トレイ × ジャック

眼鏡を外すとき、それは



 あの人はキスをするとき眼鏡を外す。
 キスをするとき以外でも外した姿をもちろん見たことはある。実験服のときや、サイエンス部の活動でも眼鏡を外してゴーグルをしている。そのときに眼鏡をどこにやったか忘れていたのは面白かったけれど本人に言っていない。そう。眼鏡を外す姿なんてもう何度も見た姿だった。

 それでも眼鏡を外すあの人は少し新鮮だった。中々どうして眼鏡をしていても、していなくても男前なのだ。当たり前だ。同じ顔なのだから。でも、一度で二度おいしいとか卑怯だ。

「ん。どうした?」
「いえ」

 じっと見つめているのに気づいたトレイが眼鏡を拭きながらこちらを見る。ジャックは緩く首を振って返事をする。「そうか」と言ったトレイは再び汚れが着いていたらしい眼鏡を拭き始める。

 ――なんか。拭く姿も様になるな。なんでだ?

 獣人属は種族にもよるがおおむね視力がいい。視力を落とす者も少なく眼鏡とは縁遠い。だから、眼鏡を拭く姿は興味深い。
 ジィと見つめ続けているとトレイの眼鏡掃除が終わる。満足そうに確認して眼鏡をするかと思いきや目の前の机に眼鏡を置いた。

 なんだ、とトレイの行動を見守っているといい笑顔で手招きされた。これは見透かされた。恥ずかしい。だのに尻尾が正直にパタパタと動いてしまった。言い逃れはできまい。
 ジャックは手招きされるままにトレイの前に立つ。彼は座ったまま綺麗な弧を描いた唇を解いた。

「ジャック」

 ただ名前を呼ばれるだけなのに身体が勝手に動く。これで服従の精神支配の魔法を使っていないのだから不思議だ。
 ジャックは自然と顔を傾けて前かがみになる。不意に伸びる手に期待が高まるが――。

 白い大きな手は頬を過ぎてジャックの頭にポンと置かれた。ついでに耳周りを撫でられた。これはこれで気持ちいいが――と頭に過ってジャックはやられたと思った。

「期待したか?」

 片眉を上げて、片方の口角がキュッと上がった笑い方をする彼。ジャックはまんまとトレイの罠にはまったのだった。


※2021.01.25 タイトル変更
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