記念日を重ねる
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記念日を重ねる・3
1年後。高校生活最後の年になった。
東京の大学への進学も決まった。残り少ない高校生活をゆっくりと過ごそうとした秋頃にスペインでサッカーをしていた幼馴染が戻って来た。
その間に、幼馴染の弟は拗れた殺気モンスターになっていたけれど、その弟もどこかへ行ってしまった。とはいっても、律儀に妹にしっかりと場所と目的を話しているのが拗れモンスターこと凛らしい。
さて、その関係を拗らせた幼馴染兄弟は今目の前でサッカーの試合をしている。
最初こそは絶対にないと思っていた日の丸を背負った冴のコールばかりだったスタジアムも今は別の熱気に包まれている。周りは皆キラキラと瞳を輝かせて、熱い歓声を送っている。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん、二人が一緒にサッカーしてる」
「そうね」
あたしの隣にいる可愛い妹が熱気に当てられたように頬を赤く染め、大きな目は少し潤んでいるように見える。
可愛い妹を泣かせている糸師兄弟に少し怒りを覚える。今度二人に文句のメールでも送ろうか。たぶん無視されるだろうか。冴は知らないけれど凛は十中八九無視するだろうけれど。
目を潤ませる妹を気にしていたら試合は佳境を迎えていた。そして、ついに――。
「あッ!」
「ぁ」
妹の興奮気味の声とあたしの興味なさそうな声が重なる。いや、周りにいる観客との声も重なったかも。それほどの攻防が今起きたのだ。
その一瞬にあたしは身を乗り出していた。恥ずかしいけれど、あの光景。凛が一瞬だけでも冴に勝ったあの瞬間が決勝ゴールよりもインパクトがあった。きっと、それは隣にいる妹も同じだと思う。
「終わっちゃった……」
「そうだね」
まだ余韻の残る可愛い妹の声に返事をする。ぼんやりとまだ選手が残るピッチを見ていると冴が座り込んでいる凛に声をかける。
「おお。見て、冴から話しかけているわよ」
「ほんとだ……大丈夫かなぁ」
横にいる妹のハラハラした気配を感じながら彼らの会話の行方を見つめていると、冴の顔が動いた。彼の視線の辿った先にいるのは――今日のヒーロ―だった。
「あ~~あ」
それだけで二人の会話がなんとなく察せる。これはまた拗れるなぁ、とハラハラしていた妹を見れば「あぁ」と意気消沈していた。どうやら冴の仕草だけで何となく察してしまったらしい。賢い妹だ。
「ふぅ。まだまだあの二人の溝は深いわね」
「うん。でも、それがいいのかな?」
「んー。そうかも」
小さい頃のべったりの二人を考えれば、溝ができて歪になってしまったけれど健全なのかもしれない。良好かは分からないけれど。
「でも、いつか仲直りはしてほしいな」
「あの二人が? できるかしら?」
どっちも言葉が足りないサッカーバカなのに。チラと妹を見れば可愛い顔で可愛くはにかんで「サッカーがあれば」と言った。
「ふふ。確かにサッカーがあれば言葉足らずの男たちもいつか仲直りするかもね」
「いつになるか分からないけれどね」と付け足して凛を置いてピッチから去っていく冴の背中を見つめ続けた。すると、我が道を行くように歩き進んでいた冴の足が止まり不意に振り返ると――。
「ぁ」
ずっと、ずっと、ずぅっと、遠くにいるのに目が合った気がした。だけれど、これはきっとアイドルとかのコンサートで推しと目が合ったとかいう気のせいだ。
そう。気のせい。気のせいのはずなのに――どうしてかあたしの口は勝手に動いた。
「さえ」
届かない声で彼の名前を呼んだ。彼の表情は遠すぎて分からないはずなのにいつもの分かりにくい感じに笑った気がした。
長らく幼馴染をしているけれどサッカーに関わっているときの冴と目が合ったのは初めてだった。いや、気のせいかもしれないけれど――。
