キミの隣に立つのは
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オマエの隣はまだ?
世一の提案から三人でパーティ会場へと戻ることにした。カイザーは背後を歩く二つの気配を感じながら密かにため息を洩らす。
――クソ幼稚だな。
恋愛に興味はないがカイザーは男女の機微は理解できる人間だった。
ガゼボの中、並んだ二人はまさに恋する男と女そのものだった。だが、ヴィランよろしく甘ったるい空気を割り込んでみれば拍子抜けだ。
当の本人たちは歳に見合わぬままごとのような幼稚な恋をしていた。いた、もはやあれは恋というには幼稚でお粗末過ぎる。恋をしている人間たちに失礼極まりない。
けれど、世一の方は怪しい。いや、何が恋に怪しいもなにもない。カイザーから見たら世一はクソ幼稚な恋をしている癖にいっちょ前に独占欲がある。
子供のような幼稚な恋。恋もどきな癖に大人の男が持つ独占欲を滲みだした世一。ピッチ上でみる獣じみた貪欲さとも違い。またピッチ外のアジアの好青年らしい世一とも違う。
あのときの苦々しい世一の顔は見ていて面白く、不愉快だった。
――恋もどきだろうが。
だが、それを本物に昇格させかけているのは紛れもなくカイザー自身だ。奪うならそれくらいがいい。だが世一が本気になったときのことを考えるとクソめんどくさいのもまた本音。欲しいと思ったものは何が何でもどんな壁が立ちはだかろうともきっと手に入れる。世一という男はきっとそういう男だ。
そうなる前にあの淡い恋を砕かなければ。そう思う自身のクソな考えに密かに眉根を顰めていると腕を引かれた。
その力は明らかに世一のものではない。ならば、もう一人の女のものだ。
「なんだ、ミランダ」
「スポンサーってどこなの?」
世一のときの猫をかぶった子猫のような可愛らしい態度ではなくいつもの威嚇じみた刺々しい態度。カイザーからしたら先ほどの甘ったるい乙女の横顔をする彼女よりも見慣れて安心する。
「ちょっと聞いてる?」
柳眉を寄せてだいぶ下から睨みを利かせてくる。いつもと変わらないがいつも以上に苛立ちが見え隠れしているのは世一との密会を邪魔されたからだろうか。
少しからかってみたくなる。カイザーはいつも通り形のいい唇の口角を上げてミランダの耳元に寄せる。彼女は鬱陶し気な表情をした瞬間に囁く。
「そんなに世一との密会邪魔されたことに苛立っているのかぁ?」
世一によくやるように煽るように言ってやる。さて、どんな反応をするかと見やる。
ミランダは一瞬呆けた顔をするとカイザーの言葉を理解したとたん視線を世話しなく左右に動かしだした。それからカイザーの目から逃れるように顔を背けてしまった。
なんて分かりやすい彼女の姿。むしろ、今までこういったインタビューに気取られなかったものだ。それともあれか年の離れた姉もフリーだからミランダにそういったインタビューがなかったのか。
カイザーは意外な彼女の姿に呆れながらため息を洩らす。
「な、なによ」
「随分と初々しいことで」
「っ、ば、バカにしているでしょ!」
怒りと羞恥をない交ぜにして眦を吊り上げるミランダにカイザーはハッと嘲笑を返す。途端に彼女はこめかみに青筋を浮かせて掴みかかろうとするが――それは叶わなかった。
「ミラ。カイザーの嫌味に反応するなって」
カイザーに伸ばしたミランダの手を彼女より少し後ろを歩いていた世一が取った。
それから子どものように癇癪を起す彼女を世一は宥める。カイザーはその様子を注意深く伺う。
世一はノアと同じようにサッカーに人生を捧げたサッカーバカだと思っていた。いや、カイザーもその辺りは否定できないが。それよりも思考から果てには細胞までサッカーに染まっている人間だと、潔世一のことは思っていた。それが蓋を開けたら中途半端に恋する相手がいるなんて誰が思うか。世一の周辺の人間だって想像できなかっただろう。
