エース
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わたしも共犯
今日は複数校との交流会。会場となったナイトレイブンカレッジの図書室でグループワークの調べものをしているときだった。ワタシは油断していた今日はグループも違うしタイミングが計れない。だから大丈夫と呑気に資料を探って奥の方に行ってしまった。けど、彼は目敏くワタシを見つけ――名前を呼んだ。
「ルル」
「え、エースくん」
呼ばれてみれば道を塞ぐようににっこりほほ笑んだ恋人 がいた。ワタシはこうして調子に乗ってイケイケとなった恋人に捕まってしまったのだった。
「うぅ、エースくん退いてよ~」
「やだ」
あの後、笑顔で迫られワタシは壁まで追い詰められてしまった。背中がぴたっと壁にくっつくととエースくんが待っていましたと両腕で囲ってくる。前だったらドキドキしていたけれど今は別の意味でドキドキする。絶対ダメなコースだ。
「もう、こっち来ないでってば!」
「ちょ、彼氏相手にその反応ひどくない?」
「ひどくない!」
見下ろしてくるエースくんに強く言い返すとムッと目が細くなった。不機嫌な顔っていうけれど何もかもエースくんの所為だからワタシは悪くない。何一つ悪くない。
「なんかオレのせいになってるけど、大体はお前のせいだかんな」
「なんで! ワタシなにもしてないよ!」
心外と言う意味を込めて言い返すとエースくんも心外っていう顔をしている。これはどうやらお互いがお互いのせいでこの状況になっていると思ってる。でも、でも、絶対にワタシは悪くない。
「なぁ、ルル」
「だ、だめ!」
「ぶぁっ!」
持っていたファイルでエースくんの顔を叩く勢いで押し付けた。流石に酷かったかなって思うけれどそうでもしないとこの先の展開を止められない。
最近エースくんは調子に乗っている。イケイケな状態。なんでかよく分らないけれどとにかく調子がいい。その証拠に最近キスが長い。とても長いし、なんか、ちょっとエッチ。そのエッチなキスを思い出しただけで身体が熱くなる。それくらいエッチなキスを最近エースくんはして来る。それをワタシが断らないからかイケイケのお調子者になっている。
「し、しない、しないからね!」
「えー、何がぁ?」
「う、」
ファイルをぐいっと右に無理矢理動かされる。それからニヤニヤと意地悪な猫みたいな顔をしたエースくんが出て来る。これはこういうときいはほんとに意地悪なときで、ワタシが口で勝てないときだ。もうダメかもしれない。
「何がしないって? べつに何かしようって言ってないっしょ」
「そ、そぅだけど……」
確かにただ名前を呼ばれただけ。キスをしようなんて言われていない。でも、でも、絶対のあの流れはそうだった。そうなのになんて意地悪な人なのかしら!
「そう睨むなよぉ」
「いじわる」
「けど、そんなオレが好きでしょ」
猫みたいにしなる両目はワタシの答えをわかりきっていると言っている。違う、と言い返せればいいけれど実際そんな意地悪なエースくんが好きなのは間違いない。けど、けど、なんでこう負けた気分になるんだろう。
「……いじわる言い過ぎるところはイヤ」
「別に意地悪しているわけじゃねぇし」
「もう! そういうところ!」
イヤじゃなくてもう嫌い。もう一度ファイルを持ちなおしてぐっと今度はエースくんの胸に押し付ける。このままぐっと後ろに押し返えしてやると思ったんだけど。
「ぁっ」
両手首が拘束されてしまった。やってしまった、と気づいたところで逃げ道が完全にふさがれてしまった。ワタシはファイルを持ちなおしながら恐る恐るエースくんを見上げる。
「ぅぅ」と情けない声が出るほど爛々とした目をした人がいた。とたんに猫に見つかったネズミの気分になる。
「そうイヤな顔すんなよぉ」
