エース
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交換プレゼント
ナイトレイブンカレッジが男女共学になってしばらくになる。年頃の男女が集まると色々な行事や伝統文化が作られた。特に恋人同士にたちによって作られた「ネクタイ」などの交換が代表的であり男女ともに憧れのひとつになっている。他にも寮章のリボンの交換も人気の文化となっている。そして、その伝統をナイトレイブンカレッジを卒業した兄をもつ一人の男子生徒が虎視眈々と狙っていた。
透明な袋に包まれたネクタイを片手に一人の男子生徒が落ち着きなくベンチに座っていた。ジャケットに入れたスマートフォンを何回も取り出す。手に取った瞬間にパッと表示される時間を見て小さく溜息をついてまた仕舞う。
男子生徒の名前はエース・トラッポラ。ナイトレイブンカレッジに通う1年生。所属寮はハートの女王の精神に基づくハーツラビュル寮。様々な問題児がいる中でも彼は今年度トップクラスの問題児の一人であった。さて、退学組やら問題児三人組など様々な不名誉な呼び名を持つ彼にもこの度恋人ができた。
恋人の名前はルル・ラウラー。同じナイトレイブンカレッジの1年生でスカラビア寮に所属している。彼女と付き合うまでは様々な困難があったが無事に付き合うことができた。
箱入り娘の世間知らずの純粋な彼女と付き合うのは年頃の理性を持つエースには大変であるがとくに問題なく付き合っている。
順風満帆のお付き合いの中でエースは卒業生である兄に教えてもらった「リア充伝統」を思い出した。話してくれたときの兄はどこか鬱々としていたが今思えば恋人に振られたかなにかしたのが分かる。
その伝統を思い出したあと注意深く観察してみればなるほど恋人がいる者たちのために作られた文化であることが分かる。同時にナイトレイブンカレッジ生らしい独占欲の現れであることも伺えた。
独占欲が湧くのも分かると一人頷いてから自身のネクタイを手にとって見下ろした。彼女はネクタイではなくリボンタイをしている。寮も同じではないからリボンの交換もできない。どうにかできないかな、と思案してたある日のことだった。
彼女がリボンタイからネクタイになっていた。
どうしたのか、と尋ねるといつもと変わらない愛らしい笑顔で――。
「先輩たちがたまにはネクタイをしてみたらって勧めてくれたの」
これにエースは普段鬱陶しいくらい彼女を可愛がっている先輩方を初めて感謝した。彼女がネクタイを着けるようになえればスムーズに交換を言い出せる。
問題は解決したとエースは意気揚々と彼女に「デートしよ」とテンション高めに誘った。そして今日、その日がやってきた。
新品のネクタイを片手に持ってエースは妙に緊張していた。
――んで、オレ、こんなに緊張してんだ?
気軽に「交換しよ♪」と言って彼女とネクタイを交換するつもりだった。だのに、こうして待っている間、いや昨日から妙に緊張している。どうしてか分からず落ち着くこともできずにいる。もう早くこのイベントを終わらせたくてたまらなくなってきたときだった。
「エースくん!」
弾む女の子の声に緊張がまた一気に高まった。
すぐに「平常心、平常心」と心の中で唱えながら何事もないように口角を上げる。それに彼女が安心したような顔をして駆け寄って来た。
「遅くなってごめんね」
「いや、べつに約束の時間には全然間に合ってるし」
ちょっと裏返ったような声にとっさに咳でごまかしてから彼女を見る。
大きくて丸い瞳がパチパチと瞬いてこっちを見ている。その姿にまた緊張して心臓が痛くなる。ここまで緊張したのはいつぶりだろうか。
口の中に溜まる唾を飲み込んで「座ったら?」と隣を叩く。彼女はそれを何ら疑問に思うことなく笑みを浮かべて座った。
「今日はここでお話するの?」
「あーまぁ、たまにはそういうのもいいかなって」
彼女は「そうだね」と気にすることなく変わらず愛らしい笑みで頷いてくれた。ナイトレイブンカレッジにない純粋さと無邪気さにあてられながらネクタイを見下ろす。
「ネクタイ? それクリーニングに出していたの?」
ドクと心臓が大きく高鳴った気がした。彼女の大きな双眸にネクタイが映し出されてしまった。
もうあとには引けない。緊張の高まりが弾けそうになる中、エースは視線を上げて彼女を見る。
大きな瞳に映る自分が見える。そうはっきりと見えるのは彼女の瞳が大きいからなのか。それとも自分の意識がそこに集中しているのか。もう分からずにいながら口をゆっくりと開く。
