最期を迎えるその日まで
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
◆ 蘭視点
2018年3月
「蘭! 竜胆! ちょうどよかった!」
正面から白い髪を揺らして九井がやって来た。普段の飄々として人を食った顔が今は鳴りを潜めている。僅かな焦りのようなものを滲ませている。株か何かでやらかしたのか。
「なんだよ」
怠いオレに代わって隣に立つ竜胆が訊いてくれた。助かるぞ、可愛い弟なんて心の中で言いながら九井が話し出すのを待ってやる。けど、九井が珍しく言い淀む。
珍しい。商談のときによく回り、憎まれ口にも効力を発揮する口が鈍い。でもな。オレ結構怠いんだわ。首領もいないし三途も、鶴蝶も明司までもいない。だから適当に望月に報告すればちゃんと首領に報告していけって帰れなくなった。
せめて首領が戻るまでは控え室で寝ててぇのに――はぁ。
「んだよ、九井」
面倒くさいから先を促してやれば九井の重い口がやっと動いた。
「オマエらの愛人、いや元愛人か?」
その愛人っていつ? なんて軽口は出なかった。きっと橙子のことだ。だけど、どうして突然橙子のことが九井の口から出て来る。
嫌な予感がする。口の中に唾液が滲み出る。じっと九井の先を待つ。すると今度は焦った様子を見せた竜胆が「橙子がどうしたんだよ」と促した。
「そう。その女――死んだらしい」
ハッ、と息を吐き出した気がした。いや、ただ口を開いただけかもしれない。けれど、オレが、オレらが驚いたのは九井に十分伝わったのだろう。
九井が珍しく気遣わし気な眼差しをオレらに向けてまた話し出す。
「なんか先月から体調が悪いとは聞いていたんだけど、今日。そう。今日オレとあっちの組長と風俗関係の金回りの話をする予定だったんだ。けど、組長がいきなり『橙子さんがなくなりました』っていいだしてよ」
困惑の色が濃い九井の話を聞き終わると息が零れたのがしっかりと耳に届いた。それから口を押える。何故か笑いが込み上げる。なんだ。別に面白くねぇのに、笑いが止まらない。
「ふっ、はっはは。マジ? 冗談じゃねぇ感じ?」
「ああ。しかも、急に首領と三途に、鶴蝶も、明司も呼び出してすべて譲渡するって始めやがった」
「あ~橙子が死んだから投げやりになってんじゃねぇの?」
橙子がいなくなった途端時間をかけて行っていた譲渡を終わらせるなんて馬鹿げた話だ。つか、そもそもこれじゃ橙子を返すつもりはなかったって言っているようなもんだ。
「譲渡が終わるんなら……そいつ殺しても問題ねぇよな」
笑いが止まらないオレに代わって竜胆が静かに九井に問いかける。横目で竜胆を見下ろす。長い前髪で見えづらいがきっと怒り狂ってんだろうな。いや、もしかして怒りがひと周りして怒りに燃えってかもしんねぇな。ちょっと見てみてぇな
ああ、ダメだ。オレも何かが一周回ってもう愉しいわ。死んでもオレに愉しみをくれんなんて橙子は最高の女だ。
「チッ。今は問題大ありだ」
「なら譲渡が済んだらいい?」
「……ハァ」
竜胆の静かな問いかけに九井が溜息をつくとスマホを取り出して操作した。メッセージを送るような仕草をするとオレのスマホが振動する。たぶん、竜胆のスマホも振動したんだろう。
ジャケットから取り出して見るとやっぱりメッセが飛ばされていた。トンとタップして開くと目に飛び込んで来た内容に目を見開く。
「全部終わったらそこに来いとさ」
「……首領は?」
いくら譲渡をすべて終わらせるとはいえ、あの男を殺してしまっていいのか。九井を見れば肩をすくめる。んだよ、まだ確認してねぇのか。
「チッ。確認してからにしろよ」
「いや、早い方がいいだろうと思ってな」
「ふぅん。九井にしては軽率な行動だな」
改めて言葉にして言えば九井は眉を顰める。なんだよ。せっかく教えてあげたのに、てか。オレはこれから竜胆が爆発しねぇか面倒みねぇといけねぇのによ。
「はぁ。会合が終わったら首領に会って確認する」
「ああ。そうしろ。まぁ、会合から出た瞬間に殺すなよ」
九井が竜胆を見ながら言う。そこは大丈夫だ。だって、あっちから場所を指定してくれたんだから。そこで殺すさ。
「じゃ、オレら自分の部屋にいっから」
激おこ状態な弟の腕を引いて踵を返す。
竜胆は珍しく大人しくオレの横を歩いている。まぁ、怒り心頭で口が開けねぇんだろうな。今は。
あー。部屋に入った瞬間湯沸かし器のように叫ぶんだろうな。
相手すんの疲れるけど可愛い弟の情緒のためだ。兄貴として頑張ってやるか。