ぐいっと身体を寄せて来るエースくん。悲しげなようで嬉々とした感じが恋人に対する態度なのかと非難したいけれどしたところで意味もなし。ワタシはこのまままた腰が抜けるようなキスをされる運命なのだ。
「このあとグループに戻るんだよ」
「そんなのどーにかなるって」
「エースくんはでしょ。ワタシはダメなの」
泣き言を言って見逃してくれと命乞いをしてみせる。エースくんは眉を下げてちょんと唇を尖らせる。それはちょっと可愛い。
可愛いなと思ってすぐに我に返る。こういう態度だからエースくんが付けあがるんだ。強気に、強気にいけばいいけれどあっちの方が一枚上手でどうにもならない。
「少しだけだって」
「その少しが少しじゃない!」
たくさん。いっぱい。酸欠必須の長いキス。エースくんは慣れっこかもしれないけれど。慣れていないこっちの身にもなってほしい。
恨みがましく見ていればエースくんが両手首から手を離した。自由になれるなんて僅かな望みがすぐになくなる。ワタシの両手首から離れた手が遠慮なくワタシの身体を抱きしめるために背中に回って――。
「ほんとに少しだけだってぇ」
ギュッと抱きしめて首筋に顔を埋めて甘えてくる。甘えた声に恋人心が疼く。こういうところ反則。うぅ、ずるい。卑怯よ。
「ず、ずるい」
「エースくん、ずるい」もう一度言うとエースくんが顔を上げて覗き込みながら「じゃいい?」って訊いて来る。キラキラと期待に輝く両目にワタシは負けてしまう。
このお調子者さんなんだからって心の中で悪態をつく。でも、意志の弱いワタシが負けてしまったんだから腹を括るしかない。ギュッとファイルを胸にしっかりと抱き込み見上げる。
「い、いいよ」
アナタのお願いを受け入れます。キスすることを許可します。
ぐっと顎を上げて目を瞑る。何だか自分から準備しているのはちょっと恥ずかしいかもしれない。いや、うん、すごく恥ずかしい。エースくんにからかわれるかもしれない。
ドキドキしながら待っているけど、なかなかこう気配が近づいて来ない。
もしかして早とちりしちゃった。恥ずかしく鳴ってパッと目を開くと――。
「んぅぅッ!」
目を開いたと同時に目の前にエースくんがギュンと近寄って来た。その勢いのままぶつかるような、噛みつかれるような勢いでキスされた。
「んっ、むぅ、ふ」
目の前にある夕陽色の瞳にカッと熱が上がって恥ずかしくなる。ギュッとまた閉じてファイルをエースくんの胸に押し付ける。僅かな隙間ができたと思ったらそれを埋めるように抱き寄せられてしまった。
「んぁ、ふっ、むんぅ」
背中に回った腕にギュッと抱きしめられる。お互いの唇の隙間もなくピッタリと重なる。上手くできなくて息継ぎに苦しくなって来る。徐々に酸欠を回避しようと唇が開いていくけどその隙間さえもエースくんの唇にピッタリ塞がれてしまう。
「ふぁっ、ンっ、んっ」
くるしい、くるしい、くるしい、いつもみたく身体を押して訴えたいのにファイルを持っているせいで出来ない。このままでは酸欠になる。もうあとは顔を動かして唇をずらすしかない。
横になんとか動かして唇に僅かな隙間を作る。「ふぁっ、んぁ、はッ」息継ぎをした瞬間に背中に回っている腕が動いた気がした。
「だぁめ」
「むッ、んぅッ」
ぐいっと頭を押さえつけられてまたキスされた。おまけに息継ぎに開いていた口に舌が入って来た。ああ。これはもう腰が砕けるコースだ。
覚悟を決めて口を開こうとしたときだった。
「おーい。エース」
訊き慣れた声に口の中で動いていたエースくんの舌が止まる。反射的に目を開くと目の前にある目が不機嫌そうに細くなっているのが見えると舌がすぅっと引いていく。そのまま口の中に満たされていたものがなくなって唇も離れていった。
「はっ、ぁ、えーすく、いま、でゅっ、ん」
デュースくんが呼んでいるよ。そう何とか言おうときに身体が引かれてエースくんに抱き込まれた。身体を覆われるような抱き方に目を白黒させえていると呪文が聞こえた。視界の端にキラキラ見える魔法の軌跡。何か魔法がかけられたことだけは分かった。
