記念日を重ねる
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記念日を重ねる・1
「冴って、スペインから戻って来る予定ある?」
前を歩く小豆色のツンツンした髪の幼馴染に問いかける。ツンツン頭の男の子はあたしの方に振り返ることなく前を向いたまま「ねぇな」と軽く答えた。
未練の欠片もないあっさりしたものだった。でも、なんとなく予想はできていた。
「そう。あんたくらいの実力になると日本は狭いのかしらね」
「狭いんじゃねぇよ。合わねぇんだよ」
即答しつつ振り返った幼馴染はいつも通りサッカー以外の興味がない双眸をしていた。その瞳を同級生の女子は「クールでかっこいい!」と言っている。
あたしはその「クール」なところも「かっこいい」というところもよく分からない。たぶん、うんと小さい頃から家が隣同士で絡みがあるから。今更、かっこいいも何もない。むしろ、クールとかいうのはサッカー以外に興味がないからなだけ。
皆見る目がない、と思いながら今日も同級生にやっかまれたことを思い出して嫌な気持ちになる。けれど、この嫌な気持ちについて冴に言ったところでも「知るか」で片づけられるから言うこともない。
じっと見てくる双眸にため息をついて「そ」と同じくらいそっけなく返す。
「じゃあ、そのままスペインでサッカーを続けるってことかしら」
「スペインつーか、海外でサッカーをしていくつもりだ」
「ふぅん」
冴の性格や気質は日本人らしくないから海外の方が性に合うのかもしれない。といっても、あたしはサッカーなんて簡単なルール以外何も知らないから分からないけれど。
他人でサッカーにわかのあたしが口出すことじゃない。けれど、冴が海外に出ればあたしの周りも少しは楽になるだろう。たぶん。
そういえば、と冴の隣まで来て少し上になった顔を見上げる。
「ということは、あんたとは一生のバイバイになるってこと?」
「ぁ」
クールでかっこいいらしい幼馴染はとたんに眉根をキュッと中心に寄せた。
こういう顔をするときは大抵何か勘に障ったとき。でも、一体どこが、何が、と分からず首を傾げる。
「なに? だって、日本に戻って来ないならバイバイでしょ。あ、帰省するから違うってこと?」
確かに帰省するときには会えるかもしれない。冴の家は知らないけれどあたしの家は借家ではないし、両親も年取ってから県外へ移住する考えはない。たぶん、ずっとここ鎌倉から家は移らない。なら、冴が帰省したときに会うことはあるだろう。
「あ、けど、あたし大学は県外行くと思うのよね。就職も地元でってあんまり考えていないから会う機会は減ること間違いないわよ」
もし冴がこのままプロになったらオフシーズンとか、お正月くらいにしか帰ってこないでしょ。それにプロ選手ってオフシーズンは試合以外の仕事がたくさんあるからやっぱり会う機会なんてないわね。
「数年に一回は会えるかもね」
そう答えれば冴の眉間の皺がなくなっていた。けれど、その代わりに何ともいえない目で見られる。
珍しく感情の読めない瞳にあたしは「どうしたの」と訊く。幼馴染だからなんでも通じ合うなんてことないのよ――いや、妹と冴の弟はできていた。
あたしはとたんに苦い気持ちがこみ上げる。最近のあたしの悩みである二つ年下の妹とこのツンツンン男子のワガママ弟の関係性。甘え、甘やかすちょっと危ない関係。
「はぁ。あんたが凛のこと甘やかすからつけ上がるのよ」
「あぁ? んで凛が出てくんだよ」
なくなっていた眉間の皺がまたできた。口角もいっと下がっている。身体全体から不機嫌ですというのが伝わって来る。けれど、これくらい小さな頃から一緒に居れば別に何でもない。
あたしは分かっていない冴に対してため息を洩らしながら最後だしと少しの愚痴吐き出す。
「凛の依存体質どうにかしてから海外に行ってほしかったわ」
冴の弟は無意識な依存体質だ。サッカーに詳しくはないけれどサッカーをしている凛は冴に依存した感じのプレイをしている。その質は日常生活でもそうだ。というか、この兄弟の生活はサッカー中心でお互いだけ唯一同じ境地でサッカーができる人間だと思っている。だから、冴は凛を求めるし、凛は求めに応じさらに求める。
学校生活は冴も凛も二つ離れているためずっと一緒ではない。今みたいに中学校と小学校に別れている今も。となると、凛のその依存体質がどこに向かうのかというと小さい頃から一緒にいるあたしの可愛い、可愛い、妹。
妹はあたしなんかと違ってとっても優しいから凛のワガママを受け入れてしまう。
学校側も兄以外に興味が希薄で協調性のない凛が妹のことを言うことを聞くとなってもうずっと同じクラス。妹は凛係になっている。
「あ。でも、どうせそれもあと少しか」
「お前、さっきから一人で会話してんのか」
「昔からそういうところあるよな」と言う冴を無視する。
