金吾受
口出ししないこと
幼い頃は全く気にしたことがなかったが目の前の級友は中々の美丈夫である。
すっと通った鼻筋につり上がった目は最近では涼しげに見える。背筋がよく纏う空気も洗礼されている。
こうして見て気づくだけで女受けのしそうな、というよりしている男である。だが、この級友の恋した相手は女ではなかった。同じ男で隣の組で学年でも一番背が高い男だ。正真正銘男だ。一緒に風呂に入って同じものがぶら下がっているのを団蔵は知っている。そして、級友にも同じものがついている。やはり、男だ。
「団蔵、なに?」
苛立たしげな声で目の前の金吾が帳簿を書きつつも横目でこちらを睨み付けてくる。
つり目のためか苛立っているとさらに鋭くなって下級生が見たら泣いてしまいそうだ。
「別に? ただ、何で金吾みたいな色男の恋人があいつなのかなって思って」
団蔵の言葉に要領えないのか金吾が首を傾げる。
「もちろん。平太も結構な男前だし。なんだか、二人して勿体ないなぁって」
金吾の恋人である平太も四年前に卒業した元用具委員長に似て中々の男前だ。顔色は悪いがそれがまたいいとかでくの一にもて囃されている。
美形と男前の恋人というのが勿体ない。二人してモテているのに何と勿体ないことをしていると団蔵には思えてならない。
「……だって、平太を好きになってしまったんだから仕方ないじゃんか」
ぷいっとそっぽを向く金吾の顔は赤い。何と、愛らしい仕草が似合う。これも美形の特権だろうか。世の中は不平等に出来ているようだ。
「それもなんだかな。つかさ、平太のこといつ惚れたんだ?」
「な、なんでそんなこと言わないといけないんだよ!」
真っ赤になった金吾に団蔵は笑って見せる。
「何だよ。別に減るもんでもないだろ」
「そうかもしれないけど……言いたくない。なんか勿体ないから」
「お。そこまで言うと俄然気になるんですけどぉ」
教えろや、と脇を狙う。すると、金吾が筆を落として笑いだす。
「ちょ、や、やめ! ふっはははっ! だんぞ、やめろって!」
「話すまでやめないっての! ほら、吐いちまえ!」
「やめ、ふっ、あっははっ!」
倒れ込む金吾に追い打ちをかける団蔵はだんだんと楽しくなってきた。
「わか、わかった、から、も、やめ」
「よし。ほんとだな?」
目じりに涙を浮かべながら頷く金吾に団蔵は満足げに見下ろしていると背筋が冷えた。
これは殺気だ。団蔵は転がる様に金吾から退いて体勢を整え構える。
「へ、平太」
体勢を整えた団蔵は見据えた先にいる背丈の高い男の名前を呼ぶ。そして、突如冷や汗が流れ出す。
「いや、あのですね。下坂部平太くん。誤解。誤解なのですよ」
殺気を垂れ流しにする平太の表情は無い。ただ、瞳孔が開いた目はさすがに怖い。
団蔵は必死に弁解する。
「あの、あのな。ただ、じゃれていただけなの。戯れなのよ。だから、誤解しないでくれ」
な、と団蔵は愛想笑いを浮かべながら言う。
「……次はないから」
低い声は今まで聞いたことがないと団蔵は必死に頷いた。
団蔵の必死さが伝わったのか平太の殺気が納まる。そして、平太はぽかんと間抜け面をしている金吾に手を差し伸べた。
その顔甘ったるさといったら団蔵は口元に手をあてた。
金吾は団蔵と違って妙に恥じらったような薄らと頬を染めている。
団蔵はそっと視線を外して甘い空気を撒き散らす恋人を視界から外した。
「あ、団蔵。さっきの話なんだけど……」
と、金吾が話しかけて来たのに団蔵は顔青ざめた。
この空気的に先ほどの話をするべきではないだろうと。勘が悪いだけではなく空気も読めなくなったのかと団蔵は心の中で金吾に悪態をつく。
悲しいかな。団蔵の悪態は、金吾に届くことなく彼は口を開いた。
「やっぱり、言わない」
「へ?」
悪戯っ子のように笑う金吾に団蔵は拍子抜けする。
隣に立っている平太は状況が理解できないのか目を瞬かせている。そして、金吾に訊ねている。
「どういうこと?」
「ふふ。秘密」
そう片目を瞑る金吾はなるほど絵になる。しかし、平太は納得がいっていない様子で眉を寄せている。
「なんで?」
「なんでも! さ、平太も掃除当番終わったことだし鍛錬に行こう。じゃな、団蔵」
「お、おう」
不服そうな平太を引っ張って金吾は体育委員会の帳簿を持って出て行った。
「はぁ。つっかれた」
どっと押し寄せた疲れにいつの間にか正座していた足を団蔵は崩した。そして、団蔵は恋人持ちの野郎に恋バナの類いをするのはやめようと心に誓った。
2025.08.02 サイト再掲に伴い改題