「ぇーすくん」
「黙って」
何をしたんだろうと思いながらデュースくんの声が近づいて来る。このままだとデュースくんに何か言われるんじゃないの。ドキドキしながらエースくんに張り付くように身体を寄せているとデュースくんが来て――。
「ったく、あいつどこ行ったんだ?」
「ぇ」明らかに棚の出入り口にいるのにデュースくんに見えていない。まさかさっきの魔法は、ともぞもぞ動いてエースくんを見上げるとシーと言われた。やっぱり。
「はぁ。ったく、監督生に聞いてみるか」
デュースくんは結局エースくんとワタシを見ることなく去って行ってしまった。
気配がしなくなった途端身体を離してエースくんと呼ぼうとしたら。
「んむっ」
さっきの続きという勢いでまた唇を塞がれた。しかも、忘れていないよと言いたげに舌が入って来た。止まっていたぶん動き回る舌。
他人の口の中で勝手なことを。再開されたキスに最初こそ憤慨していたけれどワタシもまた徐々に流れていく。いつの間にかワタシも必死にエースくんの舌を追いかけていった。こうしていつも、いつも、ワタシはこのキスに流されてしまう。けれど、正直なところたぶんワタシもエースくんとのキスが嫌じゃない。けれど、やっぱり素直にそれを言いたくはなかった。だって、言ったら絶対に調子に乗るから。だから、ワタシは必死のキスが好きだということを自分の中に閉じ込め続けた。
* * *
図書室を出てさらに図書館も出てメインストリートを越えてベンチに座る。ワタシの隣に座ったエースくんがずいっと顔を覗き込んで来た。
「ルル。唇が腫れてる」
「だれのせいかしら」
「オレのせい」
「もう!」
「エースくんだって腫れているくせに」と言えばジャケットから小さな丸い容器を取り出した。「なにそれ」って聞くと「リップバーム」と言って見せてくれた。
「用意周到だね」
「いい彼氏だろ」
ウィンクをするエースくんに少しだけ笑いが込み上げる。その間に蓋を開けて手袋をしていない方の指でくいっと取る。そのまま自分の唇に塗るのかなって見ていると。
「ほい。口閉じて」
「ぇ、ぁ、んむ」
ワタシの唇に持って来て慌てて唇を閉じる。そのまま指でワタシの唇に塗りたくっていく。こってりした感覚にこれなら荒れないかなぁって考えて気を抜いていたのがいけなかった。
「はい。終わったぜ」
「ん。ありが――」
「んで、分けて」
「むぅっ」
こってりと塗られた唇に唇がまた重なった。これじゃなんの意味もない。すぐにぐいっと身体を教えて距離を取る。
「しないって言った!」
「オレのだよ?」
「なら、自分で塗ったらいいでしょ!」
「えー」
不満気なエースくんから顔を背けて腕時計を見る。すると、もうすぐ学校へ戻る時間が近づいていた。この交流会のグループワーク何もしていない。皆に申し訳なさが募っているとパッと腕時計が隠された。
「今さら後悔したって時間なんか戻んねぇんだから考えんのやめたら」
「っ~~~! エースくんのせいよ!」
「でも、最後に受け入れたのはルルじゃぁ~ん」
そうだけどぉと言い訳もできない。恨めし気にエースくんを見るのも違うし結局全部自分のせいとしか言えない。
「そ、そこまで落ち込むなよ」
「だって、事実だもん」
「あ~、悪かった、悪かったって」
「今さら謝られても……」
それこそ時間が戻らないんだから意味がない。しょぼしょぼしたところで意味もないし。もうどうやったら恋人が調子者にならずに済むのかな。
「おい、ルル~」
「……もう」
情けない声に怒っていた気持ちもなくなっていく。これが多分甘やかしていることになるんだと思う。けれど、惚れた弱みともいう言葉もあるくらいだし。
「今度はやめてって言ったらやめてね」
「あ~、うん、がんばります」
胡散臭いなと思いながらも今日は一応許した。でも、絶対次もワタシは断われないんだろうなってへらへら笑うエースくんを見て思う。
