レオナ編
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かわる日々
仕事がひと段落してレオナは息子がいる部屋を訪れる。部屋の中を覗くと世話係に囲まれて遊んでいる息子がいる。普段はジェマが一緒にいるが息子からの風邪を貰い部屋で一人休んでいる。
おかげで朝は中々姿が見えなせない母親に息子は大層ぐずっていたが、今は遊んでくれる大人がいることでだいぶ機嫌がよくなっているようだった。
機嫌よさそうに声をあげる息子に安心しながらレオナもようやく足を踏み入れる。
「ラディ」
「ッ!」
名前を呼ぶとまだまだ大きな耳をピコと動かし顔を向ける。とたん、満面の笑みを浮かべて「ミヤァ!」と子猫のように鳴いたと思ったらベチンと手を床についてハイハイの体勢に入る。そして可愛い顔のままレオナのところへとペチペチと向かってくる。
ついこの間まではもぞもぞ動いているだけで、いつの間にか寝返りを打って、腹ばいからこうして今ハイハイをするほどに成長している。
毎度その成長速度にレオナは感心してしまう。きっとすぐに二足歩行を始めるのだろうと思いながら膝を着く。するとあっという間に息子はレオナの元へやって来た。
「ハハ、随分息が上がってんな」
「ふっ、ふぅ、へぇ!」
「ん? なんだ?」
辿り着いたラディを抱き上げると「ふっ、ふっ、ふんッ」と息を上げている。いや、鼻息が荒いのか。それともレオナに会えてテンションが上がっているのか。どちらもありそうだな、と思いながらジェマによく似た丸々の瞳を覗き込む。
「たくさん遊んでもらったのか?」
レオナの問いかけにラディは満面の笑みのまま「へ、へぁっ!」と返事とも言えない声を出す。機嫌がいいからたくさん構って貰ってやはり楽しかったのだろう。
「よかったな」
「ぶぅ、んぶぅ~!」
「ぁ、おい」
ぺちんと小さな手がレオナの顔を叩く。湿った小さな手が何かを確認するように顔を叩き続けると思いきや何を思ったか口に触れようとする。流石にそれは危ない。
「おい。おい。口はダメだ。な」
小さな手から逃げているとそれがまた面白いのな「ん!」、「みっ!」と顔をべちべちしてくる。何でもかんでも興味が湧いてきているのも成長なんだろう。それとも目がしっかりしてきたから違いとか分かって来たのかもしれない。なら父親であるレオナの顔はもっとしっかりと覚えてほしい。
「ひかたねぇな」
いつの間にかまったく伸びない頬を掴まれた。まだ赤子の枠を出ないラディの爪は地味に痛いが仕方ないが、容赦がないからやっぱり痛い。
「い、へぇ、いへぇよ、らひぃ」
「ん~あっ、あァっ!」
レオナの反応が良かったのかラディが機嫌よく声を上げて離す。それからドンと勢いよく身体をくっつけて来た。ガタイのいいレオナでさえこの勢いに「うっ」と声が洩れる。
「あんまり勢い着けるなよ。ハァ」
ため息をついて近場のソファに座る。すると、「ん゛~~ッ!」と拒まれてしまった。どうやら立って抱っこされたいらしい。仕方ない、ともう一度立ち上がる。
「んふ、んふ」
「これでいいってことか」
「へっ!」
いい返事をした息子にレオナはちょっと笑いが洩れる。
まだ次の仕事まで時間があるが、チラとラディの世話係を見る。すると、彼女たちはパッ、パッと、寝るような仕草をする。やはり時間的にもうすぐに息子の昼寝時間らしい。それに頷いてゆっくりと身体を揺らす。
さっきハイテンションだったから寝ないか、はたまたハイテンション疲れで寝るか。どっちだろうかなとレオナは身体を揺らす。
本当は座った方がいいと思うが仕方ない、と考えていると腕の中の身体が僅かに重くなった気がする。チラと見ればラディの大きなくりくりとした目がとろりと眠そうになっている。
可愛いな、とレオナの中で自然と気持ちが込み上げる。
そんなことを思う日が来ることにレオナは随分と変わったなと思いながらしっかりと息子のふにゃふにゃの身体を抱く。