目の前のクソ甘い空気にカイザーは真顔になりながら口を開いて壊す準備をする。
「お前のこと探していたスポンサーは××ブランドの人間だ」
「え゛」
世一に手を握られ恋する女スイッチが入りかけていたミランダの表情が歪む。それだけで胸がすく思いだった。
苦々しい表情の彼女に世一は眉を下げて首を下げて「どうしたんだ?」と尋ねた。それに彼女の艶やかに輝くぽってりとした唇の口角が下がる。
「あそこのスポンサーは全然悪くないのだけれどやたらと私とカイザーで撮りたがるのよ」
「いい被写体だからじゃないか」
「黙ってちょうだい」
恨めし気にカイザーを睨んでくるが別にカイザーは何もしていない。ブランド側がカイザーとミランダの組み合わせを殊のほか気に入っているだけだ。恨むならお互いの容姿と雰囲気がブランドマッチしてしまうことだ。
「ハァ。いつまでも拗ねるな」
「はぁ? 拗ねてんじゃないわよ!」
「ミラったら」
またムキになって怒りのボルテージを上げてくるミランダを世一が宥める。するとしゅるしゅると彼女の怒りが引いていく。それでもまだ不服な気持ちが残っているのか、ジトと目を据わらせてカイザーを睨み上げる。
だが、カイザーはそんなミランダを鼻であしらって止まっていた足を動かす。
「早くしないとスポンサーが帰るぞ」
「分かっているわよ」
フンと鼻息荒くカイザーの隣をミランダはドレスを着ている人間には相応しくない足取りで歩く。その様子にさすがに呆れて「淑やかに歩け」と注意する。
「淑やかにですって! ハッ! なんで貴方の隣で淑やかに歩かないといけないのよ!」
「噛みつくな。ハァ。お前に着られているドレスも哀れだな」
「ぬっ、ぁ~~ッ」
今日は随分と煽られるなと思いながら奥歯を噛みしめるミランダを見下ろして、次にその隣を歩いていた世一を見やる。
世一は苛立つミランダを好青年よろしく「まぁまぁ」と宥めている。その姿は日本代表でかつてのブルーロックの仲間にいるときと似ている。だが、カイザーよりも深い青の瞳は僅かに剣を含んでいる。奥の奥にかつて見せた「100% 殺す」のときとも違う。何かが揺らめいている。
その揺らめきにカイザーはほくそ笑む。
――へぇ。さすが成長が早いな、世一ぃ。
気づいたのか些か確認はできないが、世一の彼女に対する感情は確実に恋情へと進化している。カイザーはその変化を把握しながらちょっかいをかけることにし続けた。
「ドレスで思い出したが次の新作は『4つの何か』がモチーフらしいぞ」
「は、」
険しい顔から再び間抜け面を晒すミランダ。その表情のあまりの間抜け面に口角が上がるのが止まらない。だが、世一は「4つの何か」の意味合いが分からないのか一人困惑気味に「なんだそれ」と洩らす。
カイザーはそれを#ミランダ##よりも早く聞き反応を示す。
「なんだ。知らないのか、世一ぃ」
「……悪かったな」
どうやら庭園に出る意味合いなどを知らなかったことをいまだに気にしているらしい。とはいえ「4つの何か」は欧米がメインとなる文化だ。日本では結婚しなければ男性には馴染みがないかもしれない。だから、独り身であり姉も妹もいない一人っ子の世一が知らないのも何もおかしくない。だが、それは言わずにカイザーは自身の指で一本立てる。
「サムシング・オールド。何か古いもの。母親や祖母が身に着けたものや、一族に代々受け継がれるもの」
次に二本目の指を立てる。
「サムシング・ニュー。何か新しいもの。結婚を祝って希望となる新しいもの。新調したアイテムだな」
さらに三本目の指を立てる。
「サムシング・ボロード。何か借りたもの。友人、知人、家族が結婚式で使用したアイテム。すぐ借りられるものでもいいとか言うな」
