは寮に戻ったら見よう。その前に感謝の言葉を言おうとトレイを見たときだった。トレイが期待に満ちた瞳でこっちを見下ろしていた。
「ど、どうしたの、トレイ」
「ん? や、どういう反応をアンジェがするかしっかりと見ておきたくてな」
「え」
トレイの言葉に瞬く間に頬に熱が集まる。今までこんな言葉を貰ったことがない。けれど、彼が今態々言うということはこの贈物にアンジェリーナが喜ぶだろうと想像しながら選んでくれたということだ。いや、もしかしたら今までもそうだったのかもしれない。こういうところに彼との関係の変化をアンジェリーナは感じた。
「今、見た方がいいかしら?」
本来なら訊くべきではないかもしれない。途端にキラキラ新作ケーキを語るときのように輝いていた瞳の輝きがしぼんでいく。これに心が痛む。でも、もし壊してしまったらと考えたらアンジェリーナは安易に包みを解くことができなかった。
「ここで見ないのか?」
「少し、怖いの」
「怖い?」
「ええ。壊したらとか、と考えたら部屋で開けたいかなって」
「ああ。さっきの俺のせいか」
呻きながら否定できないのが申し訳なく項垂れる。保護魔法をかけたけれど一度壊れたものを直すことは魔法でもできない。出来たとしても永久に魔法が維持できるわけでもないのだから結局一日も持たずに壊れてしまう。
「はは。悪い、脅し過ぎたな。大丈夫だよ」
「ほんとう?」
「うん。それにアンジェも保護魔法かけていただろ。十分大丈夫だ」
それなら、と辺りを見回す前にトレイが「ベンチに座ろう」と見つけてくれた。誘われるままベンチに座って膝にプレゼントを乗せる。
ドキドキしながらショッパーから上品な色合いの箱を取り出す。膝に乗せてリボンを解いて上品な箱の蓋を開けると――。
「わぁ。可愛い!」
箱の中には花細工の愛らしい小物が入っていた。一体何だろうとキラキラしたそれを取り出す。手のひらサイズのそれは少しずっしりとしている。そして、よくよく見ればつまみを見つけてそれを捻ってあけると――。
「あ、鏡!」
パカと開いたそれは両面に鏡がついていた。コンパクトだった。
アンジェリーナは横に座っているトレイを見る。
――わぁ。なんて嬉しそうな顔をしているの。
今まで見たことがないくらい嬉しそうな顔をしたトレイがいた。眼鏡のレンズの奥にある灰色がかっていた黄色の瞳は鋭さもなく目尻が甘く下がっている。僅かに口角を上げているのも満足さが零れている。こんな顔は幼馴染として今まで見たことがない。
「う、嬉しいの?」
「まぁ、そりゃ真剣に考えたものを恋人が喜んでくれたら嬉しいさ」
それは自分もそうだからアンジェリーナも分かる。でも、そんな生クリームたっぷりなケーキみたいな甘ったるい顔をされたら何だかこそばゆい。
「嬉しい。わたしも嬉しいよ。今まで貰ったプレゼントの中で一番」
「それは言いすぎじゃないか?」
「そんなことないよ。あ、でも、もし次もあるならまた一番になるかも」
一年後があるか分からないけれど。そう考えてしまう後ろ向きで自信が持てない自分が嫌になる。もう少し前向きで自信のある自分にならなければとコンパクトを握ると名前を呼ばれる。
「なに?」
「来年は実習で忙しいと思うけれどちゃんと贈るから」
「え」
来年、という言葉に先ほどまで薄らと雲がかかっていた心が晴れていく。自分の単純さに呆れながら心の底から滲む嬉しさに身体が熱くなっていく。
「来年……そうね。来年は忙しいけれどあなたが言うなら待ってる」
「ああ。あ、なんなら、アンジェが来てくれてもいいな」
「ふふ。それもいいかも」
たった一年だけれど好きな人と、トレイと未来の話ができることは嬉しい。そして、相手が一緒にいることを考えてくれることが心の底から嬉しくてたまらない。でも、それはどうにもまだ言葉にするのは難しくてアンジェリーナはただトレイを見つめることしかできなかった。けれど、彼は言葉を求めることもせずただ幼馴染の頃よりも僅かに愛おしさの熱を込めて見つめ返してくれた。それだけアンジェリーナの心は満たされる思いだった。
2024.08.16 文章一部改訂
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