本当ここまで心砕いてやるのはオマエと鶴蝶くらいにだからな。小さく溜息をつきながら廊下を歩く。
2018年3月
「蘭! 竜胆! ちょうどよかった!」
正面から白い髪を揺らして九井がやって来た。普段の飄々として人を食った顔が今は鳴りを潜めている。僅かな焦りのようなものを滲ませている。株か何かでやらかしたのか。
「なんだよ」
怠いオレに代わって隣に立つ竜胆が訊いてくれた。助かるぞ、可愛い弟なんて心の中で言いながら九井が話し出すのを待ってやる。けど、九井が珍しく言い淀む。
珍しい。商談のときによく回り、憎まれ口にも効力を発揮する口が鈍い。でもな。オレ結構怠いんだわ。首領もいないし三途も、鶴蝶も明司までもいない。だから適当に望月に報告すればちゃんと首領に報告していけって帰れなくなった。
せめて首領が戻るまでは控え室で寝ててぇのに――はぁ。
「んだよ、九井」
面倒くさいから先を促してやれば九井の重い口がやっと動いた。
「オマエらの愛人、いや元愛人か?」
その愛人っていつ? なんて軽口は出なかった。きっと橙子のことだ。だけど、どうして突然橙子のことが九井の口から出て来る。
嫌な予感がする。口の中に唾液が滲み出る。じっと九井の先を待つ。すると今度は焦った様子を見せた竜胆が「橙子がどうしたんだよ」と促した。
「そう。その女――死んだらしい」
ハッ、と息を吐き出した気がした。いや、ただ口を開いただけかもしれない。けれど、オレが、オレらが驚いたのは九井に十分伝わったのだろう。
九井が珍しく気遣わし気な眼差しをオレらに向けてまた話し出す。
「なんか先月から体調が悪いとは聞いていたんだけど、今日。そう。今日オレとあっちの組長と風俗関係の金回りの話をする予定だったんだ。けど、組長がいきなり『橙子さんがなくなりました』っていいだしてよ」
困惑の色が濃い九井の話を聞き終わると息が零れたのがしっかりと耳に届いた。それから口を押える。何故か笑いが込み上げる。なんだ。別に面白くねぇのに、笑いが止まらない。
「ふっ、はっはは。マジ? 冗談じゃねぇ感じ?」
「ああ。しかも、急に首領と三途に、鶴蝶も、明司も呼び出してすべて譲渡するって始めやがった」
「あ~橙子が死んだから投げやりになってんじゃねぇの?」
橙子がいなくなった途端時間をかけて行っていた譲渡を終わらせるなんて馬鹿げた話だ。つか、そもそもこれじゃ橙子を返すつもりはなかったって言っているようなもんだ。
「譲渡が終わるんなら……そいつ殺しても問題ねぇよな」
笑いが止まらないオレに代わって竜胆が静かに九井に問いかける。横目で竜胆を見下ろす。長い前髪で見えづらいがきっと怒り狂ってんだろうな。いや、もしかして怒りがひと周りして怒りに燃えってかもしんねぇな。ちょっと見てみてぇな
ああ、ダメだ。オレも何かが一周回ってもう愉しいわ。死んでもオレに愉しみをくれんなんて橙子は最高の女だ。
「チッ。今は問題大ありだ」
「なら譲渡が済んだらいい?」
「……ハァ」
竜胆の静かな問いかけに九井が溜息をつくとスマホを取り出して操作した。メッセージを送るような仕草をするとオレのスマホが振動する。たぶん、竜胆のスマホも振動したんだろう。
ジャケットから取り出して見るとやっぱりメッセが飛ばされていた。トンとタップして開くと目に飛び込んで来た内容に目を見開く。
「全部終わったらそこに来いとさ」
「……首領は?」
いくら譲渡をすべて終わらせるとはいえ、あの男を殺してしまっていいのか。九井を見れば肩をすくめる。んだよ、まだ確認してねぇのか。
「チッ。確認してからにしろよ」
「いや、早い方がいいだろうと思ってな」
「ふぅん。九井にしては軽率な行動だな」
改めて言葉にして言えば九井は眉を顰める。なんだよ。せっかく教えてあげたのに、てか。オレはこれから竜胆が爆発しねぇか面倒みねぇといけねぇのによ。
「はぁ。会合が終わったら首領に会って確認する」
「ああ。そうしろ。まぁ、会合から出た瞬間に殺すなよ」
九井が竜胆を見ながら言う。そこは大丈夫だ。だって、あっちから場所を指定してくれたんだから。そこで殺すさ。
「じゃ、オレら自分の部屋にいっから」
激おこ状態な弟の腕を引いて踵を返す。
竜胆は珍しく大人しくオレの横を歩いている。まぁ、怒り心頭で口が開けねぇんだろうな。今は。
あー。部屋に入った瞬間湯沸かし器のように叫ぶんだろうな。
相手すんの疲れるけど可愛い弟の情緒のためだ。兄貴として頑張ってやるか。
本当ここまで心砕いてやるのはオマエと鶴蝶くらいにだからな。小さく溜息をつきながら廊下を歩く。