乙女の誕生
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少年は妖精が気になるようで
試着室のカーテンが引かれて閉じられたのを見て背を向け店内に足を向ける。
「ま、あの服も悪くなかったけどな」
クラシカルなワンピースでコーヒーリボンがいいアクセントになっていた。でも、彼女のカラーを考えると何か足りなかった。だからもうひとつ気になっていたワインレッドのワンピースを持っていた。衿元の上品なレースが〝今〟のルルに似合うと思った。
「雰囲気変わったよなぁ」
出会った頃の小学生に間違えてしまほどの幼さがなくなった。とはいっても、身長とか身体的に大きく変化したわけではない。雰囲気が変わった。あどけない少女が色気づいたような変化。
「好きなヤツでもできたのか?」
想像してモヤモヤしてくる。あのルルが誰かを好きになるのか。でも、ミドルスクールのときに雰囲気が変わった女子は大体誰かと付き合い始めたとかで変化した。他にだって好きな人のためにとか何かそういときに女子は大きな変化をするようなイメージがある。だから、男という存在に耐性が低いルルが誰か好きになるのは危険だ。
「一体誰なんだよ……って、本当に好きなヤツがいたらどうだっていうんだよ」
苛立ちに前髪を掻き上げる。なんでオレがルルの好きな男のことを心配しなければいけない。むしろ世間知らずのルルが誰かに恋するなんて世間を知るのにいいことだ。いや、でも、それで悪い男に引っかかったら。現にロイヤルソードアカデミーの男のこともある。出会った日にあからさまにルルに気があるのがバレバレな男を思い出す。
「ったく、何も仲良くならなくてもいいだろ」
あの後、どういう経緯かわからないが仲良くなったらしい。それでたまにメッセージのやり取りをするらしく苛立つ。
何かあってからでは遅いし、何せ期待を持たせるようなことなどしない方がいい。それがわからないのかね、ルルは。
再び陥る思考に頭を振って追いやるも苛立ちは納まらない。店内を歩きながらオレは最近こんなことばっかり考える思考回路に嫌気がさしていた。
ルルとは頻繁に連絡を取っている。メッセージだけなときもあれば、この間見たいにテレビ電話や、ただの電話のときだってある。意外にその時間が嫌いではない。むしろ、ルルから連絡が来なかったらオレからしてしまうくらいだ。
おかげで寮生には「エースに彼女が出来た」「例の小学生みたいな女の子」「犯罪」「許すまじ」など様々な噂を立てられた。ついでに心配そうな顔のリドル寮長に呼び出される始末。その後ろにいるトレイ副寮長の微笑ましい笑みが腹立たしかったが。
「つか、そんな風に見えんのか?」
進む足を止めて考えてみる。でも、確かにミドルスクールのときの彼女の連絡はあまり取っていなかったし、むしろ面倒くさかった記憶がある。
「やっぱり変だな、オレ」
一体自分はどうしたのか。あの日からルルのことになると自分自身がわからない。ルルはたしかに女の子だ。オレからしたら非常に珍しい女の友達だ。だから、ちょっと特別になっているだけかもしれない。でも、最近見る度に女の子として輝きだす彼女に落ち着かない。心が、身体の居心地が悪い。
「けど、最近可愛くなってるしな」
いや、と首を振る。世間知らずの浮世離れてした女子だ。好きなヤツができる前に友達に色々教えてもらったのかもしれない。
「そーよ。何でも好きだの、恋だの、持って行き過ぎたわ」
穿って見過ぎた。もう少し視野を広く持てと言われるし。そーだわ。広く。視野を広く持て、オレ。
「んじゃ、そろそろ終わった――ぁ」
アクセサリーが陳列されている棚の中にひとつ気になるものがあった。
「これいいな……」
雪の結晶を模したヘアクリップを手に取る。
シルバー素材で作られた雪の結晶にパール素材のビーズ。シンプルでどんな服にも合う。試着しているだろうあのワンピースにも似合うし、彼女の髪色に映えるだろう。
チラと一応値札を見れば手頃な値段だった。これなら小遣いの範囲で買える。オレはうん、とひとつ頷いてキラキラ輝くヘアピンを持って試着室に向かった。そして、歩きながらルルの驚く顔を浮かべた。
* * *
「じゃあね。エースくん」
オレが贈ったヘアクリップを輝かせながら振り返るルル。そのルルにオレは「おう。またな」と返事をする。
「うん。また遊ぼうね」
「ん」
頬を緩める彼女に自然と頬が緩む。そして、手を振ったルルの小さな背中がゲートのある店に完全に入ったのを見送って学園の帰路につく。
その足どりが軽い。これから終わっていない課題があるのに足取りが軽いのは今日が楽しかった証拠だ。小学生のときからこういうのは変わっていないのが自分で笑えて来る。
兄貴とかぶっていなくてよかった。歳の離れた兄貴は小さい頃からのオレの癖を何でも知っている。だから、この機嫌のいい足どりに気づかれて根掘り葉掘り聞かれたら溜まったもんじゃない。