今日は複数校との交流会。会場となったナイトレイブンカレッジの図書室でグループワークの調べものをしているときだった。ワタシは油断していた今日はグループも違うしタイミングが計れない。だから大丈夫と呑気に資料を探って奥の方に行ってしまった。けど、彼は目敏くワタシを見つけ――名前を呼んだ。
「ルル」
「え、エースくん」
呼ばれてみれば道を塞ぐようににっこりほほ笑んだ
「うぅ、エースくん退いてよ~」
「やだ」
あの後、笑顔で迫られワタシは壁まで追い詰められてしまった。背中がぴたっと壁にくっつくととエースくんが待っていましたと両腕で囲ってくる。前だったらドキドキしていたけれど今は別の意味でドキドキする。絶対ダメなコースだ。
「もう、こっち来ないでってば!」
「ちょ、彼氏相手にその反応ひどくない?」
「ひどくない!」
見下ろしてくるエースくんに強く言い返すとムッと目が細くなった。不機嫌な顔っていうけれど何もかもエースくんの所為だからワタシは悪くない。何一つ悪くない。
「なんかオレのせいになってるけど、大体はお前のせいだかんな」
「なんで! ワタシなにもしてないよ!」
心外と言う意味を込めて言い返すとエースくんも心外っていう顔をしている。これはどうやらお互いがお互いのせいでこの状況になっていると思ってる。でも、でも、絶対にワタシは悪くない。
「なぁ、ルル」
「だ、だめ!」
「ぶぁっ!」
持っていたファイルでエースくんの顔を叩く勢いで押し付けた。流石に酷かったかなって思うけれどそうでもしないとこの先の展開を止められない。
最近エースくんは調子に乗っている。イケイケな状態。なんでかよく分らないけれどとにかく調子がいい。その証拠に最近キスが長い。とても長いし、なんか、ちょっとエッチ。そのエッチなキスを思い出しただけで身体が熱くなる。それくらいエッチなキスを最近エースくんはして来る。それをワタシが断らないからかイケイケのお調子者になっている。
「し、しない、しないからね!」
「えー、何がぁ?」
「う、」
ファイルをぐいっと右に無理矢理動かされる。それからニヤニヤと意地悪な猫みたいな顔をしたエースくんが出て来る。これはこういうときいはほんとに意地悪なときで、ワタシが口で勝てないときだ。もうダメかもしれない。
「何がしないって? べつに何かしようって言ってないっしょ」
「そ、そぅだけど……」
確かにただ名前を呼ばれただけ。キスをしようなんて言われていない。でも、でも、絶対のあの流れはそうだった。そうなのになんて意地悪な人なのかしら!
「そう睨むなよぉ」
「いじわる」
「けど、そんなオレが好きでしょ」
猫みたいにしなる両目はワタシの答えをわかりきっていると言っている。違う、と言い返せればいいけれど実際そんな意地悪なエースくんが好きなのは間違いない。けど、けど、なんでこう負けた気分になるんだろう。
「……いじわる言い過ぎるところはイヤ」
「別に意地悪しているわけじゃねぇし」
「もう! そういうところ!」
イヤじゃなくてもう嫌い。もう一度ファイルを持ちなおしてぐっと今度はエースくんの胸に押し付ける。このままぐっと後ろに押し返えしてやると思ったんだけど。
「ぁっ」
両手首が拘束されてしまった。やってしまった、と気づいたところで逃げ道が完全にふさがれてしまった。ワタシはファイルを持ちなおしながら恐る恐るエースくんを見上げる。
「ぅぅ」と情けない声が出るほど爛々とした目をした人がいた。とたんに猫に見つかったネズミの気分になる。
「そうイヤな顔すんなよぉ」
ぐいっと身体を寄せて来るエースくん。悲しげなようで嬉々とした感じが恋人に対する態度なのかと非難したいけれどしたところで意味もなし。ワタシはこのまままた腰が抜けるようなキスをされる運命なのだ。
「このあとグループに戻るんだよ」