最後の四本目を立てる。
「サムシング・ブルー。何か青いもの。青は聖母マリアを象徴する色で、花嫁の純潔や貞節を表して基本目立たないアイテムらしい」
四本の指を揺らしてカイザーはさらに言葉を重ねる。
「これら4つのアイテムを身に着けた花嫁は幸せになれるというジンクス。ロイヤルウェディングでもまだ続けられている伝統らしいぞ」
あとマザーグースが元ネタらしいが、と付け足そうとしたがそれよりも世一の元より大きい双眸が見開いたことの方が面白い。どうやらこれだけの言葉で勘のいい彼はカイザーとミランダがどんなシチュエーションで撮影が行われるのか分かったらしい。さすが世一だ、とカイザーは満足げに笑みを深める。
「ま。ブライダル事業もしているからな年齢的にいつかあるかと思ったが」
追撃とばかりにはっきりと言葉にしてやると大きく見開いた青の瞳が揺れた。世一らしくない動揺は少しつまらない。けれど、もう一度つついたらどうなるか興味はそそられる。さらなる追撃をと思ったができなかった。呆けていたミランダが復活してしまった。
「つまりそれってウェディングドレスってこと!」
「だろうな」
一拍どころか、すごく遅い彼女の反応に。だが呆れる。だが面白い反応が見れそうという理由で今度は彼女を標的にすることにした。
「でも、『4つの何か』がモチーフなだけだから別にウェディングドレスじゃないって」
「とはいえ、ドレスである可能性は大いにあるよなぁ」
「っ。な、んで、貴方の隣で私が花嫁にならないといけないのよッ!」
今日一番の嫌な顔をされた。さすがにここまで嫌な顔をされるとカイザーも少々腹が立つし、少し棘が出てしまう。
「なんだ。仕事だろ? できないのか? ああ! あれか、本番は好きな人の隣がいいのかぁ? 案外お前も少女じみた夢みてんだな」
最後のダメ押しに添えた言葉が利いたのか##名前1##は頬の色を再び染めて分かりやすい反応を見せる。今日の彼女の表情は仕事で会っていた時よりもくるくる変わる。ここまで表情が変わるのか新鮮な気持ちと別にカイザーの心臓の嫌なところを引っ搔いていき僅かな傷を残していく。
――いくつめだ。
カイザーは今更になって自分の行為が彼らの恋もどきを本物の恋へと昇格させるアシストをしていることに思い至る。とはいえ、まだ恋となるのかは断定できないが、徐々に「そうだ」と確信へとなっていくような気がしていく。
興覚めしていく自分にカイザーは皮肉った笑みを浮かべてミランダを見下ろす。
「とはいえ初恋の相手と結婚なんて到底無理な話だろうがな」
まるでそれは負け犬の遠吠えのようで惨めったらしかった。今までそんな奴らを見てきた自分がまさかそうなるなんて腸が煮えくり返る。
だが、言い放った言葉はどうやらミランダの心に響いたらしい乙女のように染めていた頬が一機に色を失う。キラキラ輝いていた双眸が一気に輝きを失う。どうやら少女じみた考えはあっても実現するとは思っていないらしい。
意外だった。恋もどきではあっても世一とどうにかなると考えていなかったのか。彼女の意外な反応を思わず口を開くことを忘れる。それはカイザーにとって後手となった。
「ミラ」
世一が耳を塞ぎたくなるように甘ったるく彼女の愛称で呼んだ。あまりの甘い声はまるで毒のようだと思ったが心の中で大きな舌打ちする。これは罠だと思うのはカイザーの男の勘であった。そして、その勘はきっと見事的中するに違いない。
自分に恋のアシスト点が入ったこと、さらにこんなところで男として成長した世一に悔しさと自己嫌悪が込み上げる。
この後の展開を考えると同時にあまりの苦さに歪みそうになる表情を何とかしようとしたときだった。彼女の名前を甘く呼んだ男の口からとんでもない言葉が出てきた。
「好きな奴、いたのか?」
