最期を迎えるその日まで
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◆ 竜胆視点
ぜってぇに殺す。ぜってぇに殺す。ここまで目の前が真っ赤になったのなんていつぶりだ。ここまで誰かの死で頭に血が上ったのはいつぶりだ。
大将が死んだときだってここまでならなかった。だから、そうきっとここまで人を殺してやると息巻く自分は初めてだ。
「おい。竜胆」
「ァ?」
怒りの思考が邪魔された。思わず鬱陶しく前を見れば兄貴が眉を下げていた。困った顔の兄貴に別のベクトルの怒りが働いた。
「兄貴は何も思わねぇの」
「オレに当たるな」
ハァと溜息をつく兄貴の顔にブチと頭の中で糸が切れたような音がした。
オレは泣きそうな気持で兄貴の胸倉に掴みかかる。皺になったって構わないしっかりと逃げないように掴む。
「おい。竜胆」
「兄貴は、なに? なんもねぇの?」
声が震える。橙子が死んだ怒りか、死んでしまった悲しさか。その二つが混ざりあった声か。たぶん、そう。オレは怒りでぐちゃぐちゃになっているし、そこに悲しいって気持ちがぐちゃぐちゃ交わって来る。
「なぁ、やっぱりあんときに無理矢理連れていった方がよかったんだよ」
ぐっと力をさらに込めながら訴える。
結局あの後、橙子に接近する機会はなかった。何故か、あの後から中々橙子が見えなくなったからだ。梵天との繋ぎも必要最低限のものになった。外に出ている気配も薄くて中々接触する機会なんてなかった。
一体何があったのか分からない。死んだってなんだよ。死んだって。病気で死んだのか。事故で死んだのか。それともあいつに殺されたのか。はたまた別の誰かに殺されたのか。もしかして橙子が自分で死んだのか。
「なぁ。兄ちゃん、どうして橙子は死んだんだ?」
ガキが親に聞くみたいに兄ちゃんに縋るように訊く。兄ちゃんは眉間に皺を作りながら難しい顔で「わからねぇよ」と答えた。その声には軽薄さもなければ愉悦もない。ただ、しんみりとしていた。
「どうして、そっち行っちまうんだろうな」
「まぁ。待つような女でもねぇし、あの中から逃げ出そうとも思わねぇだろうな」
「うん。それはそうだ」
兄貴の言葉に頷きながら胸倉から手を離す。案の定力の限り掴んだから皺になっている。ごめん、と直すようにすれば兄貴が笑って珍しく「いいよ」と返してくれた。明日は槍でも降んのかとは口に出さない。
「ハァ。ま、座ろうぜ」
「うん」
兄貴が先にソファに座る。その横にオレも座る。そこから沈黙の時間が続くかなぁって思ったけど兄貴の方が先に口を開いた。
「あの男がみすみす橙子を死なすか?」
確かにあそこまで橙子に執着しているのに見殺しはないだろう。なら、橙子が何か逆鱗に触れたっていうのか。ありそうでなさそうだ。寧ろ、殺させようと逆鱗には触れそうだけどな。
「うーん。橙子のやつどうしてだ」
先ほどまでの悲しみはあいつの死の謎は分からない。ただ一生涯謎になるわけではない。あのクソ野郎が態々ここに来いと言ってきた。橙子がどうして死んだだけ分かるだけいい。
「なぁ。兄貴、殺す?」
「んー。殺してぇけど、場合によってはやめっかも」
どうして、と顔を横に向ければ綺麗な横顔に獰猛な笑みを浮かべていた。ああ、なるほど。すぐに兄貴が考えていることを理解した。
そうか。死ぬと言うのも一種の救いだもんな。なら、無様に生かしておいた方がいいときもある。けれど、オレはどうしても殺してぇ。
「殺すのは一度で終わりだからなぁ。つまんねぇだろ」
つまらないとかそうじゃねぇだろ。でも、きっとそのつまんねぇはただ自分が愉しみたいとかそうじゃねぇ。より残酷なめにあってお気に入りの女をみすみす殺した男に責任を取らせてぇんだろうな。
「ま。兄貴がやるほうがいいかもな」
「や。オマエも本気だせば中々愉しめると思うぜ」