「そんなのどーにかなるって」
「エースくんはでしょ。ワタシはダメなの」
泣き言を言って見逃してくれと命乞いをしてみせる。エースくんは眉を下げてちょんと唇を尖らせる。それはちょっと可愛い。
可愛いなと思ってすぐに我に返る。こういう態度だからエースくんが付けあがるんだ。強気に、強気にいけばいいけれどあっちの方が一枚上手でどうにもならない。
「少しだけだって」
「その少しが少しじゃない!」
たくさん。いっぱい。酸欠必須の長いキス。エースくんは慣れっこかもしれないけれど。慣れていないこっちの身にもなってほしい。
恨みがましく見ていればエースくんが両手首から手を離した。自由になれるなんて僅かな望みがすぐになくなる。ワタシの両手首から離れた手が遠慮なくワタシの身体を抱きしめるために背中に回って――。
「ほんとに少しだけだってぇ」
ギュッと抱きしめて首筋に顔を埋めて甘えてくる。甘えた声に恋人心が疼く。こういうところ反則。うぅ、ずるい。卑怯よ。
「ず、ずるい」
「エースくん、ずるい」もう一度言うとエースくんが顔を上げて覗き込みながら「じゃいい?」って訊いて来る。キラキラと期待に輝く両目にワタシは負けてしまう。
このお調子者さんなんだからって心の中で悪態をつく。でも、意志の弱いワタシが負けてしまったんだから腹を括るしかない。ギュッとファイルを胸にしっかりと抱き込み見上げる。
「い、いいよ」
アナタのお願いを受け入れます。キスすることを許可します。
ぐっと顎を上げて目を瞑る。何だか自分から準備しているのはちょっと恥ずかしいかもしれない。いや、うん、すごく恥ずかしい。エースくんにからかわれるかもしれない。
ドキドキしながら待っているけど、なかなかこう気配が近づいて来ない。
もしかして早とちりしちゃった。恥ずかしく鳴ってパッと目を開くと――。
「んぅぅッ!」
目を開いたと同時に目の前にエースくんがギュンと近寄って来た。その勢いのままぶつかるような、噛みつかれるような勢いでキスされた。
「んっ、むぅ、ふ」
目の前にある夕陽色の瞳にカッと熱が上がって恥ずかしくなる。ギュッとまた閉じてファイルをエースくんの胸に押し付ける。僅かな隙間ができたと思ったらそれを埋めるように抱き寄せられてしまった。
「んぁ、ふっ、むんぅ」
背中に回った腕にギュッと抱きしめられる。お互いの唇の隙間もなくピッタリと重なる。上手くできなくて息継ぎに苦しくなって来る。徐々に酸欠を回避しようと唇が開いていくけどその隙間さえもエースくんの唇にピッタリ塞がれてしまう。
「ふぁっ、ンっ、んっ」
くるしい、くるしい、くるしい、いつもみたく身体を押して訴えたいのにファイルを持っているせいで出来ない。このままでは酸欠になる。もうあとは顔を動かして唇をずらすしかない。
横になんとか動かして唇に僅かな隙間を作る。「ふぁっ、んぁ、はッ」息継ぎをした瞬間に背中に回っている腕が動いた気がした。
「だぁめ」
「むッ、んぅッ」
ぐいっと頭を押さえつけられてまたキスされた。おまけに息継ぎに開いていた口に舌が入って来た。ああ。これはもう腰が砕けるコースだ。
覚悟を決めて口を開こうとしたときだった。
「おーい。エース」
訊き慣れた声に口の中で動いていたエースくんの舌が止まる。反射的に目を開くと目の前にある目が不機嫌そうに細くなっているのが見えると舌がすぅっと引いていく。そのまま口の中に満たされていたものがなくなって唇も離れていった。
「はっ、ぁ、えーすく、いま、でゅっ、ん」
デュースくんが呼んでいるよ。そう何とか言おうときに身体が引かれてエースくんに抱き込まれた。身体を覆われるような抱き方に目を白黒させえていると呪文が聞こえた。視界の端にキラキラ見える魔法の軌跡。何か魔法がかけられたことだけは分かった。
「ぇーすくん」
「黙って」