カイザーは世一のことを高く評価し過ぎていたようだ。
歪みかけた唇は敵の失態に口角が引き上がった。
世一の提案から三人でパーティ会場へと戻ることにした。カイザーは背後を歩く二つの気配を感じながら密かにため息を洩らす。
――クソ幼稚だな。
恋愛に興味はないがカイザーは男女の機微は理解できる人間だった。
ガゼボの中、並んだ二人はまさに恋する男と女そのものだった。だが、ヴィランよろしく甘ったるい空気を割り込んでみれば拍子抜けだ。
当の本人たちは歳に見合わぬままごとのような幼稚な恋をしていた。いた、もはやあれは恋というには幼稚でお粗末過ぎる。恋をしている人間たちに失礼極まりない。
けれど、世一の方は怪しい。いや、何が恋に怪しいもなにもない。カイザーから見たら世一はクソ幼稚な恋をしている癖にいっちょ前に独占欲がある。
子供のような幼稚な恋。恋もどきな癖に大人の男が持つ独占欲を滲みだした世一。ピッチ上でみる獣じみた貪欲さとも違い。またピッチ外のアジアの好青年らしい世一とも違う。
あのときの苦々しい世一の顔は見ていて面白く、不愉快だった。
――恋もどきだろうが。
だが、それを本物に昇格させかけているのは紛れもなくカイザー自身だ。奪うならそれくらいがいい。だが世一が本気になったときのことを考えるとクソめんどくさいのもまた本音。欲しいと思ったものは何が何でもどんな壁が立ちはだかろうともきっと手に入れる。世一という男はきっとそういう男だ。
そうなる前にあの淡い恋を砕かなければ。そう思う自身のクソな考えに密かに眉根を顰めていると腕を引かれた。
その力は明らかに世一のものではない。ならば、もう一人の女のものだ。
「なんだ、ミランダ」
「スポンサーってどこなの?」
世一のときの猫をかぶった子猫のような可愛らしい態度ではなくいつもの威嚇じみた刺々しい態度。カイザーからしたら先ほどの甘ったるい乙女の横顔をする彼女よりも見慣れて安心する。
「ちょっと聞いてる?」
柳眉を寄せてだいぶ下から睨みを利かせてくる。いつもと変わらないがいつも以上に苛立ちが見え隠れしているのは世一との密会を邪魔されたからだろうか。
少しからかってみたくなる。カイザーはいつも通り形のいい唇の口角を上げてミランダの耳元に寄せる。彼女は鬱陶し気な表情をした瞬間に囁く。
「そんなに世一との密会邪魔されたことに苛立っているのかぁ?」
世一によくやるように煽るように言ってやる。さて、どんな反応をするかと見やる。
ミランダは一瞬呆けた顔をするとカイザーの言葉を理解したとたん視線を世話しなく左右に動かしだした。それからカイザーの目から逃れるように顔を背けてしまった。
なんて分かりやすい彼女の姿。むしろ、今までこういったインタビューに気取られなかったものだ。それともあれか年の離れた姉もフリーだからミランダにそういったインタビューがなかったのか。
カイザーは意外な彼女の姿に呆れながらため息を洩らす。
「な、なによ」
「随分と初々しいことで」
「っ、ば、バカにしているでしょ!」
怒りと羞恥をない交ぜにして眦を吊り上げるミランダにカイザーはハッと嘲笑を返す。途端に彼女はこめかみに青筋を浮かせて掴みかかろうとするが――それは叶わなかった。
「ミラ。カイザーの嫌味に反応するなって」
カイザーに伸ばしたミランダの手を彼女より少し後ろを歩いていた世一が取った。
それから子どものように癇癪を起す彼女を世一は宥める。カイザーはその様子を注意深く伺う。
世一はノアと同じようにサッカーに人生を捧げたサッカーバカだと思っていた。いや、カイザーもその辺りは否定できないが。それよりも思考から果てには細胞までサッカーに染まっている人間だと、潔世一のことは思っていた。それが蓋を開けたら中途半端に恋する相手がいるなんて誰が思うか。世一の周辺の人間だって想像できなかっただろう。
