トレイ × ジャック
不思議な再会
同僚にどうしても参加してくれと泣きつれてしかたなく参加した合コン。目の前には気合の入った同い年だろう女性たち。綺麗だな、可愛いな、とかそれなりの普通な感想を抱く。けれど、好みかとかそういった話になると興味はない。そもそも合コンに興味があって出たならともかく今日は無理をしてしかたなく参加している合コンだ。適当に受け流そうと喋りかけて来る女性たちを相手にしているときだった。
「失礼します」
聞き覚えのあるような低い声に視線を上げると――よく見知った顔だった。
大きな三角形の立派な耳、精悍さの増した顔、さらに大きくなった身体。しばらくぶりに見た別寮の後輩ジャック・ハウルだった。
――何でジャックが?
トレイが卒業して二年。ジャックたちの学年は最上級生の四年生だ。殆どの時間を実習に費やす学年だ。この時期、ちょうど総合文化祭も終わり実習も最終段階に入っている忙しい時期だ。
そのジャックが何故合コンなんかにと見ていると――バチと目があった。とたん鋭さが増した目が見開いた。驚きの滲んだ瞳をしたまま口を開き鋭い犬歯を見せると――。
「そういえばクローバーも彼と同じナイトレイブンカレッジ卒業だったよな」
「え?」
聞き方に不自然に感じながら同席していた同僚を見ればバチとウィンクをされた。その意味が理解できずに怪訝な顔をすると。
「彼はキミの一個年下で卒業したばかりなんだろ?」
「は?」
この言葉に先ほどのダサいウィンクの意味を理解した。どうやらジャックを卒業生として設定にしてこの場を温めるダシにしようとしているらしい。
同僚の不愉快な行動に声をかける前に同僚はジャックの方を振り返って「なぁ! キミ!」と声をかけてしまった。この男、と心の中で悪態をつきつつも頭の片隅で馬鹿だなと哂う自分がいた。あまり親しくはなかったとはいえジャックのことを知らないわけではない。
開きかけた口を閉じてジャックを見ればさらに険しい顔をつきに変わっていた。
ジャックは眉間に皺を寄せ不快感を表しながら口を開く。すると綺麗な犬歯を覗かせてさらに声を低めて話し出した。
「俺は実習先の研究員に急な言付けを頼まれたからここに来ただけだ」
「けど、ちげぇようだな」囁くとグルルと唸り声をあげた。「ほらみろ」心の中で言いながら隣に座っている最早同僚とも言いたくない男の息を飲む声がした。馬鹿だ、馬鹿だと思っていたがここまで馬鹿だとは思わなかった。そいつに泣きつかれてやって来た自分も馬鹿だ。でも、抜け出す理由が出来たと思った直後に合コン相手の女性の一人が声をあげた。
「実習って……まだ学生ってこと?」
声をあげた女性は表情に不愉快感を現した。すると、瞬く間に他の女性らも一斉に同じ顔を顰め始める。よしよし、と心の中で頷きながら口を開く。
「そうだよ。彼は俺の二つ下の学年の後輩で、今実習でとても忙しい四年生の学生だ」
言ってよいしょと立ち上がり、毛を逆立てるジャックの傍に行き腕を掴む。
ビクと跳ねたがとくに振り払われることはなかった。それに胸を撫で下ろして腕を軽く引く。
「ジャック、帰ろう」
「ぁ、うす!」
体育会系らしい元気な返事に自然と笑みが浮かぶ。最後にトレイは男を見て「会計よろしく」と言って店の出入り口へと向かっていく。後ろでなんか叫び声が聞こえたが全部無視して出ていく。
店を出て暫く歩き続けていると上の方から「あの」と遠慮がちな声をかけられた。先ほどの剣呑とした声とは異なる声に自分が許されているような気がして肩の力を抜く。
「久しぶりだな。ジャック」
「はい。トレイ先輩もお元気そうで」
さらに大きくなったジャックを仰ぎ見ると何だか後輩らしい顔つきになっている。十九歳になっただろうジャックの幼さの抜けきらない顔に一年生の頃の彼の面影が見えた。
「俺が記憶しているよりもデカくなったな」
「あと少しで二メートルは行きますね」
「本当か?」
それはデカすぎないかと思わず本音が出ればジャックは「そうっすか」とキョトンと目を丸くさせた。続いて「父親もそれくらいあるんで」と言うのでなるほどと納得した。
「なら、卒業頃には二メートルだな」
「だと思います……あの」
「どうした?」
ピンと立っていた立派なオオカミの耳が僅かにふにゃとなる。その動きさえも大きな身体と凛々しい顔つきに似合わず可愛らしくて思わず笑みがこぼれる。
「あの、先輩」
「いや、悪い。なんか成長してもお前らの仕草って一年の頃のまんまだと思ってな」
「な! 俺はエースやデュースほどまんまじゃねぇっす!」