ハイハイするようになたっとはいえまだ身体は柔らかい。それに手足は小さいし、指なんかもまだまだ短い。頬は丸くてふくふくしている。唇はツンと尖がっていて可愛い。鼻も小さいけれど、しっかりとジェマに似ているし、目元も似ている。眉は今のところレオナに似ているがせっかくなら全部ジェマに似てほしい。そうジェマにも告げたら「流石にそれは」と苦笑された。
懐かしいと思うにはまだ新しい記憶なのに、1歳までもう半年を切った。生まれてもうすぐで1年経つ。
「早いなぁ」
ふくふく時期を味わいたい気がするが、早く成長する姿を見たい気持ちもある。
こんな心境に改めてしみじみしていると先ほどよりもずっしりと腕の中が重くなった。寝たのだろう。
「レオナ様」
「……いや、いい」
世話係が進み出て腕を差し出して来た。それに他の人間に手渡すのは惜しいと首を振る。それに「畏まりました」と腕が引っ込められた。
ラディがくっついている部分は相変わらず高い体温のせいでしっとりとして来る。服を着替えるほどでなければいいがと思いながらその不快感はない。
部屋の奥に行くとベビーベッドが現れる。そして、その部屋の隣にはレオナとジェマが寝るベッドがある。だが、今日きっと寝るのはレオナ一人に寝るだろう。
それやはり寂しいと思う。
「お母さんの具合も早く良くなるといいな」
眠る息子に声をかけながらゆっくりとベビーベッドに息子を寝かせる。
すぅ、すぅ、と穏やかな寝息を洩らすラディの小さな胸がそれに合わせて動いている。生きているなぁとか柄にもないことを思う。
「またあとでな」
頬と同じくらい丸い額に口づけを送る。鼻を擽る赤子特有の香りに笑いながらレオナは部屋を後にした。
子どもからの風邪は重くなると聞いていたがジェマは数日も休むとすっかり良くなっていた。やはり母親がいるとラディのテンションも割り増しな気がする。
久々の母親にべったりと抱き着いて離れず「んぁ」だの「ぁあッ!」と一生懸命話しかける。まるでいなかった期間こんなことがあったと話しているようで面白い。
ジェマもそう思っているのか「そうなの?」だの「あらあら」と反応を返す。その顔もこれまた楽しそう。
二人のその光景に和んでいると――。
「レオナ様。そろそろファレナ様との謁見があります」
「チッ!」
これでもかと舌打ちを打つ。それにレオナ付きの侍従も慣れたのか「お早く」とすげない反応を返される。肝が据わっている奴だ、と思いながらレオナも重い腰を何とか上げる。そして、のろのろと花を飛ばす妻と息子のとこへと向かう。
先に気づいたのはやっぱりジェマだった。困ったように眉を下げてラディを抱き直して立ち上がろうとするのを手で制する。
「病み上がりだろ。そのままでいい」
「では、ラディ。パパ、お仕事だって」
最初はその「パパ」に抵抗があった。だが、子どもを覚える前はこれくらい簡単な言葉がいいだろうと言われて渋々了承したが今は何とも思わない。なにせ最近息子が「ぱ」と時折発するようになったからだ。やはり「ママ」より言いやすいのかもしれない。
今はちょっと「パパ」と呼ばれるのを待ち望みながら柔らかいラディの髪を撫でる。最後にまだまだ大きな耳を擽りながら手を離す。
「今日は早く仕事終わらせて帰るからな」
それにラディは分かっているのか「ぁあっ!」と元気な声を上げた。
ふくふくした頬を最後に撫でて、ジェマにキスでもと思ったら拒否された。
「病み上がりなのでと先ほどご自分で言ったではありませんか」
「そうだけどよ……ちょっとくらい」
「ダメです。ほら、待っていますよ」
ビシと断られてしまった。仕方なねぇ、と心の中で悪態をつきながら侍従に促され部屋を後にした。背後から聞こえる声にすぐに引き返したくなった。
そう。考えたレオナは一人笑みを零す。
本当に変わったもんだな、と。昔の自分が見たらドン引きされそうな――そうでもないような気がした。
とりあえず、あの二人の傍に早く戻れるようにさっさと仕事を済ませようと思った。