目の前のクソ甘い空気にカイザーは真顔になりながら口を開いて壊す準備をする。
「お前のこと探していたスポンサーは××ブランドの人間だ」
「え゛」
世一に手を握られ恋する女スイッチが入りかけていたミランダの表情が歪む。それだけで胸がすく思いだった。
苦々しい表情の彼女に世一は眉を下げて首を下げて「どうしたんだ?」と尋ねた。それに彼女の艶やかに輝くぽってりとした唇の口角が下がる。
「あそこのスポンサーは全然悪くないのだけれどやたらと私とカイザーで撮りたがるのよ」
「いい被写体だからじゃないか」
「黙ってちょうだい」
恨めし気にカイザーを睨んでくるが別にカイザーは何もしていない。ブランド側がカイザーとミランダの組み合わせを殊のほか気に入っているだけだ。恨むならお互いの容姿と雰囲気がブランドマッチしてしまうことだ。
「ハァ。いつまでも拗ねるな」
「はぁ? 拗ねてんじゃないわよ!」
「ミラったら」
またムキになって怒りのボルテージを上げてくるミランダを世一が宥める。するとしゅるしゅると彼女の怒りが引いていく。それでもまだ不服な気持ちが残っているのか、ジトと目を据わらせてカイザーを睨み上げる。
だが、カイザーはそんなミランダを鼻であしらって止まっていた足を動かす。
「早くしないとスポンサーが帰るぞ」
「分かっているわよ」
フンと鼻息荒くカイザーの隣をミランダはドレスを着ている人間には相応しくない足取りで歩く。その様子にさすがに呆れて「淑やかに歩け」と注意する。
「淑やかにですって! ハッ! なんで貴方の隣で淑やかに歩かないといけないのよ!」
「噛みつくな。ハァ。お前に着られているドレスも哀れだな」
「ぬっ、ぁ~~ッ」
今日は随分と煽られるなと思いながら奥歯を噛みしめるミランダを見下ろして、次にその隣を歩いていた世一を見やる。
世一は苛立つミランダを好青年よろしく「まぁまぁ」と宥めている。その姿は日本代表でかつてのブルーロックの仲間にいるときと似ている。だが、カイザーよりも深い青の瞳は僅かに剣を含んでいる。奥の奥にかつて見せた「
その揺らめきにカイザーはほくそ笑む。
――へぇ。さすが成長が早いな、世一ぃ。
気づいたのか些か確認はできないが、世一の彼女に対する感情は確実に恋情へと進化している。カイザーはその変化を把握しながらちょっかいをかけることにし続けた。
「ドレスで思い出したが次の新作は『4つの何か』がモチーフらしいぞ」
「は、」
険しい顔から再び間抜け面を晒すミランダ。その表情のあまりの間抜け面に口角が上がるのが止まらない。だが、世一は「4つの何か」の意味合いが分からないのか一人困惑気味に「なんだそれ」と洩らす。
カイザーはそれを#ミランダ##よりも早く聞き反応を示す。
「なんだ。知らないのか、世一ぃ」
「……悪かったな」
どうやら庭園に出る意味合いなどを知らなかったことをいまだに気にしているらしい。とはいえ「4つの何か」は欧米がメインとなる文化だ。日本では結婚しなければ男性には馴染みがないかもしれない。だから、独り身であり姉も妹もいない一人っ子の世一が知らないのも何もおかしくない。だが、それは言わずにカイザーは自身の指で一本立てる。
「サムシング・オールド。何か古いもの。母親や祖母が身に着けたものや、一族に代々受け継がれるもの」
次に二本目の指を立てる。
「サムシング・ニュー。何か新しいもの。結婚を祝って希望となる新しいもの。新調したアイテムだな」
さらに三本目の指を立てる。
「サムシング・ボロード。何か借りたもの。友人、知人、家族が結婚式で使用したアイテム。すぐ借りられるものでもいいとか言うな」
最後の四本目を立てる。
