夏の熱が滲むふたり
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我が儘をごめんね、愛しい人
魔法士養成学校に入学してワタシは生れて初めて〝恋人〟ができました。その人とはお付き合いを始めて2年、いえ1年生の終わりに恋人になったのでもう4年目に入ろうとしています。
3年生も終わりサマーホリデーを迎えようとしていました。このホリデーを迎えるとあっという間に研修で忙しい最終学年になる時期です。気楽に遊べる最後の時期と言ってもいい今、ワタシは恋人と一緒に少しでも過ごしたいと思います。
といっても、ワタシは陽光の国で、恋人の彼は薔薇の王国。隣国でもないからすぐに会える距離ではありません。それでもやっぱり過ごしたくて、我が儘なお願いだと思って伝えてみました。
* * *
「オレも誘うおうと思ってた」
サマーホリデーを迎える前のデート。カフェで向き合ったときに意を決して言ってみると同じようなことが返って来た。エースくんのあまりの軽さに思わず「ほんとにいいの?」なんて聞き返してしまった。それにエースくんは不思議そうな顔をして「だって、オレも会いたいし」と返してくれた。
そうした言葉は1年生とか2年生のときは恥ずかしそうだったのに今はあっさりと言う。あっさり過ぎるけれど、そこに嘘偽りがないことはワタシが一番知っている。だって、一番そういう言葉を貰っているのがワタシだから。
嬉しいな、と思っているとエースくんの眉が少し寄って難しい顔になる。
「どうしたの?」
「いや、さ……確か、ルルの家って宿泊施設運営しているんだっけ?」
「うん。そうだよ」
ワタシの暮らしているところはバカンス時期に来る人が多くいる。そのためホリデー期間は家族総出となって接客をしている。
1年生のときはともかく、2年生のときもその理由でサマーホリデーの期間は一緒に過ごせなかった。といっても、エースくんもその期間はアルバイトとかで忙しかったみたい。
「なら、この時期って忙しくね?」
以前、話したことを思い出したみたい。ワタシの家のことを覚えていてくれたのは嬉しい。でも、そのことはすでに解決済みだった。
「両親には話しているから平気。ワタシがいない間はアルバイトを入れるって言っていたし――それにもしこっちに来るなら泊まっていって、って言ってよ」
最後の方は言うのが少し恥ずかしかった。というより、話したときの両親の反応を思い出してしまうとどうにも恥ずかしくなる。
ワタシが誰かとお付き合いしているのは両親もすでに知っている。写真だって見せたし。だから「ぜひこの機会に」と両親は繁忙期を横に置いて大盛り上がりしていた。
なぜ両親がこれだけ盛り上がっているのかというと、ワタシの住んでいるところは大体この年頃にお付き合いしている人とそのまま結婚するから、だと思う。
ワタシは慌てて両親にエースくんはそういう文化圏の出身でもないと説明しても伝わった気配がない。
だから正直泊まり来てって言わなくてもよかったけれど、でも「来てほしい」と思う気持ちもあって言ってしまった。
「マジで! この時期めちゃくちゃ楽しいじゃん!」
難しい顔から一転して楽しそうな顔になるエースくん。安心して胸を撫で下ろすけれど、これだとエースくんばかりに負担を強いてしまう。
「でも、ワタシは薔薇の国でもいいかなって考えていたんだけど」
「あー。オレも観光地とかあんま行ったことないけど……なんか知り合いに会いそうな気もするしなぁ~」
それを想像したのか明るい表情が微妙そうになった。
知り合いに会う気まずさは何となくワタシもある。なんなら誤解している両親に会わせるのもちょっと気まずい。そして、ワタシもエースくんが小さい女の子趣味みたいに見られるのもちょっとイヤ。どうしてワタシの姿はまだ15歳か16歳くらいに見えるのかな。
「ルル、お前、余計なこと考えてねぇか?」
「え、あ、えーと、もう少し大人っぽい姿になりたかったなぁって」
じと目のエースくんに素直に告げる。実際本当にそうだから。まさか3年生になっても新入生に間違われるなんて思わなかったし、交流会でも1年生に間違われるなんて――悲しい。
「だから、エースくんには悪いなって思ってる」
エースくんは着実に大人らしくなっている。やんちゃな男の子だったのに確実に大人の男の人らしい雰囲気に近づいている。元からデートのときに女の子がチラチラ見ていたけれど、最近はその数がもっと増えている気がする。もともと目立つ男の子だったけれど、大人の雰囲気も兼ね備え初めてこれはいよいよというか。なのに、私はまだ幼い女の子の領域を出ないのだから悲しい。