2026.06.14
仕事がひと段落してレオナは息子がいる部屋を訪れる。部屋の中を覗くと世話係に囲まれて遊んでいる息子がいる。普段はジェマが一緒にいるが息子からの風邪を貰い部屋で一人休んでいる。
おかげで朝は中々姿が見えなせない母親に息子は大層ぐずっていたが、今は遊んでくれる大人がいることでだいぶ機嫌がよくなっているようだった。
機嫌よさそうに声をあげる息子に安心しながらレオナもようやく足を踏み入れる。
「ラディ」
「ッ!」
名前を呼ぶとまだまだ大きな耳をピコと動かし顔を向ける。とたん、満面の笑みを浮かべて「ミヤァ!」と子猫のように鳴いたと思ったらベチンと手を床についてハイハイの体勢に入る。そして可愛い顔のままレオナのところへとペチペチと向かってくる。
ついこの間まではもぞもぞ動いているだけで、いつの間にか寝返りを打って、腹ばいからこうして今ハイハイをするほどに成長している。
毎度その成長速度にレオナは感心してしまう。きっとすぐに二足歩行を始めるのだろうと思いながら膝を着く。するとあっという間に息子はレオナの元へやって来た。
「ハハ、随分息が上がってんな」
「ふっ、ふぅ、へぇ!」
「ん? なんだ?」
辿り着いたラディを抱き上げると「ふっ、ふっ、ふんッ」と息を上げている。いや、鼻息が荒いのか。それともレオナに会えてテンションが上がっているのか。どちらもありそうだな、と思いながらジェマによく似た丸々の瞳を覗き込む。
「たくさん遊んでもらったのか?」
レオナの問いかけにラディは満面の笑みのまま「へ、へぁっ!」と返事とも言えない声を出す。機嫌がいいからたくさん構って貰ってやはり楽しかったのだろう。
「よかったな」
「ぶぅ、んぶぅ~!」
「ぁ、おい」
ぺちんと小さな手がレオナの顔を叩く。湿った小さな手が何かを確認するように顔を叩き続けると思いきや何を思ったか口に触れようとする。流石にそれは危ない。
「おい。おい。口はダメだ。な」
小さな手から逃げているとそれがまた面白いのな「ん!」、「みっ!」と顔をべちべちしてくる。何でもかんでも興味が湧いてきているのも成長なんだろう。それとも目がしっかりしてきたから違いとか分かって来たのかもしれない。なら父親であるレオナの顔はもっとしっかりと覚えてほしい。
「ひかたねぇな」
いつの間にかまったく伸びない頬を掴まれた。まだ赤子の枠を出ないラディの爪は地味に痛いが仕方ないが、容赦がないからやっぱり痛い。
「い、へぇ、いへぇよ、らひぃ」
「ん~あっ、あァっ!」
レオナの反応が良かったのかラディが機嫌よく声を上げて離す。それからドンと勢いよく身体をくっつけて来た。ガタイのいいレオナでさえこの勢いに「うっ」と声が洩れる。
「あんまり勢い着けるなよ。ハァ」
ため息をついて近場のソファに座る。すると、「ん゛~~ッ!」と拒まれてしまった。どうやら立って抱っこされたいらしい。仕方ない、ともう一度立ち上がる。
「んふ、んふ」
「これでいいってことか」
「へっ!」
いい返事をした息子にレオナはちょっと笑いが洩れる。
まだ次の仕事まで時間があるが、チラとラディの世話係を見る。すると、彼女たちはパッ、パッと、寝るような仕草をする。やはり時間的にもうすぐに息子の昼寝時間らしい。それに頷いてゆっくりと身体を揺らす。
さっきハイテンションだったから寝ないか、はたまたハイテンション疲れで寝るか。どっちだろうかなとレオナは身体を揺らす。
本当は座った方がいいと思うが仕方ない、と考えていると腕の中の身体が僅かに重くなった気がする。チラと見ればラディの大きなくりくりとした目がとろりと眠そうになっている。
可愛いな、とレオナの中で自然と気持ちが込み上げる。
そんなことを思う日が来ることにレオナは随分と変わったなと思いながらしっかりと息子のふにゃふにゃの身体を抱く。