とはいて、今日はワンピースをプレゼンとできなかったのは格好悪かった。今度何か贈るときは有言実行できるような男になろう。そっちの方がカッコイイしな。
そうしたら、ルルも――。
「いや、なによ、それ」
機嫌よくスキップしそうだった足を止める。そして、自分の頭に浮かんだ頭を追い出すように髪の毛を掻き毟る。
「んだよ、別にアイツに好かれたいとかないわ。ないわ~~」
そもそもルルからは〝友達〟として好かれているし。グリムや監督生にデュースの突然の出現を思い出して腹の辺りがムカムカしてくる。
「アイツらまったくなんなんだし」
誰がワクワクしていただ。いや、実際楽しみでソワソワしていたかもしれない。でも、露骨になんかしていない。していないはず。
「ダセェ」
そんなところを見られていたなんて恥ず過ぎる。
「グリムもわかっていたみたいだしな」
今度から気を付けよう、と心の中で戒めながら監督生とデュースに囲まれたルルが頭に過った。あの監督生よりも小さいなんて本当に小さな女の子なんだと改めて認識してしまった。そして、あの光景に苛立ちを覚えた。
「あ゛あ゛。マジでオレどうしたんだよ」
ルルは可愛い。可愛いけれどその可愛らしさはあれだ。女の子という純粋な可愛さじゃなくて愛らしさというか小さい子どものようなものだ。いや、でも、小さな子どもを可愛いなんて思ったことがない。なら、あれ、あれ、犬猫みたいな……失礼だわな。普通に。
「でも、可愛いんだよな」
ハッと我に返って口を押える。ついでに誰も知り合いはいないかと左右前後見回すが誰もいない。よかったと思いながら止まっていた足を動かす。
自分で自分の感情がわからない。昔からそうだ。ミドルスクールのときだって好きでもない女の子と付き合った。それから面倒臭いことになって恋人なんて要らないと、好きな人なんて要らないと思った。今は友達とつるんでいるほうが楽しいって思っていたし、今も思っている。でも、そうか。なら、ルルも〝友達〟だから――。
「待て」
思考にブレーキがかかる。心臓がバクバクする。今、自分は思考放棄をしようとしなかったか。面倒くさいって前みたいに放り投げようとしなかったか。それでいいのか。いいのかよ。ルルのこともそんな簡単に扱っていいのか。それでいいのか。
「ダメだわ」
きっとダメ。絶対にダメ。だから、もっと丁寧に考えよう。時間はかかっても彼女のことは大切に大事に考えよう。
オレはもう暫く苛立ちと付き合う覚悟で思考を放棄するのをやめた。
2021.06.26 内容変更し再投稿
試着室のカーテンが引かれて閉じられたのを見て背を向け店内に足を向ける。
「ま、あの服も悪くなかったけどな」
クラシカルなワンピースでコーヒーリボンがいいアクセントになっていた。でも、彼女のカラーを考えると何か足りなかった。だからもうひとつ気になっていたワインレッドのワンピースを持っていた。衿元の上品なレースが〝今〟のルルに似合うと思った。
「雰囲気変わったよなぁ」
出会った頃の小学生に間違えてしまほどの幼さがなくなった。とはいっても、身長とか身体的に大きく変化したわけではない。雰囲気が変わった。あどけない少女が色気づいたような変化。
「好きなヤツでもできたのか?」
想像してモヤモヤしてくる。あのルルが誰かを好きになるのか。でも、ミドルスクールのときに雰囲気が変わった女子は大体誰かと付き合い始めたとかで変化した。他にだって好きな人のためにとか何かそういときに女子は大きな変化をするようなイメージがある。だから、男という存在に耐性が低いルルが誰か好きになるのは危険だ。
「一体誰なんだよ……って、本当に好きなヤツがいたらどうだっていうんだよ」
苛立ちに前髪を掻き上げる。なんでオレがルルの好きな男のことを心配しなければいけない。むしろ世間知らずのルルが誰かに恋するなんて世間を知るのにいいことだ。いや、でも、それで悪い男に引っかかったら。現にロイヤルソードアカデミーの男のこともある。出会った日にあからさまにルルに気があるのがバレバレな男を思い出す。
「ったく、何も仲良くならなくてもいいだろ」
あの後、どういう経緯かわからないが仲良くなったらしい。それでたまにメッセージのやり取りをするらしく苛立つ。
何かあってからでは遅いし、何せ期待を持たせるようなことなどしない方がいい。それがわからないのかね、ルルは。
再び陥る思考に頭を振って追いやるも苛立ちは納まらない。店内を歩きながらオレは最近こんなことばっかり考える思考回路に嫌気がさしていた。
ルルとは頻繁に連絡を取っている。メッセージだけなときもあれば、この間見たいにテレビ電話や、ただの電話のときだってある。意外にその時間が嫌いではない。むしろ、ルルから連絡が来なかったらオレからしてしまうくらいだ。
おかげで寮生には「エースに彼女が出来た」「例の小学生みたいな女の子」「犯罪」「許すまじ」など様々な噂を立てられた。ついでに心配そうな顔のリドル寮長に呼び出される始末。その後ろにいるトレイ副寮長の微笑ましい笑みが腹立たしかったが。
