フロイド × ジャック

バランスは大事



「ねぇ。ウニちゃん」
「なんだよ」

 日課の早朝ランニングを終え寮に戻る道すがら道を塞ぐようにフロイドが立ち塞がった。朝に弱いんだか、強いんだか、そこまで気まぐれとは彼らしい。そのフロイドはすでに制服を身に纏い片足に体重をかけるような怠そうな立ち方でこちらをじっと見つめてくる。
 普段のふにゃりとした顔でもなく至って真面目に見える顔につい聞く体勢に入る。ジャックの耳を傾ける体勢を察したフロイドは似つかわしくない深い溜息をつくと。

「あのさぁああああ~~~~! オレもう限界なんだけぉぉっっっ!」
「うっっせぇ!」
「ウニちゃんもうっせぇしっ!」

 セベクが人を呼ぶときばりの大声に反射的に大声で返してしまった。さらに、それをフロイドが大声で返すと苛立たしげに頭を掻いてこちらに歩み寄って来る。

「最近ずっと、ジェイド、ジェイド、ジェイドばっかじゃん。構い過ぎじゃねぇ?」

 目の前に来てほぼ同じ位置にある顔でこちらを覗き込んで来る。フロイドの左右異なる瞳の瞳孔が小さくなっている。でも、ギザギザの歯が見ている。まだ彼の機嫌はそこまで下降していないのだろう。なら、まだ平気だ。いや、平気ではないが。

「ねぇ。聞いてんの?」
「聞いている。だが、あんたも数日前のジェイド先輩見ているだろ」
「……見てるけどさぁ」

 途端にフロイドは薄い唇を尖らせて不満気な様子を表す。彼も数日前の片割れの凄まじい疲労なのか、嫉妬なのか分からない機嫌の悪さを思い出しているのだろう。そして、その機嫌の悪さを直すのにフロイド自身だけではどうにもならずにジャックが登場したのも知っている。その間、ジャックがジェイドに構い通しになるのは仕方ないことも理解しているはずだ。

「でもさぁ、もうよくねぇ? 昨日はあの部員? 会員? 一人の山の愛好会にウニちゃんも参加したんでしょ? しかもウニちゃんが部活休んでまで? そんで、オレ抜きでシタんでしょ?」

 言いながら彼の長く細い――片割れによく似た指先がジャックの露出した首筋を触れる。彼が触れた場所は昨日ジェイドがいたく気に入って噛みついていた場所だ。しかし、そこに痕はない。何故なら綺麗に噛みついた相手があまりにも惨いと治してしまったからだ。

「痕、はないはずだ」
「みたいだねぇ~~。でも、ここから」

 眉毛を上げて彼は指を滑らせて「ジェイドの匂いがする」と囁いた。
 獣人の自分で分からない匂いがするのかと眉を顰めるとフロイドは「あはっ」と笑った。

「ウニちゃんには分かんねぇよ。だって、もうジェイドの匂いもぉ、オレの匂いもぉ」

 首筋から指先が離れると首の後ろを掴まれ噛みつかれるようなキスをされた。
 勢いのあるキスに眉を顰めつつジャックも負けじと彼のシャツの襟もとを掴む。それから自分から半端に開いていた唇を開く。
 間近で見つめ合うフロイドの瞳を強く睨み返せば彼もまた愉しげに笑う。
 甘ったるくない〝恋人〟の時間が始まるかと思いきや――。

「おやおや。僕を除け者にして酷いですね」

 穏やかな声に潜む機嫌の悪さにフロイドと「あ、めんどくさい」と珍しくシンクロしたのだった。


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