「サムシング・ブルー。何か青いもの。青は聖母マリアを象徴する色で、花嫁の純潔や貞節を表して基本目立たないアイテムらしい」
四本の指を揺らしてカイザーはさらに言葉を重ねる。
「これら4つのアイテムを身に着けた花嫁は幸せになれるというジンクス。ロイヤルウェディングでもまだ続けられている伝統らしいぞ」
あとマザーグースが元ネタらしいが、と付け足そうとしたがそれよりも世一の元より大きい双眸が見開いたことの方が面白い。どうやらこれだけの言葉で勘のいい彼はカイザーとミランダがどんなシチュエーションで撮影が行われるのか分かったらしい。さすが世一だ、とカイザーは満足げに笑みを深める。
「ま。ブライダル事業もしているからな年齢的にいつかあるかと思ったが」
追撃とばかりにはっきりと言葉にしてやると大きく見開いた青の瞳が揺れた。世一らしくない動揺は少しつまらない。けれど、もう一度つついたらどうなるか興味はそそられる。さらなる追撃をと思ったができなかった。呆けていたミランダが復活してしまった。
「つまりそれってウェディングドレスってこと!」
「だろうな」
一拍どころか、すごく遅い彼女の反応に。だが呆れる。だが面白い反応が見れそうという理由で今度は彼女を標的にすることにした。
「でも、『4つの何か』がモチーフなだけだから別にウェディングドレスじゃないって」
「とはいえ、ドレスである可能性は大いにあるよなぁ」
「っ。な、んで、貴方の隣で私が花嫁にならないといけないのよッ!」
今日一番の嫌な顔をされた。さすがにここまで嫌な顔をされるとカイザーも少々腹が立つし、少し棘が出てしまう。
「なんだ。仕事だろ? できないのか? ああ! あれか、本番は好きな人の隣がいいのかぁ? 案外お前も少女じみた夢みてんだな」
最後のダメ押しに添えた言葉が利いたのか##名前1##は頬の色を再び染めて分かりやすい反応を見せる。今日の彼女の表情は仕事で会っていた時よりもくるくる変わる。ここまで表情が変わるのか新鮮な気持ちと別にカイザーの心臓の嫌なところを引っ搔いていき僅かな傷を残していく。
――いくつめだ。
カイザーは今更になって自分の行為が彼らの恋もどきを本物の恋へと昇格させるアシストをしていることに思い至る。とはいえ、まだ恋となるのかは断定できないが、徐々に「そうだ」と確信へとなっていくような気がしていく。
興覚めしていく自分にカイザーは皮肉った笑みを浮かべてミランダを見下ろす。
「とはいえ初恋の相手と結婚なんて到底無理な話だろうがな」
まるでそれは負け犬の遠吠えのようで惨めったらしかった。今までそんな奴らを見てきた自分がまさかそうなるなんて腸が煮えくり返る。
だが、言い放った言葉はどうやらミランダの心に響いたらしい乙女のように染めていた頬が一機に色を失う。キラキラ輝いていた双眸が一気に輝きを失う。どうやら少女じみた考えはあっても実現するとは思っていないらしい。
意外だった。恋もどきではあっても世一とどうにかなると考えていなかったのか。彼女の意外な反応を思わず口を開くことを忘れる。それはカイザーにとって後手となった。
「ミラ」
世一が耳を塞ぎたくなるように甘ったるく彼女の愛称で呼んだ。あまりの甘い声はまるで毒のようだと思ったが心の中で大きな舌打ちする。これは罠だと思うのはカイザーの男の勘であった。そして、その勘はきっと見事的中するに違いない。
自分に恋のアシスト点が入ったこと、さらにこんなところで男として成長した世一に悔しさと自己嫌悪が込み上げる。
この後の展開を考えると同時にあまりの苦さに歪みそうになる表情を何とかしようとしたときだった。彼女の名前を甘く呼んだ男の口からとんでもない言葉が出てきた。
「好きな奴、いたのか?」
カイザーは世一のことを高く評価し過ぎていたようだ。
歪みかけた唇は敵の失態に口角が引き上がった。