ハイハイするようになたっとはいえまだ身体は柔らかい。それに手足は小さいし、指なんかもまだまだ短い。頬は丸くてふくふくしている。唇はツンと尖がっていて可愛い。鼻も小さいけれど、しっかりとジェマに似ているし、目元も似ている。眉は今のところレオナに似ているがせっかくなら全部ジェマに似てほしい。そうジェマにも告げたら「流石にそれは」と苦笑された。
懐かしいと思うにはまだ新しい記憶なのに、1歳までもう半年を切った。生まれてもうすぐで1年経つ。
「早いなぁ」
ふくふく時期を味わいたい気がするが、早く成長する姿を見たい気持ちもある。
こんな心境に改めてしみじみしていると先ほどよりもずっしりと腕の中が重くなった。寝たのだろう。
「レオナ様」
「……いや、いい」
世話係が進み出て腕を差し出して来た。それに他の人間に手渡すのは惜しいと首を振る。それに「畏まりました」と腕が引っ込められた。
ラディがくっついている部分は相変わらず高い体温のせいでしっとりとして来る。服を着替えるほどでなければいいがと思いながらその不快感はない。
部屋の奥に行くとベビーベッドが現れる。そして、その部屋の隣にはレオナとジェマが寝るベッドがある。だが、今日きっと寝るのはレオナ一人に寝るだろう。
それやはり寂しいと思う。
「お母さんの具合も早く良くなるといいな」
眠る息子に声をかけながらゆっくりとベビーベッドに息子を寝かせる。
すぅ、すぅ、と穏やかな寝息を洩らすラディの小さな胸がそれに合わせて動いている。生きているなぁとか柄にもないことを思う。
「またあとでな」
頬と同じくらい丸い額に口づけを送る。鼻を擽る赤子特有の香りに笑いながらレオナは部屋を後にした。
子どもからの風邪は重くなると聞いていたがジェマは数日も休むとすっかり良くなっていた。やはり母親がいるとラディのテンションも割り増しな気がする。
久々の母親にべったりと抱き着いて離れず「んぁ」だの「ぁあッ!」と一生懸命話しかける。まるでいなかった期間こんなことがあったと話しているようで面白い。
ジェマもそう思っているのか「そうなの?」だの「あらあら」と反応を返す。その顔もこれまた楽しそう。
二人のその光景に和んでいると――。
「レオナ様。そろそろファレナ様との謁見があります」
「チッ!」
これでもかと舌打ちを打つ。それにレオナ付きの侍従も慣れたのか「お早く」とすげない反応を返される。肝が据わっている奴だ、と思いながらレオナも重い腰を何とか上げる。そして、のろのろと花を飛ばす妻と息子のとこへと向かう。
先に気づいたのはやっぱりジェマだった。困ったように眉を下げてラディを抱き直して立ち上がろうとするのを手で制する。
「病み上がりだろ。そのままでいい」
「では、ラディ。パパ、お仕事だって」
最初はその「パパ」に抵抗があった。だが、子どもを覚える前はこれくらい簡単な言葉がいいだろうと言われて渋々了承したが今は何とも思わない。なにせ最近息子が「ぱ」と時折発するようになったからだ。やはり「ママ」より言いやすいのかもしれない。
今はちょっと「パパ」と呼ばれるのを待ち望みながら柔らかいラディの髪を撫でる。最後にまだまだ大きな耳を擽りながら手を離す。
「今日は早く仕事終わらせて帰るからな」
それにラディは分かっているのか「ぁあっ!」と元気な声を上げた。
ふくふくした頬を最後に撫でて、ジェマにキスでもと思ったら拒否された。
「病み上がりなのでと先ほどご自分で言ったではありませんか」
「そうだけどよ……ちょっとくらい」
「ダメです。ほら、待っていますよ」
ビシと断られてしまった。仕方なねぇ、と心の中で悪態をつきながら侍従に促され部屋を後にした。背後から聞こえる声にすぐに引き返したくなった。
そう。考えたレオナは一人笑みを零す。
本当に変わったもんだな、と。昔の自分が見たらドン引きされそうな――そうでもないような気がした。
とりあえず、あの二人の傍に早く戻れるようにさっさと仕事を済ませようと思った。
2026.06.14
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