「ルルはさ、その、この学校の伝統文化とか先輩に聞いた?」
「伝統文化? 行事じゃなくて?」
「うん……」
これは聞いていない感じのようだ。そもそもネクタイだって先輩に助言されて着けたくらいだ。彼女の周りからして歴史の浅い伝統文化の話をしていそうだが誰もしていなかったらしい。
ハァ、と溜息をつきながら空いた手でセットした髪を崩すようにかき乱す。
戸惑う彼女の声を聞いてから頭から手を放してから「ん」とネクタイを差し出す。
「え?」
彼女は両目を瞠ってネクタイとエースを交互に見た。それから不思議そうな眼差しのまま小首をかしげた。
「ワタシ、ネクタイ着けてるよ?」
「知ってる」
困惑した様子を見せる彼女を見てエースは説明するために口を動かす。
恋人同士が名前を刺繍されているネクタイを交換する歴史の浅い伝統文化があること。
説明していて無性に恥ずかしくなってきた。顔や首筋が熱くなってきたような気さえする。ネクタイを持った手を引っ込めながら顔を隠そうとしたときだった。
「あっ! 待って!」
慌てたような声と同時にネクタイを持った手が引き止められる。引き止めた手を辿れば困惑した顔表情から一転した焦った表情をしていた。
「エースくん、ネクタイ交換しよ」
焦ったような表情のまま彼女が詰め寄って来た。ぴったりとくっついた柔らかい身体に別の意味で心臓が忙しくなる。だが、それを悟らせないように「うん」と頷く。
エースがうなづくのを見てようやく焦った表情をした彼女の表情がほぐれて戻る。
安心した様子を見せたと思いきや今度は眉を下げて困った顔をした。どうした、と訪ねてみれば。
「困ったわ。ワタシ、ネクタイはこれしかないの」
今、身につけているネクタイを持ちながら「どうしよう」と呟く。それにエースは「なんだ」と口角が上がった。
「別にそれでいいよ」
「でも、エースくんのは新品だよね?」
よく見ると、と言いたげに手元のネクタイに視線を向ける彼女に笑いかける。
「気にすんなってルルのネクタイだってほぼ新品みたいなもんだろ」
そもそも使い込んでたものでも学年が違うわけではないのだから気にしない。いや、学年が違っても気にすることはないだろう。
大丈夫、大丈夫、と言い聞かせるとようやく彼女が受け入れるように頷いてくれた。
よし、じゃあ、交換ということで彼女がネクタイを緩めた。その姿にエースは屋外でするのではなかったと少々後悔したと同時に、人気の少ないところで待ち合わせしてよかったと心底思った。
「な、なんか今じゃなくてもよかったかもね」
ネクタイを外して気恥ずかしそうな「確かに」と思ってしまった。なんだか彼女に恥ずかしい思いをさせてしまった。
「空き教室とかでもよかったな」
「それはそれでこの学校では難しいよね」
気恥ずかしそうに笑ってから少し視線を外して彼女が「あ、あの、じゃあ、これ」とネクタイを差し出してきた。それを受取ながらエースは片手に持っていたネクタイを渡す。
これにて無事にネクタイの交換文化を遂行することができた。
* * *
「無事、交換ができたみたいだな」
「うぉ!」
部活のロッカールームで着替えているときだった。背後からにゅっと出てきた手にネクタイを掴まれた。そのままくるっとひっくり返して名前が刺繍されている部分を見られた。「お、ちゃんとルルのだな」と言われてエースはその手からネクタイを取り返す。ネクタイを持った手は拒むことなくパッとネクタイから手を放した。
「俺たちに感謝しろよ」
くるっと繰り返せばヘビのように目を細め顎に手をかけたジャミル・バイパーがいた。エースの部活の先輩であり、彼女の寮での先輩である。
「な、なんで先輩のおかげなんすか」
彼女がネクタイを着け始めたのが先輩たちの助言であることは知っている。でも、女子の先輩からだと思っていた。だが、このジャミルの言い方からどうやら違うらしい。
「ルルから聞いていないか?」
「聞いてますけど、先輩の名前は聞いていないです」
「そうか……だが、俺たちがルルにネクタイも着けたらいいといったから無事交換できたんだろう」
これはなにか見返りを求められているのかと訝しむとジャミルが綺麗に微笑んだ。
「見返りはおいおい考えておくさ」
「はぁ。わかりましたよ」
女子の先輩らと違っていびられないだけましか。それにたぶん彼女にも助力を求めれば彼らだってひどいことはしないだろう。
そう思いながらエースは何事もありませんようにと彼女のネクタイを祈るように触れた。
