金吾受

体調不良の理由



「ここが、痛くてもやもやして重くて苦しい」

 言いながら伏木蔵の級友は心臓の位置に手を置いて忍び装束を握った。
 普段から暗く影を落としている平太の顔は苦悶の表情に彩られている。
 はて、つい先ほどの昼食は普通に食べていたと思う。もしや、それで胃でも持たれてしまったのだろうか。
 何しろ保健委員の伏木蔵のところに来たのだ。そう捉えてもおかしくないだろう。
 伏木蔵は胃もたれの薬を考えながら他には、と級友に問う。

「身体が、熱いかな?」
「え?」

 熱いとなれば胃もたれだけでは話は済まない。
 慌てて伏木蔵は、平太の額に手を置いて熱を測る。

「どうしたの?」
「いや。平太が熱いっているから熱があるのかと思って」

 だが、伏木蔵は首を傾げて平太の額から手を退かす。
 自己申告した割には平太に熱はなかった。はて、はて、一体何であろうか。

「熱はなさそうだね」
「あ、うん。今は、でもさっきは熱かったんだ」

 今は、何ともないよと言う平太に伏木蔵はさらに首を傾げる。
 平太は、伏木蔵に何を看てもらいたのだろうか。四年生になり上級生の仲間入りし看る範囲は広がったが今ひとつ級友の病が解らない。
 うーん、と考え込んでいるとはたと伏木蔵は気が付く。
 平太は病状を申告したとき心臓あたりを握っていたではないか――盲点。そして、伏木蔵はすぐさま彼の病状に思いつく。だが、これはよく言う医者でも治せない不治の病だ。

「平太。それって恋煩いだよ」
「へ?」

 間の抜けた声を出した平太の青白い顔が瞬く間に真っ赤に染まる。
 そんな級友を見た伏木蔵はにやつきながら常套句を告げた。

「これは保健委員どころか、医者でも治せません!」

 つまり、治せるのは自分次第なのだから。そして、とっておきの薬は恋が成就することなのだから。簡単な呪文でも治せやしない。
 ふと、伏木蔵の好奇心が疼いた。

「ところで好きな子ってどこの町娘?」
「え、あ、う~」

 と言葉に詰まり赤かった顔を青ざめる平太。
 これはもしかして恋をしてはいけない人にしてしまったのか、と考えながら伏木蔵は口癖を口にする。

「スリル~」

 しかし、彼のスリルは数日後別の意味になったのであった。

「だって、まさか平太の懸想相手が委員会に溺愛されている彼なんて思わないでしょ」




2025.08.02 サイト再掲にするにあたり改題
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