金吾受
夏のはじまりとそれから
彼と平太の共通点は少ない。
まずは、同じ学年であること。次に、彼と同室の喜三太という共通の友人がいるだけ。そして、鍛錬を共にする仲になったこと。たった三つが彼と平太の共通点だ。まったくないというわけではない。だが、考えてみると同じ時間を過ごすのは少ない。少ない共通点から過ごす時間を考えると圧倒的に少ないではないか。このとき平太は彼と同じ組で同室の喜三太がすごく羨ましい。
「いつからだっけか……」
顎から滴る汗を拭いながら呟く。
いつの頃から喜三太を羨ましく思うようになったのだろうか。少なくとも胸を焦がす想いを自覚する前から心の片隅に存在していた。
しかし、いつの間にここまで彼のことが気になる様になり懸想するまでにいあったのだろうか。
平太は、じりじりと熱い太陽に照らされる日向を見つめる。そして、ふいに懐かしさに目を細める。
「懐かしい」
彼と仲良くなったときも暑い夏の日だった。
その日は、伏木蔵も、怪士丸も、孫次郎も委員会で平太は一人で日陰ぼっこをしていた。
下級生の喧騒を耳にしながら少しだけ寂しい気持ちでいると――。
「あ、平太だ。一人なの?」
現れたのは木刀を持った金吾だった。この出会いが彼と仲良くなる始まり。
平太はこれといって剣術に興味なんてなかった。だが、平太に付き添うように日陰ぼっこしながら話すその話が好きだった。何より、剣豪の話や師事している戸部の話をする彼の横顔がこれ以上なく楽しそうで平太も知らずに楽しくなった。同時に平太は楽しそうな金吾が眩しくてしょうがなかった。日陰にいるはずなのにそのときの平太はまるで日向にいるように目が光で眩んだのをよく覚えている。
それから徐々に平太は金吾とよく話すようになり、共に鍛錬するようになり仲良くなった。仲良くなってからも金吾は相変らず平太から見れば眩しかった。だが、決して嫌なものではない。
寧ろ心地よくてずっと傍にいたくなる。忍びに光りは要らないものだが、平太は眩い彼に手を伸ばし納めたくなった。
懐かしい在りし日を思い出していると委員会帰りらしい金吾が目に入った。
上級生になっても体育委員会に所属している金吾は変わらず葉っぱや泥にまみれている。
現に、疲れたように歩いている金吾の頭や衣には葉っぱがついている。
「金吾、委員会お疲れ」
「平太~」
近づいて彼に声をかければ情けない声で手を振り返してくれた。
あまりにも疲れて背中が曲がっている彼に苦笑しながら平太は葉っぱを取っては捨てた。
「葉っぱ、すごいよ」
「ああ。今日も委員長が、な」
ふっと遠くを見つめる金吾にご愁傷さまと告げながら泥のついた頬に手を伸ばす。
「泥もすごい」
「塹壕堀りが……すまん」
気まずそうに顔を歪める金吾に気にするなと言う。
後で塹壕を埋めなければという考えよりも触れている部分をどうしても意識してしまう。
熱が籠った手のひらや緊張しているのが伝わないように平太は泥を拭う。そして、ゆっくりと平太は撫でるように頬から手を離した。
「はい。ちょっとは綺麗になったよ」
「あ、ありがと……じ、じゃ、あとはそのよろしくお願いします!」
礼を言った金吾はまるで平太から逃げるように去っていった。
あれは、きっと用具委員である平太に何か言われる前に逃げたかったからだろう。
きっと、そのはずなのだが――。
「……何、あれ」
帰り際の金吾の顔が赤かった。委員会終わりで頬が熱いならわかる。だが、耳まで真っ赤になった金吾の反応はなんだ。
彼の反応に平常心を保ちたいのにどうにも上手くいかない。心が期待するように踊る。
些細なことが積み重なって、積み重なって想いが形になったのは平太だけではなかったらしい。
金吾についていた泥を拭った指先にはまだ泥が残り熱残っている。その指先を眺めながら平太は小さく囁いた。
「告げて、みようかな」
2025.08.02 サイトへ再掲するにあたり改題