ナイトレイブンカレッジが男女共学になってしばらくになる。年頃の男女が集まると色々な行事や伝統文化が作られた。特に恋人同士にたちによって作られた「ネクタイ」などの交換が代表的であり男女ともに憧れのひとつになっている。他にも寮章のリボンの交換も人気の文化となっている。そして、その伝統をナイトレイブンカレッジを卒業した兄をもつ一人の男子生徒が虎視眈々と狙っていた。
透明な袋に包まれたネクタイを片手に一人の男子生徒が落ち着きなくベンチに座っていた。ジャケットに入れたスマートフォンを何回も取り出す。手に取った瞬間にパッと表示される時間を見て小さく溜息をついてまた仕舞う。
男子生徒の名前はエース・トラッポラ。ナイトレイブンカレッジに通う1年生。所属寮はハートの女王の精神に基づくハーツラビュル寮。様々な問題児がいる中でも彼は今年度トップクラスの問題児の一人であった。さて、退学組やら問題児三人組など様々な不名誉な呼び名を持つ彼にもこの度恋人ができた。
恋人の名前はルル・ラウラー。同じナイトレイブンカレッジの1年生でスカラビア寮に所属している。彼女と付き合うまでは様々な困難があったが無事に付き合うことができた。
箱入り娘の世間知らずの純粋な彼女と付き合うのは年頃の理性を持つエースには大変であるがとくに問題なく付き合っている。
順風満帆のお付き合いの中でエースは卒業生である兄に教えてもらった「リア充伝統」を思い出した。話してくれたときの兄はどこか鬱々としていたが今思えば恋人に振られたかなにかしたのが分かる。
その伝統を思い出したあと注意深く観察してみればなるほど恋人がいる者たちのために作られた文化であることが分かる。同時にナイトレイブンカレッジ生らしい独占欲の現れであることも伺えた。
独占欲が湧くのも分かると一人頷いてから自身のネクタイを手にとって見下ろした。彼女はネクタイではなくリボンタイをしている。寮も同じではないからリボンの交換もできない。どうにかできないかな、と思案してたある日のことだった。
彼女がリボンタイからネクタイになっていた。
どうしたのか、と尋ねるといつもと変わらない愛らしい笑顔で――。
「先輩たちがたまにはネクタイをしてみたらって勧めてくれたの」
これにエースは普段鬱陶しいくらい彼女を可愛がっている先輩方を初めて感謝した。彼女がネクタイを着けるようになえればスムーズに交換を言い出せる。
問題は解決したとエースは意気揚々と彼女に「デートしよ」とテンション高めに誘った。そして今日、その日がやってきた。
新品のネクタイを片手に持ってエースは妙に緊張していた。
――んで、オレ、こんなに緊張してんだ?
気軽に「交換しよ♪」と言って彼女とネクタイを交換するつもりだった。だのに、こうして待っている間、いや昨日から妙に緊張している。どうしてか分からず落ち着くこともできずにいる。もう早くこのイベントを終わらせたくてたまらなくなってきたときだった。
「エースくん!」
弾む女の子の声に緊張がまた一気に高まった。
すぐに「平常心、平常心」と心の中で唱えながら何事もないように口角を上げる。それに彼女が安心したような顔をして駆け寄って来た。
「遅くなってごめんね」
「いや、べつに約束の時間には全然間に合ってるし」
ちょっと裏返ったような声にとっさに咳でごまかしてから彼女を見る。
大きくて丸い瞳がパチパチと瞬いてこっちを見ている。その姿にまた緊張して心臓が痛くなる。ここまで緊張したのはいつぶりだろうか。
口の中に溜まる唾を飲み込んで「座ったら?」と隣を叩く。彼女はそれを何ら疑問に思うことなく笑みを浮かべて座った。
「今日はここでお話するの?」
「あーまぁ、たまにはそういうのもいいかなって」
彼女は「そうだね」と気にすることなく変わらず愛らしい笑みで頷いてくれた。ナイトレイブンカレッジにない純粋さと無邪気さにあてられながらネクタイを見下ろす。
「ネクタイ? それクリーニングに出していたの?」
ドクと心臓が大きく高鳴った気がした。彼女の大きな双眸にネクタイが映し出されてしまった。
もうあとには引けない。緊張の高まりが弾けそうになる中、エースは視線を上げて彼女を見る。
大きな瞳に映る自分が見える。そうはっきりと見えるのは彼女の瞳が大きいからなのか。それとも自分の意識がそこに集中しているのか。もう分からずにいながら口をゆっくりと開く。
「ルルはさ、その、この学校の伝統文化とか先輩に聞いた?」
「伝統文化? 行事じゃなくて?」