「凛の依存体質も今は目を瞑るわ。どうせ、あの子もすぐに海外に行くんでしょ」
「スカウトがあればな」
「ないかもしれないの?」
「……さぁな」
肩を上げて下げる冴に目を眇めるけれどやめる。というか、なんの話をしていたんだっけと少し前のことを思い出す。
「一生ではないけれど多分ほとんど会うことはないけれど達者でね」
手を振ると冴が大きなため息を洩らした。それから短く揃えた前髪を少しだけ掻き上げて眠そうな双眸であたしを真っすぐ見る。
「俺ら兄弟と付き合えるなんてお前ら姉妹だけだろ」
そう言うやいなやまっすぐ見ていた目を逸らしてまた歩き出す。その歩くスピードはさっきよりもだいぶ早い。歩く速度を揃えてくれたことなんてない。だから、あたしはそれを気にしない。しないけれど、さすがにまだ聞きたいことがあるから速足で追いかける。
「ちょっと、冴、どういうことよ」
「うるせぇ」
速足で隣を歩いてとぎれとぎれ訊ねるけれど一言で返される。邪険にするような言い方にさすがにムカついた。
「もう、あたしは、凛の面倒みないから、あと、あんたの日本のファン、無視するからっ」
「勝手にしろよ」
「じゃあ、勝手、する!」
はぁ、はぁ、と息切れでもう速足も無理と歩く速度を落としていく。冴との並走も終わりゆっくり帰ろうと思ったのだけれど――。
「はぁ、はっ、なによ」
冴が足を止めてじっとあたしを見てくる。分からなくて普通に歩くとまた隣に並びかけると歩き出す。
貧弱と言われるのかと思ったらそうでもなく冴は無言のまま歩き出す。その速度がなんと今までないほどゆっくりだった。
「気持ち悪いわね」
今まで待ってくれたことなんてなかったのに。まじまじと隣で歩く冴を見つめる。
冷え冷えとした印象がある横顔を見つめ続けると薄めの唇が動いて――。
「今日くらいお前に合わせてやるよ」
なんて傲慢な言い方。それでも確かに冴とはもういつ会えるか分からない。小さい頃からの幼馴染でも、彼はビックプレイヤーとなってもう話すことができないかもしれない。なら最初で最後に歩いてくれるというのならば、その言葉に甘えよう。
「今日はあんたが一緒に歩いてくれた記念日ね」
ふざけた記念日とバカにされるかと思った。けれど、冴は珍しくまったく動かない口角を上げて笑って見せた。
「明日は槍でも降るのかしら」
なんて思わず呟いて冴の表情が歪んだのをみて少しだけ安心したのは秘密。
そんな日から1週間後と数日経って冴はスペインへと旅立っていった。
「冴って、スペインから戻って来る予定ある?」
前を歩く小豆色のツンツンした髪の幼馴染に問いかける。ツンツン頭の男の子はあたしの方に振り返ることなく前を向いたまま「ねぇな」と軽く答えた。
未練の欠片もないあっさりしたものだった。でも、なんとなく予想はできていた。
「そう。あんたくらいの実力になると日本は狭いのかしらね」
「狭いんじゃねぇよ。合わねぇんだよ」
即答しつつ振り返った幼馴染はいつも通りサッカー以外の興味がない双眸をしていた。その瞳を同級生の女子は「クールでかっこいい!」と言っている。
あたしはその「クール」なところも「かっこいい」というところもよく分からない。たぶん、うんと小さい頃から家が隣同士で絡みがあるから。今更、かっこいいも何もない。むしろ、クールとかいうのはサッカー以外に興味がないからなだけ。
皆見る目がない、と思いながら今日も同級生にやっかまれたことを思い出して嫌な気持ちになる。けれど、この嫌な気持ちについて冴に言ったところでも「知るか」で片づけられるから言うこともない。
じっと見てくる双眸にため息をついて「そ」と同じくらいそっけなく返す。
「じゃあ、そのままスペインでサッカーを続けるってことかしら」
「スペインつーか、海外でサッカーをしていくつもりだ」
「ふぅん」
冴の性格や気質は日本人らしくないから海外の方が性に合うのかもしれない。といっても、あたしはサッカーなんて簡単なルール以外何も知らないから分からないけれど。
他人でサッカーにわかのあたしが口出すことじゃない。けれど、冴が海外に出ればあたしの周りも少しは楽になるだろう。たぶん。
そういえば、と冴の隣まで来て少し上になった顔を見上げる。
「ということは、あんたとは一生のバイバイになるってこと?」
「ぁ」
クールでかっこいいらしい幼馴染はとたんに眉根をキュッと中心に寄せた。
こういう顔をするときは大抵何か勘に障ったとき。でも、一体どこが、何が、と分からず首を傾げる。
「なに? だって、日本に戻って来ないならバイバイでしょ。あ、帰省するから違うってこと?」
確かに帰省するときには会えるかもしれない。冴の家は知らないけれどあたしの家は借家ではないし、両親も年取ってから県外へ移住する考えはない。たぶん、ずっとここ鎌倉から家は移らない。なら、冴が帰省したときに会うことはあるだろう。