何をしたんだろうと思いながらデュースくんの声が近づいて来る。このままだとデュースくんに何か言われるんじゃないの。ドキドキしながらエースくんに張り付くように身体を寄せているとデュースくんが来て――。
「ったく、あいつどこ行ったんだ?」
「ぇ」明らかに棚の出入り口にいるのにデュースくんに見えていない。まさかさっきの魔法は、ともぞもぞ動いてエースくんを見上げるとシーと言われた。やっぱり。
「はぁ。ったく、監督生に聞いてみるか」
デュースくんは結局エースくんとワタシを見ることなく去って行ってしまった。
気配がしなくなった途端身体を離してエースくんと呼ぼうとしたら。
「んむっ」
さっきの続きという勢いでまた唇を塞がれた。しかも、忘れていないよと言いたげに舌が入って来た。止まっていたぶん動き回る舌。
他人の口の中で勝手なことを。再開されたキスに最初こそ憤慨していたけれどワタシもまた徐々に流れていく。いつの間にかワタシも必死にエースくんの舌を追いかけていった。こうしていつも、いつも、ワタシはこのキスに流されてしまう。けれど、正直なところたぶんワタシもエースくんとのキスが嫌じゃない。けれど、やっぱり素直にそれを言いたくはなかった。だって、言ったら絶対に調子に乗るから。だから、ワタシは必死のキスが好きだということを自分の中に閉じ込め続けた。
* * *
図書室を出てさらに図書館も出てメインストリートを越えてベンチに座る。ワタシの隣に座ったエースくんがずいっと顔を覗き込んで来た。
「ルル。唇が腫れてる」
「だれのせいかしら」
「オレのせい」
「もう!」
「エースくんだって腫れているくせに」と言えばジャケットから小さな丸い容器を取り出した。「なにそれ」って聞くと「リップバーム」と言って見せてくれた。
「用意周到だね」
「いい彼氏だろ」
ウィンクをするエースくんに少しだけ笑いが込み上げる。その間に蓋を開けて手袋をしていない方の指でくいっと取る。そのまま自分の唇に塗るのかなって見ていると。
「ほい。口閉じて」
「ぇ、ぁ、んむ」
ワタシの唇に持って来て慌てて唇を閉じる。そのまま指でワタシの唇に塗りたくっていく。こってりした感覚にこれなら荒れないかなぁって考えて気を抜いていたのがいけなかった。
「はい。終わったぜ」
「ん。ありが――」
「んで、分けて」
「むぅっ」
こってりと塗られた唇に唇がまた重なった。これじゃなんの意味もない。すぐにぐいっと身体を教えて距離を取る。
「しないって言った!」
「オレのだよ?」
「なら、自分で塗ったらいいでしょ!」
「えー」
不満気なエースくんから顔を背けて腕時計を見る。すると、もうすぐ学校へ戻る時間が近づいていた。この交流会のグループワーク何もしていない。皆に申し訳なさが募っているとパッと腕時計が隠された。
「今さら後悔したって時間なんか戻んねぇんだから考えんのやめたら」
「っ~~~! エースくんのせいよ!」
「でも、最後に受け入れたのはルルじゃぁ~ん」
そうだけどぉと言い訳もできない。恨めし気にエースくんを見るのも違うし結局全部自分のせいとしか言えない。
「そ、そこまで落ち込むなよ」
「だって、事実だもん」
「あ~、悪かった、悪かったって」
「今さら謝られても……」
それこそ時間が戻らないんだから意味がない。しょぼしょぼしたところで意味もないし。もうどうやったら恋人が調子者にならずに済むのかな。
「おい、ルル~」
「……もう」
情けない声に怒っていた気持ちもなくなっていく。これが多分甘やかしていることになるんだと思う。けれど、惚れた弱みともいう言葉もあるくらいだし。
「今度はやめてって言ったらやめてね」
「あ~、うん、がんばります」
胡散臭いなと思いながらも今日は一応許した。でも、絶対次もワタシは断われないんだろうなってへらへら笑うエースくんを見て思う。
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