金吾受

夢心地



 平太は黙々と修理を頼まれた虫籠を直していた。周りでは、同じ委員会の者がそれぞれの役割をこなしている。下級生の三人は、しんべヱに教えを乞いながら桶を直している。
 本来ならば、お使いでいない喜三太の分しんべヱと分けて下級生を教えなければいけない。しかし、今の平太は下級生に教えてやれるほど心穏やかではなかった。
 下級生の幼い声が平太に昨夜のことを思い出せる。
 頭に木霊する乱れた声に思わず作業している手が止まった。

「下坂部せんぱーい、どうしたんですか?」
「え? あ、な、何でもないよ」

 いつの間にか一年の一人が虫かごを持って傍に立っていた。
 下級生の気配に気づかないのは上級生として失格だろう。自身の失態に内心舌打ちしながら平太は一年生の手の中の虫籠を見る。

「大分、上手く直せるようになったね」
「はい! しんべヱ先輩は筋がいいと!」
「そうだね。一年のときの僕より上手いな」
「へへ。本当ですか~」

 言うと、一年生が嬉しそうに愛らしく微笑む。それが、平太の想い人を再び連想させる。
 何でもかんでも彼に繋げる頭があまりにも残念過ぎる。
 零しそうになった溜息を呑み込みながら平太は横に置いてあった虫籠をひとつ取った。

「はい。次はこれやってみて」
「わかりました!」

 完成した虫籠を受けとなりながら作業に戻る一年生の小さな背中を見つめる。
 ふいに、別の下級生に教えていたしんべヱと目が合うと苦笑された。
 平太は、一瞬目を丸くさせ同じく苦笑を返した。どうやらしんべヱには色々と筒抜けになってしまっていたようだ。

 雑念を頭から振った平太は再び作業に戻る。

 だが、日が高いというのに鮮明に頭に浮かぶ昨夜の出来事に平太は小さく息をついた。
 平太はひとつ開きなおった。
 仕方ない昨夜は大げさに言えば「初夜」だったのだから。結ばれて初めて肌を重ねた大事な夜だったのだ。そして、初めて見た想い人のあられもない姿に心頭滅却も難しい。
 平太は何も悪くないと考えながら黙々と作業を続けた。
 しかし、頭の中は大変なことになり作業がギリギリとなってしまったのだった。



2025.08.02 サイト再掲にともない改題
7/9ページ