「うん……」
これは聞いていない感じのようだ。そもそもネクタイだって先輩に助言されて着けたくらいだ。彼女の周りからして歴史の浅い伝統文化の話をしていそうだが誰もしていなかったらしい。
ハァ、と溜息をつきながら空いた手でセットした髪を崩すようにかき乱す。
戸惑う彼女の声を聞いてから頭から手を放してから「ん」とネクタイを差し出す。
「え?」
彼女は両目を瞠ってネクタイとエースを交互に見た。それから不思議そうな眼差しのまま小首をかしげた。
「ワタシ、ネクタイ着けてるよ?」
「知ってる」
困惑した様子を見せる彼女を見てエースは説明するために口を動かす。
恋人同士が名前を刺繍されているネクタイを交換する歴史の浅い伝統文化があること。
説明していて無性に恥ずかしくなってきた。顔や首筋が熱くなってきたような気さえする。ネクタイを持った手を引っ込めながら顔を隠そうとしたときだった。
「あっ! 待って!」
慌てたような声と同時にネクタイを持った手が引き止められる。引き止めた手を辿れば困惑した顔表情から一転した焦った表情をしていた。
「エースくん、ネクタイ交換しよ」
焦ったような表情のまま彼女が詰め寄って来た。ぴったりとくっついた柔らかい身体に別の意味で心臓が忙しくなる。だが、それを悟らせないように「うん」と頷く。
エースがうなづくのを見てようやく焦った表情をした彼女の表情がほぐれて戻る。
安心した様子を見せたと思いきや今度は眉を下げて困った顔をした。どうした、と訪ねてみれば。
「困ったわ。ワタシ、ネクタイはこれしかないの」
今、身につけているネクタイを持ちながら「どうしよう」と呟く。それにエースは「なんだ」と口角が上がった。
「別にそれでいいよ」
「でも、エースくんのは新品だよね?」
よく見ると、と言いたげに手元のネクタイに視線を向ける彼女に笑いかける。
「気にすんなってルルのネクタイだってほぼ新品みたいなもんだろ」
そもそも使い込んでたものでも学年が違うわけではないのだから気にしない。いや、学年が違っても気にすることはないだろう。
大丈夫、大丈夫、と言い聞かせるとようやく彼女が受け入れるように頷いてくれた。
よし、じゃあ、交換ということで彼女がネクタイを緩めた。その姿にエースは屋外でするのではなかったと少々後悔したと同時に、人気の少ないところで待ち合わせしてよかったと心底思った。
「な、なんか今じゃなくてもよかったかもね」
ネクタイを外して気恥ずかしそうな「確かに」と思ってしまった。なんだか彼女に恥ずかしい思いをさせてしまった。
「空き教室とかでもよかったな」
「それはそれでこの学校では難しいよね」
気恥ずかしそうに笑ってから少し視線を外して彼女が「あ、あの、じゃあ、これ」とネクタイを差し出してきた。それを受取ながらエースは片手に持っていたネクタイを渡す。
これにて無事にネクタイの交換文化を遂行することができた。
* * *
「無事、交換ができたみたいだな」
「うぉ!」
部活のロッカールームで着替えているときだった。背後からにゅっと出てきた手にネクタイを掴まれた。そのままくるっとひっくり返して名前が刺繍されている部分を見られた。「お、ちゃんとルルのだな」と言われてエースはその手からネクタイを取り返す。ネクタイを持った手は拒むことなくパッとネクタイから手を放した。
「俺たちに感謝しろよ」
くるっと繰り返せばヘビのように目を細め顎に手をかけたジャミル・バイパーがいた。エースの部活の先輩であり、彼女の寮での先輩である。
「な、なんで先輩のおかげなんすか」
彼女がネクタイを着け始めたのが先輩たちの助言であることは知っている。でも、女子の先輩からだと思っていた。だが、このジャミルの言い方からどうやら違うらしい。
「ルルから聞いていないか?」
「聞いてますけど、先輩の名前は聞いていないです」
「そうか……だが、俺たちがルルにネクタイも着けたらいいといったから無事交換できたんだろう」
これはなにか見返りを求められているのかと訝しむとジャミルが綺麗に微笑んだ。
「見返りはおいおい考えておくさ」
「はぁ。わかりましたよ」
女子の先輩らと違っていびられないだけましか。それにたぶん彼女にも助力を求めれば彼らだってひどいことはしないだろう。
そう思いながらエースは何事もありませんようにと彼女のネクタイを祈るように触れた。
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