「ぶはっ! それって俺の直属の後輩は一年の頃のまんまだってことか?」
思わぬ反論に思わず吹き出せばジャックは「あ、あー」と気まずげに頭を掻く。
「随分マシにはなりましたっすけど……まぁ、監督生たち含めてお騒がせ野郎共っす」
「ふっははは、なんだ、なんだ! あいつらも寮長やら副寮長やったがそうなのか?」
涙が滲む目尻を拭えばジャックが真面目に「はい」と答えるから駄目だった。今日は笑いの沸点が低いらしい。いや、久々に母校の話を聞けた懐かしさもあるのかもしれない。
「はー、笑った。なんだか久々に笑ったな」
「……トレイ先輩も笑い転げそうになるときあるんすね」
「おいおい。俺を何だと思ってるんだ」
リドルほど世間からずれているわけではないんだが。でも、寮も違い学年も違うジャックから見たらそういう人間に見えたのかもしれない。
「ところでジャックは今この国の研究室にでもいるのか」
「はい。薔薇の王国の魔法大学の研究室にいます」
リドルに勉強の質問に来ているところを見かけたし、図書室にもいるところから勤勉なイメージはあったが意外だ。
「大学に進むのか?」
「……あ~迷ってるところっす」
「迷う?」
これまた意外なことだ。ジャックはひとつの目標にズンズン迷いなく進んでいくタイプな気がした。最初に選んだ道から逸れぬブレナイ少年といったイメージだったが。
「もしよかったら聞くぞ」
「っ! あ、あのじゃ、お願いします」
ふにゃと下がっていた立派な耳が再びピンと姿勢を正した。その分、大きな尻尾が左右に揺れてどうしてか可愛らしい印象が抜けない。
「はは。門限とか大丈夫ならどっかでメシを食いながらにしよう」
「はい。時間はまだ大丈夫っす」
ぶわぶわと揺れる尻尾に笑いが込み上げてとうとう吹き出してしまった。そして、笑いだしたトレイの反応でジャックはようやく尻尾の感情に気づき慌てて止めた。
「ぐぅ。すんません」
「いや、気にするな、ふっふふ」
「ちょ! 先輩!」
恥ずかしさに声をあげるジャックに「悪い、悪い」と言う。それでも恥ずかしかったのか呻くジャックにこれから行く誰も連れていったことのない行きつけのレストランで驕ろうと思った。
同僚にどうしても参加してくれと泣きつれてしかたなく参加した合コン。目の前には気合の入った同い年だろう女性たち。綺麗だな、可愛いな、とかそれなりの普通な感想を抱く。けれど、好みかとかそういった話になると興味はない。そもそも合コンに興味があって出たならともかく今日は無理をしてしかたなく参加している合コンだ。適当に受け流そうと喋りかけて来る女性たちを相手にしているときだった。
「失礼します」
聞き覚えのあるような低い声に視線を上げると――よく見知った顔だった。
大きな三角形の立派な耳、精悍さの増した顔、さらに大きくなった身体。しばらくぶりに見た別寮の後輩ジャック・ハウルだった。
――何でジャックが?
トレイが卒業して二年。ジャックたちの学年は最上級生の四年生だ。殆どの時間を実習に費やす学年だ。この時期、ちょうど総合文化祭も終わり実習も最終段階に入っている忙しい時期だ。
そのジャックが何故合コンなんかにと見ていると――バチと目があった。とたん鋭さが増した目が見開いた。驚きの滲んだ瞳をしたまま口を開き鋭い犬歯を見せると――。
「そういえばクローバーも彼と同じナイトレイブンカレッジ卒業だったよな」
「え?」
聞き方に不自然に感じながら同席していた同僚を見ればバチとウィンクをされた。その意味が理解できずに怪訝な顔をすると。
「彼はキミの一個年下で卒業したばかりなんだろ?」
「は?」
この言葉に先ほどのダサいウィンクの意味を理解した。どうやらジャックを卒業生として設定にしてこの場を温めるダシにしようとしているらしい。
同僚の不愉快な行動に声をかける前に同僚はジャックの方を振り返って「なぁ! キミ!」と声をかけてしまった。この男、と心の中で悪態をつきつつも頭の片隅で馬鹿だなと哂う自分がいた。あまり親しくはなかったとはいえジャックのことを知らないわけではない。
開きかけた口を閉じてジャックを見ればさらに険しい顔をつきに変わっていた。
ジャックは眉間に皺を寄せ不快感を表しながら口を開く。すると綺麗な犬歯を覗かせてさらに声を低めて話し出した。
「俺は実習先の研究員に急な言付けを頼まれたからここに来ただけだ」