幼い頃は全く気にしたことがなかったが目の前の級友は中々の美丈夫である。
すっと通った鼻筋につり上がった目は最近では涼しげに見える。背筋がよく纏う空気も洗礼されている。
こうして見て気づくだけで女受けのしそうな、というよりしている男である。だが、この級友の恋した相手は女ではなかった。同じ男で隣の組で学年でも一番背が高い男だ。正真正銘男だ。一緒に風呂に入って同じものがぶら下がっているのを団蔵は知っている。そして、級友にも同じものがついている。やはり、男だ。
「団蔵、なに?」
苛立たしげな声で目の前の金吾が帳簿を書きつつも横目でこちらを睨み付けてくる。
つり目のためか苛立っているとさらに鋭くなって下級生が見たら泣いてしまいそうだ。
「別に? ただ、何で金吾みたいな色男の恋人があいつなのかなって思って」
団蔵の言葉に要領えないのか金吾が首を傾げる。
「もちろん。平太も結構な男前だし。なんだか、二人して勿体ないなぁって」
金吾の恋人である平太も四年前に卒業した元用具委員長に似て中々の男前だ。顔色は悪いがそれがまたいいとかでくの一にもて囃されている。
美形と男前の恋人というのが勿体ない。二人してモテているのに何と勿体ないことをしていると団蔵には思えてならない。
「……だって、平太を好きになってしまったんだから仕方ないじゃんか」
ぷいっとそっぽを向く金吾の顔は赤い。何と、愛らしい仕草が似合う。これも美形の特権だろうか。世の中は不平等に出来ているようだ。
「それもなんだかな。つかさ、平太のこといつ惚れたんだ?」
「な、なんでそんなこと言わないといけないんだよ!」
真っ赤になった金吾に団蔵は笑って見せる。
「何だよ。別に減るもんでもないだろ」
「そうかもしれないけど……言いたくない。なんか勿体ないから」
「お。そこまで言うと俄然気になるんですけどぉ」
教えろや、と脇を狙う。すると、金吾が筆を落として笑いだす。
「ちょ、や、やめ! ふっはははっ! だんぞ、やめろって!」
「話すまでやめないっての! ほら、吐いちまえ!」
「やめ、ふっ、あっははっ!」
倒れ込む金吾に追い打ちをかける団蔵はだんだんと楽しくなってきた。
「わか、わかった、から、も、やめ」
「よし。ほんとだな?」
目じりに涙を浮かべながら頷く金吾に団蔵は満足げに見下ろしていると背筋が冷えた。
これは殺気だ。団蔵は転がる様に金吾から退いて体勢を整え構える。
「へ、平太」
体勢を整えた団蔵は見据えた先にいる背丈の高い男の名前を呼ぶ。そして、突如冷や汗が流れ出す。
「いや、あのですね。下坂部平太くん。誤解。誤解なのですよ」
殺気を垂れ流しにする平太の表情は無い。ただ、瞳孔が開いた目はさすがに怖い。
団蔵は必死に弁解する。
「あの、あのな。ただ、じゃれていただけなの。戯れなのよ。だから、誤解しないでくれ」
な、と団蔵は愛想笑いを浮かべながら言う。
「……次はないから」
低い声は今まで聞いたことがないと団蔵は必死に頷いた。
団蔵の必死さが伝わったのか平太の殺気が納まる。そして、平太はぽかんと間抜け面をしている金吾に手を差し伸べた。
その顔甘ったるさといったら団蔵は口元に手をあてた。
金吾は団蔵と違って妙に恥じらったような薄らと頬を染めている。
団蔵はそっと視線を外して甘い空気を撒き散らす恋人を視界から外した。
「あ、団蔵。さっきの話なんだけど……」
と、金吾が話しかけて来たのに団蔵は顔青ざめた。
この空気的に先ほどの話をするべきではないだろうと。勘が悪いだけではなく空気も読めなくなったのかと団蔵は心の中で金吾に悪態をつく。
悲しいかな。団蔵の悪態は、金吾に届くことなく彼は口を開いた。
「やっぱり、言わない」
「へ?」
悪戯っ子のように笑う金吾に団蔵は拍子抜けする。
隣に立っている平太は状況が理解できないのか目を瞬かせている。そして、金吾に訊ねている。
「どういうこと?」
「ふふ。秘密」
そう片目を瞑る金吾はなるほど絵になる。しかし、平太は納得がいっていない様子で眉を寄せている。
「なんで?」
「なんでも! さ、平太も掃除当番終わったことだし鍛錬に行こう。じゃな、団蔵」
「お、おう」
不服そうな平太を引っ張って金吾は体育委員会の帳簿を持って出て行った。
「はぁ。つっかれた」
どっと押し寄せた疲れにいつの間にか正座していた足を団蔵は崩した。そして、団蔵は恋人持ちの野郎に恋バナの類いをするのはやめようと心に誓った。
2025.08.02 サイト再掲に伴い改題
8/9ページ