兄貴の言葉にオレは肩をすくめた。
それから夜の遅い時間まで結局待つ羽目になった。
ぜってぇに殺す。ぜってぇに殺す。ここまで目の前が真っ赤になったのなんていつぶりだ。ここまで誰かの死で頭に血が上ったのはいつぶりだ。
大将が死んだときだってここまでならなかった。だから、そうきっとここまで人を殺してやると息巻く自分は初めてだ。
「おい。竜胆」
「ァ?」
怒りの思考が邪魔された。思わず鬱陶しく前を見れば兄貴が眉を下げていた。困った顔の兄貴に別のベクトルの怒りが働いた。
「兄貴は何も思わねぇの」
「オレに当たるな」
ハァと溜息をつく兄貴の顔にブチと頭の中で糸が切れたような音がした。
オレは泣きそうな気持で兄貴の胸倉に掴みかかる。皺になったって構わないしっかりと逃げないように掴む。
「おい。竜胆」
「兄貴は、なに? なんもねぇの?」
声が震える。橙子が死んだ怒りか、死んでしまった悲しさか。その二つが混ざりあった声か。たぶん、そう。オレは怒りでぐちゃぐちゃになっているし、そこに悲しいって気持ちがぐちゃぐちゃ交わって来る。
「なぁ、やっぱりあんときに無理矢理連れていった方がよかったんだよ」
ぐっと力をさらに込めながら訴える。
結局あの後、橙子に接近する機会はなかった。何故か、あの後から中々橙子が見えなくなったからだ。梵天との繋ぎも必要最低限のものになった。外に出ている気配も薄くて中々接触する機会なんてなかった。
一体何があったのか分からない。死んだってなんだよ。死んだって。病気で死んだのか。事故で死んだのか。それともあいつに殺されたのか。はたまた別の誰かに殺されたのか。もしかして橙子が自分で死んだのか。
「なぁ。兄ちゃん、どうして橙子は死んだんだ?」
ガキが親に聞くみたいに兄ちゃんに縋るように訊く。兄ちゃんは眉間に皺を作りながら難しい顔で「わからねぇよ」と答えた。その声には軽薄さもなければ愉悦もない。ただ、しんみりとしていた。
「どうして、そっち行っちまうんだろうな」
「まぁ。待つような女でもねぇし、あの中から逃げ出そうとも思わねぇだろうな」
「うん。それはそうだ」
兄貴の言葉に頷きながら胸倉から手を離す。案の定力の限り掴んだから皺になっている。ごめん、と直すようにすれば兄貴が笑って珍しく「いいよ」と返してくれた。明日は槍でも降んのかとは口に出さない。
「ハァ。ま、座ろうぜ」
「うん」
兄貴が先にソファに座る。その横にオレも座る。そこから沈黙の時間が続くかなぁって思ったけど兄貴の方が先に口を開いた。
「あの男がみすみす橙子を死なすか?」
確かにあそこまで橙子に執着しているのに見殺しはないだろう。なら、橙子が何か逆鱗に触れたっていうのか。ありそうでなさそうだ。寧ろ、殺させようと逆鱗には触れそうだけどな。
「うーん。橙子のやつどうしてだ」
先ほどまでの悲しみはあいつの死の謎は分からない。ただ一生涯謎になるわけではない。あのクソ野郎が態々ここに来いと言ってきた。橙子がどうして死んだだけ分かるだけいい。
「なぁ。兄貴、殺す?」
「んー。殺してぇけど、場合によってはやめっかも」
どうして、と顔を横に向ければ綺麗な横顔に獰猛な笑みを浮かべていた。ああ、なるほど。すぐに兄貴が考えていることを理解した。
そうか。死ぬと言うのも一種の救いだもんな。なら、無様に生かしておいた方がいいときもある。けれど、オレはどうしても殺してぇ。
「殺すのは一度で終わりだからなぁ。つまんねぇだろ」
つまらないとかそうじゃねぇだろ。でも、きっとそのつまんねぇはただ自分が愉しみたいとかそうじゃねぇ。より残酷なめにあってお気に入りの女をみすみす殺した男に責任を取らせてぇんだろうな。
「ま。兄貴がやるほうがいいかもな」
「や。オマエも本気だせば中々愉しめると思うぜ」
兄貴の言葉にオレは肩をすくめた。
それから夜の遅い時間まで結局待つ羽目になった。