「あ、けど、あたし大学は県外行くと思うのよね。就職も地元でってあんまり考えていないから会う機会は減ること間違いないわよ」
もし冴がこのままプロになったらオフシーズンとか、お正月くらいにしか帰ってこないでしょ。それにプロ選手ってオフシーズンは試合以外の仕事がたくさんあるからやっぱり会う機会なんてないわね。
「数年に一回は会えるかもね」
そう答えれば冴の眉間の皺がなくなっていた。けれど、その代わりに何ともいえない目で見られる。
珍しく感情の読めない瞳にあたしは「どうしたの」と訊く。幼馴染だからなんでも通じ合うなんてことないのよ――いや、妹と冴の弟はできていた。
あたしはとたんに苦い気持ちがこみ上げる。最近のあたしの悩みである二つ年下の妹とこのツンツンン男子のワガママ弟の関係性。甘え、甘やかすちょっと危ない関係。
「はぁ。あんたが凛のこと甘やかすからつけ上がるのよ」
「あぁ? んで凛が出てくんだよ」
なくなっていた眉間の皺がまたできた。口角もいっと下がっている。身体全体から不機嫌ですというのが伝わって来る。けれど、これくらい小さな頃から一緒に居れば別に何でもない。
あたしは分かっていない冴に対してため息を洩らしながら最後だしと少しの愚痴吐き出す。
「凛の依存体質どうにかしてから海外に行ってほしかったわ」
冴の弟は無意識な依存体質だ。サッカーに詳しくはないけれどサッカーをしている凛は冴に依存した感じのプレイをしている。その質は日常生活でもそうだ。というか、この兄弟の生活はサッカー中心でお互いだけ唯一同じ境地でサッカーができる人間だと思っている。だから、冴は凛を求めるし、凛は求めに応じさらに求める。
学校生活は冴も凛も二つ離れているためずっと一緒ではない。今みたいに中学校と小学校に別れている今も。となると、凛のその依存体質がどこに向かうのかというと小さい頃から一緒にいるあたしの可愛い、可愛い、妹。
妹はあたしなんかと違ってとっても優しいから凛のワガママを受け入れてしまう。
学校側も兄以外に興味が希薄で協調性のない凛が妹のことを言うことを聞くとなってもうずっと同じクラス。妹は凛係になっている。
「あ。でも、どうせそれもあと少しか」
「お前、さっきから一人で会話してんのか」
「昔からそういうところあるよな」と言う冴を無視する。
「凛の依存体質も今は目を瞑るわ。どうせ、あの子もすぐに海外に行くんでしょ」
「スカウトがあればな」
「ないかもしれないの?」
「……さぁな」
肩を上げて下げる冴に目を眇めるけれどやめる。というか、なんの話をしていたんだっけと少し前のことを思い出す。
「一生ではないけれど多分ほとんど会うことはないけれど達者でね」
手を振ると冴が大きなため息を洩らした。それから短く揃えた前髪を少しだけ掻き上げて眠そうな双眸であたしを真っすぐ見る。
「俺ら兄弟と付き合えるなんてお前ら姉妹だけだろ」
そう言うやいなやまっすぐ見ていた目を逸らしてまた歩き出す。その歩くスピードはさっきよりもだいぶ早い。歩く速度を揃えてくれたことなんてない。だから、あたしはそれを気にしない。しないけれど、さすがにまだ聞きたいことがあるから速足で追いかける。
「ちょっと、冴、どういうことよ」
「うるせぇ」
速足で隣を歩いてとぎれとぎれ訊ねるけれど一言で返される。邪険にするような言い方にさすがにムカついた。
「もう、あたしは、凛の面倒みないから、あと、あんたの日本のファン、無視するからっ」
「勝手にしろよ」
「じゃあ、勝手、する!」
はぁ、はぁ、と息切れでもう速足も無理と歩く速度を落としていく。冴との並走も終わりゆっくり帰ろうと思ったのだけれど――。
「はぁ、はっ、なによ」
冴が足を止めてじっとあたしを見てくる。分からなくて普通に歩くとまた隣に並びかけると歩き出す。
貧弱と言われるのかと思ったらそうでもなく冴は無言のまま歩き出す。その速度がなんと今までないほどゆっくりだった。
「気持ち悪いわね」
今まで待ってくれたことなんてなかったのに。まじまじと隣で歩く冴を見つめる。
冷え冷えとした印象がある横顔を見つめ続けると薄めの唇が動いて――。
「今日くらいお前に合わせてやるよ」
なんて傲慢な言い方。それでも確かに冴とはもういつ会えるか分からない。小さい頃からの幼馴染でも、彼はビックプレイヤーとなってもう話すことができないかもしれない。なら最初で最後に歩いてくれるというのならば、その言葉に甘えよう。
「今日はあんたが一緒に歩いてくれた記念日ね」
ふざけた記念日とバカにされるかと思った。けれど、冴は珍しくまったく動かない口角を上げて笑って見せた。
「明日は槍でも降るのかしら」
なんて思わず呟いて冴の表情が歪んだのをみて少しだけ安心したのは秘密。
そんな日から1週間後と数日経って冴はスペインへと旅立っていった。