「つか、そんな風に見えんのか?」
進む足を止めて考えてみる。でも、確かにミドルスクールのときの彼女の連絡はあまり取っていなかったし、むしろ面倒くさかった記憶がある。
「やっぱり変だな、オレ」
一体自分はどうしたのか。あの日からルルのことになると自分自身がわからない。ルルはたしかに女の子だ。オレからしたら非常に珍しい女の友達だ。だから、ちょっと特別になっているだけかもしれない。でも、最近見る度に女の子として輝きだす彼女に落ち着かない。心が、身体の居心地が悪い。
「けど、最近可愛くなってるしな」
いや、と首を振る。世間知らずの浮世離れてした女子だ。好きなヤツができる前に友達に色々教えてもらったのかもしれない。
「そーよ。何でも好きだの、恋だの、持って行き過ぎたわ」
穿って見過ぎた。もう少し視野を広く持てと言われるし。そーだわ。広く。視野を広く持て、オレ。
「んじゃ、そろそろ終わった――ぁ」
アクセサリーが陳列されている棚の中にひとつ気になるものがあった。
「これいいな……」
雪の結晶を模したヘアクリップを手に取る。
シルバー素材で作られた雪の結晶にパール素材のビーズ。シンプルでどんな服にも合う。試着しているだろうあのワンピースにも似合うし、彼女の髪色に映えるだろう。
チラと一応値札を見れば手頃な値段だった。これなら小遣いの範囲で買える。オレはうん、とひとつ頷いてキラキラ輝くヘアピンを持って試着室に向かった。そして、歩きながらルルの驚く顔を浮かべた。
* * *
「じゃあね。エースくん」
オレが贈ったヘアクリップを輝かせながら振り返るルル。そのルルにオレは「おう。またな」と返事をする。
「うん。また遊ぼうね」
「ん」
頬を緩める彼女に自然と頬が緩む。そして、手を振ったルルの小さな背中がゲートのある店に完全に入ったのを見送って学園の帰路につく。
その足どりが軽い。これから終わっていない課題があるのに足取りが軽いのは今日が楽しかった証拠だ。小学生のときからこういうのは変わっていないのが自分で笑えて来る。
兄貴とかぶっていなくてよかった。歳の離れた兄貴は小さい頃からのオレの癖を何でも知っている。だから、この機嫌のいい足どりに気づかれて根掘り葉掘り聞かれたら溜まったもんじゃない。
とはいて、今日はワンピースをプレゼンとできなかったのは格好悪かった。今度何か贈るときは有言実行できるような男になろう。そっちの方がカッコイイしな。
そうしたら、ルルも――。
「いや、なによ、それ」
機嫌よくスキップしそうだった足を止める。そして、自分の頭に浮かんだ頭を追い出すように髪の毛を掻き毟る。
「んだよ、別にアイツに好かれたいとかないわ。ないわ~~」
そもそもルルからは〝友達〟として好かれているし。グリムや監督生にデュースの突然の出現を思い出して腹の辺りがムカムカしてくる。
「アイツらまったくなんなんだし」
誰がワクワクしていただ。いや、実際楽しみでソワソワしていたかもしれない。でも、露骨になんかしていない。していないはず。
「ダセェ」
そんなところを見られていたなんて恥ず過ぎる。
「グリムもわかっていたみたいだしな」
今度から気を付けよう、と心の中で戒めながら監督生とデュースに囲まれたルルが頭に過った。あの監督生よりも小さいなんて本当に小さな女の子なんだと改めて認識してしまった。そして、あの光景に苛立ちを覚えた。
「あ゛あ゛。マジでオレどうしたんだよ」
ルルは可愛い。可愛いけれどその可愛らしさはあれだ。女の子という純粋な可愛さじゃなくて愛らしさというか小さい子どものようなものだ。いや、でも、小さな子どもを可愛いなんて思ったことがない。なら、あれ、あれ、犬猫みたいな……失礼だわな。普通に。
「でも、可愛いんだよな」
ハッと我に返って口を押える。ついでに誰も知り合いはいないかと左右前後見回すが誰もいない。よかったと思いながら止まっていた足を動かす。
自分で自分の感情がわからない。昔からそうだ。ミドルスクールのときだって好きでもない女の子と付き合った。それから面倒臭いことになって恋人なんて要らないと、好きな人なんて要らないと思った。今は友達とつるんでいるほうが楽しいって思っていたし、今も思っている。でも、そうか。なら、ルルも〝友達〟だから――。
「待て」
思考にブレーキがかかる。心臓がバクバクする。今、自分は思考放棄をしようとしなかったか。面倒くさいって前みたいに放り投げようとしなかったか。それでいいのか。いいのかよ。ルルのこともそんな簡単に扱っていいのか。それでいいのか。
「ダメだわ」
きっとダメ。絶対にダメ。だから、もっと丁寧に考えよう。時間はかかっても彼女のことは大切に大事に考えよう。
オレはもう暫く苛立ちと付き合う覚悟で思考を放棄するのをやめた。
2021.06.26 内容変更し再投稿