彼と平太の共通点は少ない。
まずは、同じ学年であること。次に、彼と同室の喜三太という共通の友人がいるだけ。そして、鍛錬を共にする仲になったこと。たった三つが彼と平太の共通点だ。まったくないというわけではない。だが、考えてみると同じ時間を過ごすのは少ない。少ない共通点から過ごす時間を考えると圧倒的に少ないではないか。このとき平太は彼と同じ組で同室の喜三太がすごく羨ましい。
「いつからだっけか……」
顎から滴る汗を拭いながら呟く。
いつの頃から喜三太を羨ましく思うようになったのだろうか。少なくとも胸を焦がす想いを自覚する前から心の片隅に存在していた。
しかし、いつの間にここまで彼のことが気になる様になり懸想するまでにいあったのだろうか。
平太は、じりじりと熱い太陽に照らされる日向を見つめる。そして、ふいに懐かしさに目を細める。
「懐かしい」
彼と仲良くなったときも暑い夏の日だった。
その日は、伏木蔵も、怪士丸も、孫次郎も委員会で平太は一人で日陰ぼっこをしていた。
下級生の喧騒を耳にしながら少しだけ寂しい気持ちでいると――。
「あ、平太だ。一人なの?」
現れたのは木刀を持った金吾だった。この出会いが彼と仲良くなる始まり。
平太はこれといって剣術に興味なんてなかった。だが、平太に付き添うように日陰ぼっこしながら話すその話が好きだった。何より、剣豪の話や師事している戸部の話をする彼の横顔がこれ以上なく楽しそうで平太も知らずに楽しくなった。同時に平太は楽しそうな金吾が眩しくてしょうがなかった。日陰にいるはずなのにそのときの平太はまるで日向にいるように目が光で眩んだのをよく覚えている。
それから徐々に平太は金吾とよく話すようになり、共に鍛錬するようになり仲良くなった。仲良くなってからも金吾は相変らず平太から見れば眩しかった。だが、決して嫌なものではない。
寧ろ心地よくてずっと傍にいたくなる。忍びに光りは要らないものだが、平太は眩い彼に手を伸ばし納めたくなった。
懐かしい在りし日を思い出していると委員会帰りらしい金吾が目に入った。
上級生になっても体育委員会に所属している金吾は変わらず葉っぱや泥にまみれている。
現に、疲れたように歩いている金吾の頭や衣には葉っぱがついている。
「金吾、委員会お疲れ」
「平太~」
近づいて彼に声をかければ情けない声で手を振り返してくれた。
あまりにも疲れて背中が曲がっている彼に苦笑しながら平太は葉っぱを取っては捨てた。
「葉っぱ、すごいよ」
「ああ。今日も委員長が、な」
ふっと遠くを見つめる金吾にご愁傷さまと告げながら泥のついた頬に手を伸ばす。
「泥もすごい」
「塹壕堀りが……すまん」
気まずそうに顔を歪める金吾に気にするなと言う。
後で塹壕を埋めなければという考えよりも触れている部分をどうしても意識してしまう。
熱が籠った手のひらや緊張しているのが伝わないように平太は泥を拭う。そして、ゆっくりと平太は撫でるように頬から手を離した。
「はい。ちょっとは綺麗になったよ」
「あ、ありがと……じ、じゃ、あとはそのよろしくお願いします!」
礼を言った金吾はまるで平太から逃げるように去っていった。
あれは、きっと用具委員である平太に何か言われる前に逃げたかったからだろう。
きっと、そのはずなのだが――。
「……何、あれ」
帰り際の金吾の顔が赤かった。委員会終わりで頬が熱いならわかる。だが、耳まで真っ赤になった金吾の反応はなんだ。
彼の反応に平常心を保ちたいのにどうにも上手くいかない。心が期待するように踊る。
些細なことが積み重なって、積み重なって想いが形になったのは平太だけではなかったらしい。
金吾についていた泥を拭った指先にはまだ泥が残り熱残っている。その指先を眺めながら平太は小さく囁いた。
「告げて、みようかな」
2025.08.02 サイトへ再掲するにあたり改題
3/9ページ