「けど、ちげぇようだな」囁くとグルルと唸り声をあげた。「ほらみろ」心の中で言いながら隣に座っている最早同僚とも言いたくない男の息を飲む声がした。馬鹿だ、馬鹿だと思っていたがここまで馬鹿だとは思わなかった。そいつに泣きつかれてやって来た自分も馬鹿だ。でも、抜け出す理由が出来たと思った直後に合コン相手の女性の一人が声をあげた。
「実習って……まだ学生ってこと?」
声をあげた女性は表情に不愉快感を現した。すると、瞬く間に他の女性らも一斉に同じ顔を顰め始める。よしよし、と心の中で頷きながら口を開く。
「そうだよ。彼は俺の二つ下の学年の後輩で、今実習でとても忙しい四年生の学生だ」
言ってよいしょと立ち上がり、毛を逆立てるジャックの傍に行き腕を掴む。
ビクと跳ねたがとくに振り払われることはなかった。それに胸を撫で下ろして腕を軽く引く。
「ジャック、帰ろう」
「ぁ、うす!」
体育会系らしい元気な返事に自然と笑みが浮かぶ。最後にトレイは男を見て「会計よろしく」と言って店の出入り口へと向かっていく。後ろでなんか叫び声が聞こえたが全部無視して出ていく。
店を出て暫く歩き続けていると上の方から「あの」と遠慮がちな声をかけられた。先ほどの剣呑とした声とは異なる声に自分が許されているような気がして肩の力を抜く。
「久しぶりだな。ジャック」
「はい。トレイ先輩もお元気そうで」
さらに大きくなったジャックを仰ぎ見ると何だか後輩らしい顔つきになっている。十九歳になっただろうジャックの幼さの抜けきらない顔に一年生の頃の彼の面影が見えた。
「俺が記憶しているよりもデカくなったな」
「あと少しで二メートルは行きますね」
「本当か?」
それはデカすぎないかと思わず本音が出ればジャックは「そうっすか」とキョトンと目を丸くさせた。続いて「父親もそれくらいあるんで」と言うのでなるほどと納得した。
「なら、卒業頃には二メートルだな」
「だと思います……あの」
「どうした?」
ピンと立っていた立派なオオカミの耳が僅かにふにゃとなる。その動きさえも大きな身体と凛々しい顔つきに似合わず可愛らしくて思わず笑みがこぼれる。
「あの、先輩」
「いや、悪い。なんか成長してもお前らの仕草って一年の頃のまんまだと思ってな」
「な! 俺はエースやデュースほどまんまじゃねぇっす!」
「ぶはっ! それって俺の直属の後輩は一年の頃のまんまだってことか?」
思わぬ反論に思わず吹き出せばジャックは「あ、あー」と気まずげに頭を掻く。
「随分マシにはなりましたっすけど……まぁ、監督生たち含めてお騒がせ野郎共っす」
「ふっははは、なんだ、なんだ! あいつらも寮長やら副寮長やったがそうなのか?」
涙が滲む目尻を拭えばジャックが真面目に「はい」と答えるから駄目だった。今日は笑いの沸点が低いらしい。いや、久々に母校の話を聞けた懐かしさもあるのかもしれない。
「はー、笑った。なんだか久々に笑ったな」
「……トレイ先輩も笑い転げそうになるときあるんすね」
「おいおい。俺を何だと思ってるんだ」
リドルほど世間からずれているわけではないんだが。でも、寮も違い学年も違うジャックから見たらそういう人間に見えたのかもしれない。
「ところでジャックは今この国の研究室にでもいるのか」
「はい。薔薇の王国の魔法大学の研究室にいます」
リドルに勉強の質問に来ているところを見かけたし、図書室にもいるところから勤勉なイメージはあったが意外だ。
「大学に進むのか?」
「……あ~迷ってるところっす」
「迷う?」
これまた意外なことだ。ジャックはひとつの目標にズンズン迷いなく進んでいくタイプな気がした。最初に選んだ道から逸れぬブレナイ少年といったイメージだったが。
「もしよかったら聞くぞ」
「っ! あ、あのじゃ、お願いします」
ふにゃと下がっていた立派な耳が再びピンと姿勢を正した。その分、大きな尻尾が左右に揺れてどうしてか可愛らしい印象が抜けない。
「はは。門限とか大丈夫ならどっかでメシを食いながらにしよう」
「はい。時間はまだ大丈夫っす」
ぶわぶわと揺れる尻尾に笑いが込み上げてとうとう吹き出してしまった。そして、笑いだしたトレイの反応でジャックはようやく尻尾の感情に気づき慌てて止めた。
「ぐぅ。すんません」
「いや、気にするな、ふっふふ」
「ちょ! 先輩!」
恥ずかしさに声をあげるジャックに「悪い、悪い」と言う。それでも恥ずかしかったのか呻くジャックにこれから行く誰も連れていったことのない行きつけのレストランで驕ろうと思った。
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