「今日は目が合ったかもしれない記念日」
なんてバカな記念日を刻んだ。
1年後。高校生活最後の年になった。
東京の大学への進学も決まった。残り少ない高校生活をゆっくりと過ごそうとした秋頃にスペインでサッカーをしていた幼馴染が戻って来た。
その間に、幼馴染の弟は拗れた殺気モンスターになっていたけれど、その弟もどこかへ行ってしまった。とはいっても、律儀に妹にしっかりと場所と目的を話しているのが拗れモンスターこと凛らしい。
さて、その関係を拗らせた幼馴染兄弟は今目の前でサッカーの試合をしている。
最初こそは絶対にないと思っていた日の丸を背負った冴のコールばかりだったスタジアムも今は別の熱気に包まれている。周りは皆キラキラと瞳を輝かせて、熱い歓声を送っている。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん、二人が一緒にサッカーしてる」
「そうね」
あたしの隣にいる可愛い妹が熱気に当てられたように頬を赤く染め、大きな目は少し潤んでいるように見える。
可愛い妹を泣かせている糸師兄弟に少し怒りを覚える。今度二人に文句のメールでも送ろうか。たぶん無視されるだろうか。冴は知らないけれど凛は十中八九無視するだろうけれど。
目を潤ませる妹を気にしていたら試合は佳境を迎えていた。そして、ついに――。
「あッ!」
「ぁ」
妹の興奮気味の声とあたしの興味なさそうな声が重なる。いや、周りにいる観客との声も重なったかも。それほどの攻防が今起きたのだ。
その一瞬にあたしは身を乗り出していた。恥ずかしいけれど、あの光景。凛が一瞬だけでも冴に勝ったあの瞬間が決勝ゴールよりもインパクトがあった。きっと、それは隣にいる妹も同じだと思う。
「終わっちゃった……」
「そうだね」
まだ余韻の残る可愛い妹の声に返事をする。ぼんやりとまだ選手が残るピッチを見ていると冴が座り込んでいる凛に声をかける。
「おお。見て、冴から話しかけているわよ」
「ほんとだ……大丈夫かなぁ」
横にいる妹のハラハラした気配を感じながら彼らの会話の行方を見つめていると、冴の顔が動いた。彼の視線の辿った先にいるのは――今日のヒーロ―だった。
「あ~~あ」
それだけで二人の会話がなんとなく察せる。これはまた拗れるなぁ、とハラハラしていた妹を見れば「あぁ」と意気消沈していた。どうやら冴の仕草だけで何となく察してしまったらしい。賢い妹だ。
「ふぅ。まだまだあの二人の溝は深いわね」
「うん。でも、それがいいのかな?」
「んー。そうかも」
小さい頃のべったりの二人を考えれば、溝ができて歪になってしまったけれど健全なのかもしれない。良好かは分からないけれど。
「でも、いつか仲直りはしてほしいな」
「あの二人が? できるかしら?」
どっちも言葉が足りないサッカーバカなのに。チラと妹を見れば可愛い顔で可愛くはにかんで「サッカーがあれば」と言った。
「ふふ。確かにサッカーがあれば言葉足らずの男たちもいつか仲直りするかもね」
「いつになるか分からないけれどね」と付け足して凛を置いてピッチから去っていく冴の背中を見つめ続けた。すると、我が道を行くように歩き進んでいた冴の足が止まり不意に振り返ると――。
「ぁ」
ずっと、ずっと、ずぅっと、遠くにいるのに目が合った気がした。だけれど、これはきっとアイドルとかのコンサートで推しと目が合ったとかいう気のせいだ。
そう。気のせい。気のせいのはずなのに――どうしてかあたしの口は勝手に動いた。
「さえ」
届かない声で彼の名前を呼んだ。彼の表情は遠すぎて分からないはずなのにいつもの分かりにくい感じに笑った気がした。
長らく幼馴染をしているけれどサッカーに関わっているときの冴と目が合ったのは初めてだった。いや、気のせいかもしれないけれど――。
「今日は目が合ったかもしれない記念日」
なんてバカな記念日を刻んだ。