「そうかな。お前もしっかり大人になっている気がするけれど」
「エースくんに会うときは頑張っているからね」
好きな人には可愛いって、綺麗って思われたい。でも、ワタシはそれが年下の女の子の精一杯の背伸びに見えるかもしれない。似合わないメイクや服を着ているわけじゃないのに。
「ワタシが年相応に見られる日って来るのかな……」
「あー。出会い頭に間違えたオレが言うのもなんだけどさぁ」
気まずそうに首に当てを当てるエースくん。そうだね。エースくんには最初エレメンタリースクールくらいの女の子に見えたんだっけ。懐かしいな。でも、それだってもうエースくんとの大切な思い出のひとつ。
「ルルは、さ。ちゃんと大人に近づいていると思うよ。可愛くも、綺麗にもなってるし」
「そう、言って貰えるのは嬉しいけれど、エースくんだからだよ」
恋人だからそう見えるだけなんだと思う。他の人にはそう見えていないってワタシは思っている。嬉しいけれど、それは恋人の欲目だよって言う。
「いや、お前は気づいていないかもしねぇけど、結構ナンパしようして近づいている男いるぞ」
「え! ウソだッ!」
「いや、ウソ言わねぇよ!」
呆れたような真剣なような何ともいえない顔のエースくん。けど、実際にナンパに遭遇したことがないから信憑性が薄い。
「見当つかないのはオレが頑張って牽制してるからでーす」
「えぇ~」
「お前、マジで信じてねぇな」
「うん」
はっきりと告げるとエースくんが脱力してテーブルにうつ伏せになる。そして打ちひしがれたように「いいんだか、悪いんだかぁ」と呟いている。どうやらワタシはエースくんの苦労が分かっていないみたい。でも、本当に分からないから悪いなって思う。
「ワタシに実感なくてごめんね。でも、頑張ってくれているならありがとう」
うつ伏せになっていたちょうどいい位置にあるエースくんの頭を撫でる。クセのある赤い髪をかき混ぜるように撫でると「セットがぁ!」って怒られたことがあるのでそっと、そっと。
そのままそっと離すとうつ伏せの状態から少し顔を上げた目と合う。何か言いたげな目にワタシはつい笑みが浮かぶ。
「んだよ」
「まだ足りないなぁって目してるから」
「わかってんじゃん」
猫のようにしなる目のまま起き上がるけど、そのままテーブルに頬杖をつく。
「でさ、オレとしてはルルの方に行きたいんだけど」
「あ、その話に戻るの?」
「だって、オレがしてほしいことここじゃできないしぃ」
にやにやする顔。その顔に見当がつかないほどのお付き合いではない。これはもう少しその〝あっち系〟のご褒美がほしい、と。
ワタシが恥ずかしいことになる確率が高いけれど、イヤではない。恥ずかしいけれど。
「ん~善処しましょう」
「お! 言ったな〜」
「うん。っていうことで、こっちでほんとうにいいの?」
嬉しそうに笑うエースくんにもう一度訊ねる。鏡で直接ワタシのところに来たとしても薔薇の王国に戻るときに交通費はかかる。
「ほんとに平気だって気にすんなよ」
「大丈夫、大丈夫」というエースくんは見栄を張って言っている感じはない。これなら信じても大丈夫そうだ。なら、ワタシはエースくんが楽しめるように精一杯おもてなししよう。
「わかった。でも、何かあったらすぐに言ってね」
「わぁかった、わかったって」
やっぱりちょっと心配。いや、でもエースくんを信じましょう。決まったならとエースくんがスマホを取り出してタタと画面を叩く。
「というわけで、さっそく周るところ考えようぜ。ま、ルルは行きつくしているかもだけど」
「そうだね。案内で一緒に行ったりするし、知っていないと案内もできないしね」
でも、家の手伝いでお客様を案内するときと、恋人であるエースくんと行くのでは違う。
「なら、お前のおすすめで行くのもいいけど」
「それもいいけど、エースくんだって行ってみたいところとか、やってみたいことあるでしょ」
「そーだわな。うーん。じゃ、とりあえず後でやってみたいこと送るわ」
「わかった。ワタシもエースくんと一緒に行きたいところ送るね」
「うん」
一緒に夏を過ごすと決まったら身体がふわふわしてくる。
「エースくん、楽しみだね」
思わず耐えられなくなって言う。エースくんは目を見開いてそれから少し照れくさそうに笑って「オレも」と答えてくれた。
ああ、ワタシはほんとうにこの人が好きだなぁって思いました。
2025.09.23
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